第44話 焼き払えっ!



「16層は森……ね。」


クリスが周りを見渡しながら呟くと、

カタリナが周囲を観察して何かを見つけた様に言う。


「あぅ……道が在ります…。」


カタリナの示す場所を見ると確かに獣道の様な道がある。


「他に手掛かりもないし、道なりに進みましょう。」


「そうだな、視界が悪いし魔物に注意して進もう。」


ルティアとアルが言うと一行は歩きだす。

1m程度の道幅を歩いて暫く進むと、ルティアが小さな悲鳴を上げる。


「きゃっ!」


ルティアのローブに白い糸が付着していた。


「蜘蛛の糸…にしては太いな…」


「えっ?きゃぁああああああ!!」


アルが糸を見てそう呟いた時、ルティアの身体が森の中に引っ張られ、

引き摺られる様に引っ張られて行く。


「ルティアっ!?」「ルティアさん!?」


10m程引っ張られたルティアは途中から掘り投げられる様に斜め上に飛ばされ木々の間に張られたネットの様な物に貼り付けられる。


「くっ……、これは蜘蛛の巣?」


ルティアのローブに糸が張り付き、その糸は粘着が強力で取れる気配がない。


「うぅっ…、取れないわ…。」


「あぅ……、これは…蜘蛛の巣? 大きいです…。」


ルティアが藻掻き、カタリナがそう呟いた時、周囲が急に騒がしくなる。

周囲の木々の枝を伝い渡り、4体の大蜘蛛が現れる。


「ひぃっ!た…沢山居る……。蜘蛛は苦手なのよぉ…」


藻掻いていたルティアは、大蜘蛛を目にして震え声で呟く。


「あぅ……、私も虫は苦手です…。」


カタリナも怯えた様に震えるとクリスが叫ぶ。


「ルティア!  待ってて、今行くわ!」


クリスがショートソードを抜き、糸に切り掛かるが、

魔力を通した剣でも糸を引っ張り揺らすだけで、断ち切ることはできなかった。

糸の上で揺らされてるルティアに蜘蛛が器用に近づいていく。


「ひぃっ! たっ!たすけっ…」


「くっ! このっ!」


悲鳴の声もまともに出ないルティアを助けようと、

クリスは何度も飛び掛かり、剣を振り下ろすが全て糸に阻まれる。


「ウィンドカッター」


アルが風の刃を打ち出すが、糸を揺らしただけで切れる気配がない。

着地したクリスがアルの元へ戻ってくる。


「くそっ、風刃でも切れないか…。……、クリス、

火魔法を撃ってみてくれ。 ルティアッ、ローブに魔力を纏え!」


「うぅ…」


「わかったわ。ファイアボール」


返事をまともに返すことも出来ず、

ルティアは、ぎゅっと目を閉じてローブに魔力を流し纏う。

アルの声に、クリスは即座に火球を撃ちだす。

ルティアに当たらない様に、撃ち出された火球は蜘蛛の糸に掠るように当たる。


その瞬間、糸の上を火が走り回り、

蜘蛛の巣全体に広がり燃え上がると、熱さを感じる間もなく一瞬で燃え尽きた。

糸から解放されたルティアの体は落下をはじめ、

足で着地するとそのまま尻餅を付き、股を開き仰向けに転ぶ。


「凄いわね、あの一瞬で火が蜘蛛の巣全体に広がるなんて……。」


「あぅ……凄いです。」


クリスが驚きの表情で言うとカタリナも同意する。


「う~ん、どうやら他の耐性がべらぼうに高い代わりに火に極端に弱いのかな?」


2人が蜘蛛の巣が完全に燃え尽きたのを確認してホッとしてると、

アルはルティアのパンツを見ながら近寄り抱き起す。


「大丈夫だったか? ルティア」


「うぅ……、ありがとうアル君。

蜘蛛の巣に貼り付けられた時は、もう終わりかと思ったわ……。」


アルに抱き抱えられたルティアは、

ローブがはだけ、メイド服も乱れおっぱいの先っぽがポロリしていた。

アルの視線が吸い寄せられていると、クリスがツッコむ。


「アル、それが好きなのは知ってるけれど、先に蜘蛛を倒しましょうか。」


「あ……あぁ…、そうだな。」


クリスの指摘に、謎の引力を振り切ったアルは、

名残惜しそうにルティアを座らせると蜘蛛を睨みつける。


クリスが剣を構えて火属性の魔力を流すと、

剣身が薄っすらと赤く発光して炎がチロチロと噴出する。

そのまま走り出し木の幹を蹴りながら蜘蛛に向かって飛び掛かると、

蜘蛛はクリスに向かって糸を吐き出すが、炎を纏わせた剣で全て切り落とす。


「もう問題ないわ!」


糸の切り口から火が糸を伝って逆火するように蜘蛛に向かって火が走り、

蜘蛛は慌てる様に糸を切り離し離れようとする。


そこに蜘蛛の頭上に飛び上がったクリスは炎剣を振り下ろし蜘蛛の頭部を焼き斬る。


「次っ!」


クリスが木の枝に着地し叫ぶと、

残り3匹の蜘蛛が、クリスに向かって糸を吐きつつ飛びかかる。


「 ウィンドカッター!」


アルが風魔法を連続で打ち込むと、

風の刃が飛び掛かっていた蜘蛛の1匹を空中で切断し撃ち落とす。


「えぃやっ!」


「ファイアボールっ!」


木に登り、隙を狙っていたカタリナが、

クリスに飛び掛かっていた蜘蛛の一体を狙い、短刀を投擲して突き刺し墜とすと、

そこへルティアの放ったファイアボールが着弾し燃え上がる。


最後の1匹はクリスに飛び掛かるが、火属性を纏った剣を一閃して、

吐き出された糸も纏めて蜘蛛を切り捨てた。


「ふぅ……、ルティア!大丈夫?怪我してない?」


蜘蛛を倒し終わった全員がルティアの元に集まり、クリスが声をかける。


「クリスちゃん、ごめんなさい。蜘蛛は苦手で取り乱しちゃったわ。」


ルティアが涙目で答えるとカタリナも言う。


「あぅ……ぶ…無事で良かったです。」


「カティちゃんもありがとね。」


3人は抱き合って無事を喜んでいる。

ルティアの乱れた服装も既に直っており、

アルは残念な気持ちを顔に出さない様に、キリっとした表情で言う。


「さて、森で視野が悪いから、警戒して先に進もうか。」


「そうね。 蜘蛛の対処も大体判ったから私に任せて。」


アルがそう言うと、クリスが意気込む。


しばらく進むとまた大蜘蛛が現れたのでクリスの炎剣で切り捨てる。

そこで驚くことが起きる。

いつもなら靄と成り魔物の身体は消えていき、魔石が残るが、今回は違った。

死体がモヤとなり消えた後に、魔石がコロリ、その後にポトリ。


「あ……、ドロップ…、初めて見た気がするわ…。」


クリスが呆然とした表情で呟く。

蜘蛛の足が素材としてドロップしたのだ。


「え? 今の蜘蛛の足が素材としてドロップしたのか?」


アルが疑問を問いかけるとクリスは驚きの表情で言う。


「ええ……、確かに大蜘蛛の足だわ……。」


「ダンジョン入ってから今まで、全くドロップが無かったから、

ドロップの存在を忘れてたな…。 ちょ…、こっち向けんなっ!」


アルも予想外のドロップに驚いてると、

クリスが蜘蛛の足を掴み、アルに向けてプラプラさせる。


「蜘蛛は苦手ですけど、ドロップすると嬉しいですね……。

あぅ…でも…、こっちに振らないでくださいぃ…。」


カタリナが若干興奮気味に言い、クリスがカタリナに向けると顔を逸らして嫌がる。横で黙っていたルティアが、プルプルと震えて叫び出す。


「もう嫌ぁっ! なんでっ!? よりによってっ!?

初ドロップが蜘蛛の足なのよっ!!」


「る…ルティア姉さま…落ち着いてください。 

ほ、ほーら…、だ…大丈夫ですよぉ~。」


ルティアが発狂気味に愚図ると、

カタリナが背中を撫でてあやしながら落ち着かせる。


クリスはプラプラさせていた蜘蛛の足を一瞥した後、

アルのマジックバッグに突っ込む。


「ちょっ、俺の方に入れるのかよ! まぁ…、良いけどさ…。」


「私も、そんなに苦手では無いけれど、好きでは無いのよね。」


「俺も、好きじゃないよっ!?」


「もう嫌ぁ……。蜘蛛だけは、本当に駄目なのよ……。」


ルティアが半泣きになりながら呟き、それを宥めながら一行は先に進むのだった。



―――――



そのまま、出てくる魔物(蜘蛛)を討伐しながら進み、

ルティアが泣き疲れる頃に、下に降りる階段を見つけると、

ルティアがアルの腕を引っ張り、階段を駆け下りて行った。


17層は同じ森だが先程よりも森の密度が下がり、

森というより雑木林の様な感じだった。


「さっきの階層は森の密度が高かったけど、ここの方が少し広く感じるわね。」


クリスが周りを見渡してそう言うとカタリナも頷く。


「あぅ……、ここの方が木々の間隔が広くて草が多いです。」


「何かこの階層から違う気配を感じるわ。」


クリスが周囲を警戒していると、蜘蛛の魔物が一匹、木の陰から飛び出してきた。


「あぅ…、ま…また蜘蛛です…。」


それを見たカタリナがもう要らないとばかりに声に出すと、

プルプルと震えていたルティアが徐に大蜘蛛にスタッフを翳す。


「焼き払えっ!」


そう叫ぶと、ルティアの前方に、炎の槍が1本出現し、蜘蛛に向かって飛翔する。

ランス形状の炎の槍が大蜘蛛の胴体に刺さると、

激しく燃え上がり瞬時に焼き尽くされる。

完全にオーバーキルである。


「あぅ……。ルティア姉さま……凄いです…。」


「ふっふっふっ…、私が本気を出せばこの程度…。」


カタリナの賞賛にドヤ顔で胸を張るルティアを見て、

クリスとアルが同時に呟く。


「キレたわね…。」


「キレたな…。」 

(どこぞの皇女殿下かよ……。)


そんなツッコミは心の内で止め、一行は先を進むのだった。


焼き払われた大蜘蛛以降、蜘蛛は姿を見せず、

その後の魔物はオークに遭遇するようになっていた。


オークが相手だと、ルティアが怯える事も無くなる。

逆に、カタリナの目が若干据わり気味ではあるが、

特に問題も無く、一行は探索を進めて行く。

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