第45話 大きければ良いって物じゃない



相手がオークになり、特に問題なく一行は進み、階層を降りていく。


そしてやってきた20層。


階段を降りてすぐが小部屋の様になっており、

先に進むには高さ5m程の城門の様な頑丈そうな作りの扉を開ける以外にはない。


「いかにも何か居ますよ…って感じの扉ね。」


クリスがその扉を見上げると、ルティアが言う。


「情報では、この先にミノタウロスが居るみたいね。」


「【銀の器】以外は此処までは着てないみたいだな。」


アルの言葉にルティアが苦笑しつつ答える。


「着て分かったとは思うけど、此処まででは旨味が少ないみたいで、

此処のダンジョンはあまり人気が無いのよね。」


「まぁ、その旨味を見つける為に、俺達も此処にきてるんだしな。」


「えぇ、その為にもまずはここを突破しないといけないわね。」


「よし、行こうか。」


アルの呼びかけに全員が頷き一行は城門の様な扉に手を触れた。


ギギ……ギギィィィィ……


触れた瞬間に、扉に薄い光が縁取る様に走り、

自ら各所を軋ませる音を立てながらドアが開いていく。


中は真っ暗で、クリスが1歩2歩と歩み入る。

アルがライトを発動しようとしたその時、

部屋の各所に設置された燭台に明りが灯り部屋が明るくなる。


部屋が明るくなり部屋の奥に、

4mはあろうかという人間の身体を持つ怪物が照らし出される。

その容姿は牛の頭に、がっしりとした筋肉質の人間の身体と腕、

下半身は牛の足のようで、太い太腿に足先は黒光りした蹄、

そしてその股の間には、雄々しいほどの肉棒が生えている。

手に持つのは、半ばで刀身の折れた様な剣先の無い大剣を片手で持っている。


「(あの武器…。)デカいな…。」


「あれを入れられたら…、死んじゃうわね…。」


「カティちゃんが抱き枕に出来そうな大きさね…。」


「あぅ……、流石にあれには抱き着きたく無いです……。」


「………何の話?」


アルが呟くと、クリスとルティアも感想を言い、

ルティアの発言にカタリナは白い目を向ける。

アルは話が噛み合っていない気がして、問い直すが無視される。


「じゃあ、行くわよ。」


「クリス、あの大きさだ、受けるなよ! カタリナ、回り込んで援護を。

ルティアは、距離を保つ様に。 行くぞっ!」


「あの大きさは…、入れられたくないわねっ!」


「あぅ……大きければ良いってもんじゃないですっ。」


「うふふ、私はアル君ので充分よ。」


「だから何の話してんのっ!? お前ら余裕あるなっ!?」


それぞれが言いたい事を言って走り出し、アルの叫びはスルーされる。


クリスが真っ直ぐに走ると、

ミノタウロスはその大きな剣で迎え撃つ様に真っ直ぐ振りかぶる。


「ファイアランスッ!」


振り下ろそうとした直前にルティアの放つ炎の槍が迫るが、

ミノタウロスにその大剣で打ち払われる。


剣を振り抜いたその右腕に向って、クリスが身体強化と魔力を通した右手の剣で、

ミノタウロスの横を通り抜ける様に斬りつける。

皮に赤い線が走り、プシュっと一瞬血が噴き出すが、すぐに止まる。


「固っ!? 浅いっ!」


「ファイアランスッ!」 「…アイスランスッ!」


思わぬ硬さに、クリスはそう言うと、すぐに走り抜けて距離を取る。

ルティアが炎の槍を撃ち、直後にほぼ同じ軌道で氷の槍が追従する。

クリスを追いかけようと首だけ振り向いたミノタウロスに、

追撃の炎の槍が飛来すると、煩わしそうに、大剣で逆薙ぎに炎の槍を切り払う。

その開いた身体に向って時間差で追従していた氷の槍が左肩に突き刺さる。


「グゴォアァアアッ!!」


その痛みからか、雄たけびを上げて、

右手に持つ剣の柄で左肩に突き刺さった氷の槍を力任せに砕く。

左肩の傷と氷の槍での凍傷で、左腕の動きは鈍っている。


その隙に、回り込んだカタリナが背後から忍び寄り、

左足の膝裏を魔力を通した短刀で斬りつけるが、

カッと固い音が鳴り、浅い傷が付くが怯ませる程のダメージは無かった。


「か……硬いです……。」


カタリナは攻撃を一旦諦めてすぐに距離を取る。

距離を取ろうと離れた瞬間、ミノタウロスの左手がカタリナの眼の間を横切る。


「ひゃっ!」


「フレアバースト!」


カタリナは咄嗟にその攻撃を躱すが、その風圧で僅かに体勢を崩す。

その瞬間を見逃さずに、右手の剣を横薙ぎに振るおうとしたところに、

ルティアの放った火球が放物線を描き、ミノタウロスの足元に着弾する。

火球が小規模な爆発を起こし、

衝撃でミノタウロスのバランスが崩れ剣を地面に叩きつける。


その隙に距離を取ったカタリナと入れ替わりでクリスが再び背後から斬りつける。

しかし、やはりミノタウロスの体に阻まれてダメージは少ない。

ミノタウロスの右肩に足をかけて離脱しようとしたとき、

クリスの視界に、カチカチになった肉棒が目に入る。


(勃起してる!?)


「アースパイクっ!」


前のめりになって居たミノタウロスの足元の地面から石の槍が3本飛び出し、その強靭な腹筋に叩きつけられる。

2本は腹筋に阻まれて砕け散るが、一本はその隙間に突き刺さり、腹部の皮膚を貫通して血を流させる。

しかし、ミノタウロスは傷口を手で押さえながら振り向き、クリスに向かい横薙ぎに剣を振り払う。


「っ!?」


その攻撃を剣で受け流しバックステップと合わせて威力を殺そうとするが、

振り払われた剣の圧で押し切られ吹き飛ばされる。

ゴロゴロと転がり、クリスは壁に激突して、そこで止まる。


「かはっ!……つぅ……。」


「クリスっ!」


アルの叫びとクリスのうめき声が同時に聞こえ、ルティアが叫ぶ。


「カティっ!」


「は、はいっ!!」


ルティアの叫びにカタリナは返事をすると、すぐさまクリスの側に駆け寄る。


「ルティア、援護をっ!弾幕を張れ!」


「っ! ファイアランス! フレアバースト! ファイアボール!」


「土よ、大地よ、彼の者に、土と大地の怒りを鉄槌に…、ロックフォール!!」


アルの声に、ルティアは次々と魔法を放ち、

クリスに向おうとしていたミノタウロスは足を止め、

炎の槍を打ち払い、足元の爆発でバランスを崩し、火球は左腕で受ける。


その隙にアルは詠唱を行い、土の上級魔法のロックフォールで、

ミノタウロスの頭上に、直径5mは在りそうな岩の塊を作り上げ

ミノタウロスに向って落とす。


「グゴォアァアアアアッ!!」


魔法で創り出された重量の在る岩の塊はミノタウロスの上から落下して、

受け止めようとしたミノタウロスの足が折れ崩れる様に押しつぶし、

衝撃を撒き散らしながら消えていく。


残されたのは片足が折れて地面に這いつくばるミノタウロスだった。


「ファイアランス!」


「アースパイク!」


「ブルゥ……。」


まだ消えないミノタウロスを見て、ルティアとアルは追撃を撃ち込むと

既に弱っていたミノタウロスの強靭な肉体も失われていた様で、

地面からの石槍が身体を貫通し、炎の槍が深く突き刺さり燃え上がる。

そして体の端の方からモヤになり消え始める。

アルは直ぐにクリスの所まで走り寄る。


「カタリナ!、クリスは大丈夫か!?」


「あぅ……。」


「けほっ……大丈夫よ。」


アルが呼びかけるとクリスがせき込みつつ返事をする。

それを見てほっとしたアルは念のためと、

クリスの背中に腕を回し支え、胸に手を当てて回復魔法を掛ける。


「ヒーリング…。」


白い光がクリスを包むと、先ほどの浅い傷も塞がり顔色も元に戻る。


「ありがとう、アル。」


「クリス油断したな? お前なら避けれないほどじゃなかっただろう。」


「………、あの…大きな肉棒が目に入って……、つい……。」


「意味が分からないからなっ!? ほんと余裕かましすぎだ!」


目を逸らしながら言うクリスの言葉に、

ツッコミを入れるアルをスルーしてカタリナが言う。


「あぅ……、あ、あの硬さに、刃が通りませんでした…。」


「たぶん…、ミノタウロスの身体強化に、

刃に纏わせた魔力が負けていたんだろうな。」


そんな会話を聞いていたルティアが同意する。


「そうね……、魔法も初級程度じゃかすり傷も負わなかったようね。」


「道理で全く効かないわけです……。」


カタリナが納得して頷くと、クリス考えて不安を口にする


「纏わせる量を増やすとなると、武器が持たないかも知れないわね。」


「その辺りも今後の課題だなぁ。とりあえず立てるか?」


「えぇ…、貴方が胸から手を離してくれれば立てるわよ?」


クリスが胸を鷲掴みにしているアルの手を叩きながら言う。


「お…おう、もうちょっと…、後5秒…痛っ! わ、わかったって。」


叩く威力が強くなりアルは残念そうに手を離して立ち上がりつつ、

クリスに手を差し出す。


「ありがとう。」


そんな2人をルティアは、微笑みを浮かべて観ていた。


「うふふ、アル君は魔物を倒した事よりおっぱいなのね…。」


「あぅ……、アル兄様……。」


ルティアの言葉に、カタリナも思わず苦笑する。


「さて、肝心のドロップはっと……。おっ?」


アルが立ち上がり部屋を見まわすと、

ドロップの落ちている場所とは別に宝箱が部屋の奥側に出現していた。


「ドロップは魔石…カタリナの拳ぐらいありそうな大きさだな。

あとお肉か…どこの部位は…気にしない方が良いな。」


「そうね……、肉棒じゃない事を祈るわ。」


「うん、お肉ね。」


「あぅ……あれは、これ以上に大きかったです……。」


アルの言葉にクリスとルティアも同意して頷くがカタリナだけ頷く方向が違った。

しっかり見ていたカタリナも意外とスケベだった。


「さて、この宝箱だが……俺が開けようと思うがいいか?」


「良いわよ。」


「念の為に少し離れててくれ。」


部屋の奥に行き宝箱の前に立ち警戒体勢を取りつつ皆に伝え、

クリス達が離れるとアルは宝箱の蓋に手を置きゆっくり開く。


中には、黒い鞘に納められた一振りのショートソードと、

青い宝石が甲の部分に埋め込まれた一対の指抜きグローブが入っていた。


「なんだこれ……。」


「……なにかしら?」



「あぅ……綺麗な指抜きグローブです。」


3人は予想外のモノに驚いているが、

アルがショートソードを鞘から抜くと、美しい光沢のある、両刃の剣身が見える。

柄は黒くの落ち着いた色合いの金属製で鍔は銀色に輝いている。

剣身の腹の部分が中程まで黒に近い深い青色のラインが入ってる。


「綺麗な剣ね。」


「あぅ……クリス姉様に似合いそうな剣です。」


「うん、クリスに似合うな。

取り敢えず鑑定して見てくれ。」


「えぇ、分かったわ。」


アルはクリスにショートソードを渡しながら鑑定を頼むと、

受け取ったクリスは頷き鑑定する。


『闇夜のショートソード:

非常に軽く切れ味も鋭く、闇属性の魔力を込めると攻撃力が上がる。

また闇魔法使用時の保助具にもなり闇魔法の効果を増幅する。』


クリスが鑑定結果を伝える。


「なんか…、凄く良い剣ね……。

闇属性に偏ってるけど、かなり使い勝手は良さそうね。」


「なんかかなり都合が良いが、クリスは闇属性使えたよな?

あんまり闇属性使ってなかったけど、これを機に使ってみても良いんじゃないか?」


「そうね……。使ってみるわ、ありがとうアル。」


クリスは頷きながら答えると嬉しそうに剣を撫でていた。


「グローブの方も鑑定してくれるか?」


「えぇ、良いわよ。」


アルが頼むとクリスは頷いてショートソードを鞘に納めて腰に挿し、

受け取ったグローブを鑑定する。


『風水のグローブ:

魔法使用時の効果上昇。

水魔法と風魔法の使用時は更に効果が上乗せされる。』


「カティが使っても良いと思うけど…、これを十全に使えるのはアルかしら?」


「そうね。カティちゃんは風と土と闇だったかしら?」


「あぅ……、は、はい、そうです……。」


クリスとルティアの言葉にカタリナは頷く。


「俺が一番相性が良さそうな効果だなぁ…。」


「アル君はその二つは多用してるものね。

氷にも適用されると思うし良いと思うわ。」


アルの言葉にルティアが頷く。


「二人には次良いものが出たら優先って事で今回はこれで頼むよ。」


「あぅ…、気にしないでください。」


「えぇ、良いわよ。」


アルの言葉にカタリナとルティアが頷く。


「さて、この奥は未探索領域だな。」


「そうね。」


「あぅ……。」


「【銀の器】も、扉の向こうに通路があるのを確認して、

引き返したと聞いてるから、完全に未探索ね。」


3人はアルの言葉に頷き、カタリナは不安そうな声を、

ルティアは前に見た資料を思い出して言う。


「よしっ!じゃあ行くか!」


アルがそう宣言すると3人は頷き、未探索領域へと進み始めた。

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