第10話 星神と闇神とクリスティア
眼を覚ました私は、床と壁の判別すらできない白い空間にポツンと立っている事に気が付く。
「……ここは?」
ぼんやりとした頭でそう呟くと、声が聞こえてきた。
「ここは魂の待機場…みたいな所だよ、江藤 恵子さん」
慌てて声の方に振り向くと一人の少年がそこに居た……。
白っぽい金髪を肩に掛かる程度に伸ばしている少年を素直に美形だと思うが、
軽い口調なのに対して表情筋が死んでいるのか、その顔に表情が無かった。
顔が良いだけに表情が無い男を不気味に思い、
ケイコは警戒していたが、意を決して問いかける。
「……、あなた…は…、 どうして私の名前を知っているの?」
「え……?
いや~、なんでそんなに警戒されてるのかは判んないんだけど、
私は君たちの言う所の神っと言う存在だね。
この見た目は、君が作り出したものだよ、人間は神を認識したい様に見てしまう。
つまり…、君が神=少年と認識してしまっているからに他ならない。」
「ちょ…、ちょっとっ! 人をショタコンみたいに言うのは止めてくださいっ!」
自称神の少年の発言に、ケイコは顔を赤くして慌てて否定する。
「いや、別に少年が好きとかじゃないのは判るよ。
ごめんごめん、ただ造形美として少年顔が好きって事なんだろうね。
まぁそのままで良いから、少しずつでいいから話しを聞いてもらえないかな?」
表情の無いままの神と名乗る少年がフランクにそう言うので、
ケイコは深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするが、
どうしても眼を合わせられない……。
そんな恵子を見て神は苦笑しながら口を開く。
「まぁいいさ、話を進めよう。
君は…、階段から落ちて死んだ…。
本当はもう少し生きたら病死するはずだったんだけど……。」
その言葉にケイコが反応する。
「私は病死するはずだった? ……、じゃあ、なんで転落死なのですか?」
転落死しなければ、アキの葬儀に出席出来ていたのではないか?
そんな思いが出てきたケイコは、興奮気味に抗議する様に質問を重ねる。
「僕自身は君に詰められる言われはないし、その態度は不愉快だが…、認めよう。
確かに、転落死しなければ、君の大事な人の葬儀にも出席は出来ていただろうね。」
相変わらずの無表情で不愉快だと告げる少年神のその言葉に、
ケイコは少し落ち着きを取り戻し、深呼吸する。
「………、ふぅ…、取り乱してすいません。
では…、なぜ急に死因が変わる事になったのですか?」
「その事を説明するために…、まずこのバカを紹介しよう。」
そう言って少年が左手の指をパチンと鳴らすと、少年神の左側、
ケイコから見て右側に一人の女性が現れた。 現れ…た…?
「………、はっ…?」
突然現れた女性の姿に、ケイの思考は一瞬停止する。
「紹介しよう、私の下に就く、闇の神プルトンだ。」
「セレス様ぁ、酷いですぅ! こんな姿を人間に見せるだなんてぇ!神の威厳~!」
「………。」
紹介されたプルトンは、
裸にロープで亀甲縛りにされて、手足を背面側に逸らされ吊るし上げられていた。
何処から吊ってるのかと、吊ってあるロープの先を目で追ってもその先は見えない。
勿論、おっぱいも股間も丸見えで、神の威厳もへったくれも無い。
しかも全身を使って抗議しているのか、
発言の度にゆらゆらと揺れて、ゆっくりと回転している。
「煩いから少し黙りなさい。」
「あんっ!」
そう言って、相変わらず無表情のセレスがプルトンのおっぱいをパチンと叩くと、
吊るされたままのプルトンがくるくると回転し始める。
「ええっと…、セレス様?で良いのでしょうか? 何故…この方の紹介を……?」
「あぁ、そう言えば私の紹介もまだだったね、私はセレス。
ミルアースの住民からは、地の神と言われているが、正確には星の神だ。
そして、彼女…闇の神プルトンと光の神ユピテルとで3柱と言われているが、
正確にはユピテルとプルトンは私の部下の様な物だ。
そして私の上にも偉大なお方が居られる。」
「私はプルトンよぉ、闇の神ですぅ。宜しくねぇ、人間~。」
ケイコの疑問に、セレスが答えて説明してくれて、
吊るされてくるくる回ったままのプルトンがのんびりした口調で挨拶して来る。
神様は三半規管も神様なのだろうか。
「あ、あの…、それで私の死因が変わった理由を…教えて頂いても…。」
「ああ、すまない、そうだったね。
君は、階段から落ちる直前に、メールが来たのを覚えているか?」
「メール……? あ、そういえば……。」
ケイコはそう言われて思い出す。
Wi-Fiの無い場所で契約回線の無い端末に突然のメールの通知が届いた事を。
ポップアップが血糊で遮られて、
文字は読めて居なかったがメールが来ていた事を思い出す……。
「そのメッセージを送ったのが彼女、プルトンだ。」
「……、ええっと……、どう言う事でしょう?」
無表情なのにドヤ顔だと判るセレスの説明に、
ケイコが更に疑問の声を上げるとプルトンが割り込んでくる。
ロープの捻じれが限界になったのだろうか?
今度は反対方向に回転し始めている。
その顔は先程の迄の様なギャグ路線ではなく、
闇の神と呼ぶに相応しい神秘的な表情と口調だった。
吊るされて回転したままだが…。
「私はね、暇つぶしに貴方を時々見ていたの、貴方の人生を…、貴方の選択を…、
そして、あの人間に出会ってからの貴方の変化を…、そして貴方は願った。
心の底から…、貴方の人生で初めての恋慕した、あの人間と共に生きたいと…。
あの人間は、死んだ時にあの御方に連れられて、ミルアースに来た。」
そこまで言った時、先ほどまでの神秘的な雰囲気が霧散したのが見て判った。
吊るされたままだからね…。
「そこでプルトンちゃんは思ったのですぅ。
宜しい…ならば、あの人間の行った世界に私が連れて行ってあげようとっ!
そこで貴方の持っていた端末にメールをポチっとしたら…、
貴方が突然死ん――あぃたぁっ!?」
プルトンがテンションアゲアゲで語っていると、
セレスの左手が消えて、プルトンの顔が仰け反り、
吊るされたまま惰性で回転していたプルトンは高速で回転し始めた。
「………、コホンッ…、ここからは私が引き継ごう…。
つまり…、プルトンがメールという形で君に直接的に干渉しようとしたんだ。
我々の様な別次元に居る存在が迂闊に干渉すると、
どんな歪みが生じるか判らない事が多い。
今回の場合は、その歪みで君の死ぬ時期が早まったんだ。」
「………、そうなんですか……。
私は…、これからどうなるのでしょうか…?」
ケイコは神と呼ばれる存在が人の人生を軽々と捻じ曲げられるという事実に、
驚きと恐れを抱きながらも、 自分が今後どうなるか尋ねる。
するとセレスは少し考えた様に間を置いてから無表情に口を開く。
「………、君たちの言葉で輪廻転生って言葉を知ってるかい?
別に危害を加える気は無いし、今回のお詫びと言ってはなんだが、
元の世界…日本の有る世界の神に交渉して生まれ変われる様にする事も…、
我々が直接管理する世界…、
ミルアースで生まれ変われる様にすることも出来るが……。」
そこまで言って言葉を濁すと、プルトンが回転しながら神秘的な口調で口を挟む。
「あ~、因みに、貴方の想い人はミルアースで生まれ変わる予定よ。」
「え? アキさんが?」
「ええ…、あの人間は……、貴方とは違う事情だけれど…、
ミルアースに行く事は決定して居るわ。」
プルトンはそう言って、ピタリと回転を止めてセレスの顔をチラチラ伺う。
自分で回転止めれたのかと思いつつも、その言葉を飲み込むケイは、
願いを口にする。
「あの…、アキさんと同じ時代に生まれ変わらせて欲しいです。
………、可能であればアキさんの近くで生まれたいです。
どうか…、どうか……、お願いします。」
ケイコは心の底からの願いと共に、無意識にその場で膝を着き頭を垂れる。
「………、わかった。 では…、そうしよう……。」
「はい…、ありがとう…ございます…。」
セレスがその願いを聞き入れると、何処からともなく現れた杖を掴み振るう。
ケイコは立ち上がり溢れ出る涙をそのままに、満面の笑みで返事を返した。
ケイコの足元に魔法陣が現れ、内側と外側の文字がそれぞれ左右に回転し始め、
じわじわと白い光が発光し始める
「じゃぁ…、プルトン様がぁ…、加護を貴方にあげちゃいますぅ! えぃ☆」
「あっ!コラッ!」
セレスが止める間もなく、
吊られたままのプルトンが、後ろ手にパチンと指を鳴らす。
するとケイコの体の前に真っ黒の塊が現れ、ケイコの体に吸い込まれて消えた。
「今のは……?」
「これがぁ、プルトン様によるぅ~、加護なのですぅ!
他にも色々効果はあるけれどぉ、
貴方の想い人が近くに居ると自然と『判る』ようになりますぅ!」
「馬鹿者! 人の身に闇神の加護はっ! ……いや、もう仕方がない。」
無表情のまま、一瞬怒ったような口調の後やや諦めた様な声を出すセレスと、
対照的に何故かドヤ顔のプルトンを交互に見て、
ケイコは不安が募り、困惑の声を上げる。
「……、えぇっ!? あ、あの…?」
「はぁ…、いや、すまない君は悪くない、悪いのはこのバカだけだ。
このバカの…、闇神の加護に呑まれない様に、私の加護も植えておこう。
君がある程度大人になる頃には自覚できるだろう。
ミルアースは君のいた世界で言うファンタジーのような世界だ、
他にも幾つか便利に使えそうなスキルを授けよう。」
ろくな説明をしないままそう言い放つセレスの声を聴きながら、
戸惑うケイコの意識は白く包まれた。
―――――
気が付くと、私は生まれ変わっていた。
何処かの裕福な家庭に仕える使用人の娘になったようだった。
父はその家の料理人で、母はメイドとして仕えているらしい。
私が3歳になった時に、家の主――仕えている貴族の家に跡取りが生まれた。
4歳になったら私が仕える人が1歳になり顔合わせをするそうで、
幼いながらも、母から厳しく教育されるが、しっかりと愛情も感じられた。
転生前の記憶が残っていた私は、封建社会の貴族に使えろと言われても、
いまいちピンとこなかったが、世界が変わった差異に戸惑いつつも、
ある程度要領良く物事を習得していった。
そして仕えるべき私の主、まだ1歳のアルヴィス・アイゼンブルグ様と対面する。
一目見て可愛らしい御方だとは思ったけれど、
正直……、1歳の子に礼を尽くせと言われても困ってしまう。
それでも私の将来の御主人様と言う事で、緊張しながらも挨拶をする。
あぁ…、顔が赤くなってるんじゃないかしら…。
「くりすてぃあです、4さいです。 よろしくおねがいします。」
「アルでしゅ、1さいでしゅ。」
挨拶をして、アル様も舌足らずな感じでだったがしっかりと挨拶を返してくれて…、
その声を聴いた瞬間、何故か、心の底から嬉しさがこみあげて来て、
辛うじて笑顔で返すも溢れてきた涙が止まらずポロポロと零れていく。
「く…くりしゅ…、ぁっあぁ…、なかないで」
急に泣き出した私を見て、
まだ幼いはずのアル様が慌てながらも、私を慰めようとしてくれる。
そんな仕草の一つ一つが、あの人と重なり…、
胸が熱くなり嬉しさが込み上げて更に涙が溢れてくる。
あぁ…、アキさん……、ようやく…、会えました…。
「アルヴィス様…、よろしくおねがいします。」
プルトン様は、『判る』と仰っていた。
これがプルトン様の加護なのだろうか、顔も違う、瞳の色も違う、
髪色も違う、声も違う、アル様がアキさんなのかは判らない、確認も出来ない。
それでも…、私に宿る加護が…、私の心が…、私の魂が、
アル様はアキさんの生まれ変わりだと言っている、信じている。
私はこの心を信じよう、そしてアル様に付き従い私の全てを捧げる…。今度こそ…。
―――――
5歳になったある日、庭の手入れの仕方をマリーお母さんから学んでいると、
庭の隅で、アル様が座り込んでいたので、母に視線で断りを入れ、話し掛ける。
「アル様、何をしているんですか?」
余程集中して居たのか、声を掛けて少ししてから振り向くと端的に答える。
「まりょくのれんしゅー」
(まりょく…、魔力?練習?え?練習ってもう出来るの?どういう事?)
と、アルが端的に答えてくれるが端的すぎて良く判らないので更に聞く。
「それをすると、どうなるんですか?」
「んー? まだよくわからないけど…、からだのなかでうごかせる―、
まほうをつえるようになったら、ゆうりになるんじゃないかなぁ~…?」
「なるほどー…?」
その会話を聞いていたマリーが目を見開き驚く。
「アル様……、それはエレナ様に教わったのでしょうか?」
(お?お母さんが何時になく驚いてる?こんなお母さんを見るのも珍しい…。)
「んーん?なんとなく?できるようになったから…、
もっとできるように、しゅぎょうしてたの。」
「そ、そうですか……。」
マリーは冷静を装い頷くが、マリーお母さんを間近で見てきた私には、
お母さんが余程慌ててる事に気付いている。
「クリス、アル様の傍に…。
私は用が出来たので、エレナ様にお会いして来るわ。」
「あ…はい、わかりました。」
そう言ってマリーが屋敷に向かうのを見送ったクリスは、
思わぬ所で二人きりになり緊張しながらもアルに尋ねる。
(落ち着けクリス、自然にさりげなく、余裕を持って、お姉さんアピールよ)
「ア…アル様、わた…私にも魔力操作の練習…、教えてくれますか…?」
「んー? いいよー、いっしょにやろうか。
ちょっと手を出して~。」
(噛んだ…、けど…、スルーしてくれるアル様やさしい…。
きゃ~、アル様の手が柔らけぇ……。)
馬鹿になってるクリスはアルの存在を全肯定である。
クリスと魔力操作の練習をする事になったアルは、
クリスと向かい合い差し出された両手を取り手を繋ぐ。
「じゃあ、いまからクリスに、まりょくをながすから、かんじてね。」
「は…はい!」
(緊張して声が上擦っちゃった…、手を握られたぐらいで私は処女かっ!
………、そう言えば処女だったわ…。)
そう心で自分に突っ込みを入れていると、アルの手から何かが自分の身体に流れ込むのが判る。
「………、どう…? なにか…、かんじる?」
「……んっ…は…はい! 手になにか…ぁっ…、暖かいのが…流れて…きました。」
(やだ何これ気持ち良いっ!
アル様に全身を弄られてる様な感じで、
ちょっと変な声出しちゃった……、恥ずかしい。)
「それがまりょくだよー。
じゃあ、それをじぶんのからだのなかで、さがしてみよう。」
(あぁん…、手が離れちゃった…。
………、イケない、いけない…、平常心…平常心…。)
クリスは目を閉じて集中する。
さっき感じたものを体の中で意識して探すが中々認識できない。
「………、………、ぁ…、 これ……、かな…?」
暫く粘り強く探すと、へその下辺りの内側、子宮の辺りで何かを感じた。
「みつけたら、それをからだのなかで、うごかしてみよう」
そう言われ意識を傾けるが、そう簡単に動いてはくれない。
動かす様に集中してる
向かい合わせのまま、お互い無言で暫くの時間を過ごす。
(これ…、難しい…、ん…あ…こう…かな? あっ!)
「………、 んっ……、ん…、………。
………、あっ! ………、うごきました!」
「もう、うごかせたの? くりすはすごいなー!
それをからだじゅうに、なんどもめぐらせるのが、
まりょくそうさのれんしゅうだよー」
「はい!わかりました!」
(アル様…、これを自分で見つけたの…? ちょっと凄すぎない…?)
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