第27話 過保護
1時間後、仕事を終えたルティアさんとアル達は、
冒険者ギルドを出て、通りを西側に向かい、
西門の前の交差点の北西角の『夜の帳亭』と書かれた、食堂に入る。
店に入ると、”いらっしゃいっ!”と大きな声が聞こえた。
(あれ…?どっかで聞いた声だな…?)
アルがそう思っていると、ルティアさんが店主と喋り出す。
「こんばんわ、3人でお願いします。」
「あいよー、まだ他に客は居ねぇから、好きな所に座ってくんなぁ」
カウンターの中で準備作業をしていたおじさんと、目が合いお互いに声をあげる。
「おん…? あんときの兄ちゃんと、嬢ちゃんじゃねぇか。」
「串焼き屋のおっちゃんっ!」
「おじさん、ここでお店をやってたのね。」
アルとクリスが驚きの声をあげると、串焼き屋のおっちゃんは笑いながら言う。
「ああ、昼間は趣味で、たまに串焼きの屋台をやってるんだ。夜はこっちで、カミさんと一緒にやってるんだよ。」
そう言って、おっちゃんはカウンター席を勧める。3人で座り、アルはおっちゃんに謝る。
「ごめんね、おっちゃん。
兎肉取りに行ったんだけどさ、あのあとちょっと立て込んじゃって、
持っていけなくて、食べちゃったんだよね。」
「んー? ああ…、あの兎肉の話か。
あの後から、見なかったから、別の町にでも、行ったのかと思ってたぜ。」
おっちゃんは、気にしてない様に、アルに笑顔で笑いながら言う。
「あれは今まで食べた中で、一番美味しかったから、また食べたかったんだよ!」
「おぅ、そうかそうか。まぁ今日はここでで、うめえもん食わせてやっからよ!」
「うん期待してるよ~」
アルとおっちゃんが会話をしていると、ルティアさんがおっちゃんに言う。
「おじさん、アル君とクリスちゃんがね、
オーク肉を買い取ってくれる所を、探してるのよ。
良かったら見てあげてくれない?」
おっちゃんは興味が沸いたようで、笑顔で答える。
「おう! とりあえず出して見なよ、見てやっからよ。」
アルは、凍らせたままの肉塊を2つ取り出してをおっちゃんに見せる。
ニコニコ笑ってたおっちゃんは、ブロック肉を見た瞬間、目付きが変わる。
「ほぅ…? こりゃまた…、でかいオークだな。
それに、この切り口…、兄ちゃんの剣か?」
「いんや、これはクリスが切ったんだよ。」
「そうかそうか、良い腕してんな。」
おっちゃんは、そう言ってクリスを褒める。
「ありがとうございます。」
クリスはいつもの様に返事をするが、ほんのり顔を赤らめて照れているようだ。
おっちゃんの反応を見たルティアさんが言う。
「おじさん、このお肉、いくら位になるかしら?」
「そうだなぁ…。オークの肉って、
確か…、普通のブロックで銀貨1枚…、くらいだったはずだが…。」
肉を見ながら呟くおじさん。
「うん…、このサイズのブロックでこの切り口に鮮度なら銀貨2枚出そう。
幾つ売ってくれるんだ?」
「これとほぼ同じのが、後21個あるのですが、幾つ買って貰えますか?」
クリスがそう言うと、おっちゃんは驚きの声を上げる。
「そんなにあるのか! ………、この冷凍も嬢ちゃんの仕事か?」
「いえ、この冷凍はアルの魔法です。」
「兄ちゃん後で、もう一回冷凍してくれるか?」
「この後、すぐでもいいよ。」
アルとクリスの返事で、おっちゃんが決めた様に顔を上げる。
「よし…、流石に全部は買えねぇが、15個買わせてくれや。
銀貨30枚でどうだ?」
「じゃあ、一個おまけで付けて、16個で売った!」
ルティアさんは、その値段を聞いて驚く。
「え!? そんなに高く買ってくれるの?」
「ああ、このサイズのブロックなら、それくらいが相場だ。」
「じゃあ早速納品しようか。そのついでに冷凍もしちゃうよ。」
「おう、じゃあこっちに来てくれ。」
おっちゃんに着いていき、納品と再冷凍を、済ませて戻る。
「おっちゃん、高く買ってくれるのは嬉しいけど、無理しなくていいよ?」
アルがそう言うと、おっちゃんが急に声が大きくなる。
「ばっきゃろーテメー!、良いものには、良い値段を付けねぇとダメなんだよ!」
「あ、アリガトウゴザイマスゥ。」
「ア、アルさん…、い、今から一緒にオーク狩りに行きませんか?」
おっちゃんに怒られてると、
ルティアさんが、腕に抱きついて来て意味不明な事を言い出す。
腕を包む幸せな感触に、思わずOKを出しそうになるが、心を鬼にして断る。
「ルティアさんなに言ってんの。今はご飯食べようよ。」
アルがそう言うと、ルティアさんはハッとして、おっちゃんに言う。
「おじさん、オークの肉も追加でお願い!」
「おう! まかせろ!」
そして食事が始まる。串焼き屋もとい、夜の帳亭のおっちゃんは上機嫌だ。
「ルティアさんのお陰で高く買ってもらえたから、
お酒も飲みたかったら飲んでいいよ。」
アルがそう言うと、ルティアさんは胸に手を当てて、艶っぽい笑みを見せる。
「アル君…、おねーさんを酔わせて…、どうするつもりなんですか?」
「あれ~? まだ飲んでないのに、酔ってる!?」
「ウフフ、冗談ですよ。」
ルティアさんは、ニコニコしながらエールを注文する。
そして、アルとクリスは果実水を頼む。
出て来た料理は、ドンドン食べていき、すぐに無くなる。
「おっちゃん、串焼きおかわり!」 「私も~」
「私はオーク肉のステーキを。」
アルとルティアが串焼きを頼むとクリスがオークのステーキを頼んだ。
おっちゃんが串焼きを持ってきて言う。
「おう! 兄ちゃん達はよく食うな! どんどん食えよ!」
「うん、おっちゃんの料理、美味しいからいくらでも食べられるよ。」
アルがそう言うと、おっちゃんは嬉しそうに言う。
「クックックッ、 そうか! どんどん食え!」
そんなやり取りをしつつ、食事を終える。
会計を済ませて店を出る頃には、辺りはすっかり暗くなり、
行き交う人々も疎になっていた。
「おっちゃん、ご馳走様。また来るよ!」
「おう! いつでも来な!」
アルがそう言うと、おっちゃんは笑顔で答える。
3人は夜の帳亭を出て、店の前でルティアが言う。
「アル君、ご馳走になっちゃって本当に良かったんですか?
私、お姉さんですよ?」
「うん、いいよ。
今日はルティアさんのおかげで、高く買ってもらえたんだし、
気にしないでよ。」
「そうですか? それではお言葉に甘えますね♪」
(お姉さんって言葉が、グッとくるなぁ。)
「ルティアさん、今日は本当にありがとうございました。」
お姉さんワードに悶えてる間に、クリスがお礼を言うと、ルティアは笑顔で答える。
「それこそ気にしないでください。
じゃぁ…、お姉さんとして、私が今からサービスしましょうっ!」
「えっ? なにっ?」
アルがサービスという言葉に、食い気味にそう言うと、ルティアは笑顔で答える。
「それはですねぇ。私の家に来てください!」
冒険者ギルドから歩く事、約10分、北門近くの住宅街の様に、
住居が並んでいる中の一軒家に案内されて入っていく。
「お、お邪魔しますぅ~。」
ルティアさんに、案内されて入った家は、豪華ではないが、
シンプルに綺麗にされていて、住みやすそうな家だった。
ダイニング兼リビングのような部屋に、丸テーブルに添えられた椅子がある。
「アル君、クリスさんどうぞ座ってください。」
ルティアさんがそう言うと、アルとクリスはテーブルに添えてある椅子に腰かけた。
「今、お茶入れますね♪」
そう言ってルティアさんは台所に向かうので、クリスが手伝うと言うが。
「お客さんに、そんな事させられません。」
アルとクリスはそう言われて大人しく待つことにした。
しばらくすると、お茶とクッキーを持ってルティアさんが戻ってきたので、
3人で食べながら雑談をする。
「そういえば、アル君は何で冒険者になろうと思ったんですか?」
ルティアさんが、お茶を飲みながら聞いてきたので、正直に話す事にする。
「俺は…、魔法に興味があるので、
極めたいっとまで行かなくても、高めたいとは思ってますね。
それを実践的に扱えるのが、冒険者かなと。」
「なるほど、あのオーク肉の氷漬けも、良く出来てましたものね。」
ルティアさんがそう言うと、クリスが横でお茶を飲みながら言う。
「魔法については、アルの意欲は凄いわね。私はそれほどだけども…。」
「クリスさんは、どうして冒険者になるって、決めたんですか?」
「アルの居るところが、私の居る所だからよ。
それ以上でも、それ以下でもないわね。」
クリスがばっさりとそう言うと、今度はアルが突っ込む。
「それって答えに、なってないような…。」
「いいのよ、これが事実だし。
私はアルに付いて行くと、決めていたからね。
それだけで良いのよ。」
クリスはそう言って笑うのだった。
「ルティアさんは一人でこの家に住んでいるんですか?」
「ええ、そうですよ。3人家族ですけれど、 両親は王都の学園の教師をしていますので。」
「そうなんですか、一人だと大変じゃないですか?」
「元々…、人の多い場所は苦手だったので、そうでもないですよ…。
学園を卒業後すぐは、王都の冒険者ギルドで働いてたんですけど、
2年ほど前に、こちらに異動してきたんです。」
昔を懐かしむ様に、語るルティアさんにアルは続けて質問する。
「どうして、こちらへ?」
「王都は人が多いですからね…。
こちらの方が、私には性に合っている気がしたんです。
あと…、縁談の話が、持ち上がってたんですけど…、
その人と結婚するのが、嫌だったんですよね…。」
溜息を吐きながら、ルティアが思いを吐露する。
(後半の部分が…、主な理由か…。)
「ルティアさん、お綺麗ですもんね…。
何か、失礼な事を聞きますけど…、お相手の方はどんな人だったんですか?」
「王都に居を構えている、とある男爵家の貴族様だったんですけど…、
学園の同期で、面識はあったんですけどね…。」
「学園での面識があるからこそ…、嫌だったんですね…。」
「ええ…、特に女性に対して…、とても不誠実な人だったんですよ…。
気に入った女の子を見つけると、相手が平民なら恋人が居ても、
無理矢理にでも手を出す様な人でしたよ。」
「おおぅ…、結構すごかったんですね…。」
「ええ…、まぁ、そんな事も有り私は縁談のお話を断って、こちらに来た。
っと言う感じですね。」
「それは…、……なんと言うか…。」
アルが言葉を選ぶのに悩んでると、クリスが話を変える。
「ルティアさんは、冒険者になろうとは、思わなかったんですか?」
ルティアは、微笑みながら答える。
「本当は…、小さい頃から冒険者には憧れていたんです。
でも、私には無理だとも思ってました…。
魔法の成績はそこそこだとは思うんですけど、
武術が全然で、とても1人で頑張ろうとは、思えなかったんですよね…。
一緒に始めようって、友達も居なかったので…。」
「1人で始めるって勇気が要るでしょうし、辛いですよね…。」
「そうなんですよっ!分かってもらえますかっ!」
ルティアは食い気味に言う。アルとクリスは互いに顔を見合わせて苦笑する。
そしてルティアが続ける。
「両親の伝手で、冒険者ギルドに入ったんですが、
先程の縁談を断ったせいで、王都には居られなくて、
こっちでズルズルと続けてるんですよ。」
クリスは、話を聞いていて、考え込む様にした後、顔を上げる。
「ルティアさん、 アルの事好きでしょ。」
「クリスさんや…、いきなり何を言って…「アルは少し黙ってなさい。」
「俺…、主人なんで…「黙りなさい。」
「………。」
(クリスさんが、怖い・・・。)
「ルティアさん、私もアルの事が好きです。 私の目から見て、ルティアさんも、
アルの事が好きだと思います…。 違いますか?」
「………、いいえ、違わないです。」
「そうですか、なら…、………、アルと添い遂げたいですか?」
「はい…、これから一緒に居たいと思ってます。」
ルティアはクリスの目を見てはっきりと答える。
「……ルティアさん、アルは多分生涯冒険者です…。
……学園に通って卒業すればそれこそ、何処まで行くのか判りません。
アルと一緒に居るには、今すぐじゃなくて、良いのだけれど、
冒険者になって欲しいの。………ここ迄は、条件ね…。」
少し息吐き、言葉を区切ったクリスは、ルティアの手を握る。
「私も…、ルティアさんの事は好きよ。
だから一緒に、パーティーを組んで、一緒にアルを支えて欲しい。」
ルティアはクリスの手を握り返す。
「判ったわ、近いうちに必ず、冒険者に転向するわ。
でも、ごめんなさい…、今、直ぐは無理なの…。
仕事に穴を、開ける訳にはいかないわ…。」
「えぇ…、勿論よ。
………、後…、一つだけ約束して欲しい事があるの。」
「………、約束ですか?」
「そう…、……心が離れた…、……離れてしまった場合は…、
ちゃんと言って欲しいの…。そうなったら悲しい事だけど…、仕方が無いもの。
だけど…、アルを裏切る事だけは…、……許さない。
多分…、……殺してしまうわ。」
少し殺気を洩らしてるクリスの目を、真っ直ぐに見据えてルティアは口を開く。
「……そんなつもりはないけれど…。えぇ…、判ったわ…。」
暫く2人は目を見合った後、破顔一笑する。
そんな2人にアルは苦笑して言う。
「2人とも…、過保護が過ぎるぞ…。」
「アルは黙ってなさい。」「アル君、少し黙っててね。」
2人が声を揃えて言った後、顔を見合わせて2人でまた笑う。
(2人共…、仲が良いなぁ…。)
2人が落ち着くまで、アルは出されたお茶を飲むのだった。
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