辺境のザコキャラ転生

「おい、二人とも! この俺に逆らったんだから、罰を受けてもらうぞ!」

「そ、そんな……」


 西洋風な寂れた村の中、三人の少年少女が言い争っていた。

 一人の少年が一方的に命令をしていて、二人の少年少女が抗議をしている形だ。


「あぁん? 口答えするってのかぁ? パーヴェ……テメェは役に立たない雑草のような年老いた村人に、飯をくれてやったんだぞ? 領主の嫡男様であるこの俺の飯をなぁ!!」


 パーヴェ――パーヴェルス・ヴェルテンベルクは金髪の見目麗しき少年である。

 年齢は十三歳だが大人びた風格があり、身長も同年代の子供より大きい。

 粗末な麻の服を着ているが、どこか気品が漂っている。

 花が似合いそうな美貌も、今は砂を蹴りかけられて汚れてしまっている。

 ヨロヨロと立ち上がりながら、悪そうな少年へ抗議を続ける。


「それは……キミが残した物――残飯だ!! それでもこの痩せ細った領の民たちにとっては、誕生日でも食べられないくらいのご馳走なんだ……!!」

「俺に盾突こうってのか……? 俺と同じ物を、領民風情が食って良いはずねぇだろ!!」

「や、やめてよ二人とも!! 頼んだのはわたしなの!!」

「ほう……ヴィルヘミーネが?」


 ヴィルヘミーネ・レッセンは、赤い髪を後ろ斜めにポニーテールでまとめた少女である。

 年齢は十二歳で、パーヴェルス同様しっかりしているように見える。

 粗末な麻の服に包まれているホッソリと痩せた身体だが、普段からあまり良い物を食べていないかもしれない。


「じゃあ、ヴィルヘミーネが罰を受けろ。一週間、馬小屋暮らしだ」

「はい……」


 ヴィルヘミーネは青白い顔で震えながらも、気丈に笑顔で頷いた。

 怒りの表情でパーヴェが止めに入る。


「止めるんだ!! 以前、それで凍えて肺の病気になったんだぞ!! その時よりさらに厳冬げんとうだ!! 本当に死んでしまうぞ!!」

「死んでしまうかぁ。……で?」

「なっ!?」

「お前たちはただの従者の子供たちだ。替えなんていくらでもいる。まさか、幼なじみだからってお友達気分で頼めばどうにかなると思ってるのかぁ? 俺はここの領主の嫡男で、いずれは世界の王になるであろう男だぞ?」

「お前には……人の心がないのか……イクサ……」


 イクサ・ヘンキョーは黒髪黒眼の冴えない九歳の少年だ。

 力も強くないし、頭もよくない。

 親が子爵で領主――その嫡男ということを笠に着て、威張り散らすという最悪の人間だ。

 虎の威を借る狐というより、虎の威を借るゴキブリだ。

 一人だけ着心地の良い絹の高級服の上に、暖かそうな毛皮を重ね着していた。


「以前はもっと良い奴だったのに……キミは祖母であるバルバロア・ヘンキョー様と関わってから……変わってしまった……」

「ギャハハ! 力の使い方を知っただけだっつーの! 俺以外の人間はみんな、ただの道具だからなぁ!! お父様も、お母様も、もっと領主一家らしい振る舞いをすればよかったのに!」

「……もういい。僕の知っているイクサはいないようだ……。ヴィルヘミーネの代わりに、僕を入れろ……死の馬小屋に……」


 心底失望した表情を見せるパーヴェルス。

 彼は長年ヘンキョー家に尽くしてくれた、執事長セヴァス・ヴェルテンベルクの息子だ。

 本来なら無条件の信頼を得られそうな関係性だったのに、今では冷たく醒めきっている。


「止めて!! パーヴェ!!」

「いいんだ……ヴィルヘミーネ……。身体が大きい僕の方が生き残る可能性が……」


 泣きながらヴィルヘミーネが懇願してくる。


「イクサ……いえ、イクサ様!! どうか、どうかわたしだけに罰を!!」

「はぁ? イチャイチャしやがって。それじゃあ二人とも極寒の中で一週間、馬小屋生活な」

「そんな!?」

「お祖母ばあ様も言ってたしなぁ、少しでも反逆する者は肉親でも早めに始末しておけって。……毎朝、冷水をぶっかけに行ってやるから楽しみ待っとけよ。ギャハハ!!」


 実質の死刑宣告だ。

 かつて忠臣であったパーヴェルスですら、この主の理不尽さには耐えられない。

 カッとなって、帯びていた剣を抜いて振り上げてしまう。


「ひっ、そんなことをしたら斬首刑だぞ!?」

「どうせ死ぬんだ!! 構わない!!」

「ひぃぃぃ!!」


 イクサは情けない声を出しながら、後ずさっていく。

 その数歩先にはこぶし大の石が転がっているが、気が付いてはいない。


「イクサ、今度生まれ変わったら……こんなことになる前に友として……僕が止めてやるからな……!!」

「ば、バカヤロウ!! 生まれ変わりなんて信じるかぁーッ!! この俺は……イクサ・ヘンキョーは傭兵団で全国を……いや、〝星渡りの傭兵〟となって全宇宙を手に入れる王になるんだぞぉー!!」


 ジリジリと追いつめられ、後ずさったのだが――石を踏んで体勢を崩して転んでしまった。


「「「あっ」」」


 三人の驚きの声が重なった。

 イクサは運悪く頭部から地面に突撃してしまったのであった。

 衝撃、脳内で飛び散る火花、回る星々。


 ――ピクリとも動かなくなるイクサ。

 遠目に見守るパーヴェルスとヴィルヘミーネ。

 しばらくしたあと、急にイクサがいつもと違う大人びた顔つきで立ち上がった。


「ごめん、生まれ変わったわ」

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