第24話 男の尊厳(謎

―――



暫く何事もなく歩いて居ると、

深部側の森から、3匹のゴブリンが、音を立てながら走って来た。


「ギャギャッ!!」


「ゴブリンね…。 ……、何か様子が…。」


「何かから…、逃げて居る?」


ゴブリン達は、時折り後ろを振り返りながら、こちらに向かって来る。


直ぐ近くを、通り過ぎようとしたゴブリンを、クリスが横薙ぎの一閃で切り払い、

少し離れていた2匹に、アルがアイスアローをそれぞれに放ち、

1匹の側頭部に命中して、前のめりに倒れ動かなくなる。

もう1匹は当たる直前に、何かに躓いた様に転び回避すると、

直ぐに起き上がり、走り去っていった。


その様子見送った2人は首を傾げる。


「なんだったんだろうな…?」


アルがそう呟いた時、クリスが森の深部へ振り向きながら言う。


「っ!? 何か来るっ!」


そう言って森の深部を、警戒して居ると、大きめの人影が4つ現れた。


「あれは…、オーク…。」


「それが…、4匹か…。」


クリスがそう呟き、アルが言葉を引き継いだ。


森の深部から現れたのは、豚の頭に、身長が2m近く在りそうな体躯。

一見脂肪の塊に見える体は、脂肪の下に筋肉が、しっかりと有るのが見て取れる。

手に大きな棍棒を持ち、革鎧を身に纏ったオークだった。


(前世の俺よりも、デカいな、今の視点からじゃ、まるで巨人だ。)


アルがそんな事を考えていると、オーク達はこちらを指差すと、走り始めた。


「クリス、先制で範囲を撃つ!」


そう宣言し詠唱を始める。


「水よ、大気よ、其の者から熱を奪いて凍て付かせよ、…フリージングウェイブ!」

詠唱が終わると、森の広範囲に氷の波が広がっていく。


「ブヒィッ……。」「ブヒーッ!」「フゴーッ!」

3匹のオークは、突然凍り付いた地面に足を取られ転ぶと、先頭のオークは直撃を受け、氷漬けになり絶命する。

最後尾の1匹は効果範囲から逃れたようだ。


アルが魔法を放つと同時に身体強化と武器に魔力を纏い、走り出していたクリスは、

前に見た、アルの魔法の効果範囲を予測して迂回すると、

左側面からオークに飛び掛かり、

アルの魔法で動きの鈍ったオークの一体の首を横薙ぎで刎ねる。


「フゴォッ!」「ブヒィィッ!」


オーク達は激昂して、

飛び込んで来たクリスに向かって、棍棒を振りかぶって振り下ろす。

クリスは着地すると止まらず走り抜ける様に回避して、

一番後ろに居たオークの左足を斬り飛ばし、アルをチラリと見て離脱する。


「アイスアロー!」(5連!)


凍傷を負いながらも無事だったオークは、

クリスを追い掛けようとしてアルに背中を向けた直後、その首と背中に、

アルの放ったアイスアローが5連続で突き刺さり前のめりに倒れる。


「フ、フゴーッ!」


一番後ろに居たオークは、

片足を失いながらも怒り狂い、クリスに向かって棍棒を振り回す。


「アースホール!」


「ブヒィ!?」


「終わりよっ!」


アルが穴を開け、オークが腰まで穴にハマり、

斬り易い高さまで下がって来た、オークの首をクリスが一閃し、戦闘が終了した。


「ふぅ、終わったな。お疲れ、流石だな。」


「ええ、お疲れ様。」


アルはクリスを労うとクリスも返す。


「範囲魔法とクリスの側面からの奇襲が決まら無ければ、

もっと苦戦してただろうな。」


「そうね、正面からだと、……、まだ厳しそうね…。」


2人は会話しながらオークの魔石を回収しようとしてるとクリスが言う。


「そう言えばオークって…、

お肉が美味しいらしくて、高く買ってもらえるわよ。」


「マジか。じゃあ血抜きしてから切り分けて、凍らせるか。」


アルは、魔法を駆使して、逆さに吊し上げると、地面に穴をあけて首を落とし、

腹を裂いて臓物も穴にポイ、肉を切り分けて凍らせると、

バッグにどんどん収納していく。


「え…? あの~…、……、クリスさん…? 牙とかは判るけど…、

…………、これも回収…、するの…?」

(で…、デケェ…。)


アルは収納用の場所に置かれていた、オークの逸物を見て戦慄した。


「ええ、そうよ?

オークの睾丸は…、滋養強壮に良いって言われてるし、

おちんちんも精力剤の材料にもなるし、食材に使われて居る事もあるのよ?」


「………、マジっすか…。」


男としての敗北感を味わいながらアルは、まじまじと観察した後、

凍らせてバッグに収納したアルはテンションが低かった。


「クリスは…、オークの逸物とか食べたことあるのか?」


「無いわね。私はアルのだけで良いわ。」


「ナチュラルな下ネタを久しぶりに聞いたなぁ…。」


「それが欲しかったんでしょ?」


「………、うん、嫌いじゃないんだよなぁ…」


ポイポイした穴を埋めながら、そんなくだらない会話をしてると。、

クリスがポツリと言う。


「やっぱり…、アルの魔法は便利ね…。」


「ん…? クリスも使える様になるよ。」


アルがそう言うと、クリスは首を横に振りながら言う。


「無理よ…、アルみたいに…、自由自在には出来ないわ。

今まで…、一緒に練習して来て、痛感してるわ…。」


「そうかな…? 俺の目から見ると、クリスなら、絶対出来るとは思うけどな…。

まぁ…、出来なくても良いかな、クリスに頼られなくなったら、俺が寂しいし。」


クリスはアルのその一言を聞いて頬を赤らめる。


「ふふ、そうね…。 私も…、アルに頼られなくなったら寂しいわ…。」


「さぁ…、もう真っ暗だ、村に撤収しよう。」


アルは荷物を片付けて立ち上がると、ライトの魔法で周囲を照らす。



―――――



村に戻ると、村の門番兼自警団?のおじさんが、アル達を見つけて近寄ってきた。


「お、帰って来たな! もうそろそろ門を閉めようかと思ってたぜ?」


「すいません、此処まで遅くなるつもりは、無かったんですが。」


「いや、大丈夫だ…。 それで…、ゴブリンはけっこう居たのか?」


「ええ、纏まっては居なかったけど、散発的に遭遇しましたね。

見付けたのは一体は逃げられましたが他は全て討伐しました。」


クリスがそう言うと、自警団?の男は嬉しそうに言う。


「そうかっ!それは良かった! ありがとよ…。」


「村長さんへの、報告をしようと思いますが、在宅でしょうか?」


クリスがそう言うと、自警団?の男は答える。


「お…? ああ…、村長は家に居るぞ! あそこの家だ。」


2人はお礼を言うと、村に入り、男の指差す先の、村長の家に向かう。



――――



周囲とさほど変わらない、家の扉をノックをして、返事が聞こえたので待つと、

中からやや年配の女性が出て来た。


「夜分に失礼します…。

南の森の調査依頼を受けて来た者ですが、本日の調査結果の報告に参りました。

村長さんは…、ご在宅でしょうか?」


クリスがそう言うと、女性は答える。


「ええ…、今、呼びますね…。」



女性がそう言って外をチラリと見ると、

自警団?のおじさんが、ニヤニヤしながら家の中に入ると振り返る。


「村長のダンだ。報告を聞こう。」


殺意を抱けそうな、ニヤニヤしたドヤ顔で言った。


「………。 このおやぢ…。」


全てを理解したアルは、額に青筋を浮かべながらそう言う。

アルの横にいたクリスからは、うっすら殺気が漏れていた。


「待てっ! ……話せば判り合える! 落ち着こうじゃないか…。そうだろ?」


慌てて言う村長に、奥さんが溜息を吐いて言う。


「貴方…、……また門番だとか自警団だとか言って、遊んでたのね…。」


奥さんは旦那をジト目で睨んだ後、こちらに向き謝罪する。


「ごめんなさいね。この人いつもこういう事をして…、

遊び心で人を怒らせちゃうのよ…。」


「いえ…、大丈夫ですよ…。」


アルは奥さんには、問題ないと言いつつも、村長を睨みながら報告をし始めた。


報告を聞いた村長は、真剣な顔で聞き終えると、口を開く。

そこに、先ほどまでの、ニヤついた表情は無かった。


「ゴブリンが、纏ってないとはいえ…、それほどの数がいたとは…。

それだけの数が、他にも居るなら、

いつ上位種や、リーダーが起ってもおかしくないな…。」


「オークに追い立てられて、こちらに来てたのかもしれませんね。

実際、オークに遭遇した時も、ゴブリンはオークから逃げてましたから。」


アルが推測と事実を補足すると、村長は唸りながら答える。


「うーん…、そもそもこの辺りで、

オークなんて…、ここ数年は、見なかったんだよなぁ…。」


そこで奥さんが口を開く。


「なんにせよ、今日はもう遅いですし、何も無いですが、

今日はうちに泊まっていってくださいな。食事の用意をしますね。」


奥さんがそう言うと、クリスは慌てた様に言うとアルも辞退する。


「いえ、奥様、そこまでお世話になるわけには。」


「いや、お気遣い無く!」


しかし奥さんは笑顔で答える。


「いえいえ…、うちの旦那が迷惑をお掛けしてますし、遠慮なさらずに…ね?」


アルはクリスと視線を合わせ頷くと、

アルは居住まいを正して、頭を下げる。


「ありがとうございます。 では、今晩、お世話になります。 」


「あらあら、礼儀正しい子達ね。 何もないけどゆっくりしていてね。」


そうして晩御飯を頂き、部屋を借りてアルとクリスは、眠り着いた。



――――



村長と奥さんは、そっと部屋を開け2人の寝顔を眺める。


「ふふ…、寝顔が可愛いわね…。」


「ああ…、しっかりしてる子達だが、寝てると年相応だな…。」


2人は小声でそう話すと、静かにドアを閉めたのだった。


「あんた…、なぜあの子たちに…、

あんなしょうもな……面白くない嘘をついたの…?」


「しょうもないって言い掛けたか? 言い直したけど、同じ意味だからな?」


村長は、奥さんの言い様に、グロッキーになりながらも答える。


「調査依頼で着て…、森に行くとか言うけどさ…、あんだけ若いだろ…?

子供の遊びだと思ったんだよ…。

一応、冒険者証も見せてくれたけど、Fランクだったしな…。」


頭をガリガリと掻きながら続ける。


「そしたら…、ほんとにゴブリンやらオークを狩ってきて…、

討伐証明まで見せてくれてよ。

引っ込みがつかなくなってたから…、

ちょっと冗談を交えて、誤魔化したかったんだよ…。」


「あんた…、本当に残念な人ね…。」


「残念って言うな…。」


奥さんの盛大な溜息に、村長は、膝から崩れ落ち、涙を流した夜だった。



――――



翌日、アルとクリスは村長宅で朝食を頂きながら、今日の予定を村長に伝える。


「今日は、昨日回れなかった南の森の、西側を朝から見て周り、

昼前後には御報告に上がります。その後、ブルグ村に戻ろうと思います。」


「ああ…、わかった…。宜しく頼むぞ!」


アルがが予定を説明し、村長のダンは昨日とは違い、しっかりした返事を返した。

それに驚く二人を見て、奥さんはクスっと笑いながら口を開く。


「じゃあ…、お昼ご飯用意して待ってるわね。」


アルとクリスはその言葉に、お互いを顔を見合わせ笑顔で頷く。


「はい、それでは、お腹を空かせて帰ってきますね。」


アルが返事をして、残りの調査に出かけて行った。



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