第18話 吊り橋効果?



「すまん…、クリス…。しばらく頼……」


そう言い掛け、アルは意識を手放して―――倒れた。


「アルッ!?」


慌ててクリスが駆け寄り、抱き上げ声を掛けるが反応が無い。

身体の様子を見て息を吐く。


(………たぶん魔力切れかしら…。……無理もないわ…、

あれだけの魔法を、使ったのだから。)


ゴブリンの群れを押し留める為に、かなりの魔力を使い、

その上、慣れない回復魔法でケイを癒す為に、魔力を使って居た。


(あれは…、たぶん光の中級の回復魔法…。

今まで…、使った事も無いはずだから、……魔力の消費も激しかったはず…。)


クリスはバッグから敷物を取り出し拡げ、アルを寝かせると、2人に向き直る。


「私達は此処で野営します。

そちらの方は、そのまま安静にして貰った方が、良いと思いますが、

貴方達はどうされますか?」


そう尋ねると、アミが答える。


「私たちも、此処で野営します」


「分かりました。 それでは私は、夕食の準備をしますので…、

少しの間…、……アルをお願い出来ますか?」


そう言ってクリスはバッグから食材を取り出し始めると、

2人は了承してアルの側へ座る。


(さて…、……何を作ろうかしら…。

みんなで食べれるように…、……スープで良いわね…。)


「あの…、……手伝います。」


アミがそう言って立ち上がる。


「ありがとうございます、それでは火起こしを、お願い出来ますか?」


アミは頷くと、クリスの指示で、夕食を作り始めた。

2人で調理を始めてる間、

ライザはアルの側で座ったまま、ずっとアルの顔を見つめて居た。


(綺麗な顔…。 ……多分年下…、なのかな…。)


「あの…、……ライザさん?……どうかしましたか…?」


クリスが気になって声を掛けると、ライザはアルを見つめながら答える。


「ううん…、……なんでもない。」

(なんでだろう。……この人の寝顔を、ずっと見てたいと、…思ってしまう…。)


そんな事を考えながら暫くアルの顔を見つめて居たら、アミが声をかけて来た。


「そろそろ出来ますよ」


アミがそう言うと、クリスはアルに声を掛ける。


「アル…、……夕食が出来たわよ…。 ……起きれる…?」


「………ん…? ………。」


アルは目を覚ますと、気怠げに起き上がり周りを見渡した。


「……ここは…?」


「おはよう…、…アル。」


クリスが声を掛けて来たので、そちらを向くと、アミとライザも居た。


「あぁ…、……そうか、野営してたのか…。………どれくらい寝てた?」


「2時間…くらいかしら? 

今日は、此処で野営するから…、……夕食を食べたらまた寝なさい。」


「分かった…、……ありがとう。」


そう言ってアルは。ふら付きながらも起き上がり、

アミとライザにもお礼を言って、夕食を取る為に座り直す。


アルが食事を食べ終えると、アミが顔をあげ喋り始めた。


「あのっ!あ…、……えっと、……私はアミスフィア、13歳です。

アミって呼ばれてます。今回助けてくれてありがとうございます。」


そう言ってペコリとお辞儀をする。


アミスフィア。 通称アミは、明るい茶髪のセミショートって言うのかな。

それの毛先が外に跳ねてる。お胸様が立派な可愛い感じの子だ。

ちょっとあがり症なのかな、杖を持って居たから後衛担当ぽいな。


「私は…、ライザ、14歳…。ありがとう…。」


そう言ってペコリとお辞儀をする。


ライザ。暗いめの赤髪でボブカットの少女。

お胸様はそこそこの良いスタイルという感じかな。

クールと言うより無口キャラって奴なのかな?

剣と丸盾を持って前線に居たから、前衛担当っぽい。

クリスがストレートのボブカットに対して、

ライザのは毛先がクリンと内側に丸まっている。


アミが続けて口を開く。


「あちらで寝てる、アルさんに治療して頂いた子が、ケイシュリア、14歳、

ケイって呼んでます。」


ケイシュリア。通称ケイは、黒に近い青髪で、セミロングをオールバックにして、

後ろで束ねたショートポニーテールの様な髪型で、前髪が数束ほど垂れてる感じだった。

お胸様は将来に期待しましょうって感じのスレンダーバディです。

うん、悪くない。


「俺はアルです、よろしくね…。

悪いけど食べたら…、……もう一度寝させて貰うよ…。」


「ええ…、……アルはしっかり寝ないとダメよ…。

何かあったら起こすから、ゆっくり寝て。」


そう自己紹介して、夕食を食べ終えると、

クリスの声を聴きながら横になると直ぐに眠りについた。



―――



「おやすみなさい。」


アミはそう呟いてアルの寝顔を眺める。


(可愛い顔…。……年は弟と同じぐらいかな?)


暫く見惚れて居たがハッと我に返り、

ライザを見ると、 ライザもアルの寝顔をずっと眺めて居た。


「ライザ…。」


アミが声を掛けると、ライザはハッとして慌てて答える。


「……なんでも無い…。」


そう言って、またアルの寝顔を見つめ始める。

アミもアルの横顔を眺めながら、暫くの間2人でアルの寝顔を眺め続けた。


そんな二人をクリスは黙って見ていた。



――



アルが目覚めると、クリスに声を掛けられた。


「おはよう…、…アル。」


「……おはよう…、……クリスは寝たのか?」


「ええ…、少し寝たわ。日が昇るまでもう少しあるから、もう少し寝なさい」


そう言ってクリスは立ち上がる。


「……分かった、……ありがとう。おやすみ。」


「おやすみなさい」


クリスはアルにそう告げると、アルは横になって眠り始めた。


(さて、どうしましょうか…。)


アミの方を見ると、まだ寝ずに居た様で目が合った。


「アミは、まだ起きてるの?」


そう声を掛けると、少しビクっと肩を揺らしながら答える。


「うん…、……もう少ししたら寝るよ。」


そう言ってまたアルの横顔を眺め始めたので、

クリスもそれに倣う様にアルの寝顔を眺める事にした。



「アルさんとクリスさんは何歳なの?」


アミが唐突に聞いてきた。


「私は13歳…、……アルは10歳よ。」


「えっ、そうなの? クリスさんは私と同じなんだね。

もっと…、……大人かと思ってたよ。」


アミは驚いた様な感じで答えた。


(まぁ、確かに子供にしては、落ち着いてる方よね…。)


そう考えながらアルの寝顔を眺めて居たら、アミが口を開く。


「クリスさんはなんで冒険者になったの?」


「私?……そうね…、…私は。」


少し考える仕草をしてから、質問に答える。


「私は、……アルが冒険者になるって言ったから、付いてきたの。」


そう言うと、アミは驚いた様にクリスを見る。


「それだけ? ……その…、……アルさんの事が好きなの?」


「ええ、好きよ。」

(私の全てよ。 ……なんて言わないけど…。)


そう思いながらもアミに答えると、アミは俯きながら呟く。


「やっぱり…、……そうなんだ…。」


(やっぱりってどういう事かしら…?)


そんな事を考えつつ、アミが続けて口を開く。


「アルさんは凄いね…。……あんな数の魔法を使いこなすなんて。」


「そうね、アルは凄いわ。」


(本当に…、……アルの魔法が無ければ、今はこうして休んで居られないわね。)


そう思いながら、アミの言葉に相槌を打つと、

アミは少し俯いてから顔を上げてクリスに言う。


「私っ! ……私も…、……アルさんが好き!」


「っ!?」


驚いた表情でアミを見ると、真剣な眼差しでクリスを見つめる。


(……アルの言ってた吊り橋効果? ……単純に一目惚れかしら?)


そんなアミにクリスは口を開く。


「そうね…、……私もアルが好きよ…。……でも。」


そう言うと、少し間を置いてから続ける。


「アルには…、……私を愛して欲しいとは…思う、けれども…、

私を愛さなくても良い。」


「……えっ?」


アミはクリスの言葉に驚き、理解できずに思わず聞き返す。


「アルが誰を好きになろうと、私は構わないわ。

それでも私は…、……アルを守る。……この命に代えても…。」

(そう…、……この命が尽きたとしても。)


「…………。」


アミはクリスの言葉と、アルを想う気持ちに、

何も言えなくなって、ただ黙って見つめるしか無かった。



――――



東の方、遠くに見える山脈の輪郭を映し出す様に、暗い夜空が白んでくる。



「そろそろ…、……日が昇る頃ね。」


クリスは立ち上がり、アルの側へ座ると優しく頭を撫でながら声を掛ける。


「アル…、……朝よ。……起きて…。」


「………ん…。」


(あれ?俺…、……寝てたのか。)


そう考えながら目を開けると目の前にクリスの顔があった。


(そっか、昨日野営したんだっけ…。)

「おはよう…、……クリス。」


「ええ、おはよう。アル。」


そんな会話をして起き上がると、アミもこっちを振り向いたので挨拶する。


「おはよう、アミさん」


そう言うとアミは満面の笑みで答える。


「おはようございます!アルさん!」


挨拶を交わしていると、ライザとケイも起きてきた。


「……おはよう。」


「おはようございます。

昨日は…、……助けて貰ったのに、お礼も言えずにごめんね。」


やはり、無口キャラなのだろうライザは、機嫌が悪くはなさそうだが、

その言葉数は少ない。

ケイさんは初めてまともに喋るが、フランクなお姉さんって感じの喋り方だった。


「ケイさん、腕はまだ折れてて痛むでしょう。治療しますね。」


ケイの折れてる左腕側に跪き、左腕にそっと手を当てて、詠唱する。


「神聖なる光よ…、其の者の傷を癒やしたまえ…、……ハイヒーリング。」


アルが詠唱すると、ケイの左腕から痛みが引いていく。


「おぉ…、 凄い…。」


そう言ってケイは折れてない方の腕で、治った腕を軽く動かしてみる。


(大丈夫そうだな…。 魔力も結構減った感じはあるけど…、

うん…、……これぐらいなら問題ない。)


「ありがとう。……アル君は優秀なんだね!」


お辞儀をしてお礼を言うと、背中をパンパンと叩いて誉めてくる。


そんな2人のやり取りを、クリスとアミとライザは黙って見つめていた。



――――



「さて…、……日が昇る前に、朝食を済ませて出発しましょうか。」


クリスがそう言うと、皆頷き準備を始める。


サクッと朝食済ませたアルはクリスに声を掛ける。


「村に戻って、ギルドに、昨日のゴブリンの事を報告しようと思うんだ。」


「そうね、昨日のゴブリンは、流石に異常だったものね。」


「うん、ただの繁殖だったとしても、あの数との遭遇戦は、

相当に実力のあるパーティーじゃないと、被害が出ると思うからね」


アルはそう言って立ち上がる。


「アミ、ライザ、ケイさん、

昨日のゴブリンの事は、冒険者ギルドに報告しといた方が良いと思うから、

良ければ、ブルグ村まで一緒に来てくれる?」


アルは3人にそう声を掛けると、ケイが答える。


「そうだね、私達も報告しないといけないね。」


3人は頷くと準備を始める。


「そう言えば貴方達って、ブルグ村の冒険者なのかしら?」


クリスがそう尋ねると、ケイが荷造りしながら答えた。


「あぁ、私たちは、ザイン男爵領のイード村なんだ。」


「どおりで…、ブルグ村で会ったことない気がしてたのよね。

年が近いから、会ってたら覚えてると思うのよ。」


「イード村って、此処から北西に行ったところにある村だっけ?」


「アル、知ってるの?」


「いやぁ、地図で見た事があるだけだよ。

まぁブルグ村から北側での、最寄りの村だね。

ザイン男爵領も隣接領だし。」


そんな会話をしつつ、全員の準備が整うと、出発した。


道中何事も無く、のんびりと歩き続け、暫く進むと、街道が見えたので、

その道を1時間ほど歩くと、遠目に村が見えてきた。


(あのゴブリンってやっぱ通常の繁殖じゃないよなぁ・・・。

今思い出すだけでも…、 ……、まぁ捕まらなくて、ほんとよかったよ。)


昨日のゴブリンの事を考えて居たら、いつの間にか村の入り口まで到着していた。


門番にギルドカードを見せて村に入ると、一行は真っ直ぐ冒険者ギルドに向かった。






――――――――――


皆様に読んで貰って、フォローや応援まで、して頂きありがとうございます。


本日20時に更新でしたが、もう一話を、この後21時に更新します。


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