第32話 おっぱいがいっぱい。



冒険者ギルドに到着し中に入った所で、ギルマスのゼルと、ルティア、他に職員数名が待ち構えていた。


(何らかの連絡方法か、先触れでも出ていたのかな?)


「アル、クリス、無事で良かったが


冒険者ギルドに到着し中に入った所で、ギルマスのゼルと、ルティア、他に職員数名が待ち構えていた。

(何らかの連絡方法か、先触れでも出ていたのかな?)


「アル、クリス、無事で良かったが…、ダンジョン内で襲われたって?」


ゼルがデカい図体に似合わず、心配そうに声を掛けてくれた。

周囲は、野次馬の冒険者で人集りが出来始めている。


「えぇ…、大丈夫です。 それよりもこの2人です。」


縛られた2人にチラリと視線を向けた後、ゼルを見る。


「あぁ…、こいつらはなんだ?」


縛られた二人を見て、ゼルは訝し気にアルに尋ねる。


「この2人と死んだもう1人は、

ダンジョン探索中に遭遇した、自称【銀の器】の方々です。

マジックバッグを寄こせと、襲ってきたんで返り討ちにさせて貰いました。

その際に1人殺してしまいましたが、何か罰則はありますか?」


そう言って、マジックバッグに入れていた、斥候男だった死体を取り出し見せる。


アルの言葉を聞いて、周りに居た冒険者達は、一斉に驚いてカイラスとメアリーに非難の視線を向ける。


「なるほどな…。お前ら…、【銀の器】の名を語り強盗を、

しかも女子供に襲いかかるとはな…。そして返り討ちとなっちゃ世話ねえな。」


ゼルがそう言い二人を睨むと、

二人も縛られている事など、気にせずに言い訳を口にする。


「ち、違う! 俺たちじゃねぇよ!

ソイツらが、いきなり切りかかって来たんだよ!」


「そ、そうよ! コイツらが襲って来たからよ!」


二人は必死に弁明しようとするのを見ながら、ギルマスは頭を抱える。

アルはルティアに視線を向け話し掛ける。


「俺が襲ったなら、わざわざギルドに連れてこないで、その場で殺してますよ…。

ルティアさん、この人達の冒険者カードを預かって、

誰なのか照会して貰えますか?」


ルティアに頼んだ後、2人に視線を向け、少し声を大きくして言う。


「ね? 【銀の器】のカイラスさん。

貴方は、本当はどこの誰なんでしょうね? 誰なのかハッキリしないとね。」


ギルド職員の数名が、カイラスとメアリーから冒険者カードを抜き出すと、

一人のギルド職員が奥へと消えて行った。

カイラスとメアリーは、何やら必死に騒ぎ立てている。


「【銀の器】って、Bランクの4人組のパーティーだと聞いていたのですが…。」


アルの言葉に今まで騒いでいた、カイラスとメアリーが黙る。


「仮に…、貴方達の言い分が本当だとするなら…、Bランクの冒険者三人が、

不意打ちとはいえ、Fランクの冒険者二人に負けた事に…なるわね?」


クリスも冷たい声音で告げると、カイラスとメアリーは何も言えず黙り込む。


「それに、このダンジョンで【銀の器】の人達とは会っているけど…、

こんな奴らは居なかったはずだけどなぁ。」

(本当はあったことなんて無いけど・・・)


「っ! それはっ!」


アルの言葉にカイラスは反論しようと声を出したが、

野次馬の冒険者達も騒ぎ立てる。


「そうだぜ!それは俺も覚えてるぜ!」

「確かにアルのいう通りだな。」

「こいつらじゃぁ…、なかったな?」

「でも、それなら誰だよ…、こいつ等は?」


カイラスとメアリーは周りの声にまた押し黙ってしまう。

そんな喧噪の中、職員が戻ってきて報告し、ルティアが告げる。


「この三人のカードは偽装されていました…。

本当の名は パーティー名、【黒い刃】Cランクです。

彼はリーダーの剣士カイラスではなく、剣士のバン。

 魔法使いメアリーではなく、魔法使いマイラ。

亡くなった方は…、斥候のエバンスさんではなく、斥候のレオさんです。」


ルティアは告げると、カイラスと名乗っていたバンと、

メアリー改めマイラが、観念した表情になる。


「………、その通り…、です。」

「偽装してました…。」


バン達は、観念したのか素直に認めたので、ゼルが指示を出し、

職員が二人の拘束を引き継ぎ連れて行く。


「この二人は…、尋問した後は、ギルド本部と連絡を取り、

ギルド除名と恐らく奴隷落ちになるだろうな。」


全体に聞こえるように言い終わると、ゼルも奥に入っていく。


連れていかれた通路を、見ていたアルが呟く。


「奴隷…、ね…。」

(前世の価値観が残ってるせいか、『奴隷』ってワードに過敏になってしまうな。)


少し不機嫌そうな表情をしているアルを見て、クリスが心配そうにアルの手を握る。


「大丈夫だよ。」


アルがそう言い、クリスの手を握り返すと、クリスも微笑み返す。



――――



「さて、ルティアさんは空いてるかな?」


アルはルティアの目の前まで移動すると、笑顔で尋ねる。


「はい、アル君、空いてますよ。」


ルティアはそう言って、アル達を受付へと誘う。

アルは今回の襲われた時の経緯と状況をルティアに最初から報告した。


「そうだったんですか…、それは災難でしたね…。

でもアル君とクリスちゃんが無事で良かったわ。」


ルティアは手を胸に当てて、アル達に笑顔を見せる。


(あぁ…、ルティアさんのこの笑顔とおっぱいは、俺の癒しだなぁ…。)


ルティアの笑顔とおっぱいを見て癒されてると、クリスに脛を蹴られる。


「痛っ!クリス、痛いよっ!」


「アルがだらしない顔をしてるのが悪いんでしょ?」


蹴られた脛を擦りながら言うアルと、

ツーンとしてるクリスを見て、ルティアが笑いながら、

こっそりとシャツの胸元を手で拡げ、おっぱいをチラ見せして小声で言う。


「ふふっ…、アル君は私のおっぱい…、好きだもんね?」


「っ!? みぇっ! っ! あいたっ!?」


アルは目を見開いて、ルティアの拡げられたおっぱいをガン見する。

アルの両目には、チラ見えしてる先っぽしか映っていなくて、

足を上げ脛を擦っていたまま、空いてる手で摘もうと無意識に伸ばした所で、

先程とは反対の軸足の脛を蹴られて、アルはその場に転倒する。


アルは、涙目になりながら立ち上がり、クリスを睨み抗議する。


「何すんのさ!」


「何すんのさ、じゃないわよ!

また、鼻の下伸ばした上に、今度は手を出してたわよ!」


クリスはアルを睨み返しながら耳を引っ張り、小声で言う。


クリスの手から耳を守ったアルは、

突然悟ったような表情と芝居がかった口調で語りだす。


「クリス…、冒険者は何故ダンジョンに潜るのか…。判るか?」


「突然、何を言い出すのよ…?」


「そこにダンジョンがあるからだっ!」


クリスの眼前に指を突きつけ言い放つ。

そしてすぐさま、その手を引き、胸の前で拳を作る。


「クリス…、男がおっぱいに手を出すのは何故か…。判るか?」


「な…何を言ってるの、かしら…?」


「「「「「そこにおっぱいがあるからだっ!」」」」」


握り締めた拳を天高く掲げアルが叫ぶと、ギルド内に居た男性冒険者が両手を掲げて立ち上がり、アルと同時に叫んだ。

ギルド内の男達の心が一つになった瞬間だった。


「はぁ…冒険者ってバカばかりなのかし…「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」「おっぱい!」「おっぱい!」「おっぱ…ふぁっ!?………」


クリスの呟きは冒険者達の雄叫びに掻き消されたが、

奥の個室の扉がバンっ!と…音を立てて開き、

奥の部屋からゼルが、鬼の形相で登場したのを見て静まり返った。

ズカズカとアルに近寄ると、そのデカい手で頭をむんずと鷲掴みする。


「アル…、お前って奴は~…。」


ゼルは怒りと呆れを含んだ声を絞り出すと、

アルの頭を掴んだ手を拳に変えグリグリと押し付ける。


「痛タタタタッ!? イタイ!? 痛いですよっ! ギルマスッ!」


「痛くしてんだよ、このバカタレが!

人が取り調べの最中に、おっぱいおっぱいと扇動しやがってっ!」


「扇動だなんて酷いっ! 

今、俺たちの心は、一つになってたんですよっ! なぁ、みんなっ!」


アルの言葉と共に振り向くと、誰一人、目を合わさずに、

冒険者達は一斉に背中を向け何事もなかった様に振る舞う。


「みんなひでぇっ!?」


アルがその様子を見て情けない声を出す。

その様子に溜息を吐いたゼルは、ギルド内にいる全員に聞こえるように声を張る。


「はぁ…、取り敢えずこのバカは良いとして…、冒険者各位に通達だっ!」


ゼルは威厳のある態度で周囲を見渡す。


「今回、黒の刃を唆したのは、最近、噂になってる盗賊団だ!

一般人や商人のみならず、冒険者も狙われる事を肝に銘じろっ!」


ギルド内にいる冒険者達は皆、ゼルの言葉に耳を傾ける。


「特に、商人からの依頼が多いC〜Dランクの冒険者パーティーは気を付けろ! 」

ゼルはそこで声を落ち着けると、


「冒険者各位の依頼達成と無事を祈る。」

「「「「おうっ!」」」」

ギルド内にいた冒険者達は皆一斉に返事をする。


ゼルは仕事の邪魔になるので、騒いでいる冒険者達を解散させて、

アルとクリスの所に来る。


「パンドラには、今回のは依頼扱いにして、

報酬を出すから後で受付から受け取ってくれ。」


「わかりました。」「ええ、判りました。」


そこまで喋るとゼルは、真剣な表情になる。


「アル…、今回の件で、あの二人が奴隷落ちした場合、

その所有権の優先権は捕まえたお前達になるが…、どうする?」


ゼルのその言葉に、アルは即答する。


「いらないです。」


「一応………、理由を聞いてもいいか?」


まさかの即答に少し戸惑った様子を見せるゼルに、アルは笑顔で答える。


「ええ、 俺は奴隷って制度をあんまり好きじゃないからですね。

それに……。」


「それに……?」


ゼルは言葉の続きを聞いてくる。


「いえ、なんでもないですよ。」


「そうか…、判った…、話は以上だ。

あぁ…待て、ルティアから話があるみたいだ。」


ゼルの言葉に、ルティアの居るカウンターに行く。

ルティアは二人が来ると、笑顔で話し出す。


「アル君にクリスちゃん、【パンドラ】はEランクに昇格になるから手続きするわね。」


「え?Eランクになって良いの? まだそんなに依頼を達成していないけど…。」


「それはそうなんだけどね、前回の依頼のオークシャーマンの群や、

推定Cランクの強盗を返り討ちにした実力の評価と、

今回のを依頼達成扱いにする事で、Eへ昇格出来るわ。」


そう言ったルティアさんは整った眉尻を下げて、少し残念そうな顔をして続ける。


「本当はDまで上げたいけど、

護衛依頼を1件は、完遂してもらう必要があるから、今回はE止まりね。」


そう言って、ルティアは冒険者カードを受けとり、

魔道具に翳すと冒険者カードが光り、Eランクと表示される。


「ありがとう、ルティアさん。」 「ありがとうございます。」


「はい、これで【パンドラ】はEランク冒険者よ、これからもがんばってね。」


「ありがとう。あ、ルティアさん。 今日の仕事上がりはいつですか?」


「今日は…、特に予定も無いから、上がりは何時でも大丈夫だけど…。

どうしたの?」


ルティアの疑問符を浮かべた様子に、アルは誘う。


「Eになった御祝いにこの前のお店、夜の帳亭に、また一緒に行きませんか?」


「あら、いいわね! お邪魔しても良いのかしら?」


ルティアはとても嬉しそうに答える。


「勿論ですよ! ルティアさんに居てもらえれば俺たちも嬉しいですから!」


アルが言うと、ルティアは喜んで参加する事になった。


「じゃあ着替えてくるから、少し外で待ってて!」


そう言ってルティアはギルドの奥へと消える。

外で待つ事数分、着替え終えたルティアが姿を現す。


白のシャツに、黒のスリット入りタイトミニスカートで、黒のストッキング、黒のショートブーツと銀縁眼鏡と出来る女の服装のルティア。

白シャツを押し上げるFカップのロケットおっぱいに、

ボディラインの出るタイトスカートの組み合わせが良く似合っている。


「どう、似合ってるかしら?」


くるりとその場で回ってルティアが聞いてくる。


「うん、似合ってますよ!

仕事が出来る女って感じが、ルティアさんに良く似合っていてカッコいいですね」


「私にも…このおっぱいがあれば…」


「ふふっ、ありがとう。アル君、クリスちゃん」


3人は、そう話をしながら、村道を歩く。

既に日が落ち始めており、村の雰囲気も夜の顔を見せている。


「うーん、 夜の帳亭の料理は美味しかったから楽しみだわ~」


ルティアはアルの腕に、自分の腕を絡めながらクリスに話しかける。


「私も楽しみにしているわ」


そんなルティアの姿にアルは少し複雑そうな顔をする。


(ルティアさん凄い良い香りがして、腕におっぱいが当たって最高なんだけど…)


アルは顔には出さない様にしているつもりだったが、

クリスのジト目に耐えられず、歩きながら弁解する。


「ち、違うよクリス…誤解だよ。

ほ、ほらっ前に夕食に行ったお店なら個室があるでしょ?

だから、ルティアさんは個室で食事をしたいだけだよね?ね?」


「ふーん…?どうかしらねぇ…。」


「うふふ。」


アルの言い訳をさらっと聞き流すクリスが反対側の腕に抱きつき、

その様子を見て笑うルティアは夕方の村を歩いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る