第23話 森の境目

前日に予約投稿設定時に、次の話の24話を一時的に公開していました。

今は非公開に戻してありますが、

本日は、23話を12時、24話を18時、25話を20時に、

公開させて頂きます。


引き続きお付き合い宜しくお願いします。


――――――――――



依頼を受け冒険者ギルドを出た所でクリスがジト目で口を開く。


「アル…、貴方、胸を見過ぎよ。 ……ルティアさんも気付いてるわよ?」


「…え?……うそっ!?」

(バレてたのか…。)


クリスに指摘されて驚くが素直に謝ると、クリスはジト目で言う。


「………そんなに気になるの?」


「そりゃね! 気にならない訳がないじゃないか!」


アルは、ハッキリと答えるとクリスはため息をつく。


「……はぁ…、そうよね…。……男の子だもんね…、 アルのえっち…。」


気持ちを切り替える様にクリスは顔を上げ口を開く。


「アル…。」


「な…、……なに?」


アルは、クリスの怒涛のお説教が始まるのかとビクッとしながら返事をした。


「……何を怯えてるのよ。 村を出る前に、武器屋に寄りたいのよ。」


「え…? ……武器屋? うん、わかった。」

(お説教じゃなかったっ!)


アルは、ホッと胸を撫で下ろしながら、2人で武器屋に向かう。



―――



武器屋に入ると、クリスは早速ショートソードの置かれた場所を見に行く。


「昨日の訓練の時…、意外に両手に武器を持つのも、悪く無いと思ったのよ。」


「あぁ~、なるほどねぇ。昨日の双剣術は見事だったしなぁ…。」


アルはクリスの言葉に納得すると、クリスの後ろから見てみる。


(ん…? これは…。)


数打ちの剣が、まとめて置かれていて、一振り銀貨3枚と書かれた棚の中で、

一振りだけ、僅かに魔力を宿してる物が、あったので手に取ってみる。


(お…、これは…。)


アルは店主に声を掛ける。


「おじさーん、ここにある物って、全部値段同じなの?」


「…ん?ああ…、全部同じだよ~。」


「ありがとう~。」


店主は、そう答えると、アルはお礼を言う。

クリスに魔力が宿ってる事をこそっと言い、その剣を見せて勧める。


「クリス、これなんてどうかな?」


「そうね…、確かに僅かに宿ってるわね…。コレにしましょうか…。」


「うん、了解。」


クリスは、アルが手に取ったショートソードを見ながらそう答えた。


アルは笑顔で頷き銀貨を払い店を出た。



―――



その後、雑貨屋で食料などの補充をして、村の西門から出て街道を歩いて行く。


「父様母様には感謝だなぁ…。

マジックバッグが無ければ沢山の物を、運ぶだけで疲れそうだ。」


「そうね…。………、確かにマジックバッグが無ければ、

私も剣をもう一振り、とは…、考えなかったわね…。」


アルとクリスは歩きながら会話するが、途中でアルは思考を放棄して口を開く。


「さて、南西の村までどれくらいかかるかな?」


「そうね…、……、歩いて4時間くらいかしら?

途中で、街道が森を横切ってる場所があるから、ゴブリンを討伐しながらだと、

もう少し…、かかるかもしれないわね…。」


「なるほど、じゃあ、まずゴブリン退治だな!」


アルがそう言うと、クリスは呆れた様に言う。


「はぁ…、まだ何もしてない内から戦闘の話? 気が早いわよ…。」

(……こう言う所は、年相応の子供みたいね…。)



途中で休憩を挟み、ゴブリンと戦闘したり、昼食を取り、歩き続けた二人は

太陽が西に傾きだした頃に、村が見えるところまでやってきた。



――――――



南西の村



「ここが、南西の村か…。」


村へ至る街道が、少し丘の上から下っていく形で西の村に繋がっているため、

西の村の全景を見下ろせる場所で、アルの呟きが漏れた。


「あ…、……、牛?が居る。 農業と酪農をメインにしてる村なのかな?」


アルの呟きに、クリスが言葉を返す。


「そうね、この辺りは農作業と酪農で生計を立ててるのよ。

人が良く通る道ではあるから、販路は大丈夫みたいだしね。」


「なるほどねぇ、チーズとか買えたら買いたいな…。」


「そうね…、ここのチーズは美味しいわよ。」


「じゃあ、帰る前に、誰かに聞いてみようか。」


2人はそんな会話を交わしながら村に入るのだった。


門の所で立ってたおっちゃんに、ギルドカードを見せて、

村の門を潜り辺りを見渡す。


(静かでのどかと言うか…、家もほとんど無いな。)


そんな事を考えていると、クリスが口を開く。


「此処から南の森…、あそこね。あの森の中を調査すれば良いのね。」


「とりあえず…、日が落ちる迄は、森に入って見るか。」


森を指差しクリスが言うと、アルがやる気を出して言う。


南の森側にも門があり、そこで立っていたおじさんにも挨拶をし、

調査で森に入ると伝え、門を出ていく。


「よし、行こうっ!」


2人は森に向かって歩いて行くのだった。



――――――



南西の村の南の森へ



アルとクリスは、森の中に入り、周囲を見ながら暫く歩いていると、

アルが2匹のゴブリンを見つけた。


「私にやらせて。」


ゴブリン2匹を見てクリスはそう言うと、

ポーチから、ショートソードを二振り出して。両手に一振りずつ持ち、颯爽と走り出した。


2匹のゴブリンの間を、すれ違いざまに、右、左と剣を素早く振り走り抜ける。

ゴブリンは、くるりと振り返りながらポトリと首がこぼれ落ち、絶命した。


「………、ふぅ…。」


クリスが一息吐くと、アルは笑顔で近寄ると、ゴブリンから魔石を抜いて行く。

何度もやってるうちに、会話しながらやれる程度には、アルも慣れてきていた。


「流石だね。ゴブリン2匹を瞬殺だな。」


「そう…?

ただ…、木剣だと気にならなかったのだけれど…、

少し剣の重さに振り回されてるわね…。」


クリスは、ショートソードを見つめて呟く。


「言われて思い返せば、切り返しにちょっと溜めと言うか間があった様な?

剣の重さが、気にならなくなる程度に…、

身体強化を薄く展開する方が、良いのかな?」


魔石の回収が終わったアルは、

クリスの手に持つショートソードを眺めながら考えを呟く。


「えぇ…、試してみるわ…。

暫くは、ゴブリンの数が少ない時は、私1人でやって良いかしら?」


「良いよ、多い時は俺の判断で、魔法で数を減らすよ。」


「えぇ、頼りにしてるわ。」


クリスは返事をすると、2人は更に森の奥に進んで行く。

少し歩くと、右前方の森の中で、少し開けた場所に5匹のゴブリンがいた。


「俺が先制で、2匹間引くよ。 アイスアロー」

アルが宣言すると、即座に氷の矢を2本創り撃ち出し、

左右の外側に居る2匹の、眉間と側頭部に突き刺さり絶命させる。


アルが魔法を放つと同時に、身体強化を薄く発動しつつ、

走り出していたクリスは、 右側のゴブリン2匹の間をすり抜けながら首を刎ねる。


(っ…、これなら…。)


2匹のゴブリンを瞬殺したクリスは、直ぐに手応えを感じ、

最後の1匹に狙いを定めて走り出す。


「はぁぁぁぁっ!」


気合の声を上げながら、ゴブリンの首を刎ねる。


(ふぅ…、剣に振り回されるよりも、身体強化による疲労の方が全然マシね。)


クリスがそんな事を考えているとアルに声を掛けられる。


「お疲れ様、クリス。」


「えぇ、ありがとう。」


アルはゴブリンの体内に手を突っ込みながら、クリスの剣を見詰め考え言葉にする。


「クリス…、剣に魔力って…流せる?」


「え…? 剣に、魔力を…?」


「魔力が通るなら纏わせることも出来るんじゃないかなっと思ってね。」


クリスはアルの言葉を聞いて考える。


(確かに…、魔力を纏わせれば、武器の強度や切れ味を上げれると聞いたわね。

……私に出来るかしら…?)

「そうね…、やってみるわ。」


クリスはショートソードを見詰めると、ムムムと集中し、剣に魔力を流し込む。

暫く無言の時が続いた後、剣に魔力が通ったのを魔力視で視認する。


「おお!通ったね、後は纏わせるのに慣れれば完璧だね!」


アルが嬉しそうに言うと、クリスは微笑して答える。


「ええ、ありがとう。上手くいって良かったわ…。」


「ちょっと振ってみてよ。」


アルがそう言うと、クリスは剣を振り感触を確かめる。


「うん…、少し軽くなったかしら?

と言うより…、………、一体感が増した感じかしら?」


2人は更に森の奥に向かって歩き始めるのだった。


「ギィ…ギィ……」


「ん?」


ふと気配を感じて立ち止まると、ゴブリン3匹がこちらを見つけて走ってきていた。


「クリス、やれる?」


「ええ、任せて。」


既に身体強化を展開していたクリスは、そう言うと、剣にも魔力を纏わせ、

ゴブリンに向かって走り出す。


(まずは1匹…。)


考えると同時に、右手の剣で右袈裟に斬り捨てると、

少し遅れてきたゴブリンを左手の剣で左袈裟で切り上げる。


浮いた身体をそのままに、くるりと右回りで回転しながら、右の剣で左から右へ横薙ぎに最後のゴブリンの首を刎ね飛ばす。


舞う様に、ゴブリンを切り捨てたクリスを観ていたアルは、

少し呆然として、我に返ると、少し興奮気味にクリスに声を掛ける。


「まるで演舞を見て居る様だった…、物語の戦乙女の様で綺麗だったよ!」


「ありがとう、アル。 褒め過ぎよ…。」


クリスは、そっぽを向いて頬を赤らめるのだった。



―――



その後もゴブリンを討伐しながら、更に森の奥へと進むと、

浅い部分は終わりとでも言う様に森の雰囲気が変わる場所に来た。


「この辺りで依頼の範囲は終わりかな?」


「そうね、後は見落としがない様に巡回すれば良いでしょうね。」


「そうだな、だいぶ暗くなってきたし、少し回って戻ろうか。」


「そうね、判ったわ。

暗くなったせいかもしれないけれど、この奥は何か違う場所って感じね。」


そう言って2人は、雰囲気の違う森との境目を歩き始めた。



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