潜入、傭兵団拠点
「いいか、二人とも。くれぐれも危ないマネはするなよ……。計画通りにやれば問題ないからな……!」
「ああ、わかってる」
「わたしたちは足止めをするだけ……なんだよね。了解」
最後の確認をして、
大昔は〝騎士団〟が使っていた石造りの要塞だったのだが、維持費がなくなって解散したあとは〝私兵〟が使い、それすら維持できなくなった今は〝ザクセン傭兵団〟が使っているのだ。
ダメな感じの負債の連鎖……もとい歴史を感じる。
堅牢な入り口の前には、門番のビースティ傭兵が二人立っていた。
黒豹のような特徴を持ち、耳をピクッとさせてかなり遠くからでもこちらを察知していたようだ。
「お、いつも雑用しに来るガキ二人と……イクサお坊ちゃまじゃありませんか」
「ギャハハ! そうだ、俺様だ、イクサ様だ!」
それっぽく演技をしたのだが、ダメだったのかヴィルヘミーネに肘で小突かれてしまう。
「その後ろの荷車はなんですかい?」
パーヴェルスが引いてきた荷車が気になったのだろう。
上にかけてあった布を取っ払って見せる。
「こ、これは……!!」
「じゃーん、どうだ。お前らの大好物な酒だ。しかも、お祖母様が差し入れしてくれた高級ワインだ!」
「うおおおおお!!」
(まぁ、お祖母様から差し入れというのは嘘だけどな。ケチケチして溜め込んでたのを盗んできた)
「マジっすか!! えっ!? もしかして、今日はザクセン団長だけじゃなく、オレらも飲んでいいってことっすか!?」
「こんなに大量にあるんだ。今日は存分に飲め」
山積みのワインを見せつけると、もうすっかりビースティ門番の目はハートになっていた。
一人が大喜びしながら中の仲間へ伝えに行き、残る一人は一本だけワインを取って満足そうに門番を続ける。
それを尻目にイクサたちは内部へ潜入することに成功した。
(よし、楽勝だな!)
高級ワインが差し入れられたことによって、中にいたビースティの傭兵たちは宴会を始めてしまった。
浴びるように酒を飲むドワフン種族とまではいかないが、ビースティたちも酒好きなのだ。
というか、人の金で飲むタダ酒が嫌いな生物などいるのだろうか? いや、種族差関係なくいない。
「お大尽様あざーっす!!」
「バルバロア様バンザーイ!!」
すでに酔い始めている者もいて、我先にと酒をガバガバ飲んでいる。
普段はザクセンからあまり良い扱いをされてなく、酒を飲めるタイミングも少ないというのもある。
それで戦闘時はYXの随伴歩兵を生身でさせられるのだから、鬱憤が溜まってハメも外したいのだろう。
「ウィ~ヒック……。あ、今はザクセン団長は出かけてるんだから、少しは酒を残しておけよ?」
「りょ~か~い……。まーた処刑だ処刑だって言われちまうわなぁ……」
「この前も戦闘で子供を見逃した奴が、速攻で処刑されてたからな……」
「しょうがねぇよ、オレら部族は強い奴に従う掟だから……」
何やらビースティたちにも事情があるようだが、それを横目にイクサは宴会の場から抜け出そうとする。
「おや、お坊ちゃん。どこへ?」
背中側からビースティの声。
イクサはビクッと肩を浮かせてしまったが、落ち着いてふり返り返事をする。
「ちょ、ちょっとトイレへな……」
「あ、そこの通路をまっすぐ行って右っす。あんまり上等なものじゃないんで、足を滑らせて落ちないようにしてくだせぇ」
「う、うむ」
「……あっ!!」
俺、何かやらかしたか!? と表情に出てしまいそうになる。
「拭くのは干し草なんで、痔にならないようにご注意を」
「わ、わかった」
尻のことを気遣ってくれただけらしい。
ホッと胸をなで下ろす。
チラッとパーヴェルスと、ヴィルヘミーネに目配せしてからその場を脱出した。
(ふー、セーフ。あとは事前に覚えた地図の通りに……)
トイレがある方へは行かず、逆の方へ曲がって格納庫を目指す。
予定では、ザクセンはまだ外から帰ってこないのでかなり時間に余裕があるが、想定外のことを考えてなるべく急ぐことにした。
***
「おう、今戻ったぞ」
「あれ、ザクセン団長。帰りが早いっすね」
想定外――ザクセンがすぐに戻ってきたのを見て、パーヴェルスとヴィルヘミーネは青ざめていた。
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