第6話 まずは身体作りから、


アルが魔法の勉強を始めてから時は流れて、5歳の誕生日を先日迎えたところだ。


因みに、クリスは8歳になりました。 3歳差は…埋まらないよね。

あとなんか…、何かと、お姉ちゃんぶってくる様になりました。



魔法の練習を始めた当初、まずは生活魔法からと教えられて、

無詠唱で生活魔法を使った所、エレナ母様にめちゃくちゃ怒られた。


イメージがしっかり固まってないうちから、無詠唱で魔法行使しようとすると、

生活魔法であっても、暴走しやすいそうだ。

初めての光の生活魔法の時の失敗がこれっぽいです。反省。


詠唱は、その言葉の中に、事象を固定させ易くする言葉が含まれるから、

何度も詠唱魔法を使ってイメージを固めて行き、

慣れてきてから、はじめて短縮したりして行くのだそうだ。


短縮詠唱ですら一般的ではないらしく上級の魔法だと、

高位の魔法使いでせいぜい短縮詠唱が出来るかもしれない程度らしい。


因みに、生活魔法の 火のトーチ、水のウォーター、風のブリーズ、光のライト

詠唱って言うか単語だけど、発声してみたら、簡単に発現出来た。


要するに、初心者が調子乗んな!って事だね。


土のサンドと、闇のダークも使えたけど、

この二つは生活魔法には含まれないそうだ。


普段の生活の中で使用する事がほぼ無いからっとの事。

サンドなんかは排泄した後とかに使えそうなもんだけど、まぁ含まれないそうだ。


前世の英単語っぽい? シラナイ、キコエナイー。

異世界言語理解スキルのアレコレのせいだよきっと。


クリスも一緒に魔法の練習を始めてたんだけど、

7歳の時に、魂の選別を受けて、得意属性が、火と風と闇の3種、と判明。

通称『トリプル』らしい、なんかカッコイイね。



――――



アルとクリスは、午前中に魔力操作を練習して、

昼食の後、マリーと3人で、1年前に庭に設置された訓練場に出ていた。



「最初は走り込みと柔軟体操をメインで始めて行きます。

クリスは、今までもやってきましたが、アル様は初めてです。


まだ、動ける体にはなっていません。

無理をすると、直ぐに怪我をするので、少しづつ身体を創り上げていくのです。


クリスは、アル様のフォローをするように、

復習の意味も兼ねて、クリスも一緒にやっていきますよ。」


「はい」 「判りました」


アルとクリスの返事が重なる。


マリーは気持ちを切り替えさせるように、パンパンと手を叩きながら続けて言う。


「では、柔軟体操から始めましょう。

最初は体の動きを確認しながら、丁寧にゆっくりと行いましょう。


お互いを手伝って、相手を確認しながら、

ゆっくりと身体の筋を伸ばすようにしてください。」


そう言われ、丁寧に、身体の各所を動かすようにゆっくりと、

その後二人で前屈等を、相手の背中を抑えたりしながら、交互にやっていく。


最初は、ここまでしっかり柔軟する必要があるのかと、

タカを括っていたアルもその認識を直ぐに改める。


(前世のラジオ体操も…、真面目にやると凄くしんどかったけど…、

これは……キッついなぁ……。)


動く事に、全く慣れていない身体には、少々ハードなようで、

前世でも柔軟をしっかりとやったことが無かったアルには、

ただの柔軟であっても、気持ち的にも肉体的にも気怠さを感じていた。


チラリとクリスを見ると、普段から動いてるせいか、平気そうに見える。


(クリスは……、さすがだなぁ…。)


そんな事を思いながらマリーに言われるままに、

凝り固まってる身体をゆっくりとほぐしていくのだった。


「はぁ…はぁ…」


1時間程経つ頃には、全身の気怠さと共に汗だくになり、

ふとクリスを見ると、身体が暖まって来たのか少し汗ばんできた気がする。


しっかり柔軟出来た様子を確認したマリーが口を開いた。


「お疲れ様です、アル様。

最初は時間を掛けて入念に柔軟体操をやった方が良いので、

これからも暫くは続けますのでそのつもりで居てください。


さて…、これから、屋敷の周りを三周、走りましょう。


1周約100m程ですが、何も考えずに走ってはいけません。

大事なのは、早く走る事ではありません。


しっかりと腕を振り、体の動きを確認しながら、

同じペースで走ることを意識してください。」


そう言うと、先導する様にゆっくりと走り始め、

その後を追うように、二人も走り始める。


(これは…、かなり…、キツイなぁ…。)


ゆっくりとしたペースで走るのだが、

体を動かす事に慣れていない体には、かなりの負荷が掛かる。


普段と違い、全身を使って走っている為か、息もすぐに上がってしまう。


そんな状態のまま三周を走り終えると、マリーから終了の声が掛かった。


「明日からは昼食後、二人で柔軟から始めるようにしてください。


様子を見て少しずつメニューを増やしていきますが、

しばらくは柔軟と走り込みを続けますので、頑張りましょう。


では、本日の訓練はここ迄です。お風呂に入って汗を流してください。」


汗一つ掻いていないマリーは、仕事に戻るようで、くるりと背を向けて、

スタスタと屋敷に入って行った。


「アル様、一緒にお風呂にいきましょう。」


クリスに連れられて、お風呂に入り、汗を流して着替えると、

部屋に戻りベッドに横になる。


(これはかなり…、キツイなぁ…。)三度目


前世でも割と動いてたつもりではあったが、慣れない動作が多く、

使う筋肉がまったく違い殆ど動いてないに等しい上に、

前世の記憶が有る分、今世では子供みたいに走り回らなかった為か、

5歳児以下の体力と、動き慣れていない身体が既に悲鳴を上げている。


思わず愚痴が口から出そうになるが、クリスは今までやってきてる事であり、

負けない様に頑張ろうと意気込むが、

クリスが手足を軽く揉んでくれている間に、俺の意識は沈んでいった。




――――



翌日も同じメニューを熟し、その次の日から日に日に屋敷の周回数が増えて行き、

2週間程経った頃には10周(約1km)になっていた。


その走り込みが終わり、少し息を整えた後、マリーが口を開く。


「今日は、お互いに、押し合いをして貰います。

お互いの腕が届く程度の距離で向かい合わせに立ちます。

足は地面から離してはいけません。

その状態で相手を押して、相手の足を動かした方が勝ちです。」


どんな訓練をするのかと思ったら、子供の遊びのような内容だった。

そうタカを括りつつ、マリーの続ける説明を聞く。


「相手の上半身のみを押してください、下半身はダメです。

相手の状態をよく見て、隙を突いて押し、

押してくるタイミングで上半身を逸らして避ける。

そう言った駆け引きも重要になってきますが、まずは一度やってみましょう。」


マリーがそう言って、アルとクリスが向かい合わせに立つ。


そしてマリーが、”始め”っと言った瞬間、

俺の足が離れていた、クリスの伸ばした手を見て、押されたのだと理解した。


(……、え…?)


クリスは手を伸ばした姿勢で、してやったりという顔でニヤリと笑う。


そんなやり取りを見ていたマリーが、クスクスと笑い、言う。


「二人とも良い動きですね、ではもう一度やってみましょう。」


俺に対してはどう聞いてもお世辞にしか聞こえないその言葉に悔しくなり、

2回目、”始め”の声と同時に、仕返しとばかりにクリスの胸を押そうと手を伸ばす。

するとクリスは俺の手を見たまま、

足を動かさない様に上半身を後ろに逸らして俺の手を躱した。


空を切った俺の手は、そのままクリスに抱き着く様に上体が前に出て、

転ばない様に、足も一歩動かしてしまい、

前のめりになったところで、クリスの胸に受け止められる。


(あ…、柔らかい…。)


少し膨らんできたクリスの胸にダイブしていた顔を上げると、

クリスと目が合い、ニヤっと笑っていたので思わず眼を逸らす。


「はい、アル様の足が動いたので負けですね。」


マリーはそう言いながら、俺の頭を撫でた。


「1回目は、アル様は完全に油断しておられました。その隙を突かれましたね。

2回目は、アル様は、押すことに集中しておられました。

集中しすぎてたと、言いましょうか。

おそらくクリスは、それを予想して、どう避けるかを考えたのだと思います。」


そうマリーが予想を口にすると、クリスは頷いた。

そしてマリーが続けて言う。


「この押し合いは、相手の目線、表情、身体の動き、そういった情報を元に、

どのように攻め、又は、どのように躱すか、或いは守るか。

そういった読み合いをする勝負です。


次からは、相手の出した手を、払いのけるのも許可しますので、

更に読み合いが必要になってきます。」


マリーは自分の右手を左手でパシッっと払いながら説明する。


そうして、しばらく押し合いを続けた後、マリーがパンパンと手を叩き口を開く。


「しばらくは、このメニューも追加して毎日やりましょう。では本日はここ迄です。」


マリーはそう言うと、スタスタと屋敷に戻って行き、

アルとクリスも汗を流すために屋敷に続いて入って行った。



――――



2週間程経った頃だろうか、昼食後の練習で、柔軟、走り込みの後、いつもの流れで押し合いをしようとすると、マリーが口を開いた。


「それでは本日からルールを変えます。」


そう言ってマリーは直径4m程の円を地面に描き始めた。


「この円の中に2人で入り、自分が出ない様にして、相手を押し出してください。

地面に手を着いても良いですが、転ぶと負けになりますので注意してください。

円から出なければ、自由に動いて構いません。

足を使って転ばせても良いです。」


理解したか確認する様に、マリーはクリスとアルの顔を見て続ける。


「では、まずは試しにやってみましょう。」


そう言うと、マリーは円の外に立ち、二人が中に入る。


そしてお互い向かい合って立つと、”始め”っと言った瞬間、

クリスの右手が伸びてきた。


それを右手で払い除け、左手を地面に付きつつ、

身体を捻りながらクリスの足を払うように蹴り抜く。


「貰ったっ!」


「甘いわよっ ふっ!」


クリスは、俺の足の動きを見て、右足を後ろに下げながら、

上半身を被せて来て、上から手で軽く体重を乗せて抑えつける。


(……えっ?)


そう思った時には、俺はバランスを崩して地面に倒れ込んでいた。


「はい、アル様の負けですね。」


マリーがそう言うと、クリスは嬉しそうに笑っていた。


「では、もう一度、最初からどうぞ。」


そう言われて、二人が円に入る。


(………、よしっ!)


そう意気込み、クリスの伸ばされた左手を払い除けながら、

足を払うように動かすが、やはり躱される。

そして逆に軸足を払われて地面に倒れ込んでしまう。


待ちに徹してクリスの足払いを誘い、それを躱し、

上から抑えつけるようにして、”これはモロタっ!”っと、

思いきや、クリスが身体を横にずらして躱され、

地面に手を付かされた所を、横から押されて転んでしまう。


そんな攻防が続き…。

服が汚れてないクリスと土塗れのアルが出来上がり、今日の訓練が終了した。



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