たった三人での現状の打開策

『オラァー!! ここから逃げだそうとした奴の家ってのはここかぁー!!』


 突然、拡声器で大きくされたような不自然な声が聞こえてきた。

 不自然なのだが……イクサにとっては聞き慣れた自然すぎる声の聞こえ方だ。


(これはまさか……コックピット内で死ぬほど聞いた声のエフェクト……)


 イクサたちは人気の無い物陰から出てみると、少し遠くに人が見えた。

 いや、人にしては大きい。

 民家よりも高さがあるのだ。

 まさしく灰色の巨人――その中からザクセンの声が聞こえるのだ。


『逃げだそうとした奴の家なんて、もういらねーよなぁ!』

「ひぃー! お止めください!!」

『ブッ潰れなぁー!!』


 金属の煌めきを放つ巨人は、民家をいとも簡単に踏み潰し、殴って倒壊させた。

 家の住人たちは外に出ているようだが、巨人相手ではどうしようもできない。

 イクサたち三人も遠目から、それを見ていた。


「あ、アレは……ザクセン傭兵団の秘密兵器……巨人!! 飼い慣らされたモンスターだ!!」


 あのパーヴェルスが怯えているが、イクサは至って冷静だった。

 怯えずに現代人が観察すれば、すぐに生物ではない無機物――機械だと判断できる。

 旧型特有のずんぐりむっくりとした体型に、パーツ不足からか所々剥がれ落ちている装甲板。

 掃除も行き届いて居らず、サビや苔なども多く付着している。

 背部に強引に詰め込まれた部品が甲羅に見えて、まるで河童のようだ。


「アレはYXだな」

「YX……?」

「正式名はYesed Xmachinaだ。通称はイックス。メーカーはS&S社製、型式〝S-35〟か。この時代でも随分と骨董品の旧式だな……。本編で流通していた〝S-50〟より15世代も古い。だが、単純で整備がしやすく、この星での運用なら仕方がないか……?」

「い、イクサ……キミは何を言って……?」

「ああ、悪い。独り言だ」


 いつも遊んでいたゲームのロボットが出てきたことによって、ここが本当に別世界だと実感してしまう。

 キャラ名の推測から、ただの勘違い……なんて方がよかったのかもしれない。

 だが、アレはたしかにYXだ。

 人型機動兵器、軍需産業の主力商品、戦争の主役。

 そして、星渡りの傭兵たちが狩る最強最悪の兵器だ。


「イクサ、やっぱり頭を打っておかしく……」


 ……どうやら、早口オタクのようなものは二人から見るとこうなるらしい。

 イクサは、この時代の人間っぽく振る舞おうと深く心に誓った。

 そうしている内に飼い慣らされた巨人モンスター――もといYXに乗ったザクセンはどこかへ行ってしまった。

 たぶん傭兵団の拠点へ帰投して、YXを置きに行ったのだろう。


「くそっ!! ザクセンが巨人を味方にしている限り、このヘンキョー領は傭兵団の言いなりだ……!!」

「でも、あんな巨大なモンスター相手に……わたしたちじゃどうにも……」


 その表情に絶望的な影を落とす二人。

 反面、イクサはケロッとした表情をしていた。


「いや、アレ相手ならやり方もあるぞ」

「えっ?」

「イクサ……お前本当に頭は平気なのか……? あの巨人の肌は鉄……いや、ミスリルかもしれない。とても硬い。たとえA級冒険者が束になっても敵わないだろう……。世界に数えるほどしかいないS級冒険者なら何とかなるかもしれないが、こんなヘンキョー領には来てくれない……」

「そりゃー硬いさ。ただ……弱点もある」

「弱点!?」


 さっきまでは情報が足りずに八方塞がりだったが、少しは希望が見えてきた。


(幼なじみ二人からのジャマが入らないこと、これは味方にした今ならクリアだ。そして、ザクセンとバルバロアを何とかすること。コイツらが幅を利かせることができているのはYXが大きい……これなら……!)


 イクサは考えがまとまり、これからの計画を瞬時に練り上げた。


「たしか二人は傭兵団の拠点に出入りをしていたよな?」

「あ、ああ。執事長とメイド長の子供だからって、雑用とかで……」

「拠点の見取り図を描いてくれ。それと囮役を頼む……もちろん安全な範囲で」

「イクサ、何をするつもりなの?」

「ジャイアントキリングだ」




 ***




 二人から情報を得て、相手の兵力、設備、技術レベルなどが理解できた。

 ザクセン傭兵団にあるYXはS-35一機だけだ。

 元々、この星はファンタジー的な世界に近い。

 テクノロジーの塊であるYXは星の外から一機だけもたらされたものだろう。

 整備も小さな格納庫があって、ザクセン本人が簡易的な整備をしているらしい。

 他の団員たちは、この星の北側の獣人種族――ビースティがザクセンの強さに従っているだけらしい。


(もしかして、ザクセンは他の星からやってきた傭兵……星渡りの傭兵の一人なのか?)


 それはともかく、これならいくらでもやりようはある。

 作戦はこうだ。

 まだ信頼を得たままになっているイクサは、堂々と傭兵団を訪問できる。

 そのまま入手した地図に沿って格納庫まで忍び込み、YXを強奪してしまえばいいのだ。

 YX内部の端末を使えば、ゲーム内でも使っていたインターフェイスでクリア特典の情報を得られるかもしれない。


 もしザクセンがYX乗り込んでいて敵対することになっても、ゲーム内で何百回とやってきた爆薬で背部を吹き飛ばせば行動不能にできるだろう。

 河童の甲羅のような背部は、見た目のわりに装甲が薄く、爆薬でもピンポイントで狙えばジェネレーターをエラーで停止させることができる。

 新型では対策されているが、旧型は弱点が多いのだ。


(できればS-35を手に入れたいな……。未来である本編だとスクラップ扱い、現在でも旧型機だけど、この星唯一のYXっぽいし)


 そして次の日――作戦が実行されることになった。

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