第34話 魔物よりも醜い人間
気配察知と魔力感知を使い警戒しながら、身体強化を使い、あのパーティーが踏み倒したであろう獣道を走る。
5分程、走った頃、少し開けた場所で、散らばった荷物と破れたリュックを見つけた。
その近くには、まだ少年と言えそうな、頭の潰された遺体が在った。血溜まりの中に、水色の短めの髪が見える。
アルは悲痛な表情でその遺体を見つめる。
「………、遅かったか…。」
「アルッ! こっちっ!」
クリスが引き摺った跡と、大きめの蹄の様な後を見つける。
「っ!そうか、あいつらはガキ『共』って言ってた。2人居たのか。」
「あっちに行ったのね。」
「急ごう!」
クリスが途切れ途切れの引き摺った跡と蹄を追いかけて、更に森の中を進む。
5分程進むとまた開けた場所に出て、そこで大きな人影を見つける。
「居たわ…。あれよ…。」
少し長い水色の髪の少女がぐったりとしていて、その着ている服をオークの一匹に手提げかばんの様に掴まれてる。
3体のオークのうち、1体が右手にこん棒、左手に少女を、 もう一体はこん棒のみ、
更にもう一体は、皮鎧を着ていて、アックスと呼ばれそうな木製の柄の錆びた斧を持っている。
「クリス、女の子を掴んで居る奴と他の二匹を壁で分断するから、女の子を頼む。」
「了解…。」
「いくぞ…。 アースウォールッ! フリージングウェイブッ!」
クリスが迂回するために離れていくのを確認して、
2匹のオークと少女を掴んでいる個体の間に、土魔法で壁を作って分断し、
すかさず2体の方に氷魔法を放つ。
「ブギャッ!ブギャー!」
孤立した1体の元へ、クリスが走り込むとオークがこん棒を振り下ろしてくる。
そのこん棒を右に避け、少女を掴んでいる左腕を斬り飛ばしながら、横を通過する。
オークの背面に回り込んだクリスは、アルの作ったアースウォールを足場にして、
三角飛びの要領で、オークの背後から迫り、
振り向いたオークの首に横薙ぎの一閃で切り飛ばす。
―――――
土壁が出来て、振り向いたオークたちは、フリージングウェイブを放ったアルの元へ、
ドスドスと足音を響かせながら、走ってくる。
氷の波が直撃したかに思えたが、斧を持ったオークは、脚が凍結しながらも地面を踏み抜き氷を砕き、
少し動きを鈍らせながらもアルに迫ってくる。
(斧は上位個体か…。 ならっ!深い目のっ!)
「アースホールッ!」
斧持ちに追従していた、こん棒オークをスッポリと頭が隠れるぐらいの深い穴に落とす。
その直後、斧持ちが、斧を振りかぶっていた。。
「ッ! アイスウォール!」
振り下ろされる前の斧を握る手元を狙い氷の壁で突き上げる。
しかし、斧持ちは腕力で、氷の壁を砕きながらそのまま斧を振り下ろしてきた。
「っ! うわっ! くそっ…、 アースパイクッ!」
止められると思っていたアルは驚きながら、後転する様に回避すると、
穴から這い出ようとしていた、こん棒持ちオークの嵌った穴の内側から、
石の槍が突き出しオークの身体を貫通し絶命させる。
「アルッ!大丈夫っ!」
クリスがこちらに駆け寄ってこようとするが止める。
「大丈夫だ、斧持ちの相手は俺がするから、女の子を安全な場所に頼む。」
「分かったわ。気をつけてね?」
倒れている少女を抱えたクリスが離れた場所へ走っていくのを横目で見送り、
斧持ちオークと対峙し構える。
「アイスアロー5連、ストーンバレット5連」(アースホールッ!)
氷の矢5連射と石礫の5連射を、斧腹の部分で受け止め打ち払いながら、
感が良いのか直ぐにバックステップで落とし穴を躱す。
(……戦い慣れてるのか、勘が良いのか…。)
「アイスウォール! アースホールっ!」
「ブオォォォォッ!!」
アルとの間に氷の壁を建て、落とし穴をあけようとすると、察知したのか、氷の壁を飛び越えて、
唐竹割りの様に斧を両手で振り下ろしてくる。
「ウィンドカッター5連! ウィンドブラストッ!」
振り下ろしてきた柄を狙い、ウインドカッターの5連を打ち込むと、斧の柄が切断されて斧頭がアルを飛び越えて跳んで行った。
間髪入れずに、ウィンドブラストに寄る暴風で、斧持ちの身体を吹き飛ばし、
氷の壁に叩きつける。
「ブボォォォォッ!」
「アイスランスッ! アイスランスッ!」
打ち付けられて動きの止まった隙に、アルの身長ほどはある氷の槍を1発、2発と打ち込む。
一発目は腹部に、2発目は顔面に突き刺さり、刺突部分から、周囲を凍らせながら、オークは沈黙した。
「デカい体で、動きが早いのなんの、おっかねー…。」
そんなぼやきをこぼしながら、斧持ちの死亡を確認すると、クリスの方へと向かう。
「クリスっ! 女の子は無事か?」
少女の傷を見て居たクリスが顔をあげる。
「生きてはいるわ…。
顔だけじゃなく、全身にも打撲はあるけど、骨折はしてなさそうだわ。
だけどこれ…、オークにやられた傷じゃないわね…。
それに…、犯されたような跡があるし…、女性器からも出血してるわ。
アル…、回復魔法を掛けてあげて。 私は周囲を警戒してるわ。」
クリスは怒気を含んだ声色で、アルに預け周囲を警戒する。
「お、おう…。分かった。…キュア、…キュア、…キュア、と…、クリーン」
範囲が全身に及んでいた為、回復魔法を何度かに別けて掛けると、
傷は治っていくが少女は意識が戻らない。
少女を改めて見ていく、水色のセミロングの髪、小さな体躯、細い手足。
(この子、どっかで見たことがあるような…。)
「アル、治療、終ったのよね? あんまり半裸の女の子をじっと見ちゃだめよ。」
「違う違う!そう言う目で目で見てたんじゃないって…、
それよりこの子…、………、何処で見たのか思い出せないか?」
言われるまで気が付かなかったが、自分が凝視していたことに気が付いて、
少し慌てるが…また凝視して考える。
そんなアルを少しジト目で見た後で、クリスも少女の顔を覗き込む。
「んー…、見たことあるような…。………、あっ!
前にギルドで、荷物持ちをしていた子じゃない?」
「あー…、あの子か…。そう言えば、さっき逃げていたパーティー…。」
「あの、嫌な感じのパーティー?」
「あぁ…。あいつら、この子に怒鳴り散らしてたヤツとその仲間だろ。」
アルは眉間に皺を寄せながら話すと、クリスが怒りを含んだ顔で口を開く。
「まさか…、この子を囮にして逃げた…?」
「分からないが…、その可能性はあるな…。
なんにせよ、此処に何時までも居られないからオークを解体して、さっさと帰ろう。
クリス悪いけど、その子を背負ってくれるか?」
「わかったわ。」
オークを解体した後、クリスは少女を背負うと、森を出る為に歩き出す。
途中、散乱した荷物もすべて回収した。
男の子の亡骸から、冒険者ギルドカードを持っていたので、
それと髪の毛の一部を一房にして切り取りクリーンを掛けて布に包み回収して、
遺体はマジックバッグの口に入らなかったので、埋葬する事にした。
その場所に、墓標代わりに直系5㎝程の枝を切りを突き立てて…。
「………。」「………。」
2人はその間終始無言だった。
森の外に向かって歩いていると、もう少しで森を出れる所で、
クリスに背負われていた少女が薄っすらと目を開く。
「ん…、……、んん…。」
「あ、気が付いた?」
少女は、ぼ~っとした頭を無理やり振りながら周りを見る。
「あっ!オークはッ!」
クリスの背で飛び起きる様に上体を起こす少女を下ろしてあげると、
頭を撫でて落ち着かせるように言う。
「大丈夫よ…。もう…全部倒したわ…。」
「そ、そうですか…。
あ、あのっ!、キール…お、男の子…み、みませんでしたか。」
少女は震えながらも、今にも泣き出しそうな表情で訪ねてくる。
「ごめんなさい…。私達がここに着いたときには……もう……。」
「そっ、そんなぁ……。うぅぅ…、キールぅ……。ひっく…。」
2人から聞いた言葉に、涙ぐんだ瞳は決壊し大粒の涙を流しながら嗚咽を洩らす。
しかし、泣き叫ぶ声は出さない。
暫くふさぎ込んで泣き続けていたが、やがてそのまま寝てしまったようだ。
「いずれにせよ…、此処に居るのは良くないだろう、もう少し森の外に出よう。」
「………、そうね…。」
アルが女の子を背負い森の外に向けて歩き出す。
森の外に出てすぐの所で少女を寝かせて、野営の準備をする。
クリスが野菜と肉を使った煮込みスープを作っていると、
その匂いに釣られたのか、少女が目を覚ました。
「あ、あの……ここは……。」
「起きたのね? 森の外よ。お腹は空いてない?」
クリスが笑顔で話しかけると少女のお腹が鳴る。
「……、少し…、空いてます……。」
恥ずかしそうに答える少女にクリスが優しく話しかける。
「なら、食べれる分だけでいいから、しっかり食べてね?」
少女はお礼を言って受け取ると黙々と食べ始めた。
「好きなだけ御代わりしたら良いからな。」
「は、はいぃ…。」
少女が食べるのを見ながら、クリスも食べ始める。
少女は少しと言っていたが、余程お腹が空いていたのか夢中で匙を動かしている。
(この子は小動物かな…。)
そんな少女を見ていたらアルの視線に気が付いたのか、
少し照れながら言葉を発する。
「あ…あの…、私…、カタリナ…と、…言います。」
「そうか、俺はアルだ。よろしくな。」
「私はクリスよ、よろしくね?」
「あ…はい!よ…よろしくお願いしますっ!」
和やかな空気の中、食事が終わるとカタリナはお腹が膨れたからか、
うつらうつらと頭を揺らしている。
「カタリナ、これを被って寝なさい。」
「い、いえ…、そんな訳に…は…。」
カタリナは言葉の途中で瞼が下がり、寝入ってしまった。
「………、よっぽど…、疲れていたのね。」
「そうだな。それよりも、ずっと遠慮してるような、
我慢してるような態度が気になる。」
「そうね…。」
「クリス、俺が見張りしてるから、先に寝ていいよ。
出来れば…、一緒に寝てやってくれ。」
アルはそう言って二人にクリーンの魔法を掛ける。
「分かったわ、でも、貴方も無理してはダメよ?」
「あぁ、大丈夫だ。」
クリスは寝ているカタリナに寄り添い横になる。
「おやすみなさい。」
アルは頷きで返すと、焚火の前で不寝番を始めた。
暫く、薪をくべ、焚火を見ながらぼーっとしていると、カタリナが飛び起きる。
カタリナは慌てた様子で周囲を見回すがアルと目が合う。
「ご…ごめんなさいっ!私っ…! 私…。」
「カタリナ…、何を…謝っているんだ?」
「え…?その…、あ…あの、許可も無く…寝てしまったので…。」
「………、は…?」
アルは、何を言われているのか分からなかったが、
不快な感じがして、静かな声に思わず怒気を載せてしまった。
「ヒッ! す…すみませんっ!」
カタリナは、ビクッと小さな身体を揺らし、更に小さく座ったまま、
土下座の様に頭を下げる。
その様子を見て慌ててアルも取り繕う。
「い…いや…、すまない…、カタリナに怒ってるわけじゃないんだ。」
「あ…、はい…。」
暫く沈黙が流れるが、意を決した様にカタリナはアルに問う。
「あ…あの、お…、お聞きしたいことが、あ…あるんですが…」
「なんだ…?」
「な…何故、私を助けたんですか? ………、ど…奴隷として売る為に…ですか。」
「ん~…、その話の続きは明日にしよう。
取り敢えず、カタリナはもっかいゆっくりと寝なさい。」
「は、はい…。」
少し落ち込んだカタリナは横になり直ぐに寝息を立て始める。
少しするとクリスの服の裾を掴んでいた。
(奴隷か…、売る為にって事は、この子はまだ奴隷じゃない…と思うが…。)
「でも…、この子は…、
あのパーティーから、奴隷に近い扱いを受けてた様だな…。」
暫く、様子を見ていたが、とりあえず問題が無さそうなので、不寝番を続ける。
カタリナは寝てる間ずっと…、クリスの裾を握り締めていた。
翌朝、3人で朝食を食べ終えて、
クリスに淹れて貰ったお茶を飲みながら、昨日の話の続きをする。
「カタリナ、君は何故…、自分が奴隷商に売られると思ってるんだ?」
「え…? えっと…、い、一緒に居た人達が、
そ、そう話していたのを聞いていた…、い、言われていたので…。」
アルはカタリナの発言に、ため息を吐きたくなるのを、我慢しながら言葉を返す。
「そうか…。カタリナはどんな事情で、あのパーティーと一緒に居たんだ?」
「わ…、私は…。
お…王都の近くに在る、ス、スラム街で弟のキールと一緒に生きていました。
お父さんとお母さんの事は分かりません…。
あ、あの人達とはスラムで、キ…キールがリーダーのヘクターさんに声を掛けられて、お…弟と一緒に拾って貰ったんです。
ス…スラムで暮らすよりも、ぼ…冒険者として、
が…頑張れば生活できるようになるぞ。って…。」
「そうか…。そのヘクターって男は、一緒に居たパーティーメンバーの1人か?」
「は、はい…。か…体の大きな、こ…声の大きい人です。」
(………、アイツか…。)
カタリナは少し怯えた目で、説明をする。
「ス…スラムに居たとき、へ…ヘクターさんに拾われてから、
す…凄く優しくしてくれたんです。
ま…、まだ小さいから、ぼ…冒険者の荷物持ちとして働いて、
少しづつ覚えて行けばいいと…弟と二人で頑張って荷物持ちをしていました。
だ…だけど…。
に…荷物が余り持てない、わ…わた…私を、だ…段々と見る目が、
へん…変な、か…感じになってきて…。」
話をする途中から、カタリナの身体は震え始め、震えを腕で抑えつける様に
自分の身体を抱えながらも話を続ける
そんなカタリナにクリスが寄り添い、背中を優しく撫でる。
「大丈夫…? 少し落ち着いて…。」
「は…はい…。す、すみません…。」
「で…?」
話のオチが見えてきて、不機嫌さを滲ませてるアルが、先を促すとカタリナは話を続ける。
「に、逃げたかったけど、ス、スラムの人間だった私…と弟は…逃げても…、
………、ど…どこに行けばいいのか、判らなくて…。
ある日、ヘクターさん、の仲間のビルさんに、ビルさんのを舐めろと…、
断ったら……、な…殴られて、わ…わた…私を庇った、おと…弟も殴られて…。
ま…毎日のように、おこ…怒られるようになって…。」
カタリナは下を向いて、その小さな拳を固く握りしめ、ポロポロと涙をこぼす。
「『荷物を持てないお前は売るしかない』とか…、『これは躾だ』と言って……なぐられて…。」
嗚咽で声が出なくなったカタリナをクリスが優しく抱きしめているが、それでも絞り出すように声にする。
「ここの…、森で…、ビルさん…に、無理やり…、されて……、
弟は殴られて…気を失って……、オークに…見付かって…、置いて…行か…れ……」
そこまで、声にしたところで、カタリナは限界になり泣き出してしまった。
「………、分かった…、もう良い…。」
泣き出したカタリナをクリスが優しく抱きしめて、背中を撫で続ける。
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