第25話 良いわよ。



アルとクリスは、早くに未調査部分を終わらせ、昨日のオークとの遭遇場所に戻ってきていた。


「確か…、この辺りだったよな…? 特に変わった様子は無さそうだが。」


「………、そうね、 確か…この方向から、やってきたわね…。」


そう言ってクリスは、森の深部方向を指差す。


「なぁ…、クリス。」


「………、良いわよ?」


「まだ…、何も言ってないんだが。」


「言わなくても解るわ…。おっぱい触りたいんでしょ?」


自分の胸を両手で持ち上げながら言う。


「違う! いや、違わないけど、違う!」


「冗談よ、この先を調べたいんでしょ?」


「ああ…。」


クリスは頷くとアルに言う。


「私も…、同じ事を考えてたわ…。

このまま帰ったのでは調査依頼としては不十分だと思うしね。」


「じゃぁ…、行くか。」


2人は頷き合うと、気を引き締め直して森の奥に歩みを進めて行った。

暫く進むと、はっきりとわかる足跡を見つけた。


「これは…、昨日のオークたちの足跡かな、数も4つっぽいし…。」


「そうね…、脚の向きからしてそうみたいね。

逆向きに辿れば何かあるかしら?」


2人は頷き合うと足跡を慎重に辿って行く。


そして暫く進むと、アルが急に歩みを止める。

「どうしたの…?」


「しっ…、静かに…。」


2人は顔を近付けて、木々で隠れながらその方向を覗き見る。


(…オーク!?)


3匹のオーク達が、

周囲をキョロキョロと見回しながら、何かを探している様子だった。


「………、昨日の4匹を、探しているのか…?」


「判らないけど…、どうしようかしら…?」


「………、やろう…、奥の一体が、杖を持ってるから、注意しよう…。」


アルとクリスが小声で話していると、不意に杖持ちのオークと目が合った。

その瞬間、杖持ちオークが声をあげ、他の二体がこちらを向く。


「ブモーッ!」


「まずい…、気付かれた、…範囲ばらまく!」


その瞬間にクリスの肩を叩き、迂回する様に指を指して、

ポーチからスタッフを抜き出し立ち上がる。


「水よ…、大気よ…、其の者から熱を奪いて凍て付かせよ…、

フリージングウェイブ!」


「フゴッ!フゴっブハァ!」


アルから放たれた冷気の波が放射状に広がり、前衛のオーク2体の足元を凍らし始めて動きを鈍らせる。

杖持ちオークが叫ぶと、

杖の先端から火球が生まれ、冷気の波の進行方向の地面に着弾する。

地面を少し吹き飛ばしながら冷気の波をも吹き飛ばし、前衛の2体も、

動きが鈍るだけでこちらへ進んでくる。


(魔法で相殺された!?)

「風よ…、大いなる風よ…、迫り来る敵を吹き飛ばせ。…ウインドブラスト!」


アルの前方に突風が吹き荒れ、近距離で受けたオーク2体を仰向けに転倒させる。


その瞬間、左側の茂みからクリスが飛び出し、跳び上がり、前衛オークの左の1体の顔面に向けて、ショートソードを突き立てる。

起き上がった右側のオークが、横薙ぎにこん棒を振るうが、

深く差し過ぎて直ぐに抜けないと判断したクリスはショートソードを手放し、

身体を翻して棍棒を飛び越え離脱する。

振り抜かれたこん棒が、剣の腹を叩き、打ち飛ばされた剣が、アルの右側の樹木に打ち付けられ、地に落ちる。

剣を打ち抜かれたオークは、全身を一瞬ビクンと揺らし、動かなくなった。


「フゴッ、…フゴッ…ブルァ…。」


杖持ちが、声をあげ、杖を掲げ、ゆっくりと振り回す。 周囲の魔力が杖の先に集まり、先ほどより大きな火球が発現していく。


(させるかよっ!)

「アースホール!」


足元の土が突然べこリと凹み、胸ぐらいまで穴に落ちた杖持ちは詠唱を失敗し、

発現していた火球が、その場で弾け霧散する。


「土よ、大地よ、岩と成りて、彼の者を貫き穿て、 アースパイク!」


「フゴォッ!? ブバァッ!?」


アースホールの内側に、岩の槍が複数飛び出し、ズドドドッっと、音を立てながら、


杖持ちの下半身を周囲から次々と貫くと、絶叫のような悲鳴を上げる。


「ストーンバレット!(5連)」


すかさずに打ち出した、拳大の石礫が、身動きの取れない杖持ちの顔面に連続で当り、

4発目で、頭部がはじけ、5発目が空振り、後ろの木に孔を空けた。


クリスを追いかけていたこん棒持ちは、杖持ちが死んだ事に怯み、逃げようとクリスに背を向けた瞬間、

クリスに片足を斬り飛ばされ、倒れる瞬間に首を飛ばされた。


警戒しながらもアルは、クリスに近寄って行く。


「お疲れ…。大丈夫か? クリス。」


アルの声に振り向いたクリスは、笑顔を浮かべて答える。


「えぇ…、大丈夫よ…。 ありがとう、アル。」


「いや…、…良いよ。無事で良かった。」


クリスの笑顔を見て安堵すると、2人で棍棒持ちオークの解体を始めるのだった。


「この杖持ち…、これはちょっとズタボロにし過ぎたな。

魔石だけ取って埋めるか…。


アースホールで作った穴から出して見ると、胸から下が穴だらけになっており、

頭部ははじけ飛んでいる。

アルは胸の下の穴から手を突っ込み魔石を探り当て抜き取ると、

もう一度地面に穴を掘り死体を埋めた。オークの杖も一応回収しポーチに仕舞う。


「よし、解体した肉は凍らせてっと、あ、そうだった…。」


アルは剣が飛ばされた方へ歩いて行き、ショートソードを拾い上げて見る。


「あー…、これはもうダメか…。」


「そうね…、これはちょっと使えないわね。」


剣身を見ると、剣身の樋(腹)の部分に亀裂が入っていた。

クリスに見せた後、アルは自分のポーチにそれを入れる。

代わりに、冒険者登録の時に貰ったショートソードを、取り出しクリスに渡す。


「これを使ってくれ、ほぼ未使用だから。」


アルは茶化しながら、クリスは手渡す。


「ありがとう…、 ……、剣が一振りになると、少し不安だったのよ。」


「いいさ、クリスが安心できると俺も安心する。」


アルの言葉に、クリスは笑顔で返す。


「お互いにね?」


「もちろんだ…。 じゃあ…、結構遅くなったから、

もう少しだけ見たら、村に帰ろうか。

村長は良いとしても…、奥さんを心配させるのは申し訳ない。」


「そうね、そうしましょうか。」


そして、周辺を見るが、特になにもなく、村に帰還する。



――



村に戻ってきたアルとクリスは、村長宅に向かう。

玄関ドアをノックし返事を受けてからドアを開ける。


「ただいま戻りました。」


その声に、家の中からドタバタと装備を身に着けた村長が顔を見せる。


「遅かったじゃないかっ!心配したぞ!」


「すいません…、ちょっと探索範囲が思ったより広くなってしまって…。」


「そうか…、………、昼過ぎって言ってたのに戻ってこないから、

怪我でもしたのかと思って…、探しに行こうかと思ってたんだ…。」


奥さんも奥から出てきて言う。


「アル君、クリスちゃん、お帰りなさい。怪我は無いかしら…?」


「はい…、遅くなって申し訳ありません。この通り大丈夫ですよ。」


そう返事をするクリスを、奥さんが抱きしめている。

村長がアルへ向き直り、続きを促す。


「それで…、探索範囲が広くなったってのは…?」


「はい、未探索領域を調査後に、昨日のオークの遭遇した場所から、

少し、深部側に進んだところで、魔法使いのオークとオーク2体を発見して、

これを撃破、その後周囲を探索して帰還しました。」


「よく…、無事で帰って来たな…。

取り敢えず入ってくれ、腹も減ってるだろう。まずは飯にしよう。」


そう言われ、中に入るとテーブルの上には昼食が既に用意されていた。

2人はお礼を言うと椅子に腰掛ける。


「はい、お待たせしました。さぁ、どうぞ召し上がれ。」


奥さんの言葉に甘えて、2人は早速食べ始めるのだった。



――



遅い昼食を摂り終え、食後のお茶を飲みながら、村長に報告の続きをしていたら、

既に日は傾いていて、外は薄暗くなってきていた。


「もうこんな時間か、長々と付き合わせて悪かったな。

これで依頼完了だ ギルドにはこれを渡してくれ。」


そう言って、3つ折りの手紙を、渡されたので受け取る。


「今から出ても、閉門に間に合わないだろうから、今夜も泊まって行くと良い。」


「ありがとうございます。お言葉に甘えます。」


「そうね、それが良いわ。」


村長は頷く、奥さんはニコニコと食器を片付けていく。


「そうだ…、村長さん、チーズって作ってますか?」


「ん…? チーズ…? 作ってはいるが…、どうしたんだ?」


「売る用が有れば、良ければ、買わせて頂けないかと思って。」


「あぁ、あるぞ。明日には追加が出来るはずだから、

明日にでも見せてやるさ。」


「ありがとうございます。助かります。」



――



そして翌日、アルとクリスは朝食を頂いた後、出発の準備を整える。


その姿を見て奥さんが声をかける。


「アル君、クリスちゃん。こっちに来て。」


そう言って連れて来られた場所は、小さな小屋だった。


「………、ここは…?」


奥さんがニコニコと、扉を開けると入ってすぐに、地下へ降りる階段があり、

手招きしながら降りて行く。

光が届かなくなった辺りで、奥さんがライトと呟く。

するとパッと光の球が出現し辺りを照らし出す。


そこには似た様な形の何段もある棚が、部屋中に配置されていた。

奥さんが口を開く。


「ここは作ったチーズを、保管して熟成させる場所なのよ。

2人に見て貰いたくて、来てもらったの!」


「これは…、すごいわね…。」


「あぁ…、……、俺も初めて見たよ…。」


アルとクリスが目を丸くして驚いていると


「味は、昨日の夕食で出したのと、

同じものだから、喜んでくれるとは思うけど…。

これと…、これと…、……、これも良いわね…。」


そう言って奥さんは棚からチーズを3つ、

3塊も持たせてくる。


熟成場所に長居しても良く無いと思い、村長宅に戻ってる途中、

ニコニコしてる奥さんに、クリスが声をかける。


「あの…、これを売ったら…、幾らぐらいになりますか?」


「うーん…、そうね…、買ってくれる人次第だけど、

一塊で銀貨2枚、全部合わせて銀貨6枚ってとこかしら。」


「判りました。買わせて下さい。」


値段を聞いてアルはクリスと目配せをして決める。


「あら、お金は良いのよ。

私はあなた達が喜んで食べてくれたらそれで嬉しいわ。」


アル達は食い下がるが、全く首を縦に振ってくれない。

会話しながら歩いてると村長宅に着く。

奥さんに何を言っても、ダメそうだと思ったアルは、村長に切り出す。


「村長、奥さんからチーズを3塊、頂きましたので、

代わりにこれを受け取って下さい。」


そう言ってポーチから、冷凍オーク肉の塊を3塊取り出してテーブルに置く。


「おいおい…、これはオーク肉じゃ無いのか…? ……高級品だぞ。」


「いいんです。まだまだありますし、奥さんに食べて貰って喜んで欲しくて。

余ったら他の家の人達にでも、配って下さい。」


「ふむ…、そう言う事なら仕方ないな…。ありがたく貰っておこうか。」


「はい、そうして頂けると助かります。」


「もう…、アル君も、クリスちゃんも、頑固なんだから…。

ありがとうね…。」


奥さんは嬉しそうに、笑顔でお礼を言って来る。


「いやいや…、お礼を言うのは俺達の方ですよ。」


アルがそう言うとクリスも頷く。


「では…、そろそろブルグ村に戻りますね…。」


「あぁ…、気を付けてな。」


「2人とも…、怪我には気をつけてね。」


「はい、また来ますね。」


2人は村長宅を後にし、ブルグ村に帰るのだった。



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