第39話 押すなよ?



村から半日ほど歩き、目的である北東ダンジョンの入り口まで辿り着いた。


今では人気が無いのか、人の姿は見えず、

仮設の冒険者ギルド出張所にも、誰も居なかったので、

そのままダンジョンの入口を通り過ぎて中に入る。


「ここに来るのも久しぶりね。」


「そうだな…、あの時はまだ2人だったしな。今日は皆が居るから楽になるな。」


「アル…、あのやらしいトラップはだめよ?」


「あれは俺のせいじゃないだろう…。」


「ア、アル兄様、や、やらしいトラップってなんですか?」


急にカタリナが興奮して食いついて来る。


「あら?カティ、興味津々ね?」


「はぅ……。い…いえその…、スミマセン…。」


クリスの言葉に顔を真っ赤にして俯くカタリナ。

そんなカタリナを見て、苦笑しながらクリスが思う。


(あのくだらない男達にレイプされたっきりだものね…。

トラウマになってるかも知れないと、性行為から遠ざけてたけど…。

興味があるならイメージを塗り替えてあげたほうがいいのかも知れないわね。)


クリスはしゃがみ、カタリナの顔を覗き込む様にして小声で問う。

カタリナも顔をほのかに赤くしながら小声で答える。


「興味…、有るのね?」


「あぅ…、は、はい……。」


「アル君はちょっとこっちへ~。」


ルティアが、気を利かせ、アルをおっぱいで押して連れて行く。


クリスは周囲に聞かれないように続けて問う。


「アルと……、したい?」


カタリナはボンっと赤くなってモジモジしながら言う。


「あぅ……、その……、

皆さんがアル兄さまとエッチな事を…し…してるのは知ってます。

わ…私に見せない様にしてるのも…。

で、でも、あ…アル兄様がお嫌でなければ……、わた…私も御奉仕したい…です。」


そう言ってカタリナはチラッと上目遣いでアルを見る。


ルティアはアルを遠ざけつつ抱きついて胸を押し当てながらも、

2人のやりとりを全力で神経を研ぎ澄ませて、耳ダンボにして聞く。


(カタリナちゃん…積極的ね…。)


「解ったわ…、その機会を今度用意してあげる…。

じゃあ、ダンジョン探索に集中しましょうか。」


前半を小声で伝えたクリスは、

じゃあっと立ち上がりながら、声を戻して全員に聞こえる様に言うと、

アルがルティアのおっぱいを堪能しながら、よく解ってない返事をする。


「お、おー?」


「あぅ……、わ、わかりました!」


カタリナは物欲しそうにアルをチラ見しながら返事すると、

アル達はダンジョンへ入って行くのだった。


「一応隊列のとして、道幅がある場合はクリスとカタリナが前衛、俺とルティアが後衛で、

道幅が狭い場合は、カタリナを先頭にクリス、ルティアで、

俺は、後方警戒して行こうと思う。」


全員の顔を見渡しながら確認すると、苦笑して続ける。


「まぁ暫くは、正直クリス1人で他は何もする事がないと思うけどね。」


「それもそうね……。」


「カタリナ、スライムだけは、動いてない時は気配を察知し辛いから、クリスと一緒に警戒しててくれ。」


「は、はい!」


そう指示され、緊張しながらカタリナが、警戒しながら進んでいくと

それを見たクリスがカタリナの背筋を指先でツゥ〜っと撫でる。


「ひゃぁぅん!」


カタリナはビックリしてビクッっと飛び跳ねる。


「クリス姉様ぁ…なんて事を……。」


「カティ、緊張し過ぎよ。

私が触ろうとしてたのにも、気付かなかったのがその証拠。」


「あぅ……、すみません。」


クリスは微笑みながら、カタリナの頭を撫でながら言う。


「貴方の責任感は尊い物だけど、私たちもいるのよ?

もう少し、肩の力を抜きなさい。」


「クリス姉様……ありがとうございます。」


カタリナは恥ずかしそうにお礼を言うと、皆と進んでいくのであった。

ダンジョンに入って暫くして、早速最初の敵が現れる。


「姉様…この先に、微かに動く気配が…。」


「気配が薄いのは多分スライムね。」


「スライムって、どうするんですか?」


カタリナが質問をするがそのまま歩き続ける。

少し手前で立ち止まると、

天井からベチャっとスライムが落ちてくるのを見て、クリスは答える。


「基本、物理は核以外には無効だから、魔法で倒すのが普通ね。

粘液が武器を腐食させるから、

武器を使う場合はこうやって武器を魔力で覆って…っ!」


クリスが説明をしながらショートソードを振るうと、

スライムの体内を移動していた核を斬り裂く。

そして素早く刃から魔力を飛ばして粘液を払うと、ショートソードを鞘にしまう。

その雰囲気だけを見れば、もはやベテラン剣士にも思える。 メイドだが。


「まぁ、こんな所ね。カティもやってみる?」


クリスがそう言うと、ルティアが口を挟む。


「スライムを物理で一撃で倒すって…、かなり凄い事よ?」


「俺には一撃は難しいと思ってたけど、やっぱりそうなんですか?」


「えぇ、凄腕って言われる様な、

剣士や槍士の人がやれるって聞いた事があるくらいで、

普通は魔法で処理するって聞くもの…。」


「へぇ〜。」


「物理でやるにしても、

大半はハンマーとか鈍器での打撃で力任せらしいしね。」


「やっぱクリスは凄かったんですねぇ…。」


その話を聞いて居たカタリナも興奮気味にクリスを褒める。


「クリス姉様、凄いです!かっこいいです!」


「ふふっ、ありがとう、カティ。」


そんな会話をしながら奥へと歩みを進めて行く。

最初に居たスライム以降も、

ゴブリンやスライムをカティが見落とす事なく発見していき、クリスが切り捨てながら進んで行く。


先行する2人をアルと魔石を拾いながら追従して居たルティアが口を開く。


「………、ねえ、アル君、私達要らなくない?」


「………、気付いちゃいましたか…。」


「何を馬鹿な事言ってるのよ。低層なんだから、今だけよ。

それにアルが前に出たら、私達3人で魔石を拾う役になるだけよ。」



アルが苦笑いしてルティアに同意してると、クリスからツッコミが入った。


「えぇ…、アル君もそんなになの…。」


「いや、そんな事は…「じゃあ、暫くアルが前衛ね、私達は後をついていくわ。」


その話を聞いてルティアがドン引きするのをアルは否定しようとするが、

クリスに遮られてぶった斬られる。


「え…、アル君って…、後衛よね?」


「まぁ…、そうですね…。」


「ルティアさん、見てたら判りますよ。

さぁ、魔石は私達が拾うから、アルは馬車馬のように働きなさいっ。」


「馬車馬て…、俺、主人「行きなさい。」


「………。」


クリスにシッシと追い払われるように手で追いやられて、

アルはタジタジになりながらも渋々前に出て進みだす。


「ギィ…」

「ギャッギャッ!」


暫く進むとゴブリンの声が聞こえて来て、

暗がりからライトの光に照らし出され4体のゴブリンが姿を現すとそのまま迫って来る。


アルが歩きつつ『アイスアロー』と呟き手を振るうと氷の矢がアルの前に4本展開して打ち出される。


「ギッ…」「グギャッ… ギャウッ…」 「キギャッ…」


飛翔する氷の矢は吸い込まれる様に其々のゴブリンの眉間にトントンと突き刺さり、4体のゴブリン動かなくなる。


それを見たカタリナが興奮して褒める横で、

ルティアはドン引きして居た。


「凄いっ! アル兄様、凄いです!」


「ねぇ…、クリスちゃん……。」


「……、理解してくれたかしら…。」


「えぇ……、あんなの見ちゃったらね……。

私…、魔法には結構自信あったんだけどなぁ…。」


そう言いつつルティアは魔石を拾いながら進んで行く。

その後も遭遇するゴブリンやスライムを、

アルは歩みながら氷の矢を打ち出して倒していく。

至近距離で飛び出してきたのには、

ウォーターボールを撃ち、仰け反らせその隙に氷の矢を撃ち込む


「それにしても……、剣も使えるのよね?全然使ってないけど…。」


アルの腰にぶら下がってるショートソードを見ながら、ルティアが言い、

カタリナも頷いて同意する。


「そ、そうですね……、く、訓練では木剣を使ってましたけど……。」


「………、それは私のせいかも知れないわね…。」


クリスは苦笑しながら、そう言いカタリナが返す。


「ど、どういう事ですか?」


「ふふっ、アルって昔から、

私と模擬戦してて剣技の才能がないと思い込んでるのよ。」


「へぇ〜。クリスちゃんは私の眼から見ても凄いからねぇ…。」


「でも、アルは剣でもその辺の人よりは強いと、私は思ってるのだけれどね…。」


「因みに、私が魔法を使わない理由もほぼ同じね、

アルが居るなら必要ないもの…。」


「クリスちゃんの魔法もかなりのものだと思うけど…、なるほど…」


(……、女3人寄れば姦しいとはこう言うことか…。)


後ろのの女性三人の会話が聞こえるアルは、心の中で独り言ちる。


その後もアルは一人で魔法を乱射し、3人に回収して貰い進み、

場所は6階層の前回3人組に襲われた辺りまで来た。

その少し手前の分岐で左に行くと前回の場所で、おそらく正解ルート。

右に行くと行き止まりだと予想される。


「そろそろ休憩に入ろうと思うけど、

右は多分行き止まりで、そこで休憩しようと思うんけど、どうかな?」


「そうね、良いと思うわ。」

「解ったわ。」

「わ、わかりました!」


3人が肯定するのを確認してから、アルは右へと進むのだった。

そして通路の行き止まりに到着する。


「時間は解らないけど、もう夜中に近いと思うんだ。食事をして交代で睡眠を取ろうか。」


「そうね、食事の用意は任せてくれて良いわよ。」


「じゃあ頼むな。カタリナとルティアさんは座って休憩してな。」


「は、はい! アル兄様!」

「そうさせて貰うわ。」


カタリナは元気に返事し、ルティアは返事を返して大人しく座って待つ。

前回のことを思い出したアルは、注意喚起のために声をかける。


「あぁそれと、奥の壁で…、

もし…、ボタンとか何かを見つけても、絶対に触らない様にな。」


アルが言うと続けて料理中のクリスが悪い顔でニヤニヤしながら口を開く。


「そうよ、絶対に触っちゃダメよ。絶対にね?絶対よ?」


「おい…クリス、フリじゃ無いんだぞ。」


「ふふっ、冗談よ。」


クリスが悪戯っぽい笑みを浮かべると、アルはため息を吐いて注意を続ける。


「はぁ……、とりあえず何があるか解らないから、1人の時に触らない様に」


「は、はい!」


カタリナが挙動不審気味に返事をして食事をする。



―――――



食事を終えて、アルが最初に見張りをして、ルティア、クリスと交代しカタリナの番なる。


「カティ、起きて。交代よ。」


「くー……、うにぃ……。」


クリスがカタリナを揺すって起こすと、半覚醒状態のカタリナは寝惚けつつ、

目を擦りながら起き上がりクリスを見て返事する。


「あぅ……おはようございます……。」


「ふふっ、おはようカティ。見張り頼めるかしら?。」


「ふぁい……、任せてくだひゃい……。」


(大丈夫かしら……?)


あくびをしながら答えるカタリナを見て、クリスは苦笑しつつ仮眠を取る為に横になる。


カタリナは暫くはじっとして見張りをして居たが、

じっとしてると眠くなるので、音を立てない様に周囲をウロウロし始める。

そして行き止まりの壁をなんとなく見ていると、見つけた。見つけてしまった。


「あぅ……。こ…これは……。」



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