第33話 西の森



夜の帳亭に付くとカウンターとテーブルは満席で奥の個室に通される。

アルが料理の注文して来ると席を立つと、クリスも付いて来る。


(お肉と俺たちには果実水で、ルティアさんにはエールで良いかな。)


注文した料理を持って個室まで戻ってくると、ドアの前まで来て、クリスがノックして中に入る。


「お待たせ。注文の品を持って来たわ」


「ルティアさんお待たせしました!エールです」


アルはテーブルの上に料理を並べて置く。

そしてアルがテーブルに座ると左にクリスが、右にルティアさんが座った。


「あれ?向かいの席空いてるのになんで隣に?」


アルが不思議に思い問い掛ける。


「あら、折角のお祝い事なのだから近い方がより良いでしょ」


「私はアルのお世話が有るから隣の方が良いのよ。」


ルティアがそう言うと、クリスも笑顔で頷く。


(うーん、まぁいっか)


アルは考えるのを止めて、ジュースが入ったコップを持つ。


「それでは、Eランク昇格を記念してかんぱーい!!」


「かんぱーい!」「乾杯!」


アルの乾杯の音頭でコップを打ち鳴らす。


「はむ、はむっこれは美味しいわね~」


ルティアが一番に料理に手を伸ばして美味しそうに食べる。



(ルティアさん美味しそうに食べるなぁ…。 そうだ…。)


アルは料理を取り分けて、フォークで肉を刺すとルティアの口元へ持っていく。


「はい、あーん」


「あ~ん。はむ…もぐもぐ。アル君、うん…美味しいわ、もっとちょうだい!」


ルティアは唇を舐めながら次の料理を催促する。


(うん、美味しそうに食べるルティアさんも素敵だ)

「は~い、ルティアさん、あ~ん…。」


(あ…、クリスがジト目でこっちを見ている…。後で何か言われる気がする。)


『自称』鈍感系では無い、アルはそんな予感を感じて先手を取る。


「はい、クリス、あ〜ん…。」


「あ~ん。あむ…ふふっ、こっちも美味しいわね。」


クリスにミートボールを差し出すと、嬉しそうに食べてくれた。


「はむっ…うん、美味しい…。」


クリスは満更でも無さそうな顔をして食べている。

ルティアさんはお酒を飲んで顔がほんのり赤くなって来ていた。


(美しい顔に眼鏡にお酒で熱った顔…、素晴らしい!)


アルが食い入る様に見つめていた為、ルティアと目が合う。


「あら、アル君そんなに熱心に見つめてどうしたの? もしかして惚れた?」


「え?惚れてますよ? ルティアさん綺麗だなぁと思って見てたんです。」


それを聞いたルティアは一瞬顔を真っ赤にするが、

唇を突き出して来たのでチュッとキスをする。


「ルティアさん、ありがとうございます」


「もうっ…」


ルティアは照れて横を向く。

クリスはそんな様子を見てアルの頬に手を添えてキスをしてくる。

軽いバードキスかと思いきや、がっつりのフレンチキスに突入し、

アルとクリスが舌を絡めていると、アルコールが入ったルティアが口を開く。


「あれ~? ふ~ん、私の前でお熱いわねぇ~」


その言葉にルティアの方を見ると白いシャツの胸元を手で拡げてパタパタしていた。


(ルティアさん…、酔ってる…。くっ…、謎の力が…。)


ルティアの胸元がチラチラ見えてしまう為、視線を逸らしたが、吸い寄せられる。


「あれー?アル君なんで目を背けてるのかな~?」


そう言う声も、どこか間延びした感じで表情も色っぽい。


「も~見てて良いんだよ~」


シャツと一緒にブラも拡げる為に乳首がチラチラ見える。完全に酔っ払ってる。


「も~駄目です。ルティアさん、アルには私のおっぱいを見て貰うんです!」


そう言ってクリスはアルの膝を枕にして横になった。


「あら…、ふ~ん…、ちょっと嫉妬しちゃったかな?」


「私はルティアさんも大好きよ、 でも今はアルに甘えたいの…。

膝枕が気持ち良くて、幸せになれるのよ。」


「ん~? どれどれ…。」


ルティアがクリスと同じ様に反対側から膝に頭を乗せて来た。


「俺はクリスもルティアさんも大好きですよ。2人とも良い匂いだ。」


そう言って頭を載せてる二人の胸を揉む。


「ん~、もうっ!アル君ったら酔っちゃたのかしら?」


「もぅ、アルのえっち。………、こんなに大きくして…。」


ルティアは嬉しそうに声を上げて揉む手を抑える。

クリスも胸を揉む手を抑えながら、アルのをさわさわと弄る。


「俺は二人に酔ってますよ。」


そう言うとアルは2人の頭を撫でて、軽くキスをした。

その後イチャイチャしつつ良い時間になって店を出る3人。

ルティアの提案で再びルティアの家に泊まる事になった。


「はぁ~今日は楽しかったわ~」


ルティアのベッドで3人で横になる。


「明日は私は休みだから、少し遅くても大丈夫よ」


「私は…、毎日してたから今日は譲ってあげるわ。」


そんな事を言われて、自制心が消し飛ばされたアルは、ルティアに襲い掛かった。

ルティアと何度もしてルティアがダウンした後、

結局、寝ていたクリスにも襲い掛かった。


(………、やっぱり精力だけじゃ無くて、性欲も増えてるよなコレ。)


アルは隣で寝ている2人を見て、そんな事を考えながら眠りに落ちて行った。



―――――




翌日、3人でテーブルを囲み、朝食を摂りながらルティアが言う。


「アル君、クリスちゃん、冒険者に転向するのはまだ先になるけど、前もって訓練を始めたいの。」


「訓練、ですか?」


「ええ、……2人の足を引っ張りたく無いから、

ある程度は自分を鍛えておきたいのよ…。」


「なるほど…、それなら喜んでお付き合いしますよ。」


「当然、私も付き合うわ。」


アルとクリスも了承する。そこでルティアが提案する。


「魔法の練習もしたいけど、最低限、自分の身を守れる様に、

戦闘訓練して欲しいわ。」


「じゃあ、魔法は俺が、戦闘はクリスが。

……この後で直ぐに調教を始めますか。」


「アル…、言い方…。 調教って響きが、やらしいわよ…。」


クリスがジト目で抗議してくるが、目を逸らし、玄関から庭に出て、話を続ける。


「じゃあ、さっそく午前中は魔法、午後から体技をしよう。」


「分かったわ。 魔法は…、どんな感じでやるのかしら?」


「個人的に…、魔法を……っと言うか身体強化もそうですが、

重要なのは魔力操作だと思ってます。」


「そうなの? 学園の授業では、正しい詠唱と、その速さ、

その後に魔法を具現化する為のイメージ力と習ったのだけれど…。」


ルティアの言葉に、アルが頷き、補足する。


「それは正しいですが、正しく無いとも言えます。

詠唱をキッチリ発声することによって、

ある程度固定された事象の発現と結果になりますよね?

では、短縮詠唱や、詠唱破棄はどうやると思いますか?」


「えっと、普通に考えれば出来ないわよね?

短縮すると…、発動しない。

もしくは、発動しても威力が落ちるし、消費が大きくなるわ。

それに、詠唱破棄なんてしたらほぼ発動すらしないわ。」


「普通ならそうですね。

僕も全部を知ってる訳では無いですが、僕の母も短縮詠唱の使い手ですが、

母の場合は、詠唱を短くした不足分を、

イメージと追加魔力と魔力操作で補っていました。」


「それってもしかして…、イメージと追加魔力がどうにかなれば、

詠唱破棄も可能なの?」


「はい。可能だと思います。ただその場合でも消費は倍増しますがね。

そこで、僕が注目したのが魔力操作です。

詠唱で行う事を全部、魔力を操作して補えば良い。」


「………、そんな事が出来るの?」


ルティアも真剣な顔で聞いている。


「例えば、水の初球のウォーターボールなら、

『水よ、我が敵を、穿て、ウォーターボール』ですが、

大雑把に、『水よ』で属性を、『我が敵を』で狙いを、『穿て』で威力を、

『ウォーターボール』で種類を、って感じだと思うんですが、

コレを魔力操作で全部やると……。」


そう言ってアルは指先から水球を作り出し、

発射して少し離れた地面に当てて見せる。


「こんな感じで…、魔力消費は変わらず、詠唱が必要ありません。」


「ルティアさん…、アルは当たり前の様に言ってるけど…、

アルの魔力操作は異常よ?」


「クリス、異常って…」


アルがショックを受けているとルティアさんが頷きながら口を開く。


「私もそう思うわ…。 この年でそれだけの事が出来るなら…、

恐らく宮廷魔術師クラスを越えてるわね。」


「えぇ…。」


「……ただ、魔法理論と言うか、推論は間違ってないと思うわ。

アル程は上手く扱えないけど…。

同じ訓練をして、私も似た様なことはできる様になったわ。『ファイアーボール』」


クリスも呟いて、火の玉を作り出し、地面に向かって打ち出す。

着弾して火球が弾ける直前に、アルが水球を当てて消火する。


「………、クリスちゃんも…、宮廷魔術師レベルって、自覚した方がいいわね。」


「いつも見てるのがアルだから…、自分が凄いなんて、少しも思えないわ。」


「はぁ…、2人を見てると…、

少しは魔法に自信が有るって、思ってた私が恥ずかしくなるわ…。」


溜息を吐いたルティアは、遠い目をしながら2人を見る。


「ま…まぁ、魔力操作の練習を始めますか。」


こうして始めた訓練は昼前まで続いた。


「はぁはぁ…、まさか…、魔力操作の練習がこんなに疲れるなんて…。」


ルティアは大量の汗を掻き、膝に手を付いて、息を荒げていた。


「アルは、ナチュラルにスパルタですから…。最初は辛いと思いますよ。」


クリスが、フォローになっているのか微妙な事を言う。


「さぁ、お昼を食べて休憩しましょう。」


クリスが3人分の料理を作って、昼食を摂る。

ルティアだけは無理して食べようとしていたが、

やっぱり疲れて食欲が無い様で途中でギブアップした。

食後にクリスが、ルティアの全身をマッサージしてあげていた。


午後からは体術の訓練で、

昔に習ったマリーさん直伝の遊びながらやる訓練をルティアに説明して始めた。

最初はキャッキャウフフと、クリスと楽しそうにして居たルティアだが、

やがて立てなくなり、座り込んで息を荒げている。


「ハァハァ…、流石にこれはキツいわね…。」


「あはは、クリスはナチュラルにスパルタですからねぇ。」


息を整えたルティアがジト目でアルを見る。


「それ…、クリスちゃんも同じ事を言ってたわよ…。」


「えぇ…。」


そんなバカなとでも言いたげなアルの表情を見てクリスも不満そうな顔をする。


「だって…、アルの魔力操作は異常だから。」


「いや、クリスも相当だと思うが…」


そんな2人のやり取りを見てルティアが笑う。


「2人とも、本当に仲が良いのね…。ちょっと羨ましいわ。」


アルはクリスと顔を見合わせるが、どちらからも言葉は出てこなかった。


その後訓練をした後に、ルティアさんにマッサージをしたら、

おっぱいを揉んでしまい、クリスにクビにされた…。解せぬ。

その後は3人で仲良く気持ちよくなって、朝を迎えた。



―――――



三人で朝食を摂っていると、ルティアが口を開く。


「今日はギルドで仕事だからもう少ししたら、先に出るわね。」


「はい、魔力操作の練習は何処でも出来ますから、焦らずに頑張ってください。」


「ルティアさん、頑張って。」


朝食を食べ終わり、冒険者ギルドへ向かうルティアを見送り、片づけをして、家を出る。

アル達も冒険者ギルドへ行き、依頼を見てみるが特に目ぼしい物は無かった。


「んー、ダンジョンに行くか、常設でのんびり森に行くか。」


「そうね…。

森でのんびり採取しつつ、西の村にでも行って見る?」


「よし、じゃあそうするか。」


2人はルティアに挨拶してから、冒険者ギルドを出て西の森へ向かう事にした。

森の中はいつも通り薬草や毒草などの調合に使う素材を採取しながら歩く。


採取をしつつ、もう少しで西の森を抜けるかと言うところで、

クリスの気配察知が反応した。


「アル、何かが来る、 数は…、4…、人…?」


森の南側を指差し、知らせてくれる。

二人は身を隠して、指し示す方を警戒していると、

やがて草木がガサガサと揺れ、人影が飛び出してくる。


冒険者風の男が3人と女が一人。


「はぁはぁ…、撒いたか…?

オーク共は、あのガキ共を追っかけてったみたいだな。」


「もーっ…! なんでこんな所にオークなんて出てくるのよっ! サイテーよっ!」


「あー…、ガキ共に荷物持たせたままだったぜ…。」


「あーもう、何処に行ったか分かんねぇ…。

どうするよ?ガキ共を探すのか?」


「………、いや…、もう今頃死んでるだろうよ。

さっさと帰るぞ…。  今日はやけ酒だ。クソがっ!」


パーティーは悪態を吐きながら、去っていった。


「……、行った様ね…。」


「クリス、あいつらの来た方向に行って見よう。

気配察知を頼む、俺は魔力察知をする。まだ生きてるかもしれないからな…。」


「えぇ、わかったわ。」

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