第7話 身体強化と魔法
それからも毎日メニューをこなし、1か月ほど経ったある日、
エレナがマリーと一緒に昼食後の訓練にやってきた。
そしてエレナが説明を始める。
「今日は、身体強化を教えるわ。
そしてこれからの訓練は、身体強化を併用しながらやる事。良いわね?」
「はい、奥様。」
マリーがそう返事をしているが、アルは良く解らず首を傾げる。
そんな様子に気が付いたエレナが言う。
「身体強化はね、魔力で身体能力を強化するのよ。
ただ、これは元々持っている身体能力の強化だから、訓練すれば効果は上がるわね。
あと、身体強化を持続させるのに、魔力を使用し続けるからすごく疲れるわよ。」
そう言って、エレナが全員から距離を置き続けて言う。
「まずは、私が手本を見せるから、良く見ておきなさい。
『我が身に纏いて顕現せよ。フィジカルエンチャント』。」
自然体で立つと、エレナの全身に魔力が浸透する様に広がって行く。
詠唱が終わるとエレナを包む魔力が薄黄色の光で一瞬明滅する。
「魔力を体に纏うイメージで、全身に行き渡らせるのよ。
慣れないうちは詠唱をしなさいね。そして…、それを維持したまま…。」
そう言葉を切り、走り始めたエレナは、徐々にスピードを上げて行く。
エレナは、更に速度を上げていくと、
そのままジャンプして、空中で一回転して、着地した。
エレナは纏っていた魔力を霧散させると同時に、小さく息を吐く。
「ふぅ…。」
「「おぉ~」」
俺とクリスは、声を揃え、拍手をする。
「こんな感じね…。 魔力を全身に纏って、身体能力を強化したのよ。
他にも…、腕力だけや、脚力だけを限定して部分強化するのもあるけど…、
いきなり部分強化は、失敗するとその部分が潰れたり、
強化したところ以外が潰されたりするから、
まずは基本の全身を、詠唱してしっかり習熟する事。良いわね?」
「「はい。」」
そう言って、エレナはマリーと一緒に円の中に入り、
エレナは再び魔力を全身に纏い強化する。
「貴方達がやってた訓練を、身体強化を発動してやるとこんな感じよ。」
そう言って、エレナとマリーは押し合いを始めた。
……のだが、二人は目で追うだけでも困難なスピードで、
まるで組手の様に、相手を押し、躱し、払い続ける。
(って、ちょっと待て、マリーさん身体強化してないぞ!)
「はい…、奥様の勝ちです…。」
エレナとマリーは、最後にお互いの両手を掴み押し合いをしていたが、
先に力を抜いたのはマリーだった。
内心で突っ込みを入れている間に勝敗が決していた様で、
見れば…、マリーの左足が、円の外に一歩出ていた。
マリーは一息吐くと口を開く。
「身体強化を使った場合は、
魔力消費が激しいので、長時間維持するのは難しいのです。
ですが、結果は見ての通りで前衛後衛関係なく、
習熟するのが理想ですよ。」
それを引き継ぐように、エレナが言う。
「使用する魔力を増やすと、身体強化幅もあがるけど、消費も早くなるのよ。
あと、無理をして強化すると体にも負担が大きくなるわ。
使用後に酷い筋肉痛になったりと色々と反動が大きいから、
まずは、無理をしない程度に身体強化を維持できるラインを探し、
それを直ぐ出来る様に反復する事。」
切り替えを促すようにマリーがパンパンと手を叩き言う。
「それでは、柔軟をした後に、身体強化を使用しましょう。
使用する感覚を掴んだら、そのまま走り込みです。」
マリーがそう言うと、アルとクリスは柔軟を始めた。
魔力操作は毎日やっていたので、身体強化は二人とも直ぐに出来た。
「怪我には気を付けるのよ?」
身体強化を見届けたエレナはそう言い残して、屋敷に戻って行った。
アルとクリスは、身体強化を使用した訓練を始める。
が、身体強化をしたままの、走り込みや押し合いは想像以上に厳しかった。
「はぁ…はぁ…」「はぁ…ぜぇ…」
「はい! そこまでです。」
そうマリーに言われて、二人共へたり込んでしまう。
「魔力の消費が激しいので、無理をしないようにしてください。」
そう言ってマリーはスタスタと屋敷に戻っていく。
「はぁ…、流石のクリスも…、はぁ…この訓練は…きつかったか…。」
「それは…そうよ…、 ふぅ…でも…、充実してきてる気がするわね」
お互いに互いを見て笑うと、二人は体を引きずるように、屋敷に戻って行った。
―――
そんな日々が続き…、―――半年後―――。
2人は、身体強化を使用した状態で、訓練を消化出来る様になっていた。
3か月程前からは、押し合いから組手に変更して、訓練を続けていた。
因みに、勝率は2:8で、大体はクリスの勝ちである。
そして今日から、木剣を使った訓練をするようだ。
「今日から、木剣を使用しての訓練をします。
走り込みも、木剣を持ったまま行いますのでそのつもりで。
木剣とは言え、武器を使用しての訓練になりますので、気を引き締めてください。」
マリーがそう言うと、クリスは木剣を手にして素振りを始めた。
アルも、見よう見真似で振ってみる。
(………、思っていたより重いな…。)
そんな感想を思っていると、マリーの手が背後から添えられる。
「もっと腋を締めて両手で持ち、一振り一振りを、丁寧にやりましょう。」
そう言ってアルの身体を矯正しながらゆっくりと動かして行くマリーの豊満な胸がアルの後頭部に押し付けられて、アルの意識はそちらに集中してしまう。
(あ…、この包まれるような感覚は…、まさかマリーさんの……。)
「……、アル様? 集中出来て居ませんね?
もう一度ゆっくりと動かして下さい。
クリス、貴方も体の動きが乱れていますよ。」
そう言って離れていく感触を惜しみつつ、
言われたことを思い出しながら、
アルは素振りをやり直す。
(これ……、すごく疲れるな…。)
そう思いながらも、一生懸命素振りを続けた。
―――――
そんな日々が続き、木剣を使った訓練を毎日欠かさず行っていたある日。
「そろそろ木剣を使った模擬戦をしてみましょうか」
お母さんの提案で、私達は初めての木剣を使った模擬戦をする事になった。
「それでは、今日の訓練は模擬戦をして終わりにしましょう。」
マリーの言葉に、アルとクリスは木剣を手にして構える。
お互い見合って…、 そして……、
2人が飛び出したのはほぼ同時だった。
アルは、クリスの間合いを潰すように、
剣先が届く範囲へ踏み込みながら左から右への横薙ぎに一閃する!
「甘いわよ…、フッ!」
クリスは小さく呟くと、アルの横薙ぎの一閃に剣先を、
斜め下に向けた剣の腹で受け滑らし、身を低くして、上に逸らすよう跳ね上げると、
剣を振り抜かされたアルの腕は右上に上がり、軽く息を吐いたクリスは、
がら空きになったアルの胴に、スパンッ!と軽く振り抜く。
「うぐぅ…っ…。」
綺麗に胴で受ける事になったアルは、衝撃で横に仰け反り尻もちをついてしまう。
「はい!そこまで!」
マリーの声で模擬戦が終わる。
クリスは呼吸も乱さず立ち、アルは荒い息を吐いて座り込んでいた…。
そんな二人を見て、マリーは言う。
「初めてにしては、二人とも良い動きでしたが…、
アル様は…、また動きが単調になってましたね…。
クリスはまだ余裕が有りそうね? 剣の扱いが上手くなってきたわ。」
続けてマリーがそう言うと、クリスは褒められて笑顔を見せる。
「2人ともよく頑張っています。 これからも訓練を怠らずに頑張りましょう。」
そう言って、マリーはスタスタと屋敷に戻っていく。
そんなマリーの言葉を聞いた、アルは…。
(あれで手加減してるなら…、本気を出したらどうなるんだ…。
もしかして今までの組手の俺の勝ちも、クリスに手加減されてた……?)
軽く回想して力量差に絶望し落ち込んでいると、
クリスに引っ張られて風呂に連れていかれ汗を流した。
――――――
エレナは2人の模擬戦を屋敷の2階の部屋の窓から見ていた。
(アルは…剣の扱いは悪くは無いけど…、動きが判り易いわね…。
魔力操作と魔力量だけを見ると神童かと思えるけど…、少し安心したわ…。)
子供らしい一面を見つつ、ホッと息を吐くと、思考を切り替える。
(クリスは…、魔力関係はアルに及ばないまでも、一般的には飛びぬけて優秀、
そして剣の扱いは…、私では既に、相手にならないかもしれないわね…。)
アルとクリスの才能に、少し嫉妬しながらも二人への期待を膨らませていた。
そんな二人を見守る様に、緩やかな風が庭を通り抜けた。
――――――
名前:アルヴィス・アイゼンブルグ
種族:人族 (男)
★スキル
技能スキル
剣術Lv1 棒術Lv1 操糸術Lv2
魔法スキル
水魔法Lv4 風魔法Lv2 土魔法Lv3 光魔法Lv3
特殊スキル
魔力視
(Lock)
アイテムボックス 鑑定 魔力注入
補助スキル
器用さUP 体力UP 魔力UP 魔力操作 魔力回復向上
ステータス隠蔽(隠蔽済み)
異世界言語理解(隠蔽済み)
(Lock)
精力UP
固有スキル
(Lock)
??召喚
★称号
創造神パン・ドゥーラの加護(隠蔽済み) ??神の加護(隠蔽済み)
――――――
(いつの間にか剣術スキルも生えていたけど、判断力がダメなのか、
クリスに勝てる気がしない…、……もっと俺も頑張らないとな…。)
そう思い、クリスの動きを思い出しながら素振りを始める。
「力み過ぎです!もっとしなやかに!」
マリーにそう言われるが、なかなか上手くできない…。
(器用さUPの補正込みでこれですか……、俺…。)
―――――
正面に構えた剣を、走り出すと同時に、
腕を引き絞り、走る勢いを載せて突きを繰り出す。
「おりゃっ!」
「アル様、動きがまた判り易くなってるわよ!」
「ぐふっ!」
突きで伸びた腕を掻い潜り、クリスが腹に横薙ぎの一撃を振り抜く。
偶に模擬戦をして、クリスにボコボコにされながら、
日々を過ごして行き2年程経ったある日。
アルは7歳になり、エレナと共に魂の選別の為に教会に向かっていた。
10歳になったクリスも同行している。
ステータスで既に魔法を4種取得しているので、適正については問題は無いが、
行事を飛ばすわけにもいかない為、大人しくしている。
馬車から、最初の十字路の人の賑わいに興味を惹かれつつ、
ふと思った事を口にする。
「クリスは3属性あったんだよね?」
「そうね、火と風と闇。まだ殆ど使えてないけれど…」
「クリスなら、そのうち上手くやれるさ。
そう言えば…、属性ってどうやって調べるんだろう?」
雑に答えたアルが、更に疑問を口にすると、エレナが答えてくれる。
「判別用の水晶に魔力を通すと、いろんな色の光を放って、
それを神父様が読み取って教えてくれるのよ。」
そんな話をしていると、馬車は教会に到着した。
(正直、馬車に乗るほどの距離でも無かったが…、
貴族の…、ましてや領主の行事的に、建前が必要なのかな…。)
中に入ると礼拝堂になっており、祭壇には大きな水晶が飾られていた。
「ようこそ、お越しくださいました。」
そう言って、神父が頭を下げると、3人とも頭を下げた。
エレナ母さんと、神父が軽く会話をした後、
神父は祭壇にある水晶の方に向かい、エレナはこちらに戻ってきた。
「さぁアル、いってらっしゃい。」
エレナに背を押されて前に出ると、神父はアルに水晶の前へ来るよう促す。
クリスとエレナは一緒に祭壇の手前で待つ様だ。
アルは祭壇に上がり神父の対面に立ち、神父の手振りのままに水晶に手を置く。
すると少しずつ輝き始めたと思うと、突然ぶわっと色んな色が一気に広がった。
神父は驚愕の表情を浮かべつつ一つ一つ丁寧に確認していく。
「こ、これは…、水…、土に…、風…、………それに光も!?
まだ何かあるようにも見えますが…、これは……、判りませんな…。」
そう呟くと、両手を広げ万歳して誤魔化す様に言う。
「とにかく…、これは素晴らしい!4属性をお持ちとは、将来が楽しみですなぁ」
判らない物は無かった事にした神父がそう言うと、
一礼をしたアルは、祭壇を下りていく。
「アル、凄いじゃない!」 「流石ですね。」
そう言って、エレナは嬉しそうにアルを抱きしめて笑った。
―――――
屋敷に帰ってから、アルとクリスの二人はさっそく魔法を教えてもらおうと、
帰りの馬車の中でエレナにお願いしていた。
「まず、アルの属性は、水、土、風、光、 クリスの属性は、火、風、闇。」
教会で教えてもらった事を、確認する様に話すエレナに、二人は頷く。
「後で各属性の魔法書を渡すから、今日はそれを読んでおきなさい。
2人とも、屋敷の中では絶対に練習しちゃダメよ?」
屋敷に到着するとエレナは屋敷に入って行き、アル達も続いた。
――――
翌朝、朝食を済ませた後の時間、場所はアルの部屋。
エレナは前日に渡しておいた魔法書を読んだ事を確認してから、
練習について話し始めた。
「魔法書に書いてある事は大体が、攻撃魔法、もしくは補助魔法が多いのよ。
だから練習する時は、外に出て必ず周囲に人が居ない事を確認して、
二人でお互いに安全を確認しながらやる事。
良いわね?」
エレナは二人の顔を見て、確認を取りながらも説明を続ける。
「適正じゃない属性魔法でも使おうと思えば使えるけど、魔力の消費が多かったり、目に見えて効果が落ちたりと良いことはないわね。
ただ初級魔法程度なら、誤差の範囲だから、適正外を覚えてる人も居るわね。」
「「判りました。」」
2人は頷くと、お礼を言ってから、早速練習する為に外へ出て行った。
――――
「あの杭を的にして、魔法を練習しなさい。
魔法抵抗を上げた素材の杭だから、
初級魔法なら、余程の事が無い限りは壊れないわよ。」
屋敷の庭の、訓練場にしている広場に移動して、
広場の隅の地面に打ち込んで有る杭を指差してエレナが言う。
エレナ母さんとクリスが見守る中、
アルは魔法書に書いてあった、初級の水弾の攻撃魔法を試してみる事にした。
杭に向けて、右掌を向けて構え、魔力を集めていく。
「水よ…、我が敵を穿て…、ウォーターボールッ!」
掌に前に、30㎝程度の水球が生成され、直後に圧縮された様に20cm程度になると、杭に向って一直線に飛んで行き命中してドンっと音と共に、杭を揺らして弾けた。
(うん、威力は…、まぁそれなりかな?)
次にクリスが隣で構える。
同じ杭に向って、初級の火弾を打ち込む。
「炎よ…、我が敵を穿て…、ファイアボールッ!」
すると、現出した20cm程度の火の玉が圧縮された様に15cm程度になり、杭に向って真っ直ぐに飛んで行く。
”ドン!”と杭に当ると同時に燃え上がり、杭の表面を汚した。
「二人とも良いわね、あとは慣れる為に反復あるのみよ。
お互い交互に見守りながら練習する様にしなさいね。」
二人とも魔法が成功したのを見届けたエレナはそう言って屋敷に戻り、
その後、2人は魔力低下症状が出る迄、何度も繰り返し練習を続けた。
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