第8話 それぞれの想い。



3日ほど練習すると、すっかり初級には慣れてきていた。


クリスと交互に魔法を放っていたが、クリスは少し休憩する様で、

横で見ててもらいながら練習を続ける。


(魔法書の通りに詠唱すると、込める魔力量によって威力は変わるけど、

固定された形になるようだな。

ただ…、詠唱って…、なんか厨二チックで、ムズムズするんだよなぁ…。

せめて短く出来ないかな……?)


「水よ…、…ウォーターボール」


掌に集まった魔力が、水の球になり、手から放たれるが、

フワフワと2m程飛ぶと、地面に落ちてパシャっと弾けた。


(発動に時間が掛かるのと……、圧縮されてない…。

それにろくに飛ばなかったな…。それなら……。)


「我が敵を穿て。…ウォーターボール!」

今度は15cm程度の水球が10cm程度に圧縮され、真っ直ぐ飛んで行き、杭を少し揺らして弾けた。


(今度は形にはなったけど、 ……少し威力が弱いのかな?

……次は声に出さずに唱えて見るか。)


そう思い、無言で構える。


(水よ、我が敵を穿て、ウォーターボール!)


詠唱した時と同様の水球が、今度は杭の10cm程横に着弾して弾けた。


(うーん……。)


「水よ、我が敵を穿て、ウォーターボール!」


アルの声と同時に、水球が現れ、杭を揺らして消える。


「………、ちょっと恥ずかしいだけで、

声に出さないで、頭の中だけで言う意味は殆どないな。」


(ウォーターボールの動作の流れを全部イメージして、再現は出来るのかな?)


そう思い、掌を前に出して構え、魔力を集める。


(水球の大きさは、30cmぐらいのを創り出し…、……ぐっと圧縮して。)


そこまで思った瞬間、

水球が上下から潰され周囲から噴き出す様にように飛び散り消えた。


(なるほど……、

上下から圧縮する様に、考えてしまったのがダメだったのかな?

………、ならば…。)


同じように水球を創り出し、今度は全方位から力を加えるように圧縮して行き、

20cm程度の圧縮水球を創り出す事に成功する。


(弾速は……、詠唱したのが80kmぐらいだったから少し早くして……、

バッティングセンターの……120kmぐらい…? それで…、 撃つっ!)


詳細にイメージを固めて行き、創り出した水球を発射する。


詠唱した水球よりもより速い速度で、杭に向かって飛んで行き、

杭のすぐ横を通り抜け、後ろの地面を少し抉りながら着弾して弾けた。


(なるほど……、狙いが甘かったから外れたけど……、

詳細にイメージが固まってると、無詠唱でも発動出来るんだな。

確かに慣れる前だと、いつ暴発してもおかしくないな……。

そりゃエレナ母様もご立腹するよ…。 ごめんなさい。)


過去の失態を思い出し内心で謝る。


(しかし、イメージと込める魔力次第で、弾速や球のサイズも変えれるのか。)


目の前で水球を浮かべて観察する。


(………、他の魔法も詠唱で練習してイメージを固めて…、

イメージがしっかりしたら無詠唱で出来そうだな。)


地属性の、ストーンバレット、風属性のウインドボールも

詠唱して発動し、イメージを固めていく。


(ストーンバレットは石投げ、ウインドボールは空気弾か。

光の初級はライトアロー…、光の矢というか…、大きい棘みたいな感じか…。)


アルは黙々と詠唱してイメージを固めながら魔法を発動していく。


魔法を連発していると、

隣で見ていたクリスが、心配そうに近づいてきた。


「ねぇ……、少し休憩しましょう…?お水持ってくるわ。」


そう言って、クリスは屋敷に小走りで入って行った。


(そう言えば…、気付けば結構長い時間やってたな…。)


魔力が、結構減ってることに気付き、身体の各所をほぐす様に動かしていると、

クリスが、水差しとコップを持って戻ってきた。


「はい、お水よ。」


水を入れたコップを手渡してくれる。


「ありがとう」


受け取り礼を言うと、やはり喉が渇いていたようで、

早速一口飲むと、残りを一気に飲み干す。


「ふぅ……。」


身体に水分が染み渡る感覚を感じながら息を吐くと、

同じコップに水を入れなおし、ゆっくりと飲んでいたクリスに、

思い出したことを言う。


「そう言えば……。

魔法書を見て知ったけど、光の生活魔法は、

ライトの他にクリーンがあるんだよな。 

クリスに使って見ても良い?」


「えぇ…、良いわよ…。」


クリスの声のトーンが少し下がって居た気がしたが、

許可が出たので、隣で座っている、クリスに手を向けて、クリーンを使ってみる。


「クリーン」


すると、クリスの体が一瞬白く淡い光に包まれ、服が綺麗になった気がする。


クリスが服を確認する様に手で払うとフワリと粉が舞う。

クリスが目を丸くして、立ち上がり服を払い確認して驚いていた。


「驚いたわ…。朝に付いた料理の染みも綺麗になってる……。凄いわね…。」


「お…、おおう…、クリーンさん優秀じゃね? 

粉が出るって事は、汚れを浮かせて粒子状にしてるのかな…?

じゃあ……、これで……、ブリーズ」


クリスに向ってブリーズを唱えると、手からそよ風が出て、

メイド服に付いていた、粒子状の汚れが飛んでいくと、

クリスの顔が少し赤くなっていた。


その時、横から自然の風が吹きフワリとスカートが浮き、

ブリーズの風でさらに捲れてクリスのパンティーが見える。 白っ!


「ちょ、ちょっとっ! 何してるのよ……! 見えた……?」


慌ててスカートを抑えて、更に顔を赤く染め少し睨む様に見てくる。


「ご、ごめん…、見えた……、

汚れを飛ばそうと思ったんだけど…、悪い風も居たもんだなー…ハハハ。


………、ありがとうございましたぁっ!」


「もう……、アルのえっち…。」


クリスは赤らんだ頬を膨らまして、怒ってますアピールをする。


そんなクリスにアルは、笑いながら謝り、話をすり替える様にして、

ちょっと体を動かそうかと、木剣を持ってきて、二人で打ち合い―――、


クリスにボコボコにされて、今日の訓練は終了した…。




―――――




暫くしたある日の朝、

クリスは突然、今まで伸ばしていたセミロングの綺麗な黒髪を切り、

ボブカットになって居た事でアルを驚かせた。



―――――



――― side クリス ―――


それからも2人は、仲良く剣と魔法の訓練を続け、仲良く遊び、

アルが8歳になった翌日の事。


私はは、アルの母エレナ様と母のマリーお母さんに呼び出されて、

エレナ様の私室に一人で来ていた。


「クリス、貴方は11歳、アルはもう8歳になったわね。」


「はい。」


机の上の本を指でなぞりつつ言うエレナ様の発言に、

私は真剣な表情で頷き答える。


「アルは10歳になれば…、 おそらく冒険者になると思うわ。

そうなると……、家にいる事は、少なくなると思うの。」


そこでエレナは言葉を切ると、私を見る。


「私としてはクリス…、 

貴方には、屋敷の外でもアルと一緒に居て欲しいと思ってるわ。」


そこで母のマリーが言葉を繋ぐ。


「クリス、断っても構わないのよ…。 貴方はどうしたい?」


「それは…、アル様の冒険者としての活動にも付いて行って良い…。

と……、言う事ですか?」


2人が言いたい事を確認する様な私の問いに、

頷きながらエレナ様は少し躊躇いながらも答える。


「そう…ね…。

付いて行っても良い…っというか付いて行って欲しいと…、

アルに同行して貰えないかと…私がマリーにお願いしたのよ。


ただ…、これは専属としても、メイドの業務の範疇を大きく越えることになる…、

だから…、仕事という理由だけアルに従うのは難しいと思うわ。


それでマリーと相談して、クリスの意思に委ねようと決めたの。」


「だから…、クリスの気が進まないのであれば、断って構わないのですよ。」


マリーは優しく微笑みながらそう言った。


「私は…、アル様をお慕いしています。

許して頂けるなら…、アル様と一緒に行きたいです。

何処までも…。」


自分の想いを再確認する様に眼を閉じて胸に手を当てた私は、

エレナ様の眼を真っ直ぐに見て返事をする。


「そう…。私は……、クリスの事も娘の様に思っているのよ。

だから貴方の意思も尊重したかった…。


クリスが…、アルの傍に居てくれるなら、私達も安心出来るわ。」


そう言って笑ったエレナ様は、立ち上がり居住いを正す。

その仕草を見て、私も背筋が伸びる。


「クリスティア、本日をもって、

貴女をアルヴィス・アイゼンブルグの専属に任命します。」


エレナ様はそう宣言すると、近寄り、私の手を取り両手で包み込み、

願う様な表情で口を開く。


「………、アルをお願いね。」


「はいっ、ありがとうございます。」



エレナ様の手に更に手を重ねて、私は暫く頭を下げ続けた。


「エレナ様…、一つだけ…、お伺いしたい事があります。」


「あら?どうしたの?」


頭を上げた私は、先ほど宣言して置いて、申し訳無い気持ちがあるが、

エレナの軽い返事にクリスは不安気に言う。


「その…アル様は…、 私の同行を許可してくれるでしょうか…?」


「なんだ…、そんな事ね…、付いて行くのよ。


そこにアルの意思は関係無いわ。文句なんて言わせない。


………、それにね…、私の見立てだと…、アルが断る事は無いわ。」


エレナは私の肩に手を置き、ウィンクしながら言う。


「………、はいっ!」


私はエレナ様の美しく可愛いウィンクに顔を赤くしながらも、

元気よく返事をした。



暫く、エレナの私室では、3人の楽しそうな声が途絶えなかった。





―――――



「そうか、判った

これからも宜しく頼むよ、クリス。」


クリスが専属メイドになった事を知ったアルは、

クールな態度を装い、淡白に返事を返すが、

内心では、紙吹雪をバラ撒いて踊り出しそうなぐらいに喜んでいた。


(クリスが俺の専属メイドか…。…メイドさんとの…、エッチな情事…。)


そして態度に反して、そんな事を想像して、知らず顔がニヤニヤと緩んでいた。


「アル…?、………、何をニヤニヤしてるの?

その顔…気持ち悪いわよ…。」


隣にいるクリスが、アルにジト目を向けながら聞いてくる。

ハッと我に返ると、クリスに向き直り、真面目な顔を作る。


「いや、クリスが専属になってくれて嬉しかったんだよ。」


そう言うと、クリスは頬を赤くして顔を綻ばせていた。


「アル…、私もアルに付けて嬉しいわ。 ありがとう。」


クリスは喜びの溢れた笑顔を浮かべると、アルに抱きついていた。


(柔らかい…、いい匂いがする…。)


そんな事を考え、アルもクリスを抱きしめ返し、だんだん育ってきた胸を揉んだ。


(うーん、Bカップぐらいかなぁ。良きかな良きかな。)


「んっ…、アルったら…、また…。 エッチなんだから。」


暫くイチャイチャした後、

二人は体を動かそうと、庭に出て訓練をして―― 


クリスにボコボコにされていた。



―――――



アルは、昼ごはんを食べて、部屋で魔法書を読み勉強をしていた。

すると、エレナが部屋に入って来た。


「どう? 魔法は使いこなせる様になった?」


エレナの言葉に、本を読みながら考える。


「使いこなす。っと、言えるかは判らないけど、

初級ならそれなりに…、やれる様になったと思いますよ。」


割と自信の有りそうなアルの返事に興味が湧いたエレナは、

薄ピンクの色っぽい唇の端を吊り上げて挑発する様に笑う。


「へぇ…、ちょっと……、やってみてくれる?」


「っ!?………、良いですよ。 では…、庭に行きましょう。」

(うわっ、今の母さんの表情、ドキッっとしたぁ…)


別の意味でドキドキしていたアルは、エレナと一緒に部屋を出て、庭に向かった。



――――



庭に出て、杭の刺さっている訓練場に来た。


「コホンッ…、では…、始めますね。 まずは…、水から。」


軽く咳払いをして気持ちを切り替えたアルは、

手を翳して、無詠唱で水球を空中に浮かべて見せた。


「っ!?」


それを見たエレナは眼を見開き驚く。

エレナの反応を他所に、翳した掌の先で創り出した水球を圧縮すると、

軽く腕を振るい、杭に向って撃ち込むと射出された水球は杭に命中して弾けた。


(うん…、イメージ通りの弾速になったな…。)


そう思い、もう3発程、同じ様に撃ってみたが、問題なくできた。

その様子を見ていたエレナが、アルを手で制して一度止めさせる。


「………、とりあえず初級は…、 ある意味問題だけど…、まぁ良いわね。

初級とはいえ…、まさかもう無詠唱で放てるようになってるとは思わなかったわ。」


「詠唱すると、固定の現象を引き出せますけど、

無詠唱はイメージさえできれば、色々変化を付けられるんですよね。

例えば……、こんな風に…。」


そう言って、アルは右手を払う様に振るうと、周囲に4つの水球を創り出した。

それぞれを圧縮し、杭に向って順に撃ち込む。


圧縮された水球は杭に連続で命中して揺らし、周囲に水を撒き散らしながら弾けた。


(よし! イメージに問題は無さそうだ。)


アルの魔法発動を真剣な表情で観察していたエレナは、

口元に手を当て、自分の中で理解するように呟く。


「………、なるほど…、

イメージと魔力操作次第で…、ある程度の改変に融通が利くのね…。」


「はい、これも練習してきたんですよ。」


そう言って、次はストーンバレットの石礫を4つ創り出し、杭に撃ち込む。

その様子を見ていたエレナは真剣な顔で言う。


「アル……、今はまだ…、人前で初級以上の魔法を無詠唱で使うのは…、

いえ、出来るだけ初級魔法も無詠唱は止めておきなさい。」


その言葉に驚いたアルの、それでも続きを聞く様子を見て、

エレナは続けて言う。


「他所の国迄は詳しくは判らないけれど、

この国では上位の魔法使いが、無詠唱で使う事自体は、無い訳ではないのだけれど、

それは初級魔法に限った話で、中級、上級は、せいぜいが短縮詠唱、


アルも今はまだ初級だけれど…、中級も…、覚えれば上級も…、

無詠唱で出来る様にするのでしょう?」


その言葉にアルは無言で頷く。


「だから、無詠唱で魔法を使っている事が判れば、アルは国や様々な所に…、

目を付けられたり狙われたりする可能性もあるわ…、色んな意味でね…。」


(うわ…、それは色々と面倒そう…。)


そこまで聞かされて、アルは思い出す。

現状は無詠唱の使い手がほぼ居ないとされて居る事を。

嫌なイメージだけが膨らんだアルは頬をヒク付かせながら返事する。


「わかりました…。では当分の間は秘密ですね。」


「そうした方が良いわね。

少なくとも、アルとクリスがもっと大きくなってからの方が良いわね。」


アルがそう言うと、エレナは頷いて同意した。


「魔法名だけ口に出して、短縮詠唱してますよって方針ではどうでしょうか?」


「んー、………、限り無く黒に近いけどグレー…って、感じね。

まぁ…、それなら色々、言い訳も出来るでしょう…。」


誤魔化す方法を、アレコレ考えた後、ふと気になりエレナに問う。


「そう言えば母様、氷魔法は…水属性の派生って認識で良いんですか?」


「え? えぇ…、そうよ?

水の派生だけど、研究者の間では、風の適正も必要だとか言われてるわね。

普通は氷魔法の魔法書で詠唱を覚えて使うわ。」


「なるほど…」


エレナが答えると、アルは考え込む様に、黙り込んだと思うと、ぶつぶつ呟き出す。


「水を氷に…、 冷たく…、 更に冷たく…、冷やす…。」

(水の温度を風で奪うイメージ…。)


水球を創り出し、掌の上に浮かべ、じっと見つめて更に呟く。

その様子をエレナは心配そうに見ていたが、堪らず声を掛ける。


「ア、アル…?っ!?」


その直後、水球がパキパキと音を立てて凍り始めた。

それを見たエレナは眼を見開き言葉が止まる。


「ふぅ…、なんとか出来ましたね……。

だけど水から凍らせるのは、魔力の消費がキツい感じなので…、

最初から氷を出せる様に練習ですね。」


「え…、えぇ…、そ…そうね…。」


(うちの子…、ちょっと凄いかもしれない…。)


呆然としたエレナはそう返事すると称賛半分と呆れ半分でアルを見るのだった。




―――――




練習を終えたアルが、屋敷に戻っていった後も、エレナはその場に残っていた。

アルとの訓練で思った事を纏める様に、腕を組み口元に手を当てて佇む。

そして顔を上げると誰も居なくなった訓練所で声を出す。


「マリー……、居るかしら…。」


「はい…、こちらに…。」


「さっきのアルを……、見てたかしら?」


「はい、それは勿論。」


「そう…。 魔力操作……、私達も訓練するわよ。

今迄、御座なりにしていたけれど、アルの理屈だと、魔力操作の熟練度次第で、

身体強化も魔法の精度も威力も跳ね上がるはずだわ。」


「………、あの子の見た悪夢…。

あれを…、変えられる可能性をみた…。 

と…、言う事ですね。」


「………、そう言う事よ…。

私達が今するべき事は、現役当時以上に腕を上げることよ。」


「畏まりました。」



――――――




その後も訓練を続け、

10歳になったアルと13歳になったクリスは、互いに切磋琢磨し合い、

アルは魔法が、クリスは剣術体術が素晴らしい成長を遂げていた。


その半面……、比較対象がお互いの為に、

アルは剣術や体術が、クリスは魔法が、年齢の割に良い能力を持ちながらも、

お互いにそれぞれ苦手意識が植え付けられてしまっていた。

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