第46話 最強はここに居る。

ミノタウロスの居た部屋の奥の扉から出ると、

また薄暗い通路が続いていた。

そのまま数分ほど、歩くと小部屋が有り、

その小部屋の中央には、腰の高さ程の石碑が鎮座していた。


クリスとルティアが近寄り、表面に彫り込まれている文字列を見る。


「これ…、古代の石碑かしら?読めないわね。」


「学院の時に見た文献に、記載されてた文字に似てるけど…、

ハッキリと判らないわね…。」


「あぅ……、私には文字はまだ難しいです…。」


クリスが石碑を見てそう呟くと、ルティアは記憶を探るように考え込む。

カタリナは屋敷で文字を習い始めたところで、

自分の名前と簡単な言葉を書けるようになった程度だった。

そんな3人の後ろからアルが石碑を覗き込む。


「えーっと…?『ここに主の意思を納めよ。 然らば道は開かれん』…?」


「ちょ、ちょっと待ってっ! アル君、これ読めるの!?」


ルティアは目を見開き慌てたようにアルに言うと、

クリスとカタリナも驚きの表情でアルを見る。


「え? あぁ…、読めるけど…。

これも異世界言語理解のこう…「アルっ!」…。」


アルは文字を見て考えながら、言葉を続けようとするとクリスに遮られる。


「アル君…、異世界言語理解って…、何?」


「あ、あぁ……、それは……。」


ルティアが真剣な表情でアルを見つめる横で、クリスは諦めた様に溜息を吐く。


「ルティア、それにカティ、これからの話は他言しないでね。」


クリスが真剣な表情で2人に伝えると、カタリナとルティアは頷く。


「アルは…、アルヴィス・アイゼンブルグは転生者なの。

転生したその時に神様から、通常…人では得られないスキルを頂いてるわ。

その一つがあなた達も知ってる魔力注入で有り、

今聞いた異世界言語理解というスキルもその一つよ。」


「あぅ……、そうだったんですか……。」


クリスの話を聞いたカタリナが、解ってるのか解ってないのか驚いたように呟き、

ルティアは厳しい表情で考えつつアルを見る。


「なるほど……ね。

アル君の違和感の正体が…、判った気がするわ…。」


「違和感?」


カタリナはルティアの言葉に首を傾げて思わず尋ねる。


「うん、アル君ってね……、なんか時々変な言い回しするし、

まるで年上と喋ってる感じがする時があったのよ。

まぁ…、大人っぽい子だという事で、気のせいだと思ってたんだけどね…。」


「それは…、私も事実を知るまでは、そう感じてたわ…。」


ルティアの言葉にクリスも同意すると、

カタリナは更に良く解らないといった顔をしてアルを見る。


「あぅ……、じゃあアル兄様は神様から貰ったスキルが二つ……?」


「まぁ、そうなるな。

本当は他にもあるんだけど、まだ使えなかったり、

良く判らなかったりと色々あるんだ。」


「うぁ……。」


カタリナの言葉にアルが肯定すると、カタリナはなんとも言えない声を上げた。

ルティアは厳しい表情のまま、眼鏡をクイッと直し、考えをまとめる様に呟く。


「確かに…、転生者だと知られると…、色々と…、面倒事が増えそうね…。」


「まぁ、面倒な事にはなりたくないから、秘密にしてくれると助かるな…。

それと…、前世の記憶の在る転生者なんだけど…、今まで通り…、

接してくれると…、嬉しいな…?、なんて…。」


ルティアの言葉に、アルは二人の顔を見ながらも、最後は自信なさげに言う。

そんなアルの様子を見たルティアは、少し悲しげに目を伏せると、

怒った表情で顔を上げて言う。


「アル君…、それは私達を馬鹿にしてるのかしら?」


「いや…、そうじゃないけど……。」


「あぅ……、アル兄様はアル兄様です。」


ルティアの言葉にアルが返すと、カタリナは少し目を潤ませながらそう答えた。


「カティちゃんの言う通りね……。

私達の知ってるアル君は、アル君で、それは変わりようがないもの。

確かに驚きはしたけれど、私の愛した人は貴方なのよ?」


ルティアはそう言うと、アルの左手を取り、手を重ねて撫でる。


「あぅ……、私もですっ! ………、アル兄様の馬鹿…。」


カタリナも力強く頷き声をあげると、アルの腰にしがみ付いてポロポロと涙を溢す。

クリスはアルの右手を握り締めて困った様に言う。


「二人とも…、ごめんなさいね。

アルは前世の記憶のせいなのか…、変な所で自信がないのよ。

いつまで経っても…、この癖は抜けないんだから…。」


クリスもルティアと同じく悲しげな表情をする。


アルは3人の言葉を聞いて、思わず胸が熱くなり泣きそうになったが、

グッと堪えて両手を握り返す。


「ありがとう……ごめんな…。」


アルは泣きそうな声でやっとそう伝えると、

ルティアが拗ねた表情で手を離す。


「いいえ、許しません…。  ………、今夜は3回は出してもらうわよっ。」


ルティアは笑顔でそう言ってアルの頰にキスをした。


「あぅ……、わ、私もです……。」


カタリナもそう言いながらルティアに対抗する様に、アルの胸に顔を埋める。

そんな様子を見て、微笑んでいたクリスが、頃合いを見て皆に話しかける。


「ねぇ……、私は4回はして貰うとして…、

良い雰囲気になってるところ申し訳ないのだけれど…、

そろそろこの石碑の話に戻りましょうか。

このままじゃ、ここで始めかねないし…。」


クリスが茶化すように話を戻すと、

カタリナはハッと思い出した様にして、ルティアは少し苦笑しながら応える。


「あぅ……、そ、そうでした……。」


「クリスちゃん…、サラッと自分だけ多いわよ?」


「コホンッ、細かい事は良いのよ…。 

と…取り敢えずこの石碑だけど、どう言う意味かしら?」


クリスは咳払いで誤魔化しつつ問い掛けるとアルが口を開く。


「えっと……、『此処に主の意思を納めろ』って書いてるけど

、此処にってのは、ここだと思う。」


アルはそう言いながら石碑の上部にある丸い窪みを指差す。


「あぅ……、じゃあここに何か入れれば良いって事ですか?」


「そう言う事になるわね……、でも、何を入れれば良いのかしら?」


カタリナが納得しつつも首を横に傾けると、

ルティアも腕を組み無意識に胸を持ち上げながら言う。


アルの視線が謎の力に負けて釘付けになりながらも、

何とか思考を働かせて考えを口にする。


「た…単純に考えるなら…、

主とはダンジョンのヌシって事になると思うが…、

最下層が何層かは判らないけど、

此処に最下層のボスとかは違和感があるんだよな…。

それで…、ここはまだ20層…、その主といえば…。」


「……、ミノタウロス…ね。」


アルが考えを巡らせながら言うと、クリスが後を引き継ぐ。


「あぅ…、なるほどっ!……、それってつまり?」


カタリナが然も解ったかの様な返事をしたが、更に首が傾く。



「ミノタウロスの意思…。 ミノタウロスが倒れて残った物…、魔石…?」


腕を組み片手に顎を載せて考えてたルティアが呟きつつ連想していく。


「意思が石とか、冗談みたいだが…、俺もそう思う。 試してみよう。」


アルがミノタウロスの魔石を取り出すと石碑に納めてみる。


一瞬の間を置いて、嵌め込んだ魔石から光が走り文字の上を通過していくと、

光る文字が宙に浮びあがる。


「アル、読めるのかしら?」


「あぁ…、『主の意思を納めし者、此処に至る道を解放せん。』かな…。」


文字はしばらく宙に停滞したあと、フッと溶けるように消える。

石碑をもう一度見ると見ると、魔石を嵌め込んだ場所のすぐ下に、

小さな1枚のプレートが浮かんでいた。

それをアルが手に取ると、石碑を中心に魔法陣が浮かぶ。


「なんなのっ!これって……?」


「みんな近寄って手をつないでっ!」


ルティアが目の前の魔法陣を見て呟き、

アルが慌てて全員に集まるように言いながら手を伸ばすと、

次の瞬間、アル達の姿はその場より消えていた。


目を開いてるはずだが、真っ暗な場所の様で何も見えない。


「みんな…、居るのか…?」


アルは声を発しながら掴んでる物を探るように、

触れている指を動かすと驚いた声が反響する。


「あんっ!」「ひゃうっ!」「あぅ……っ!」


「ちょっとどこを…っ、アル…、良いから早くライトを使って。」


「あ…、あぁ…、ライト。」


クリスに促されてアルは慌ててライトを発動すると、やっと見える様になる。

アルは右手でルティアの胸を揉み、ルティアは両手でクリスの背後から胸を揉み、

クリスは壁に両手をついて居て、

カタリナはクリスと壁の間に挟まりクリスに顔を擦りつけて抱き着いていた。


「ご、ごめんっ!」


「アル、謝ってるけど、手が離れてないわよ。」


「ご、ごめんっ! ありがとうございます!」


クリスがジト目で言うと、アルは慌てて手を離して謝り、お礼も言った。

お礼を言われたルティアは両手をワキワキしながら嬉しそうに言う。


「ふふっ、役得かしら? それよりここは……。」


「小部屋…の様だけど…。」


クリスが周りを見回して不安げに呟き、カタリナも同じく周囲を見回す。

そこは狭い小部屋の様な場所だった一方の壁には石碑に似たものが描かれており、

そこには何かの文字が一文字だけ、うっすらと光っていた。


「あぅ……、文字が光ってます……。」


カタリナが石碑の文字を覗き込んでそう呟くと、

ルティアも壁に近づき文字をジッと見つめる。


「他に似たような文字で光って無いのが二つあるわね。」


(至る道の開放…、転移…、っ!? まさかっ!?)


手に持ったプレートを見つめて、考え込んでいたアルは、

徐に石碑の壁画と反対側の壁を調べ始める。


「アル?何か解ったの?」


クリスはそんなアルの姿に違和感を覚えて尋ねる。


「いや……、もし俺の考えが正しければ……。」


そうアルが言っていると、カタリナも同じように探し始める。

少しするとカタリナが部屋の角付近でボタンを見つける。


「あぅ……、何かボタンが有ります。」


カタリナはそう言うとそのボタンを押そうとして、

以前の蔦の罠の事が、脳裏に過ぎり押そうとしていた指が止まる。


「あぅ……、お…押しても良いですか?」


カタリナは振り向き、そう言うと皆の反応を見る。

ルティアは微笑んで頷き、クリスも頷いた。

なんだか微かに悪い顔をしている様にも見える。


「多分、大丈夫だが…、俺が押そう。」


そう言ってカタリナに代わり、アルがスイッチを押すと、

スイッチのあった側の壁が中央付近から、光が漏れ左右に広がっていく。

その向こうからは日光が差し込み、小部屋の様な場所を明るく照らした。


「わぁ……、明るいです……。」


カタリナは嬉しそうな声を上げると、全員で光の側へ移動する。

開いた場所から出てすぐの場所は周囲が森になっている空き地の様で、


すぐ目の前には木造の小屋がポツンと立っていた。

小屋の入り口は反対側の様で、小屋の裏側らしい。


「えっと……、ダンジョンの中の…、小屋…かしら?」


ルティアが首を傾げて疑問を呟く。

アルは躊躇無くその小屋に近付き扉を調べると、確信をもって言う。


「………、やっぱりそうだ。

これはダンジョン前の、仮設の冒険者ギルド出張所だよ。」


「それってダンジョン調査時に建てられたあの小屋?

………、っと言う事は此処は外なの!?」


ルティアが驚いた声を上げるとクリスは考察を口にする。


「っと言う事は、あの転移で、

ダンジョンの20層から此処まで一瞬で戻って来れた…と、言うことね。」


「ルティアさん…、これって冒険者ギルドに報告しようとは思うけど、

ギルドまで行かないとダメですかね?」


アルがルティアに尋ねると、少し考えてからルティアは答える。


「そうね……、行った方が確実ではあるけれど…、今回は来てもらいましょう!」


ルティアはそう言ってアルにウィンクすると、仮設小屋に入っていく。


職員用の部屋に入っていくと、

置いてある机の下にしゃがんで顔を突っ込みゴソゴソし出す。


ルティアは膝をついてお尻がフリフリしていてまだ探しているようで、

アルはそのお尻を眺めていて無意識に手を伸ばすと、

パシッ!っとクリスに手を叩き落とされ睨まれる。


「今…、何しようとしたのかしら?」


クリスの冷たい視線から目を逸らしつつ、

叩き落された手を見て、素直に謝罪する。


「うん……ごめん……。」


「ふう……、在りました。 あら?どうしたの?」


そんなやり取りをしているうちにルティアは立ち上がると、

アルとクリスを見て、眼鏡を直しつつ首をかしげて尋ねる。


「何でもないわよ。」


「ルティアさん?それ何ですか?」


クリスが言い」、アルが話を逸らす様に尋ねると、

ルティアは小箱を開いて見せながら箱を開けて笑顔で言う。


「えぇ、これはね……、

通話の魔道具の簡易版で対となってる魔道具とだけ会話出来るのよ。」


「そんな物があるんですね。」


アルが素直に感心すると、ルティアは更に続ける。


「まぁ、ギルドの出張所には大抵あるわね。

出張所に置いてあるのは各支部に置いてある対の物に繋がるだけのやつだから、

盗んでも使い道がないから、こうして置きっぱなしになってるのよ。」


「なるほど、じゃあ、ルティアさん、連絡頼めますか?

クリスは食事の用意を頼む。

もうすぐ日も暮れるし今日は此処で泊まらせて貰おう、

ギルドの連絡してもすぐには来れないだろうしな。」


アルがそう言うとルティアとクリスは頷く。


「えぇ、任されました。」


「分かったわ。任せておいて。」


「あぅ…、わ…私もクリス姉さまのお手伝いします。」


ルティアは直ぐに椅子に座って箱を弄り始め、

クリスはそう言って小屋を出ると、食事の支度を始めると

カタリナもピョコピョコ付いて行く。


アルはその様子を見た後一人で、転移の小部屋に行き奥の壁の前に立つ。

うっすら光ってる文字をを見ると、20と書いてあるのが理解できた。

その横の光ってない文字をライトで照らしてよく見ると、

30と40と描かれているのが理解できた。


(少なくとも40層以上はあるって事か…。

最終層が40層なのか転移出来るのが40迄で、もっと深く迄在るのかは判断が出来ないな。)


そう考えて、アルはクリスの所まで戻ると、ルティアも通信が終わった様で外に出てきて居た。


「ルティアさん、ギルドへの連絡終わりましたか?」


アルが尋ねるとルティアは笑顔で頷く。


「えぇ、連絡は出来たわ。それでね……、

ギルドマスターのゼルさんが職員を連れて明日の朝にこっちに来るそうよ。」


ルティアがそう言うと、アルとクリスは顔を見合わせてから言う。


「対応が早いわね。」「ギルマス暇なの!?」


「ま…まぁ、助かるし良いんじゃないかしら…?」


2人の反応にルティアは苦笑しながら言うと、クリスが食事を配りながら聞く。


「それでこの後の予定だけど、どうするの?」


「ありがとう。 取り敢えず今夜は此処に泊まるとして、

明日はギルマスに説明したら20層から探索を再開しようと思う。」


アルがクリスにお礼を言いながらそう答えるとルティアも頷く。


「そうね。その方が良いわね……、っと、暖かいうちに食べましょうか?」


「あぅ……そうですねっ!」


3人は頷き合うと食事を始める。


その後、ギルドの小屋で寝ようとしてたアルの両肩を、クリスとルティアがそれぞれ掴む。


「おぅ……!? えっと……?」


アルが振り返り、2人を交互に見ると、

ルティアとクリスは笑顔だが目が笑ってない顔で言う。


「アル君、私はまだ…、さっきの事は許して無いわよ?」


「アル…、諦めて全員の相手をしなさい。」


2人にそう言われるとアルは降参とばかりに両手を上げる。


「あぅ……、わ、わた…私も…、お…怒ってますよぉ…。」


全然怒ってなさそうな少し赤い顔でカタリナも言う。


「判ったっ!判りましたぁ!頑張りますっ!

全員、鳴かせてやるから覚悟しろよっ!」


アルはヤケクソ気味に言うと、3人は笑顔で頷く。


「ええ、楽しみにしてるわ。」


そう言って3人はアルを連れて小屋に入っていき扉が閉まる。



―――――



翌朝、ルティアが朝の食事をして居た。


その顔はご機嫌で艶々のツヤッツヤである。


部屋には、素っ裸でお尻を突き出し、うつ伏せで寝て(気を失って)居る、クリスとカタリナの姿があった。

アルはその二人の間でこちらも全裸で仰向けに寝ている。

その顔は少しゲッソリしてるが満足そうでもある。


「ふぁっ……、おはよう…。」


まだ眠たげなクリスが、目を擦りながらそう言うと、

ルティアは水の入ったコップを渡す。

カタリナもムクっと起き上がると水をコクコク飲む。


「二人ともおはよう、昨日は凄かったわね?」


ルティアが悪戯っぽく言うとクリスは悔しそうな顔をする。


「またアルに負けたわ…。5回目までは憶えてるのに…。」


クリスがそう言うとカタリナも頷く。


「あぅ……、私は3回目の途中から記憶がないです……。」


カタリナがションボリとした表情で言うと、ルティアはフォローする様に言う。


「まあ……仕方無いわよ、アル君強過ぎだし……。」


「でも……、ルティアは平気っぽいわね…?」


クリスがルティアをジト目で見ると、ルティアは素知らぬ顔で言う。


「ふふん、そこはまぁ、伊達にお姉さんしてません、って感じかしら。」


「………、最強は此処に居たのね…。」


「あぅ……、わ、私も頑張らないと……。」


クリスとカタリナがガックリしてると、ルティアは朝食を並べながら言う。


「そろそろアル君も起こして、みんな服を着ましょうか。」


「わ、判ったわ。」


「あぅ……。」

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