私の理由
第9話 とある女性の初恋
私の名前はクリスティア。
この世界の私を知る人からはクリスと呼ばれている。
私には……、江藤 恵子と言う女の前世の記憶がある。
この世界とは違う世界の日本と言う国に生まれて育ち、そして、死んだ記憶がある。
私の……、前世での最期は、転落死だった。
前世での私の容姿は客観的に見てそこそこ良い方だったと思う。
比較的、大人しい性格とやや冷めた感性が原因なのか、
特に仲の良い友達も出来ず、クラスどころか、学年からも浮いていたのだと思う。
それを苦にもしていなかった私は、中学校の2年生になってしばらくした頃、
クラスメイトの男の子に告白された。
私のクラスにカーストなんて物があったのかも知らないけれど、
良く5~6人で談笑したりしている男女グループの男の子の一人だった。
男の子からの告白を断った辺りから、
その男の子を含むグループから嫌がらせを受ける様になった。
「あいつ、いつも一人だよな~。」
「あぁ、あいつか~…、顔はすげぇ好みなんだけどな~…。
〇〇達に目を付けられても嫌だから近寄りたくねーなぁ…。」
「噂で聞いたんだけど、頼めばヤらせてくれるらしいぜ?」
「バカ、そんなデマを真に受けてんじゃねーよ。」
「いや、でもさー…―――――」
突如始まった嫌がらせは、まるでウィルスの様に拡がって行き、
接点のないクラスメイトからの陰口や、避けられたりと言った事から、
悪意の在る噂の様な間接的な嫌がらせが学年中に浸透していく。
嫌がらせを受ける様になって暫くしたある日。
「オラァ!脱げよ! ほら早く! 手伝ってやっからよ!」
「嫌っ!? やめてっ!」
「キャハハッ! やめて~! だってぇ~ウケル~」
学校近くの公園の隅で男子に服を破られた私は抵抗するも、
2人の女子に野次を飛ばされ見られてる前で服を脱がされて、
3人の男の子に押し倒されて抑えつけられる。
「いやぁっ! お願いだからやめ――むぐっ!?」
手足での抵抗を抑えつけられ叫んだ時、男子の一人に手で口をふさがれる
「うるせーな…、叫ぶんじゃねーよ!」
「これを口に入れとけよ。」
そう言ってもう一人の男子に破られ脱がされた私の服を口に詰め込まれた。
「んーっ!う”ぅ~」
「くそっ!濡れてねぇからなかなか入んねぇなぁ…。」
抑えつけられたまま、無理矢理に足を拡げさせられ、
告白してきた男子がするッと足の間に入り込むと、硬くなった物を無理やり押し付けてくる。
「イシシッ!いーもんあげる! アニキの部屋から取ってきたヤツ~♪」
硬くなった物を無理矢理掻き分けている男子にそう言って、
女子の一人がボトル状の容器の先からドロリとした液体を私の股間に直接垂らす。
「ちょっ!?冷たっ! おっ…? 入った!ヌルヌルして気持ち~!!」
「イエーイっ!童貞卒業おめでとー! 処女喪失おめでとー!」
「レイプで処女無くすとかウケルんですけど~! キャハー♪」
「う”ぅ……」
その後、他の2人にも順番に犯された私は人目を避けて家に帰ると、
直ぐに破られて汚された制服を脱ぎゴミ袋に入れ、服を着替えて家を出ると、
自宅マンションの隣のマンションのゴミ集積所に捨てて家に戻る。
風呂場で、股間にシャワーを当てて中を掻き出す様に洗っていると涙が零れる
「ただ処女膜が破れただけ…、こんな事で……泣くな私…。」
洗っている最中に鏡に映る自分を見ると酷く惨めで情けなく思えて、
悔しくて涙を溢す自分を叱咤する。
忙しい両親に心配を掛ける事を恐れた私は、
事件を公にせず、事実を伏せて平穏を装って生活を続けた。
「んっ…ふっ… んっ…。」
「このマゾ女感じてんじゃないの~?
強引にされて感じてるとかマジでウケル~!」
「私は無理矢理とか無理だわー…。
はぁ…、あんたまだこの女の事好きなのー?」
「あぁ?もうこんな奴好きじゃねーよ。今はただ…、気持ち良いからなぁ!」
しかし、問題にならない事に味を占めたのか、
それ以降も度々呼び出されては、セックスを強要されていた。
我慢の限界だった私は中学の卒業間際に両親に告白して、
関西の高校への入学を機に家を出た。
今迄、両親に黙っていた事を悲しまれると同時に怒られたが、
幸いにも両親が学費や生活費を出してくれて、暫くは何事も無く生活をしていた。
それが崩れ始めたのは……、1人暮らしを始めてから、2年程経った頃だった。
関東に住んでいた両親が、
関西で一人暮らしをしている私に会う為に、車で高速道路を走っていた所、
高速道路を逆走してきた車と正面衝突して両親は死亡した。
母は即死し、父も搬送中の救急車の中で息を引き取ったそうだ。
祖父母も既に他界して居て、親類の居なかった私は天涯孤独となった。
賃貸マンションだった実家は引き払われ、少しの生命保険金と慰謝料は、
葬儀代等や知らない人からも支払いの催促があって、殆どのお金は残らなかった。
両親の勤めていた会社は、業務外の事故なので関係無いとの一点張りで、
相談にも乗って貰えず、相談する相手の居なかった私は状況に流され、
弁護士に言われるままにサインをして事後処理が終わり、
一人で生きていくことになった。
後で思うと、施設への入所などの手段もあったのかもしれない。
予備知識も準備も無く当事者として立たされて、
事務的で協力的ではない姿勢の弁護士を相手に、
ただの高校生が、最適な行動を取れと言うのは酷な話だろう。
その当時の私は、自分が悪かったんだと思う事で無理矢理納得させていた。
それからは……、アルバイトで生活費を賄っていたけどその生活は苦しかった。
高校生が出来るアルバイトで生活費と学費を賄うと言うのがそもそも厳しく、
学校に通いながらバイトの時間を増やす為に、
バイト先にお願いをして学校や世間には内緒で深夜まで働く様になった。
そして暫くしたある日…、アルバイト先の上司のおじさんに犯された。
「申し訳ない事をした。 これ慰謝料として受け取って欲しい…。
あと、今回の事は伏せて貰えると助かる。
世間に知られたら、君も色々大変な事になるだろうし、
いやなに、私は君の事を思って言ってる訳で…――――――」
「………、はい…。 暫く…お仕事は休みます…。」
その後に、自宅まで押しかけてきた上司からお詫びと言う名の口止め料を渡され、
アルバイトでの収入の約一ヵ月分に相当するお金を貰った。
お金の入った封筒を開けて、お金を机の上に拡げて眺めると、
特に何かを考えていたわけでは無かったはずだが、呟きが零れ出る。
「そっか……、お金って…、持ってる人は持ってるんだ……。」
その時に私の中での何かが壊れた気がする。
アルバイトを辞めて、男を喜ばせる手管を勉強し、演技を覚え、
慣れた手つきでスマホをタップして操作する。
【応援してくれる方 別3 ゴ有 アンダー 】
知らない男の人と会いセックスをしてお金を貰い、澄ました顔で学校に通う。
そんな生活を続けてるうちに少し生活に余裕が出てきた私は、
いつの間にかセックスを楽しむ様になりセックスの為に男に会い、
ついでにお金を貰う様になっていた。
それでも学業は疎かにせず、成績は平均より上を維持できる様に努力を続けた。
高校を卒業した後は、大学の学費は捻出できないと思い、
建設会社の事務として就職したが、
就職後も変わらず、知らない男とセックスしてお金を貰う生活をしていた。
ある時、1人の男と出会った。
その男は度々咳き込んでいたのが印象的な、
30半ばの男だったがお金が貰えるならとホテルに行った。
お金を普段の相場の3倍を払うから生でやらせて欲しいと言われて、
渋々ながらも了承する。
行為後に少し眠った後、目を覚ますと男はすでに姿を消していた。
ふと部屋の鏡を見るとそこには…、
『エイズの世界へようこそ!』
っと、私のポーチに入れていた口紅を使って大きく描かれていた。
それを見た私は思わず、男の名前(本名ではないと思う)を叫び、
発狂してホテルの備品に八つ当たりをした。
暫くして落ち着いた私は、病院に行き検査を受けた。
医者からは「大丈夫、陰性だ。」と言われたが念の為にと思い、
男性との性行為を辞めて生活を続けた。
2週間ぐらい経った頃に風邪の様な症状が出始め不安に思い、
再度、別の病院で検査を受けると、『あなたはHIVに感染しています』
っと、医者に診断書を見せられながら説明される。
HIVとは何かという説明から、精液、膣分泌液からの性行為による「粘膜感染」、傷口等からの「血液感染」等の、感染経路の説明、
直接どうこうはないが、免疫が低下して風邪や肺炎で重症化しやすいとか、
癌になり易いとか色々説明されるが、碌に頭に入ってこない。
何をどうしたかよく覚えていないままにアパートの部屋に戻り、
引き篭もる様になり暫く立ち直れなかった。
「………、私…、どこで…、間違えたのかな……?」
仕事を辞めて、毎日を過ごすが……、生きる事に疲れてしまっていた。
貯金を切り崩しながら数か月生活を続けていたが、体調もあまり良くない。
何となく家の近くにある人気の少ない公園のベンチに座っていると、
ある日曜日に、男性に声を掛けられた。
ナンパかと思い無視していたが、男性はベンチの隣に座り話を続けてきた。
チラリとその男性の顔を見ると、30代半ば頃に見えた。
特に返事を求められる様な話でもなく相槌を打つ事も無く聞いていたら、
「じゃあ帰るわ!」っと、言うので会釈だけすると本当に帰って行った。
ナンパでもなかったし、「なんだったんだろう?」っと思うが、
もう会う事もないだろうと思って居たら翌週もその男性はやって来た。
流石に来週から来なくなるだろうと、思って居ると翌週も来た。
そして更に翌週も……、なんだか変な人だなぁっと思って見ていたら眼が合った。
眼を逸らさず顔を見ていると、ニッコリ微笑んできた。
(………、黙ってると少し怖い顔だけれど、笑うと少し可愛い…。)
話をしてる時に一度、服を正すフリをしてノーブラの胸元を見せて様子を見たが、
急に首の体操をはじめたので驚いた。
(………、見ない様にしてくれたのかな?
この痩せ細った身体じゃ色気も何も無かったのかもしれないけれども……、
少しぐらい食いついた反応して欲しかったな…。)
ここ数年、身体目当てじゃない男性と、碌に会話をした記憶がない私は、
どう接すれば良いか判らなくなっていたが、
気が付くと私は、その男性との会話を求める様になっていた。
それからは殆ど毎週日曜日に、雨が降っていても、寒い日でも暑い日でも、
彼に会う為に公園を訪れる様になっていた。
彼は、アキと名乗り、私より遥かに年上で今年45歳だそうだ。
(見た目から30代の中頃かと思っていた…。
もしお父さんが生きて居たら、お父さんと同い年なのか…。)
一度話の流れで、お父さんと同い年と言う事を言ってしまい、
アキさんは笑顔のまま固まり、頬がヒクヒクしていた。
(誠に申し訳ございません。)
その後、会話の流れで、「娘みたいなもんだしな~。」っと言われた時は、
何故か無性にイラっとして、怒ってしまった。
言葉遣いが荒い所はあるし、無神経な所もあるけれど、色々気遣ってくれて、
22歳の私に対してもケイさんと呼び、とても丁寧に話してくれるし、
言葉じゃないアキさんの仕草の一つ一つが、性根の優しさが嬉しかった。
ここ数か月、身体の調子が段々酷くなって居る事を自覚しつつも、
アキさんに会う時だけ、景色に色が付く様な気持ちで満たされる。
気付かないうちに私は、アキさんと会える日曜日が待ち遠しくなっていた。
自分の身体は自分が良く判るとはよく言ったもので…、
私の身体はもうそんなに長くは持たないだろう…。
入院して、長い闘病生活を続ければ治るかもしれないけど、
私にはそんな治療費を払うことは出来ない。
公園で会って他愛のない話をして別れる…っと、いうだけの関係で、
これより先は望まない…、望んではいけない…。
日曜日、もはや習慣になって居たいつもの公園の、いつものベンチに座る。
アキさんが来るのを待ち遠しく思いつつ、時計代わりのスマホの時間表示を見る。
何時もなら既に来ている時間帯になってもアキさんはまだ居ない…。
とっくに、スマホの回線契約を解約していた私は、
タイムリーに連絡が取れないし、未だに住んでいる場所も連絡先も知らない。
用事があって来れない時は、いつも事前に、アキさんは教えてくれていた…。
先週別れる時も「また来週」っと言っていたはず…。
結局、お昼まで待ったが、アキは現れずに帰路に就く。
妙な胸騒ぎに駆られて、気怠い体に鞭を打ち、急ぎ足で家に帰ると、
暫く付けていなかったテレビを付ける。
丁度ニュース番組が始まった所の様で、その冒頭のテロップが目に入る。
『◯/△ 土曜日 □□で建設中の高層ビル 男性作業員(45) 墜落死』
「………、え……?」
(まさか…、アキさんじゃないよね…?)
頭を振り、そんなはずが無いと自分に言い聞かせてると、
ニュースキャスターの声が耳に入る。
「次のニュースです。
昨日正午過ぎ、〇〇にある工事中の高層ビルから、
男性作業員が墜落し、搬送先の病院で死亡が確認されました。
死亡したのは、
建設会社の(株)◯興業の従業員で、現場主任をしていた吉岡 秋(45)、
建設中の高層ビル約120mから墜落し、ほぼ即死だったとの事です。
尚、吉岡さんの親族は―――」
「………、うそ……。」
画面に映る現場の映像を見て思わず言葉が漏れた。
アキさんから話にだけ聞いていた。
アキさんが今関わっていると言う工事現場の場所、その仕事の内容。
「よし…おか……、アキ……。」
その名前を呟いた時、何故かは分からないが、
事故死したのはアキさんなのだと理解してしまった。
理解した瞬間、自然と涙が溢れて来た。
「そん…な…、そんなはず…ない…。」
無理矢理に言葉にして自分に言い聞かせようとするが、
到底自分を騙せるモノではなく、更に涙が溢れテレビの画面が滲む。
そして、アキさんに―――、吉岡 秋に、
初恋をしていた事を…、今更に…、自覚した。
「う……、あ……ぁ、あぁ……、あああああああああああっ!!」
それからしばらく、彼女の慟哭だけが部屋に響き渡るのだった。
―――――
「………、せめて…、葬儀にだけでも…」
慣れない叫び声を出した為か、掠れていた声でそう呟くと、
会社名を頼りに連絡先を調べ、
身寄りのないアキさんの葬儀を会社で行うことを知り、参列を告げる。
高校生の頃に買った喪服が今の痩せ細った身体でも着れたので、
それを着てアパートの玄関の扉を開く。
振り返ると、昔に読んで本棚で埃をかぶっていた小説の背表紙に書いてある、
『異世界転生』と言う文字だけがやけに目に付いた。
「ふふ…、異世界に転生してアキさんと一緒になれたらな…、なんて…。」
そんな事が在るわけないと思い緩やかに首を振りつつ、
そうなったら良いな…と、薄く笑みを浮かべてアパートの廊下を歩くと
既に解約して回線の無いはずのスマホがメールの受信を知らせる。
「ん? メーっ!?、ごほっ……!?」
1階に降りる階段の手前でスマホを取り出したその時、急に咳き込み、
咄嗟に口を押えたスマホを握ったままの手を見ると、
付着した血液で真っ赤に染まっていた…。
「え……。」
突然の吐血に、理解が追いつかない声が漏れ、
急速に全身から力が抜けていくのを感じた瞬間、
視界が傾き、足元から崩れた私は、倒れ込んで行き階段から転落した。
(せめ…て……、葬…ぎ…に……。)
そう強く願う事も出来ずに、私の意識は落ちて行った……。
握ったままの血糊の付着したスマホの画面には、
メールのポップアップで『宜しい』とだけ、表示されていて…消えた。
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