第31話 無意識=本能?



6階層を進んでいると、前方から誰かが歩いてくる音が聞こえた。


「3人…? かな…。 クリス。」


アルの声にクリスは頷く。


前方の通路から姿を現したのは、冒険者3人組だった。

先頭の真ん中が男で剣を背負っている、剣士風で、その後ろに長い目の杖を持った魔法使い風の女、

男のすぐ左側に男は軽装で腰に短剣を挿している。


役割的に、前衛、斥候、後衛魔法使いと言った感じだ。


こちらを視認した、先頭の男は目を見開いて驚くと、後ろの女に声を掛ける。


「おい!あれ!!黒髪メイドと金髪ぼっちゃんじゃないか?」


男の言葉で、後ろの女もすぐに反応する。


「え?あ…、本当だわ。」


3人共冒険者の様だが、ギルドで見たかすら覚えていない。

アルが考えている内に、中央の男が声を掛けてくる。


「よう、金髪のお前さんが例のぼっちゃんか?」


男は鋭い目つきで話し掛けてくる。


「えっと…?多分…?」

(ギルドで俺等、そんな呼ばれ方してるのか…。)


アルは返答に困り言葉が詰まるが、何かを感じたクリスはアルを押しやるように前に出る。


「あなた…、一体何者? アルを馬鹿にした様に言うのは不愉快だわ。」


クリスは声に怒気を含ませながら言うと、男はそれを意に介した様子も無く答える。


「おぉ流石…、護衛兼お世話係。ぼっちゃんを守るのは大変だな。」


男は笑いながら言う。

クリスの表情はさらに厳しくなり、今にも飛び掛からんとする勢いだ。

アルはクリスの肩を掴み止めると、落ち着くように背中をポンポンと叩く。


「ちょっと待ってくれ、クリス」


「なに…?」


クリスはアルの方へ視線を一瞬だけ向けると、呟き再び男を睨みつける。


「ありがとう。」


アルは笑顔で礼を言い、クリスの頭をポンポンと撫でた。

するとクリスは顔を俯かせてアルより一歩下がった。


「お…? なんだ? いちゃつきだしたぞ。」


その様子をニヤニヤと見守る男。


「あ~、すまないがそちらの冒険者のお兄さん。 

俺たちはあなたとは初対面だと思うんですが、

一方的に貶される事があるような付き合いは無い…と、思うのですが、

お名前をお伺いしても?」


アルが尋ねると、男は少し驚いた様子だったが、

直ぐにニヤニヤしながら話し始める。


「俺達はBランク冒険者パーティー【銀の器】、そのリーダーで剣士のカイラスだ。

後ろに居る女はメアリーは、うちのパーティーメンバーだ。」


「俺はエバンス、金髪のお前…アルだったか、

そっちは黒髪メイドでクリス…でいいんだよな?」


「ええ、そうです。 

で…?あなた方とは初対面ですし、俺に何か用があるんですか?」


アルはカイラスの言葉に答える。


「何しに来た…か、そうだな…、ちょっと用事が出来た。」


カイラスがそう言うと、背後の二人がニヤニヤしながら笑う。


「用事ですか…?」


アルが警戒して聞き返すとカイラスが言う。


「なに、簡単な事だ…? その腰に付けてるマジックバッグを寄こせ…。」


「用はそれだけだっ!」


カイラスはそういうとほぼ同時に、

斥候風の男―― エバンスが、一気に距離を詰めて、

アルの左腰にあるマジックバッグへと手を伸ばす。


(っ! 早い!)


アルはエバンスの手を払い、バックステップで後ろへ下がり回避すると、

エバンスが感心する様に呟く。


「ほう…、今の不意打ちを避けるとは、少しは出来るようだな」


「あぁ、思い出しましたよ、銀の器さん、確か、アイゼン所属で、

こちらの調査に派遣されてきた方…ですね?」



アルは、冒険者ギルドでルティアから聞いた名前を思い出しながら言うと、

一瞬カイラスが表情を険しくするが、直ぐに戻し声のトーンをあげる。


「ほぉ! 俺らの事を知ってるとは感心感心。だったら話は早いな。」


「あれ…? でも、銀の器さんは4人パーティーと聞いていましたが、

あとの御一人はどちらに?」


アルは疑問を投げかける。

と…同時に牽制の意味を込めて、スタッフを取り出し構え、

身体強化を発動し、プレッシャーを掛ける。


カイラスはアルを見てニヤリと笑い、仲間と視線を合わせて頷きあうと、

エバンスが腰の短剣を抜き、斬りかかってきた。


(完全に…、やる気みたいだな。 )


「土よ、我が敵をその礫で撃ち抜け、ストーンバレット」


アルはエバンスの斬撃をバックステップで回避すると、

そこへ、魔法使いの女―― メアリーが詠唱して、石の礫が3発飛んでくる。


アルは驚きつつもそれを躱し、クリスを庇う様に立ち位置を調整して身構える。


「あら…、躱したね。」


メアリーが言うと、カイラスが吠える。


「余裕かましてんじゃねぇっ! 距離を詰めて畳みかけるぞ。」


エバンスとカイラスは一気に距離を詰めてくると、

メアリーは後方から魔法を詠唱し始める。

クリスがショートソードを二振り取り出し、右手の剣でエバンスに切り掛かる。

エバンスは左手の短剣でそれを受けると、右足で前蹴りを放つが、

クリスは斬撃の勢いのまま、エバンスの右側に回避する。

そこへカイラスの剣が振り下ろされる。


「くっ…。」


カイラスの振り下ろした剣をクリスが左手の剣で受け止めたところで、メアリーがファイアボールを放ってくる。


(これは躱せないな。)


アルはクリスとカイラスの立ち位置を見て、瞬時にそう判断すると、

クリスとメアリーの間にアースウォールを創り出してファイアーボールを防ぐ。

更に、間髪入れずに、メアリーに向けてアイスアロー5連を撃ち放つ。

メアリーは躱しきれず右腕と左肩に命中し、その衝撃で打ち倒されると同時に、

カイラスの剣を受けていたクリスは、その剣を滑らせて横に流し、

エバンスの腹部に、右足での横蹴りを放つ。


「アル!ありがとう。」


クリスはこちらを見ずに一言礼を言うと、腹を蹴られて一瞬動きの止まったエバンスに、左の剣を振り上げる。


「な…なんだこれは!」


エバンスが驚いたように叫ぶが、クリスの魔力を纏った剣は容赦無く振り抜かれ、

右腋から左肩へと剣線が通過し胸から上ががずるりと落ち倒れる。


「エバッ! ……、クソっ、何だってんだ、こいつらっ!

メアリっ!? おいっ!?」


カイラスはエバンスがやられ少し距離を取り警戒しようとしたが、

メアリーの負傷に気付き、そちらに意識が向いてしまい、その晒された隙をアルが狙う。


「フリージングウェイブ」


発動したフリージングウェイブが意識の逸れたカイラスに襲いかかる。


「なにぃぃぃ!!」


カイラスは叫び声をあげながら必死に身を躱そうとするが、

躱しきれずに腕で頭を庇う、両足が凍り付くと瞬時に凍結が広がり、

瞬時に庇った頭以外が凍り付いて自由を奪われる。


「くそっ! がぁぁぁぁぁ」


カイラスが叫ぶが、何も出来ずにただ立ち尽くすのみだった。


アルは切り捨てられたエバンスを、チラ見したあと、

氷漬けのカイラスと、負傷してへたり込んでるメアリーを見て言う。


「斥候さんは死んだか、まぁ仕方ないな…。この二人もどうしようかな…。」


「そうね…。ギルドに突き出すにしても、連れて帰るのも面倒ね。」


アルの言葉にクリスが答えると、カイラスが怒鳴る。


「くそ!卑怯な事しやがって!」


「はっ…、馬鹿じゃねぇの?」


アルは、カイラスに冷たい視線を向けると、抑揚のない声で告げる。


「俺達の何を指して卑怯と言ってるのかも判らないが、

『卑怯』にも、強盗をしようとしてきた相手に、卑怯とか言われましてもね。」


返事を待つ事も無く、アルはカイラスの口に布を詰め込み

顎を動かせないようにして、腕を動かすと首が締まる様にロープを結んでから、

動けるように凍結を溶かすと僅かに動くようになった体を揃え縛り直す。

メアリーも、傷口を凍らせるとそのままロープで縛りあげる。

メアリーを縛り上げる様子を見てクリスが口を開く。


「アル…、おっぱいを強調する様に縛るのは性癖がバレるわよ。」


「えっ!? いや……、そういう意図は無かったんだけど……。」


アルは縛る時にそんな事を考えたつもりは無かったので慌ててしまう。

クリスはじとっとした目でアルを見る。


「なるほど…、無意識って事ね。つまり、本能でそうしたと…。」


「いや……、そうなんだけど……、それも違くて……。」


アルは否定しようとするが、クリスのジト目は終わらない。



――――



「さて…、どうしようかな…。 本気で面倒だ…。

なぁクリス…、このまま置いて行ったらダメかな?」


アルが本気で面倒そうに言うとクリスは即答する。


「アル、それはダメよ。 せめて魔物の餌にする…、とかしないと。」


「えー…、はぁ~。」


クリスの提案を聞いて、カイラスと女は首をイヤイヤと振る。

アルは溜息を盛大に吐いた後、

カイラスとメアリーに視線を向けサイド溜息を吐く。


「はぁ~これから足だけ自由にするから、自分の足で歩いて…。

ギルドまで同行してもらう…。

抵抗すれば殺す、逃げ出せば殺す、騒げば殺す。 ………、判った?」


カイラスは無言でこちらを睨み付け、

メアリーも恐怖の表情を浮かべて二人は頷く。


「クリス、二人の足を自由にして」


「はいはい、全く…。」


アルの指示に呆れながら答えてクリスはカイラスと女の足に掛けたロープを解く。

自由になってホッとする二人を尻目に、

アルは斥候男だった死体をマジックバッグに仕舞うと、

カイラスとメアリーの2人に前を歩く様に促し、ダンジョンを戻り始める。


全員が暫く無言で歩いていた時、ふとクリスが疑問を口にする。


「【銀の器】って、アイゼン支部から派遣されてきた冒険者よね?

こんな盗賊紛いの事をする必要あったのかしら?」


「ん?、あぁ…、こいつらは【銀の器】じゃないよ、正体は知らないけど。

【銀の器】は男二人、女二人の4人でBランクパーティー。

このダンジョンの調査が終わったら、すぐに帰って行ったって話だよ。」


クリスの疑問に、アルが興味無さそうに答える。

それを聞いてカイラスとメアリーはビクっと体を震わせる。


「じゃあ、こいつらが【銀の器】の名前を語って盗賊紛いの事をしてたって事ね。」


アルは頷き答える。


「うん、そうだねぇ、有名そうな名前を語って、相手に近付いて襲う…、

って感じじゃない? あ、ゴブリン。」


アルは面倒そうに、手を振るうと、アイスアロー5連を放つ。

その矢は、2人の後ろから傍を通過して、ゴブリン3匹を即殺する。

その様子を見ていた、カイラスとメアリーは驚愕する様に目を見開く。


(なっ!)(無詠唱・・・)


クリスとアルはその様子を気にも留めず、

カイラスとメアリーの話しをしながら進む。


「やっぱり面倒になってきた…。 置いて行っていいかな…?」


アルの言葉にカイラスとメアリーの表情は青ざめる。


「駄目よ。そんな中途半端な事をすれば…、ギルドに私たちが疑われるわ。」


クリスの言葉にカイラスとメアリーは激しく首を縦に振る。


「やるなら…、奥に連れて行って、証拠が残らないようにしないと。」


続けて言うクリスの言葉に、カイラスとメアリーは激しく首を横に振った。


「最奥に連れて行くのも…なぁ、それはそれで面倒だな…。

はぁ…、最奥行くよりかは戻る方が近いか…。」


アルは顔をしかめて二人を見ると、仕方ないと外に向かって歩き出す。

カイラスは猿轡をされて喋れないが、メアリーは縛られてるだけなので、喋りかけてくる。


「あの…、アルさん?は、無詠唱で魔法が使えるんで…すか?」


か細い声にアルが答える。


「使えますよ、クリスもね。」


メアリーはアルに答えて貰えたのが嬉しかったのか、

瞳を輝かせて、少し明るい声で聞いてくる。


「どうやったら、無詠唱で魔法を使えるように成れるんですか?

私も使えるようになりたいです。」


「ちょっと貴方…、アルに馴れ馴れしいわよ? 死にたいのかしら…?」


「ヒッ…、ごめんなさい!」


クリスが不機嫌な声で殺気を漏らして言うと、メアリーは慌てて謝る。

不興を買い怯えたメアリーはそれ以降は、口を開く事も無く黙々と歩く。


洞窟の入口に辿り着き外に出ると、

男性のギルド職員が、縛られた二人を見て慌てて出てきた。


「お、お疲れ様です…。どうされたんですか? この縛られた二人は?」


ギルド職員は、縛られた冒険者二人を連れてるアル達を見て、

怪訝そうな表情で声を掛けてきた。


「ダンジョンの中でこの人達に襲われたので、

一人は死にましたけど、二人は捕縛して連れてきました。」


そう言うと、職員はカイラスとメアリーを見て顔をしかめる。


「そうですか…分かりました。

こちらで馬車を出すので、支部へご同行願えますか?」


ギルド職員は慌てて馬車の用意を指示すると、アル達にも馬車へ乗る様に促す。


「判りました、ありがとうございます。」


そうして、暫くした後、馬車に揺られて、冒険者ギルドに向った。



――――



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