第21話 冒険者ギルドでの訓練



冒険者ギルド裏の訓練場


ギルドの裏手にある広場に5人は居た。


「さて、俺は魔法主体、クリスは剣が主体って感じだけど、

みんなの得意な事を聞いてみようかな。」


アルがそう言うと、アミとライザは顔を見合わせる。


「わ、私は魔法を使います、適正は火と風なの。」


アミがそう答えると、ライザが続く。


「私は…、……剣と盾、……適正は土…。」


「あたしは槍かなぁ…、あと水魔法も使うよ。」


最後にケイが答えた。


(なるほど、みんなある程度方針は決めてるんだな。)


「俺とクリスはお互いいつものメニューは判るけど、

3人は普段どんな訓練してるのかな?」


「い、いつもは、ケイとライザが模擬戦したりして、

わ、私が魔法を撃ったりしてます。」


アミが答えて、ケイとライザは同意する様に頷いた。


「なるほど…。……じゃあ、今後も自分たちで訓練出来るように、

基礎?って言うのかな、俺たちがやってる奴を一緒にやってみる?」


アルの言葉に、アミはケイとライザの顔を見る。

「私もやる!」


「あたしも、アル君達の訓練って気になるし、やってみたいかなぁ。」


「……私も…、……興味がある。」


3人は賛成という事で、早速メニューを開始する。


「とりあえず…、……最初は魔力操作の練習から、かな。

じゃあクリス、……悪いけど暫く一人で練習しててくれるか?

3人は、俺が見てるから、体の中の魔力を、動かす練習をやってみよう。」


「えぇ、判ったわ」


クリスが頷いて、離れた位置に移動し、魔力操作の訓練を始める。


アミ、ケイ、ライザの三人は眼を閉じて、

身体の中の魔力を感じ、動かす練習を始める。


アルはその様子を魔力視を使用して観察していると、


意外にも、比較的一番動かせているのがライザで、次にケイ、

魔法をメインのアミが、一番動かせていなかった。


「ライザさん…、……良いね、……ちゃんと動かせているよ。

その調子で、全身を巡る様に何度も動かせるように、

段々早くできるように練習してみよう。」


「……ん…、……判った…。」


ライザが返事をすると、アミが笑顔を向ける。


「すごいじゃん!ライザ!」


「頑張ってるね…、私も負けてられないよ。」


ケイもライザを褒めると、ライザは少し照れたように微笑んで、

クリスの近くに行って、黙々とやって貰う。


「で…、…ケイさんは微妙に動きそうだけど、その様子だと、

ハッキリ認識出来てない感じかな?


………アミさんは…、……残念だけど全く動いてないね…。」


「うぐぅ……。」


「うーん…、……これかなって感じはあるんだけどねぇ…。」


アルの指摘にアミが唸る。ケイも困ったように呟く。


「まずは…、……魔力をはっきり認識するところからやってみようか。」

眼を閉じて、感じて見て。」


そう言って、2人の手を取り、手に魔力を流してみる。


「……どう? 何か感じた?」


「うーん…、……判んない。」


アミが考えながら答えると、ケイも戸惑いつつ答える。


「なんか…、……暖かかったかも…。」


「……なるほど…、じゃあ…、

……ケイさんの魔力を動かしてみるから、それを感じて見てくれるかな?

ちょっと…、くすぐったいと思うけど、我慢してね。」


アルはそう言って、眼を閉じていたケイのお腹に手を当てると

ケイの魔力にアルの魔力を少し混ぜ動かす様にしていく。


「んっ!……あんっ、……なんか…、……もぞもぞする。」


ケイが頬を紅潮させて、足をモジモジさせながら感想を述べる。


「それが魔力だよ、……感じた? ……それを自分で、動かす様に意識して見て。」


アルの言葉に、頷くだけで答えるケイ。

ケイの中の魔力が少しづつ動いていく。その様子を見てアルは手を離して観察する。


「うん…、……いいね、しっかり動いてるよ。そのまま、暫く動かす練習してて。」


「……んっ…、判った…。」


ケイは眼を閉じたまま、魔力を動かしている。


「さて、次はアミさんだね。……悪いんだけど…、ちょっと密着するね…。」


そう言ってアミの背後に回り、左手でアミの左手を、右手はアミのお腹に添える。


「…え? ちょ…、……ちょっとっ! アル君!!」


アミは驚きつつ抗議の声を上げる。しかし、気にせずに説明を始める。


「まずは、俺が魔力を動かしていくから、眼を閉じて、感じる事に集中してね。」


謎の力で、アミの胸に目が行きそうになるのを、鋼のつもりの精神で、

アルも眼を閉じ、細心の注意を払いながら、

極僅かな魔力を、アミのお腹から、ゆっくりゆっくりと、左胸を通り、

左肩、左腕、左手と、少しずつ移動させていく。


「……んっ、……ちょっと、……くすぐったいかも…。」


アミが体を強張らせて呟く。

アルは心の中でホッとしつつ、ゆっくりと動かす魔力は止めずに説明を続ける。


「今…、……俺の魔力が動いてるの、……感じてる?」


「……ん…、……んふぅ、……うん…、……判る…、よ…。」


アミも、身体を硬直させて、くすぐったさを堪えながら答える。


「それが魔力だよ。……そのままお腹から、胸を通って、

左腕まで移動させたのが今の魔力。…それをゆっくりとお腹に戻していくね。」


「……うん…、……ふぅ…、……んぁっ、……んっ、……っ!。」


(なんか…、エロいな…、 ……これは訓練、コレハクンレン。」


ゆっくり戻すのに合わせてアミが、ピクッ、ビクッと、身体をビクつかせる。

そんな事を考えつつ、アルは慎重に魔力を動かし続ける。


チラリと眼を開いて周囲を見ると、アミ以外の全員がこっちを見ていた。

クリスは凄いジト目でこっちを見ているが、気付かないふりをして目を逸らす。


「よ…、よし…、……これでおなか迄、戻って来たけれど、

次は自分で動かしてみよう。」


「う…、うん…、やってみる…。」


アルはアミから離れ、魔力の動きを見る。

決して胸は見ていない。 見てないったら見てない。


アミも気を取り直して返事をすると、眼を閉じて集中し始める。

アミのお腹から魔力が動き出したのが見れる。


「うん…、……動いたね…。これを毎日繰り返して動かせるようにすると良いよ。」


「判りました!」


アルは優しくアドバイスすると、アミも嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、今日の所は魔力操作はこのぐらいで、模擬戦してみようか。

クリスはライザさん、としばらく模擬戦して見てくれる?

……加減は…、クリスに任せるよ。ライザさんに合わせて強めて行って。」


「ええ、わかったわ。」


「ライザさん、たぶんクリスは凄く強いから、全力でやっても良いと思うよ。」


「……わかった…、………。」


そう言って二人は準備のために、離れて行った。


(…ちょっと言い方が…、……悪かったかな…?)


ライザがムっとしてる様に見えたが、無口っぽくて判断が付きにくい。

アルはそう考えながらアミとケイを見ると、ケイが質問してきた。


「ねえ、アル君。 魔力操作の練習を続けて、上手くなると、

どんなことが出来る様になるの?」


「あぁ…、そうだね…。

 出来る事が判ったほうが、練習のモチベーションが変わるよね。」


「そうだね、出来る事を…、教えて貰えたら有難いかなぁ。」


「うん、じゃぁ…、今から、幾つか披露してみようか…。

えーっと…、じゃぁ、まずは、攻撃魔法を普通に詠唱すると…、

水よ、我が敵を穿て、ウォーターボール!」


訓練場の案山子に向って、初級の魔法を撃つと、

水球が的に向かって飛んで行き案山子を揺らして弾ける。


「これは、ケイさんも、アミさんも、それぞれ得意属性で出来てるよね?」


「うん、一応出来てるとは思ってるよ。」


「私もそうかなぁ。」


「魔法は魔力は勿論だけど、イメージと魔力操作が重要で、

足りないイメージと、魔力操作を、詠唱で補完する感じになるんだよ。

魔力操作の練習をして、魔法を何度も使って、イメージを明確にしていくと、

ある程度、詠唱も短縮できるし、改変も出来る様になるんだ。

こんな風に…、……ウォーターボール」


そう言って右手を横薙ぎに軽く振い水球を5つ創り出す。


「わぁ…、凄い…。」「……すご…。」


2人はアルの魔法で作り出されて浮かぶ水球を、目を輝かせながら見ている。


「本の通りに詠唱すると、

発現から目標にむけて発射する迄が、ワンセットになるんだけど。

しっかりイメージして魔力操作で創り出すと、こう言う事もできる様になるんだ。」


そこまで説明すると、創り出した5つの水球を頭の上ぐらいでゆっくりとアルの周りを周回させる。


「わぁ…、綺麗…。」「…………。」


2人は、アルの周りに浮かぶ水球をうっとりとした表情で見ている。


周回して居た水球が段々と速度を上げて行き高速で回転しながら、

1発づつ発射され、立て続けに5連続で案山子を揺らす。


「一切言葉にしなくても、発動は出来るけど…、

魔法名を口に出した方が、やり易いと思う。

毎日、さっきやった魔力操作の練習をして、

実際に、何度も魔法を使ってイメージを固めて行く。


多分だけど、上位の魔法も何度も詠唱をして、

イメージをしっかり固めれば、詠唱破棄できると思うよ。」


アルが、そう言うと2人は目を輝かせて頷く。


「うん!頑張るよ!」


「凄い人に教えを、乞うちゃったかなぁ。」


「あとは身体強化が出来るね、魔力を全身に行き渡らせて、その状態を維持する。

自分の身体を魔力で覆い包む感じかな。


これも、筋肉の細部を、補強するようなイメージが出来るほど、効果が強くなるね。

ただ…、……いきなり強度を上げると、その後の筋肉痛とか、

身体の負担が凄い事になるから、無理のない範囲を自分で覚えつつ、

少しづつ練習すると良いよ。 ・・・こんな感じで。」


アルは身体強化を発動しつつ、その場で垂直跳びをする。


「凄い!アル君、ありがとう!」


アミが喜ぶ。しかし、ケイは魔法よりも身体強化の方に興味を持ったようだ。


「ねぇねぇ、その魔力操作で身体の強化というか、

強度を上げるって出来るのかな?」


「うーん…、……やった事は無いけど…、……どんなイメージをしてるかな?」


「ん? そうだね…、……ただ全身を魔力で覆って固くなる…、……とか?」


「あぁ…、……なるほど…、

それは、出来るか出来ないかで言えば、出来るだろうけど…、

実用は…、難しいだろうね…。」


「…っと、いうと?」


アルは頭を掻きながら答える。


「身体強化は、あくまでも、自分の体の強化、だからね。


めちゃくちゃ体を鍛えて、限界まで強化すれば強度は上がるし、

魔力を防ぎたい場所の一点に集めたとしたら…、

……それ相応に防げるとは思うけど、魔力消費が凄い事になるだろうし、

集めた部分以外が、強化が薄くなったり、無くなったりするから…、

腕だけ無事で、全身ボロボロなんて事にもなりかねないしね…。


……そこまでするなら…、

防御用の魔法を練習して自在に動かせるようにした方が良いと思う。」


「ん…、そっかぁ…。ちょっと残念だなぁ…」


そこまで言ってアルは考える。 


「………でも…、………その案も良いかもしれないな…。」


「…え? ……いや、でもやっても意味ないんじゃぁ?」


アルの言葉にケイが首を傾げる。


「…うん、体の強度を上げるのは厳しいけど、身に纏っている武器や、

防具に魔力を浸透させれたら?

その武器、防具の能力を補強出来るんじゃないかな?

……やってみないと判らないけど。」


「おぉ!それだ!」


アルの言葉に、ケイが声を大きくして反応する。


「……出来るかも判らないけどね、試してみる価値は…、あると思う…。

魔力との親和性とかも、あるだろうから、

色んな素材で試してみるのもいいかもね。」


「まぁ、クリスとライザはヒートアップしてるみたいだし、

アミさんは魔法の練習していよう。 ケイさんはどうする?」


「私は、身体強化の練習をしておくよ。」


そうしてアルも、クリスとライザをチラ見した後、自主練を始めた。


――――――


クリス視点



「……アルやお母さん以外の人と、模擬戦するのは初めてね…。」


そう呟き、備え付きのいろんな種類の木武器が置いてある所で、

ショートソードタイプの木剣を掴み取り、眺める。


(…私も新しい事に…、チャレンジしてみようかしら…。)


そう思い同じ形の木剣をもう一本掴むと、既に待機しているライザの元へ行く。

ライザは右手に長剣タイプの木剣と普段使いのバックラーを装備している。


「では…、最初は軽く流して行きますね。」


「ん…、……わかった…、……宜しく。」


そう言ってお互いの構える。


「……行きます!」


クリスはそう宣言し、ライザに向かって走り出す。


(まずは、上段から振り下ろして様子見ね)


初動の動きの速さに、何時も眠たげなライザが驚き、眼を見開く。


(流しで……、コレなの…。)


ライザはそう思いながらも、

一気に距離を詰めてくる上段からの振りおろしを、

左手のバックラーで右から左に受け流す。


(盾の扱いが…、……上手い?)


クリスは振り下ろしを右に流され、

左手の木剣を逆袈裟に切り上げると、右手の木剣を差し込まれて弾かれる。

弾かれた衝撃を、腕の力を抜く事で分散させ、木剣を滑らせて振り抜き、

更に、身体を捻り右回りで回転して、右の木剣で横薙ぎに斬りかかる。


「っ!……くっ…。」


ライザは、短く呻き声をあげながら、左手のバックラーを右手側に突き出し、

クリスの横薙ぎに合わせて弾くと、

その勢いのままに、右からの横薙ぎの動作で、盾でクリスの頭部を狙い振り抜く。


クリスはしゃがみ込み盾を躱すと、咄嗟にライザの膝に右足を掛けて踏み込み、

上半身を後ろに逸らしてライザのアゴを蹴り抜く様にするが、

ライザは上体を逸らして回避し、クリスはそのまま後方に飛び上がり、

クルリと一回転して着地した。


(……、驚いた…、……今のは危なかった…)


ライザがそう考えていると、クリスが口を開く。


「今の一撃…、………盾の当て方が上手かったわ。」


「……ん…、……ありがとう」


そう言ってお互い構え直す。


(……次は…、……どう来る?)


「……行きますっ!」


(更に速くなった!?)


クリスは、ライザが構えると同時に踏み込み、右の鋭い突きを放つ。

ライザは、その突きをバックラーで左に受け流しながら、

左斜め前に踏み出し右の木剣を振り下ろす。


(くっ…、……盾が上手いと言うより、……目が良いのかしら?)



クリスは、振り下ろされた剣を、左手の木剣で左から右に打ち払い、

更に一歩踏み込み右の木剣を振り下ろす。


ライザはバックラーで受け流しながら、右手の木剣を振りかぶるが、

クリスはその動きを予測し、左足を斜め前に踏み出し、

左の木剣で盾を横に打ち払いながら、右の木剣を突き入れる。


(……まずい!?)


盾を弾かれ、身体が開いてしまったライザは、

咄嗟に右手の木剣を体の前に出し、クリスの突きを右側に受け逸らす。


「やるっ!」


だが、その勢いを殺したクリスは、

体を左から右に捻り、右の木剣を左から横薙ぎに払う。


(盾で受ける!)


ライザはそう思い左腕のバックラーを合わせようとする。


(…フェイント!?)


クリスは、右の木剣の横薙ぎを空振りさせて、その勢いのまま体を回転させ、

左足をライザの右足の前に踏み込み、その勢いで左の木剣で逆袈裟に斬りあげる。


(くっ!……間に合わないっ!)


咄嗟にバックラーを下げ、体の前を守るが間に合わず、

クリスの左の木剣がライザの腕を掠め、剣先が服を斬り裂く。


そこで仕切り直し距離を取る。


「はぁ…はぁ…。」


お互い構え直しながら息を整える。


(………、強い…、…でも、楽しいかも…。)


ライザはそう思いながら、構え直す。


2人は同時に踏み込み、激しく打ち合うが徐々にクリスが押し始める。


(くっ! …まずいっ!)


ライザは咄嗟に、バックラーを体の前に出し、木剣を受けると、クリスが右に体を捻り、右手の木剣で突きを放つ。


(ここっ!)


クリスの突きを、ライザはバックラーで受け流すと、

クリスはすかさず体を捻り、左の木剣を振り抜く。


「つぅっ!」


ライザはとっさに左手のバックラーを体の前に出し、

木剣を逸らそうとするが間に合わず右肩に受ける。



――――――



子供の模擬戦らしくない二人の攻防をアルは眺めていた。


(ライザは段々と押され始めてる様にも見えるけど、凄いな。)


そう思いながらアルは、2人の攻防を見て呟く。


「うん、良い勝負だな。」

(ライザも強いけど、クリスが予想以上に強いな…。

俺の時は…、やっぱり手加減されてたんだなぁ…。しかも二刀流になってるし。)


「凄い…。」


「私達と訓練してる時と、動きからして違うねぇ。」


アミが呟くと、ケイも同意するように頷き口を開く。


2人は激しい打ち合いをしていたが、

徐々にライザの動きが鈍り始めるとクリスが押し始める。


しかし、ライザも、盾で剣を受け流すと、

カウンター気味に右手の木剣で突きを放ち、クリスの服に掠らせている。


「でも、……ライザ楽しそう…。」


アミがそう言うと、ケイは笑いながら答える。


「そうだね、何時も眠たげなライザが、あんなに楽しそうに戦うなんてね。」




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