第12話 決意



それからもメイド見習いとして仕事を覚えつつアルにセクハラ…じゃなくて、訓練を一緒する日々を過ごして行き2年程経ったある日。


最近、エレナ様やマリーお母さん、他の人が居る前では、様付けを変えないけれど、

心の中や二人だけの時はアルと呼ぶようになっていた。


7歳になったアルの魂の選別の為に、エレナ様と三人で教会に向かっていた。


私は以前に受けていた為に内容を知っているが、

アル様は興味深そうに馬車から街並みを見て眼をキラキラさせていた。


(私はお使いとか買い出しで、偶に外に出ていたけれど、

アル様って…、屋敷から出るのこれが初めてかしら?)


そんな事を考えながら3人で会話していると、

教会に到着し儀式が始まる。


「これは素晴らしい!4属性をお持ちとは、将来が楽しみですなぁ」


神父がそう言うと、一礼をしたアルは、祭壇を下りてくる


「アル、凄いじゃない!」 「流石ですね。」


そう言って、エレナ様は嬉しそうにアルを抱きしめて笑った。


(エレナ様それ狡いです、代わって下さい。)



――――



魂の選別を受けた日の翌朝、朝食を済ませた後、

アルの部屋に集まると、エレナ様は魔法の練習について話し始める。


二人の顔を見て、確認を取りながらも説明を受けた後、部屋を出る。


庭の訓練場に移動して、エレナ様と私が見守る中、

アルが右手を前に出し構え水の初級攻撃魔法を放つ。


「水よ…、我が敵を穿て…、ウォーターボールッ!」


アルが放った水球は吸い込まれるように杭に命中し、

ドンっと言う音と共に、杭を揺らして弾けた。


(流石…、私もこんな所で無様は晒せないわね…。)


続いて私も隣で深呼吸した後、同じ杭に向って構える。


「炎よ…、我が敵を穿て…、ファイアボールッ!」


すると、現出した20cm程度の火の玉が圧縮された様に15cm程度になり、杭に向って真っ直ぐに飛んで行く。


ドンッと杭に当ると同時に燃え上がり、杭の表面を汚した。


(出来て良かった…。

やっぱり…、アルの方が威力が有るわね…。)


注意点を伝えたエレナ様は屋敷に戻り、

アルと何度も繰り返し魔法の練習を続けた。



―――――



3日ほど練習すると、アルはすっかり初級には慣れてきていた様で、

同じ魔法で、威力の増減や、変化を調べているように思えた。


(同じように練習してるはずなのに、私はまだ安定して放つのが背一杯…。)


ブツブツと呟きながら何度も魔法を放ってるアル様を、

魔力操作の練習をしながら眺めている。


(アル…、総魔力量どれぐらいあるのかしら…。)


交代しながら魔法を放って居ると

魔力残量が減り私は疲労感を感じ始めるが、

アル様は疲れた様子も見せずに、試行錯誤しながら水属性以外にも、

風や土、光属性も使い、途中から交代せずに、アルが放つ魔法をずっと見ていた。


(………、そろそろ一度止めた方が良いかしら…、

夢中になり過ぎて疲れを忘れているだけなのかも…。)


「ねぇ……、少し休憩しましょう…?お水持ってくるわ。」


そう言って屋敷に取りに行き、水差しとコップを持って戻ると、

アルは身体をほぐす様にしながら休憩していた。


「はい、お水よ。」


水を入れたコップを手渡すと、一口飲んだ後、

やはり喉が渇いていたのか、残りを一気に飲み干した。


「ふぅ……。」


隣に座り、アルと同じコップに水を入れて飲もうとしてふと気づく。


(あ、これ間接キスだ…。 気付くかしら…?)


「そう言えば……。」


(気付かれた!?)


「魔法書を見て知ったけど、

光の生活魔法は、ライトの他にクリーンがあるんだよな。 

クリスに使って見ても良い?」


(………、気付いてない…、そもそも気にしてなさそうね…。)


「えぇ…、良いわよ…。」


気付かないでは無く気にして無い事に、

少しテンションが下がりつつ返事をすると、

アルは笑顔で私を見て手を翳す。


(あ、その笑顔ズルイ…、何でも許しちゃう…。)


「クリーン」


私の体が、一瞬白く淡い光に包まれ、収まると服が綺麗になった気がした。


服を手で払うとフワリと粉が舞う。

思わず立ち上がり、服を払いつつ確認すると汚れが無くなって居た。


「驚いたわ…。朝に付いた料理の染みも綺麗になってる……。凄いわね…。」


「お…、おおう…、クリーンさん優秀じゃね? 

粉が出るって事は汚れを浮かせて粒子状にしてるのかな…?

じゃあ……、これで……、ブリーズ」


感心していると、ブツブツと呟き考察していたアルは、

ブリーズを唱えると、手からそよ風が出て、

私のメイド服に付いていた、粒子状の汚れが飛んでいく。


(こんなに粉が出ると、私が汚れてるみたいで恥ずかしいわね…。ってっ!?)


その時、横から自然の風が吹きフワリとスカートが浮き、

ブリーズの風でさらに前が捲れ上がってしまう。


「ちょ、ちょっとっ! 何してるのよ……! 見えた……?」


慌ててスカートを抑えて、顔が赤くなるのを感じつつ睨むようにアルを見る。


「ご、ごめん…、見えた……、

汚れを飛ばそうと思ったんだけど…、悪い風も居たもんだなー…ハハハ。


………、ありがとうございましたぁっ!」


「もう……、アルのえっち…。」


(お風呂とかで何度も見られてるけど…、

こういうハプニングは、やっぱり恥ずかしいわ…。)


赤らんだ頬を膨らまして、怒ってますアピールをすると、

アルは笑いながら謝り、話をすり替える様に、模擬戦を提案して来る。


いつもより、少し力が入ったことを自覚しつつ、

アルを打ちのめして、今日の訓練は終了した。



―――――


アルをお風呂に入れて、色々満足した後、

部屋に戻り、ベッドに座り息を吐く。


「ふぅ……、 ステータスオープン。」


――――――


名前:クリスティア(10歳)

種族:人族 (女)



★スキル


技能スキル

剣術Lv5 体術Lv4 料理Lv4 


魔法スキル

火魔法Lv1 風魔法Lv1 闇魔法Lv4 身体強化魔法Lv5


特殊スキル

鑑定Lv2 魔力察知Lv1 気配察知Lv3 


特殊補助スキル

器用さUP 体力UP 筋力UP 魔力操作 直感


ステータス隠蔽(隠蔽済み)

異世界言語理解(隠蔽済み)


固有スキル


闇神の祝福(隠蔽済み)


★称号

星神の加護(隠蔽済み) 闇神の加護(隠蔽済み)


―――――


今まで色んなものを鑑定してきて、つい先日、ようやく鑑定レベルが2になった。


「見れる内容増えてるかしら………、鑑定…。」


Lv1の時は殆ど内容が判らなかった物を鑑定していく。


――――

星神の加護: 星神が見守る。


加護を受けた者の、空の下での能力が僅かに向上する。


加護を受けた者の、状態異常効果を軽減する。


――――


「見れる項目が…、増えてる。」


鑑定を行い以前より見える項目が増えて居る事に気付き、

内容を考察していく。


(空の下と言うのが漠然とし過ぎてるのと、

僅かに向上とか軽減と言うのがどれぐらいなのか判り難いけど、

今も加護を受けてる状態って事で良いのかしら?

ダンジョン等に入ると加護が外れると考えた方が良さそうね…。

問題は……。)


星神セレスの加護を有難く感じつつ注意点を認識して、

続く、問題その1へと目を向ける


――――

闇神の加護: 闇神が見守る。


加護を受けた者の、空の見えない場所での能力が僅かに向上する。


加護を受けた者の、空の見えない場所での心の枷が外れやすくなる。


――――


「………、ちょっと…。」


闇神の項目を見て、思考停止しかけた心を奮い立たせて言葉を漏らし、

思わず頭を抱える。


(空の見えない場所って普通に考えれば室内もその影響下って事かしら…。

能力向上の方は良い、何も問題はない、むしろありがたい。

問題は心の枷が外れやすい…って、そのまんまの意味だけを捉えると、

非常に危険に思える…、色んな意味で…。


自分でもアルにセクハラ過多だとは薄々思ってたけど…、

これが(も?)原因なんじゃ無いの? ちょっと意識して気を付けよう…。)


内容を確認して心を引き締めたクリスは問題その二を見る。


――――

闇神の祝福: 闇神の祝福を得る。


想い人の近くに居ると能力が僅かに向上する。


想い人を直感で解り、近くに居ると心の枷が外れやすくなる。


想い人と繋がると効果が変わる。

想い人以外と繋がると祝福が呪いに変わる。

15歳までに想い人と繋がらないと祝福が呪いに変わる。




――――


祝福の効果を確認してしばしフリーズした後、ベッドに倒れ込む。


「プルトンさま……、祝福ってなんだっけ………?

これじゃまるで呪いみたい…って…、呪いに変わるって書いてあるわ…。


はぁ……、あぁ確か…、神の言う事を聞くと与えられるのが祝福で…、

神の言う事に叛くと与えられるのが呪い…、ざっくりこんな感じだったかしら…。」


(想い人と繋がる…、想い人っと言うのは…、

アルで間違いないと思う…、そんな確信がある。


問題は繋がる…、アルと…セックス出来れば良いのかしら?

繋がるって言葉のイメージが、

それしか連想できない時点で、私の品が知れるわね…。)


自分の発想力の低さに自嘲気味に笑みがこぼれるが、

気を取り直して、注意点を意識する。


(気を付けるべきは…、この世界だもの…レイプされる事…かしら…、

って…、前世でレイプされてるんだから、この世界もなにもないわね。)


ふと、転生直前のセレスの言葉を思い出す。


『人の身に闇神の加護は――』『闇神の加護に呑まれない様に――』


「………、セレス様…、本当に…、ありがとうございます…。」


そのまま眠りに就くクリスの頬に一筋の雫が流れた。



―――――



それから暫くして、エレナ様やお母さんの監督下から離れ、

アルと二人で、魔法や体術の訓練を続けていた。






――― side マリー視点 ―――



訓練での直接的な指導を控え様子を見るだけに留め、

自主性に任せてから、しばらくしたある日の夜。


「いやあああああああああっ!! ………、アル…、アル…、アルぅ……。」


同じ部屋で寝ているクリスの絶叫でわたくしは目を覚ましました。

視線を素早く動かし周囲の異常が無いのを確認すると、

ベッドの上で震える身体を自分で抱きしめ俯き長い髪を振り乱し、

アル様の名前を連呼する娘の傍に近寄る。


「クリス…? クリスッ!? どうしましたか? しっかりしなさい!」


抱き締めて優しく頭を撫で声を掛けるが、わたくしに気付いてない様子でした。


少し間をおいてから、わたくしの顔を見て気付いたのか、

突然、抱きついてきて服を掴み、眼を見開き、叫び、泣き崩れる。


「…おかあさんっ! …アルが死んじゃうっ!!

……死んじゃった、……やだよぅ、…ううっ……。」


「大丈夫ですよ…、アル様は死にませんし、死なせません…。

だから…、落ち着きなさい…。」


優しく抱きしめて落ち着けるように、背中を撫でながら努めて優しい声色で言う。


「はぁ…、はぁ…、 ゆ…、………、夢…?」


震える声で呟いたクリスは正気に戻ったのか周囲をみる。

その全身は水を被った様に寝汗で濡れていた。


しばらくして落ち着いたクリスは、泣き疲れたのか、再び眠りに落ちて行った。


びしょ濡れの寝巻を着替えさせて、わたくしのベッドに寝かせると、

隣でわたくしも横になり、クリスの頭を撫でながら再び眠りに就いた。



―――――



クリスが夢でうなされ錯乱した翌日、わたくしに夢の話をしてくれた。


話をするうちにクリスは、

夢の内容が現実になるのではないかと、再び体が震え出していた。


「嫌だ…、怖い…、嫌だ…ヤダヤダっ!アルが…、

アキさんがまた死ぬなんてヤダ…、嫌だよぅ…。」


「………、大丈夫です。

そんな事には絶対になりません。」


(一見…、荒唐無稽の話の様にも思えますが…、

でも…、この子の言う夢の内容…、

夢の中のエレナ様やわたくしの行動や発言にも、思い当たる節がある…。


それに…、お慕いするアル様の名前を間違える程の、この子の怯え様…、

それに…『”また”死ぬのは嫌』とは…、どういう事でしょうか…。)


震えて塞ぎ込みブツブツと呟き出したクリスを、

抱き締めて落ち着かせながらも、聞いた夢の内容を考え、

子供の見るただの夢…にしては、妙に引っ掛かりを覚えたわたくしは、

エレナ様に相談しようと決めた。






――― side クリス視点 ―――



お母さんが部屋から出て行き、残された私はベッドに座っていると、

エレナ様を連れてお母さんが戻ってきた。


エレナ様も話を聞くとの事で、

私は思い出して涙を溢しつつも、なるべく整理しつつ話をした。


黙って話を聞き終えたエレナ様は、暫く考えた後、口を開く。


「………、もしかすると…、

クリスの言っている夢は、予知夢…かも知れない…わね……。」


そう思った根拠をエレナ様が説明する様に言う。


文献や資料で見たことがある――。

その程度の存在を、私が知っている筈が無い。

『夢の中のエレナが言っていた。』 と言う私の話が、

妄想の類では無いとエレナ様は言ってくれた。


「昔……、予知夢に関する文献も見た事が在るのだけれど…、

その通りになったこともあれば、ならない事も在って、

世の中を混乱させたとかで犯罪者扱いや、

精神異常者扱いを受けたような記述もあったのよ…。」


私の見た夢と、違う結果になる事も、その通りになる事も考えられる。

事が起こるまで予知夢とは認められないからだと…。


(確かに…、私だって…、他の人が言ってたら…、きっと信じられない…。

都合が悪い事なら猶更信じられないと思う。)


そして、予知夢の通りに事が起こり聖女や巫女の様に厚遇された事例や、

魔女や邪神の使途の様な扱いを受け迫害された事例があると言う。

中にはテロリスト様な不穏分子扱いで処刑されたこともあるそうだ。


「だからクリス…、貴方が嘘をついてるとは、思っていないわ…。

………、だけれど…。」


エレナ様は眼をを伏せて、悲しそうな表情を一瞬見せた後、

私の目をしっかり見て言う。


「貴方の為にも…、そしてアルの為にも…、

今暫くは私達以外には、黙っていて欲しいの…。」



エレナの言葉を聞き、また夢の中でのお母さんやエレナ様の状況、

アルが殺された状況をフラッシュバックする様にを思い出した私は、

不安に駆り立てられ体を震わせるが、お母さんが抱き締めて落ち着かせてくれる。


お母さんは私の頭を撫でながら言う。


「大丈夫…、何も心配要りません…、何があっても私が守ります…。」


抱きしめられて優しく撫でてくれる温かさ、そして母から感じる愛情に、

私が落ち着きを取り戻した所で、エレナ様も私に手を伸ばす。


「貴方は夢の通りになった時に……、またアルを守れないかも知れない…。

それが…、怖いのでしょう?」


エレナ様に私の頭を撫でながら、言い当てられ私は小さく頷く。


「クリス……、強く成りなさい。」


突然の言葉に私は思わず驚いた顔で、エレナ様を見上げる。


「大切な誰かを守るには、強くなければならないのよ。

だから…、貴方は今よりも、強く成らなければならない。」


(そうだ…、その通りだ…、その通りだった…。

凄く単純で…、絶対に必要な事…。)


エレナ様の言葉を聞き、寝巻の裾をキュッと握りしめた私は、

唇を噛み、涙ぐみながらも頷く。


「もちろん…、私もマリーも、今より強くなるわ!

それに村を守れる様に対策も考えるわ…、だから…。」


エレナ様は決意を言葉に載せる様に宣言する。


「アルを……、お願いね。」


エレナ様は涙を溢し、私を抱き締めるその手は、

微かに震えてるようにも思えたが力強さを感じる。

私の肩に手を置くお母さんも静かに涙を流していた。


(強くなければ…、アキ…アルも…、自分も守れない…。

それならば私は強くなって…、守る…今度こそ…。)



そんな朝の一幕が過ぎ、遅れていた朝の仕事を終えた昼過ぎ――― 


クリスは自室の鏡の前に立っていた。

金属を磨き上げられた鏡に映るその瞳には決意の色を宿していた。

自分の髪を掴み、ナイフを手に取る。


「私は……、変わる……、強くなる……。 

あの夢が実際に起こるかどうかなんて関係ない。


何があろうと、今度こそアルを守る…、………、この命に代えても……。」


クリスは長く伸ばしていた綺麗な黒髪を切り、髪型を変えた事でアルを驚かせた。


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