第42話 回想・少女の見た悪夢



アルが横になり規則的な寝息を立て始めた頃、

焚火を眺めていたクリスは思考の海に沈んでいく。



―――――



時は遡り、クリスが10歳になって暫くしたある日の夜。



燃え上がり破壊されるブルグ村の家屋、その領主館も燃えている。


魔物達は突如、南東の方角から押し寄せて来た。


見た事もない大きな猪の様な魔物やそれに紛れるように居るゴブリンや狼。

数えるのも馬鹿らしくなるぐらいの数のオークが押し寄せて、

騎士や衛兵、そして村人や冒険者を蹂躙していく。

杖を持ったオークが火球を放ち、人や家屋を燃やす。

斧を持ったオークが冒険者に斬り掛かり、防護柵ごと薙ぎ払う。


猪の魔物やオークも単体や少数なら、何とでもなる。

だが、数の暴力と言うのは恐ろしく、

それなり以上の実力者であっても、その数に飲み込まれていく。


騎士や衛兵の陣頭指揮を取っていた領主でありアルの父親のジョシュア様や、

冒険者を取り纏めていた冒険者ギルドマスターは既に魔物達の群に飲み込まれて、

既に連絡は途絶え、避難指示が出ている。


私はアルの手を引き、エレナ様と母のマリーと一緒に、

倒壊して魔物が跋扈する村の中を西へと走っていた。


殿を母のマリーが務め追撃を躱しつつ、一行は西へ進む。

ゴブリンや猪の魔物、オークなどを、その圧倒的な魔法で蹴散らしながら、

先頭を走っていたエレナ様が急に足を止めて呟く。


「………、オーク……ロード…。」


其処には今まで見た中でも最も大きいオークがいた。


通常のオークは身長2m程で、

力士の様ながっしりとした体に脂肪の鎧を纏っている。

オークジェネラルでも、2m20cm近くはあり頭一つ分ぐらい背が高いが、

オークロードは更に大きく3mはありそうだった。



オークロードは左腰に人間が持てば両手剣のような大きさの片手剣を下げており、

右手には槍と斧を併せた様な武器、ハルバードを持つ。

こちらをしっかりと見据えており、完全に私達を獲物と認識しているように見えた。


オークロードがこちらへ一歩踏み出したその時、

建物の間から、人影が飛び出して来た。

クリスの父であり、マリーの夫、領主館の料理人でもあるモンドだ。

モンドは剣と盾を構え叫ぶ。


「ここは私が抑えるっ! エレナ様は北へっ…! 早くっ!」


「お父さんっ!」「あなたっ!!」


「……、いくわよ…、みんなっ!」


エレナ様が私の手を引き走り出す。

それを見送る様にマリーは動かず、エレナに向かって礼をする。


「エレナ様…、申し訳ありません…。 あの人を置いては行けません…。」


そう言ってこちらに背を向けるマリーは続けて言う。


「クリス…、……貴方はアル様を御守りしなさい!」


そう言い残し、すでに交戦しているモンドに加勢する為に走り出した。


「マリーっ!来るなっ!」「お母さんっ!」


お父さんと私は叫んでいたが、エレナ様が私の手を強く引き、怒鳴る。


「クリスっ!、しっかりしなさいっ!!」


私をそう叱咤するエレナ様は、涙を流していた。


オークロードは大きなハルバートを片手で振り回し、

力任せにモンドを殴りつける。

モンドは、盾で防ごうが、剣で弾こうが、

一々身体ごと弾き飛ばされ、凌ぐのが精一杯だった。


オークロードの持つハルバートの横薙ぎの一撃を、

モンドは剣の柄と剣身を手で押さえ防ごうとするその時、

傍に来たマリーに視線を一瞬逸らした。

ハルバードの一撃を受けようとした剣が折れそのまま体を斬り飛ばされ、

モンドの腰の辺りで上半身と下半身が別れた。


手を引かれつつも振り返ったクリスは放物線を描く父の上半身を見てしまうが、

目を閉じて全力でアルの手を引き走り出した。


「ブフゥ…。」


「………、あぁぁああああああああっ!!」


『つまらない。』そう言いたげに声を発したオークロードに対し、

マリーは逆上し、強烈な怒りと共に叫び、疾り出す。


「シッ!」


道中で拾った槍で渾身の突きを放つが、オークロードの左手に打ち払われ、

その衝撃に、槍が手から離れて飛ばされてしまう。


「……くぅッ!?」


すかさず距離を取り腰に挿していた短刀を引き抜き、

回り込んで飛び掛かろうと腰を軽く落とした瞬間、

背後からの強烈な衝撃と共に吹き飛ばされる


2.2m程の身長に力士の様な体格で、鎧を来たオークジェネラルが、

転倒したマリーの右腕を踏み抜き、右腕を折られたマリーは短刀を手放してしまう。


着ていたメイド服を破き剥かれ、両手でがっちりと体を抑え込まれたマリーは、

人ではあり得ない大きさの逸物を捻じ込まれる。


「いっ!!あ…っ! あっ!ぁぁあああああああ――――っ!!」


「マリィィィ―――ッ!! ゴッ! ………。」


オークジェネラルが、絶叫をあげるマリーの、髪を掴み乱暴に腰を振り動かす。

目の前で妻を犯されている、下半身の無くなった父が叫び声をあげる最中、

オークロードはモンドの頭を踏み潰すと、マリーを無視してコチラに歩き出した。


「クリス、マリーの事は私に任せなさい! …貴方達は早くっ!」


エレナの言葉が聞こえたが、私の体は恐怖から震えていた。

オークロードがこちらに向かって歩いて来ている。


「行きなさいっ! ぁあっ! ……うぁっ……、クリスゥゥゥゥゥッ!」


「お母さんっ!」


マリーは1人で、オークジェネラルに犯されながらも、皆に逃げる様に全力で叫ぶ。

エレナはクリスに先に行かせるように背中を押すと、

オークロードに対峙して声を荒げる。


「クリスッ!、アルッ! 行きなさい!」


「……、行くよ…、クリス……。」


そう言うとオークロードに向かってエレナは魔法を放つ。

水の弾丸、氷の矢、氷の槍、風の刃、冷気の波、

次々と繰り出されるエレナの魔法に、

オークロードは足を止めて、防ぎ、迎撃し、躱す、そして再び歩き出す。


半ば半狂乱になって居たクリスの手をアルが引き、強引に走り出す。


「………アイスランスッ! ………フリージングウェイブッ!

………ウインドブラスト!」


エレナは詠唱を呟き、大きな氷の槍をオークロードに撃ち込むが、

オークロードが持つハルバードで打ち砕かれる。

続けて襲う冷気の波を、

ハルバードを地面に向って振るい、地面を爆発させて打ち消す。

風の突風も軽く膝を曲げ腰を落として耐えてやり過ごす。


その直後、更にグッと膝を曲げ沈み込むと、

ハルバードを振りかぶりながら、大きく踏み込んでくる。


「早っ…! 氷の盾よっ!!、っ! クッ……、 うぐぅ…。」


魔法発動直後の隙を突かれたエレナは、

咄嗟に、氷の盾を創り出し、回避しようとするが、

簡単に打ち砕かれ、右太股の外側を浅く切られた。


エレナは切りつけられた痛みに構わずに、バックステップで距離を取り、

仕切り直そうと両足を地面につけた。

その時、建物の壁を突き破り、別のオークが飛びかかって来た。


「っ!? くぁっ…!」


目の前に集中しすぎて周りが見えていなかったエレナは、

慌てて前に転がる様に飛び込み避けたが、

オークロードが走り込んで来てエレナの首を右手で掴むと、

そのまま引き上げエレナを宙吊りにする。


「うぐっ…、うぅ……、ぁあああっ!!」


エレナは宙吊りにされたままオークロードの顔面に手を翳し、

魔法を放とうと魔力を集めるが、

オークロードの左手にエレナの右腕を掴み握られて、圧し折られる。


「ぐぅあぁぁぁーーーーっ!!」


エレナは右手を折られた激痛に絶叫する。

オークロードはそんなエレナの右腕を、そのまま口に咥えると、噛み千切った。


「いぎゃぁぁぁぁーーーーーー!!」


クチャクチャと咀嚼しながら、

激痛に堪えかね絶叫するエレナのドレスを掴むと引き千切り、

オークジェネラルよりも一回りは大きい逸物をエレナに宛てがい突き込む。


「イギィッ!? あああ・・・、イギャアァァーーーーッ!!」


「……ぶふぅ――」


『やっと捕まえた』とでも言いたげな息を吐き出し、

ミシミシとエレナの身体を押さえつける。

オークロードの巨大な逸物は並のオークよりも大きく凶悪で、

エレナの膣口は裂け、血が流れるが、

オークロードが力任せに腰を押し進める度に激痛に泣き叫ぶ。


激痛で飛びそうになるエレナの意識が、激痛で呼び戻される。

犯されているエレナの視界には、

代わる代わるオークに群がられているマリーが映る。



―――――



泣きながらも、アルに手を引かれて私は走っていた。

村の門が見えてくるところまで来た時、横から鎧を着たオークが飛び出してきて、

アルは避けきれずに体当たりを食らい、吹き飛ばされて手を離してしまう。


「アルっ!?」


「くそっ…! ウィンドブラスト! ウィンドカッター!」


アルは、伸し掛かってきたオークを風魔法で吹き飛ばし、首を切り落とす。

その間棒立ちをしていた私は、別のオークに捕まってしまう。

オークに服を掴まれ剥かれながらも、押しのけよう力を込めた瞬間、

アルの放ったウィンドカッターが、私を捕まえてたオークの首を飛ばす。

アルに感謝を伝えようと振り向く。


「アル…、あり……っ! アルッ! 逃げ―――」


アルの背後に大きな影が見えて、

アルに逃げるように声を出そうとした時、アルの顔が割れた。

顔だけではない、頭の先から体が二つにズレて、その場で別れ落ちる


「………、え…?」


一瞬、何が起こったのか判らなかった。


アルが殺されたと認識した瞬間頭が真っ白になり膝から崩れ落ち、

視界が狭まり何も考えられなくなる。


「……アル? …アル、 アルゥ…、ぅ…ぅぅっ…、 ……。」


必死で手足を動かし、四つん這いで這い寄り、

二つのアルをくっつける様に抱きしめながら呼びかけていた。


「ぶふぉぅ…。」


オークロード寄り一回り小さく、オークジェネラルと同じぐらいか、少し大きく、

オークジェネラルよりも派手な装飾を身に纏ったソレは、

アルを真っ二つにした血濡れの斧を片手で肩に担ぎ、私を見据えるとニヤリと笑う。


私はオークに迫られる恐怖よりも、アルが死んでしまった恐怖で体が動かなく…、

いや…、……動きたくなかった…。


ソレが私に手を伸ばし顔面を掴まれ、視界が暗転した所で――――




「いやあああああああああっ!! ………、アル…、アル…、アルぅ……。」


クリスは絶叫しながら目を覚ました。

そのまま俯き、震える身体を自分で抱きしめ、

長い髪を振り乱しアルの名前を呼ぶ、その瞳は未だ現実を視てはいない。


暫くすると叫び声で、目を覚ましたマリーが心配して来てくれる。

抱き締めて優しく頭を撫でてくれる、マリーの腕の中で、

クリスはマリーの服を掴み、眼を見開き、叫び、泣き崩れる。


「…おかあさんっ! …アルが死んじゃうっ!!

……死んじゃった、……やだよぅ、…ううっ……。」


マリーはクリスを優しく抱き上げると落ち着けるように、

背中を撫でながら、優しい声色で言い聞かせる。


「大丈夫…、アル様は死にませんし、……死なせません…。

だから…、落ち着きなさい…。」


「はぁ…、はぁ…、 ゆ…、………、夢…?」


震える声で呟き、周囲をみる。

寝汗で全身が、水を被った様に濡れている。

しばらくして落ち着いたクリスは、泣き疲れ、再び眠りに落ちて行った。



―――――



翌日、クリスはマリーに夢の話をした。


話をするうちにクリスは、

夢の内容が、現実になるのではないかと、再び体が震え出していた。


震えて塞ぎ込むクリスを、マリーは抱き締めて落ち着かせながらも、

聞いた夢の内容を考え、エレナに話そうと決めた。

子供の見るただの夢、にしては、妙に引っ掛かりを覚えたからだ。


マリーが部屋から出て行き、クリスは暫くベッドに座っていると、マリーがエレナを連れて戻ってきた。

エレナも話を聞くとの事で、

エレナとマリーに、クリスはまた泣きだしながらも、整理しつつ話をした。


黙って話を聞き終えたエレナは、暫く考えた後、口を開く。


「………、もしかすると…、

クリスの言っている夢は、予知夢かも知れない…わね……。」


そう思った根拠をエレナが説明する様に言う。


「オークジェネラルよりも、

一回り大きいのが、オークロードだと前に資料で見て知ってるわ。

だけど…、それよりも一回り小さくて、ジェネラルとは違う派手な装飾…、

オークエンペラーかもしれないわ。


………、エンペラーの記述は、文献に名前が載っているだけだから、

詳しくは判らないけれど…。」


文献や資料で見たことがある――。

その程度の存在を、クリスが知っている筈が無い。

『夢の中のエレナが言っていた。』 と言うクリスの話が、

妄想の類では無いとエレナにもそう思わせた。


「昔……、予知夢に関する文献も見た事が在るのだけれど…、

その通りになったこともあれば、ならない事も在って、

世の中を混乱させたとかで犯罪者扱いや、精神異常者扱いを受けたような、

記述もあったのよ…。」


クリスの見た夢と、違う結果になる事も、その通りになる事も考えられる。

事が起こるまで予知夢とは認められないからだ、故に予知夢の判断は難しい。


そして、予知夢の通りに事が起こり聖女や巫女の様に厚遇された事例や、

魔女や邪神の使途の様な扱いを受け迫害された事例があると言う。


「だからクリス…、貴方が嘘をついてるとは、思っていないわ…。

………、だけれど…。」


エレナは眼をを伏せて、悲しそうな表情を一瞬見せた後、

クリスの目をしっかり見て言う。


「貴方の為にも…、そしてアルの為にも…、

今暫くは私達以外には、黙っていて欲しいの…。」


エレナの言葉を聞き、夢を思い出したクリスは、

不安に駆り立てられ体を震わせるが、マリーが抱き締めて落ち着かせてくれる。


マリーはクリスの頭を撫でながら言う。


「大丈夫…。何も心配いらないわ…。私が守るから…。」


抱きしめられて優しく撫でてくれる温かさ、そして母から感じる愛情に、

クリスが落ち着きを取り戻した所でエレナは言う。


「貴方は夢の通りになった時に……、またアルを守れないかも知れない…。

それが…、怖いのでしょう?」


エレナが、クリスの頭を撫でながら問うと、クリスは小さく頷く。


「クリス……、強く成りなさい。」


クリスは驚いた顔で、エレナを見上げる。


「大切な誰かを守るには、強くなければならないのよ。

だから…、貴方は今よりも、強く成らなければならない。」


エレナの言葉を聞き、寝巻の裾をキュッと握りしめたクリスは、

唇を噛み、涙ぐみながらも頷く。


「もちろん…、私もマリーも、今より強くなるわ!

それに村を守れる様に対策も考えるわ…、だから…。」


エレナは決意を言葉に載せる様に宣言する。


「アルを……、お願いね。」


エレナは涙を溢し、クリスを抱き締める。

マリーも静かに涙を流していた。



昼過ぎ――― 


目を覚ましたクリスは鏡の前に立っていた。その瞳には決意の色を宿していた。

自分の髪を掴み、ナイフを手に取る。


「私は……、変わる……、強くなる……。 

実際に起こるかどうかなんて関係ない、何があろうと、今度こそアルを守る…。

………、この命に代えても……。」


クリスは長く伸ばしていた綺麗な黒髪を切り、髪型を変えた事でアルを驚かせた。








―――――――――


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。



私事で申し訳ないのですが、自身の仕事の都合で出張やらが重なり、

カクヨム様に投稿する為の性的描写の添削及び修正が滞っており、

次回の更新が4月頃になると思います。



1部完結迄、残りを走りきれるように準備して再開するので、

その時には、また、よろしくお願いします。

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