第20話 眼鏡のルティアさん



ギルドマスターと、アル達5人は領主館に向って歩いていた。


急ぎ足で歩きながら、ギルドマスターは口を開く。


「アル…、……すまねぇな、冒険者はあんなのばっかりじゃないんだぜ?」


「いえ、気にしてませんよ。

冒険者同士のいざこざに、ギルドは不干渉なんですから、

ギルドマスター様から、謝罪を頂くわけにはいきませんよ。」


「クックッ、そうか…、気にしてないか…。

なかなかに、肝が据わってやがんなぁ、おめぇさんよ…。」


立場上、人前でなかなか謝罪出来ないギルドマスターが、

この場で謝罪したのに、本当に気にしてなさそうに、返事をするアルの様子に、

クックッと楽しそうに笑うギルマス。


「俺の名は、ゼルって言うんだ、ブルグ村の冒険者ギルドで代表をしている。

おめぇさんとは…、付き合いが長くなりそうだ。宜しくなぁ。 …クックッ。」


突然、笑いながら自己紹介を始めたゼルに驚きつつも、返事を返す。


「……こちらこそ…、……宜しくお願いします。」


喋りながら急ぎ足で歩いてると、直ぐに領主館が見えてきた。


領主館に着くと、マリーさんが、門の所で出迎えていた。


「ブルグ村冒険者ギルド、代表のゼルです。突然の訪問失礼致します。

先触れは出しておりませんが、御当主様に、お取次ぎ願います。」


「確認をして参りますので、少々お待ちください。」


丁寧なゼルの挨拶に、チラりと、こちらを見たマリーさんは、

確認を取りに屋敷へ入っていく。


(領主館って言っても…、……実家なんだよなぁ…。)


ゼルの丁寧な対応に驚きつつも、数日振りの実家に、居心地の悪いアル。


(盛大に『行ってきます!』『暫く帰らないぜ!』みたいな感じで出ておいて、

さっそく帰って来たからな・・・)


そんな事を考えてると、マリーさんが戻ってきた。


「御当主様がお会いになりますので、こちらへどうぞ。」


マリーさんが先導してゼルと、領主館に入って行くので、付いていく。

クリスとライザはいつも通りだが、ケイとアミはキョロキョロしながら、

おっかなびっくりで付いてくる。



――――――



領主館執務室



「御当主様、冒険者ギルドのマスターゼル様がお見えです」


そんなマリーの言葉を受けて、執務室で椅子に座り机に向かって、

資料に目を通していたジョシュアは、顔を上げる。


「どうぞ。」


ジョシュアがそう言うと、ドアが開きマリーが入りドアの脇に控え、

ゼルを先頭にアル達が入ってくる。


「御当主様、突然の訪問、申し訳ありません。」


そう言いながら頭を下げるゼルに続いて、アル達も声に出さず頭を下げて礼をする。


アルを見て驚き、思わず顔が綻ぶジョシュアだが、

直ぐに表情を引き締め、ゼルに挨拶をする。


「いえ…、……構いません。……それで、どのような用件ですか?」


ジョシュアがそう言うと、ゼルは報告書を取り出し、返事をする。


「はい、まずはこちらの資料をご覧ください」


そう言って、数枚の報告書と地図を広げる。


「現在、北の平原から東に行った先にある森全域に、

ゴブリンの大群が確認されています。その数最低500以上。

ゴブリンの上位種である、シャーマンとホブがそれぞれ複数体、確認できました。

それ以上の上位種も居る可能性も推定されます。


更に、森の奥に洞窟が発見され、その内部はまだ不明ですが、

多くのゴブリンの出入りが確認されております。

それも含めれば、・・・およそ1000に届き得る数が居ると予想されます。」


「ほう…っ。」


ジョシュアは驚き声を上げるが、

周りから見ると、その反応は、余り驚いてる様には見えなかった。。


「現在、冒険者を募り編成中です。 また…、……ギルドマスターとして、

緊急討伐依頼を承認しましたので、領主様に御報告に伺いました。」


「……なるほど要件は理解しました…。

そこまで数が膨れ上がっているなら…、各所への連絡は出しますが、

…辺境伯や王都に応援を頼んでも、間に合わなさそうですね…。

冒険者ギルド、領主合同の緊急討伐依頼でお願いします。

報酬も、こちら側でも用意しておきましょう。」


「ありがとうございます。」


依頼の話した後、ジョシュアはアルの方へ顔を向ける。


「それで…、……そちらの少年少女達を、同行させた理由は?」


ジョシュアは、アルとその後ろに居るクリス達を見て尋ねる。


「はい、彼らは冒険者をしておりますが、まだGやFランクです。

ですが、彼らが今回の第一発見者なのです。」


「ほう?」


ジョシュアは目を細めて相槌を打つ。


「彼らは、森での探索中に、ゴブリンとの遭遇戦に突入しました。

そして異常な数のゴブリンの追撃を振り切り、生還して報告をしてくれた事により、

今回の異常発生を、比較的早期に発見するに至りました。」


「なるほど…、……それで?」


ジョシュアは先を促す。


「はい、彼らの生還とその功績に…、特別報奨を出したいと考えております。」


「ふむ…、……そういう事ですか。判りました…。

では…、冒険者ギルドに報酬と併せて、連絡しておきますね。」


そう言うとジョシュアは、

机の引き出しからお金の入った袋を取り出し、アルに手渡す。


「ありがとうございます。」


アルがお礼を言うと、ジョシュアは笑顔で答える。


「君たちの今回の行動で…、……多くの命が救われたかもしれないんだ。

 胸を張ると良い…。そして…、……これからの君達の活躍を期待するよ…。」


ジョシュアの言葉にクリス達もお礼を言って、執務室を退室しようと立ち上がる。


ドアを開いて出ていく直前、ジョシュアが口を開いた。


「アル…、やるじゃないか…。」


その言葉にアルが振り向くと、ジョシュアがニヤりと笑って手を振っていた。


アルは、ジョシュアの声に、笑顔で会釈して退出した。



――――



領主館玄関外


領主館の建屋から出て、緊張の糸が切れたのか、

ケイ達が一斉に息を吐いた。


「はぁ~、緊張したぁ…。」


ドアを出てすぐ、アミが呟く。


「本当よね…、貴族様のお屋敷って緊張するわ…。」


アミの言葉にケイが続いて心境を吐露する。


「……領主様…、……どことなくアルに似てた…、………アルが似てた?」


ライザが何かを考えるように呟く。


「確かに、アル君がそのまま年を取ったら、あんな感じになるのかもねぇ。」


ケイもライザの言葉に同意するように答える。


「領主様、カッコイイ人だったね! アル君もあんな風になるのかなぁ…?」


アミが思い出し、想像して、だらしない顔をしている。

一体、ナニを想像しているんだろうか。


クリスは我関せずっと言った感じで、会話に加わらず、何もしゃべらない。


屋敷を出て、直ぐにゼルはギルドに戻ると言い、足早に去って行った。


「アル、これからどうするの?」


クリスが問いかけると、アルは貰った報酬を5等分しながら答える。


(銀貨が25枚か…、……父様けっこう入れてくれたな。一人銀貨5枚だな。)

「流石に討伐戦に、俺たちはお声が掛からないだろうし…、

……参加も許されないだろうしなぁ。」


「確かに、私達では足手まといになるわね。」


クリスはアルの言葉に頷きながら答える。


「討伐隊が出払ったら人も少ないだろうし、特別報酬も貰えたから、

今日は依頼を受けないで、ギルドの訓練場でも借りて練習しようか。」


「そうね…、……体も動かした方が良いと思うし、そうしましょうか。」



アルが全員に銀貨5枚を渡しながら提案するとクリスが同意し、ケイが声をあげる。


「ねぇ…、……あたしたちも一緒に良いかな?」


「もちろん、良いよ。」


アルが答えると、ケイは嬉しそうに笑う。


「やったぁ!ありがとう!」


アミが声をあげて喜び、ギルドへ向かって歩き出した。



――――



冒険者ギルドに戻ると、既に人の姿が疎らになっていた。


「あれ…、……もうこんなに人が、少ないんだ。」


「そうね…、討伐隊が出払ったからかしら?」


アミがギルド内を見回しながら呟くと、クリスもアミの言葉に同意して答える。

そんな会話を交わしつつ、アル達はカウンターに行くと、

眼鏡の受付嬢が対応してくれた。


「アルさん、お帰りなさい。」


眼鏡の受付嬢が笑顔で声を掛けてくる。


(よく合う眼鏡さん、そういえば名前知らないな…)

「ただいま戻りました。」


アルが名前を呼ばれたので返事をする。


「今日はもう…、自由にして頂いて大丈夫ですが、どうしたんですか?」


「いえ、この5人で裏の訓練場を使いたいなと思いまして。」


「なるほど…。

訓練場は、こちらの用紙に名前を書いて頂ければ、

自由に使って頂いて構いませんよ。

ただし、備品を破損した場合は、必ず報告してください。

報告しないまま後で発覚すると、

弁償金を請求させて頂くことになりますので、気を付けてください。

報告して頂ければ、故意などで悪質でない限り、

請求される事はありませんので安心して使ってください。」


いつも通りの、テキパキとした仕事ぶりに感心しつつ、

渡された名簿に名前を記入する。


「ありがとうございます。では、早速使わせて貰いますね。」


アルはお礼を言い、訓練場へ向かう4人を見つつ、思い出したように口を開く。


「あの…、……お姉さんの御名前を、伺っても良いですか?」


「あっ…、……そう言えば名乗ってませんでしたね。

失礼しました。私は、受付嬢のルティアと申します。」


名乗ってなかった事を思い出したルティアは立ち上がり、

眼鏡をクイっとあげて、笑顔で答える。


「……綺麗な人だ…。」


アルは心の中で呟いてるつもりで、口に出して呟いていた。


「え? ……あら…、ありがとう…。……アル君も可愛いわよ。」


ルティアは、アルの呟きに一瞬驚いたが、

艶っぽい唇に人差し指を当てて、 ウインクしながら答えた。


「あ…、ありがとうございます…。」

(今…、俺…、声に出してた?)


アルは、内心で焦りつつ、お礼を言い訓練場へ急ぐ。


「うふふ…、可愛い子ね…。」


そんなアルの後ろ姿を見送りながらルティアは呟き、作業を再開した。



(お前のお気に入りはあの少年かっ!)


つい先程のルティアの暴走を見ていて、このやり取りを黙って見ていた、

職員や、受付嬢達は同じことを考えた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る