第43話 栄養ドリンク?



クリスの意識が今に戻る。

知らずに握り締めていた手見て、手を開きユラユラと振る。


少し回想に浸り過ぎていた様で、焚火を見ると燃え尽きそうになって居た。


(焚火が消えかかってるわ…。 

一人で黙っていると、あの夢を思い出してしまうわね…。)


焚火に薪をくべ、灰を動かして空気を送る。

火の勢いが戻り始めるのを確認すると、傍らで寝ているアルを見る。


「貴方を守るわ…、この命に代えても…。」


そう呟いて、アルにキスをした後、

立ち上がり気持ちを切り替える様に頭を振り、

ジッとしていて固まりそうになって居た身体を動かす。


(しっかりしなきゃ……、二度とあんな事にならない為にも。)


そう決意し、朝の食事の準備を始める。

暫くすると、ルティアとカタリナも起き始めて来てテントを片付け始める。

まだ寝ているアルを揺すり、声を掛ける。


「アル、そろそろ起きなさい。」


「う~ん……あと少し……。」


そう寝言を言ってクリスの腰に抱きついてくる。

クリスはやれやれと言った感じでアルの頭を優しく撫でる。


「はいはい…、じゃあ…、もう少しだけね……。」


(全く……いつまでたっても子供なんだから…。)


そう思いながらも、口がにやけてしまいそうになるのを我慢する。


「うふふ、クリスちゃんもアル君には甘々ね。」


「そっ……そんな事は無いわよ? ほら…起きなさい。」


ルティアに指摘されてクリスが慌ててアルを揺すり声を掛け、

頭を軽く叩くと、眼を開き、欠伸をしながら起き上がる。


「ふぁー……、おはよ……クリス。」


そう言って抱きついてくるので引きはがす。


「はいはい、おはよう……。」

(やっぱり全員の相手をすると眠そうね…。)


まだ少し寝ぼけているのか、ぼーっとしていた。


「さっ、そろそろ朝食にしましょ。」


そう言うと、ルティアが器に盛ってくれて、カタリナが配ってくれる。

ぬぼーっとしていたアルも黙々と食事を取り、食べ終わる頃には目が覚めた様だ。


「ありがとう、美味しかったよ。じゃあ食事も済んだしそろそろ出発しようか!」


そう言って荷物を収納して行き、歩き始める。


10層の草原は僅かに起伏があり、立ち位置によっては死角が出てくる。

少し背の高い草木もちらほらあり、物陰はそれなりに多く、

暫く歩くと、カタリナが立ち止まり申し訳なさそうに言う。


「あぅ…、ごめんなさい、囲まれました…。

前方と、左右、距離1キロほどで、数はそれぞれ10づつぐらいです。

雰囲気からして、昨日のと同じ、狼かと…。」


「気にするなカタリナ、それだけの距離で察知出来てるお前も凄いよ。」


アルは優しくカタリナの頭を撫で、指示を送る。


「クリスは前、俺はそのすぐ後ろ、 ルティアはその次で魔法、カタリナは、ルティアの護衛。

それを維持しながらゆっくり下がるぞ。」


「ええ……わかったわ。」


アルはそう指示を出して、静かにゆっくり下がり始める。


「あぅ…下がったのに気づかれた見たいです。全部が一気にきてます。」


「了解……、俺とルティアで可能な限り減らすから、クリス突破してきたのを頼む。

ルティアは前へ打ち込んでくれ、カタリナは更に抜けてきたのを頼む。」


「任せなさい。」 「が…頑張ります。」


「行くわよっ! フレアバースト!」


クリスとカタリナが返事をし、ルティアが前方に、爆発する火球を打ち込む。


「アースホール!アールホール! アイスウォール!アイスウォール!」


アルは自身を中心に、左右にハの字に塹壕とその際に氷の壁を建てていく。

高低差を増やし乗り越えにくくして、迂回して後方側に回り込むと、

接敵時間に大幅にズレがでるので、前方側に回り込むか、無理矢理の乗り越えてくるか…。


そう予想してる間に、正面にルティアの火球が着弾し、爆発する。


「ぎゃん!キャウンッ!? ギャッ!」


前方の氷の壁から顔を出した狼が炎に焼かれて焼け死ぬ。


今ので、3匹巻き込めたようだが、

他は吹き飛ばされただけや、範囲外の個体もまだまだ多い。


「アースパイク!」


死体を乗り越えて来た後続の目の前に石の槍衾を出現させて貫く。


「グァ…ッ!ギャンッ!」


「ルティア、今のをもう一度撃って!

クリス、それが着弾後前に、俺も続く。」


「判ったわ、フレアバースト!」


「了解よ、カティ、ルティアをお願いね。」

「あぅ……了解しました。」


そして正面、ハの字の氷壁の中央に火球が着弾し爆発を見て、クリスが双剣を構え飛び出す。


「はっ!」


クリスは左右に踊るように狼の群れを切り裂いていく。

アルは追従して、クリスの死角に回り込もうとしたのを、ストーンバレットやアイスアローで妨害する。


「いくわよっ! ファイアランスっ!」


そこへ、ルティアのファイアランスが貫通形状で横切り、

こちらに注意の向いていた狼を横から撃ち抜いて行く。


「ガッ、グルルゥゥゥ……、ガァアッ!!」


氷の壁に爪を立て登ってきた狼が、氷壁の上からルティアに飛び掛かる。


「っ! させませんっ!」


飛び掛かった狼がルティアに噛みつく直前、カタリナが短刀を振り抜き狼の首を刎ねる。


「ありがと、カティちゃん。」


ルティアは礼を言うと、正面に向き直り魔法を紡ぎ始める。


「散開してねっ! フレアバースト!」


クリスとアルの居る方向に、火球を放物線を描く角度で打ち出す。

それを見たアルとクリスは素早く退避する。

そこに地面に着弾した火球が爆炎と爆風を巻き起こし、多数の狼を焼き払う。


「ストーンバレット5連 アースパイク!」


アルは後退しながら前方に向かってストーンバレットを連打し、

氷壁の間に飛び込んできた狼たちに向っての槍衾の様に石の槍を地面から突き出す。

氷壁の上から飛び込んでくる狼達をクリスとカタリナが切り払う。


「フレアバーストッ!」


アルの出した槍衾の上に火球が着弾し周囲に居た狼を吹き飛ばしたところで、

残った個体が散開して、離れていくのをカタリナが察知し安心した様に呟く。


「あぅ……、逃げて行きます……。」


「お疲れ、カティちゃん。」


そう言ってカタリナの頭をルティアが撫でて労うと、嬉しそうにする。


「それにしても、多勢に無勢ってのは嫌なものね……。」


「狼は個体じゃゴブリンより少し手ごわい程度だけど、

群での行動がやっかいだなぁ。」


アルとクリスがぼやく様に話す。


「あぅ……、ごめんなさい。」


カタリナが申し訳なさそうに俯くと、ルティアが抱きしめて頭を撫でる。


「違うのよ、カティちゃんが悪いんじゃ無いのよ、気にしないで。」


「そうだぞ、カタリナ……、俺達は誰もお前を責めてなんていない。」


ルティアがフォローすると、アルもカタリナに気付く誤解を訂正する。


「あぅ……、でも……失敗ばかりで……。」


「あれが失敗なら全員の失敗だ。だからみんなで頑張ろう。 っな?」


アルがカタリナの頭にポンと手を置きながら優しく微笑む。


「あぅ……、はい!頑張りましゅ……。」


そう言うと真っ赤になって俯く。

その様子を見ていたクリスとルティアは思う。


(アルの微笑みは卑怯よね…。) (アル君の微笑みってずるいわね…。)




その後も、時に狼の群に襲われ、オークがチラホラ現れるも撃退し、

さらに奥に進んで15層にまでやってきた。

引き続き平原が続いているが、遠目に森が見える。


(ダンジョンで森が見えるのは初めてだな……。)


アルが物思いに耽っていると、カタリナのお腹がグ~っと鳴る。


「あぅ……、お腹が空きました……。」


カタリナが恥ずかしそうに俯いて呟く。


「じゃあ、ちょっと遅くなったけど。ここで昼食にしようか。」


「そうね、森まではまだあるし……、森は魔物が多いかもしれないしね。」


食事の準備を始め、腸詰肉…いわゆるソーセージと、

パンを焼いてみんなで食べ始める。


「そういえばアル君の性液って栄養になるかしら?」


ルティアが昼食の腸詰肉を見ながら真面目な顔で言う。


「栄養になるかは解らないけれど、元氣になるのは確かね。」


ルティアの疑問にクリスも真剣な表情で腸詰肉を眺めながら言う。


「普通ならタンパク質…、

一部の栄養は取れるだろうけど、魔力に変換してるからなぁ…。

馬鹿なこと言ってないで早く食べなさい。」


既に食べ終わったアルは微妙に呆れた表情で腸詰肉を眺めながら言う。


「でも、試してみたいわね……。」


クリスが興味深げに呟く。


「お前は食事の度に俺のズボンを剝く気かっ!」


「………、冗談よ…。少しだけ…。」


「それ殆ど本気じゃねぇか…。」


アルのツッコミにクリスは不貞腐れた様に目を逸らす。

アルはやれやれといった表情で肩を竦める。


「でも、アル君の精液を飲むと元氣になるのは確かよね…。」


「アルって精力お化けだし…、試す価値はあると思うわ。」


「あぅ…、わ、わた…私も興味あります。」


3人が顔を突き合わせ、ヒソヒソと確認し合うと、

一斉に振り向き、まじまじと股間を見つめてくるので、アルは後ずさる。


「んなっ! み……3人がかりで俺のズボンを剝こうとするなっ!」


「アルは往生際が悪いわね……。」


「ええ、もう諦めて私たちに全て委ねて楽になれば良いのよ?」


「どーんっ! アル兄様捕まえましたっ!」


アルは立ち上がり逃げよとしたがクリスに回り込まれて逃げられない。

ルティアが背後から投降を呼びかけ、その隙に死角からカタリナが飛びつく。


「ふふっ、カティ…ナイスよっ!


「えへへ~。」


「さぁ…アル君、観念なさい!」


「いや……お前らのその目はかなり怖いわっ!」


クリスに褒められてアルに抱き着いたまま照れるカタリナ。

手をワキワキさせながら、にじり寄るルティア。




―――――



食事を済ませた一行は、平原を歩き森のまでやってきた。

15層に入ってから魔物との遭遇は未だにない。


「はぁ……結局、全員に飲まれてしまった……。」


三人は艶々した顔で機嫌が良い。


「アルの精液、味はともかく、今すごく体調が良いわ。」


「そうね、気力が充実してて、元気が溢れてる感じよ。」


「あぅ……私は今も体がポカポカしてます。」


「俺の精液が栄養ドリンク扱いされてる件。」


アルはどんよりしながら呟く。


「こんな所で立ち止まってても仕方ないわ、森に入りましょう?」


クリスがそう言うとみんな頷いて森の中へと入っていく。

森の中を進んでいくと、イノシシが単独で襲って来る。

猪と言っても全高3m近くある、巨大な猪だ。


「ヘヴィーボアね。突進が強力らしいから気を付けて!」


ルティアが資料で見たのか教えてくれる。

流石元受付嬢。知識量が半端ない。


「クリス、カタリナ、俺が奴の突進を止めるから止めを刺してくれ!」


こちらに突進して来るヘヴィーボアを見据えアルが指示を出すと、

クリスとカタリナが左右に散開する。


「アイスウォール!」


アルの声に応じ、地面から氷の壁が3枚隙間なく重なり建ち、

ヘヴィーボアは躱わす事も出来ずに氷壁に突進する。


一枚の厚み約50cmの氷壁が2枚砕かれたところで、ヘヴィボアの動きが止まる。

そこへクリスが近寄り右側の前後の足を斬り飛ばすと、ボアが右回転で転がり腹を上に向けるそこへカタリナが飛び乗り喉から短刀を突き込むとボアの動きが止まり徐々にに靄になり消えていく。


「ふう、問題なく倒せたわね。」


「あぅ……やっぱりちょっと怖いです。」


クリスが軽く息を吐き、カタリナがそう言って呟くと、


「私の出番が無かったわね。

カティちゃんからしたら、倍以上の大きさですものね。」


「あぅ……ありがとうございます。」


ルティアが苦笑しながらカタリナの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。


その後も何度も、ヘヴィボアの襲撃もあったが、問題無く処理して、

最後はクリスが1人で仕留めていた。

そして16層への階段を見つけ降りるとそこは森の中だった。





――――――



投降が遅くなり申し訳ありません。



出張から帰ってきたら、更に出張で飛ばされることが決まりました。

隙間を見つけて、なるべく更新をして行きますので、

気長に宜しくお願いします。

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