第17話 群れの怖さ

翌日 。


屋台で朝食を済ませ、北の平原を目指して村の北門を抜ける。


木造橋を歩き、途中でふと立ち止まり、東西に流れる川を眺める。

上流側の東を見ると緩やかに南に曲がっていき、森の端の方の中を通り、

南東の森の奥、遠くに見える高い山から流れて来てる様だ。


「この川…、……南の山から流れて来てるのね…。」


「……そうみたいだな…。」


西の下流側を見ると、ずっと遠くまで流れて行ってる。


「本で見ただけなんだけど、

この川はこのまま流れて、大きな川と合流した後、海に出るみたいだ。」


「そうなの?……アルは物知りね…。」


2人で川の流れを眺めポツポツと言葉を紡ぐ。


「川が海に入る周辺が、街になってて、川の上にも建物があったりして、

『水の街』なんて、呼ばれてるらしいよ。」


「へぇ〜…、……行ってみたいわね…。」


「大きくなったらいつか…、……一緒に見に行こうな…。」


そう言ってどちらからとも無く手を繋ぐ。


「ええ…、……約束よ…。」


手を繋いでまた歩き出すのだった。



――



橋を渡り終えてから、暫く歩くと平原に出たので、辺りを見回すアル達。


「ホーンラビット…、……見当たらないな。」


「そうね…、……もう暫く歩いて見ましょう。」


そう言って、更に歩いて行く。


「あっ…、……居たわ…。」


小声でクリスが指さす方向を見ると、ホーンラビットが2匹居た。


「まだこちらに気付いてない様だ…。」


「そうね、魔法で先制…、……いける?」


「了解。……アースホール!」


アルが魔法を唱えると、ホーンラビットの足元に突然穴が開く。


「プギッ!?」「プギィッ!」


突然、足元の地面が消失し、

逃げ出そうとしたホーンラビットの一匹の足が、空を蹴り、穴に落ちていく。

もう一匹は、落ち掛けながらも、

前足で穴の淵を掴み這い出て、怒ったように、こちらにツノを向けて駆け出す。


「プギィィィ!!」


「アル…、ナイスよ!」


声を掛けるクリスは既に駆け出し、

ホーンラビットの突進を躱し、すれ違い様に剣を振り下ろす。


ザシュッ!っと音がしてホーンラビットの首は宙を舞うのだった。

死体を回収して、穴に落ちた方へ見に行くと、

穴の中でグルグル回って居たのでクリスがサクッとトドメを刺す。


「血抜き…、……どうしようかな…。」


「この棒を使いましょう」


クリスが自分の腰のバッグから、物干し竿の様な細長い棒を取り出すと、

二匹の後ろ足を、括り付けて残ってる方の首も刎ねる。


「アル、この下に穴を開けてくれる?」


「あぁ! ……なるほど、了解!」


クリスのやりたい事を理解して早速、アースホールで穴を作ると、

二匹が穴に落ちるが後ろ足を括った棒が引っかかり、逆さ吊りになる。


「コレは楽だな。」


「そうね、血抜きも楽だわ。」


血抜きを待つ間に、刎ね飛ばした首に残っていたツノを回収して、

穴の中にポイポイする。

血が出きった辺りで、棒の両端部の下の土を盛り上げ棒を持ち上げ、穴を埋める。


「よし、血抜き完了!」


「それじゃ、回収して次にいきましょうか。」



――――



2人は、ホーンラビットを狩りながら、薬草採取も同時にする為、

北の平原から東に進み森の中に入っていく。


「あ…、……あったわ…。」


「それじゃ暫く、薬草採取をしますか…。……ん…?」


薬草の生えてる辺りに、近づこうとした時、

ふと、何かが聴こえた気がしたアルが、魔力視で周囲を見渡した。


「あっちに…、魔物が居るんだけど…、……多分ゴブリンかな?

だけど…、……数が多いし、なんか…、……戦ってるような? クリスどうする?」


「……様子を伺って見ましょうか?」


アルが、曖昧気味に言うが、

クリスの気配察知にも引っ掛かったようで、近付いて様子を見る事にした。


「ギャギャ!」


「………ギィ、………、ギ…ギ!!」


「……回り込ま…… 防い…… 下がって……」


少し近づいた所で、途切れ途切れに、ゴブリンの声に混ざって、

人の声が聞こえて来た。


「……どうやら、ゴブリンと戦って…、……苦戦してる様だな。

クリス…、……もう少し近寄って見よう…。」


そう呟き、顔を見合わせ頷くと、近寄り草葉の陰から様子を伺う。


そこでは少女の3人組が、大量のゴブリンと交戦して居た。


「ライザもう少し下がってっ! 囲まれるっ! 

アミ、……魔力はまだ行ける? ……ハッ!?」


「「ケイッ!」」


積極的に声を出して居た子が、後衛っぽい少女を気遣い振り向いた瞬間、

横から飛び込んできたゴブリンに、棍棒で側頭部を殴られ、膝から崩れ落ちた。

そこへ2匹3匹とゴブリンが続々と殺到する。


「……うぅ…、…キャッ!? ……イヤァッ!!」


「……このっ! …うっ!?」


ライザと呼ばれた少女が、ゴブリンに殴られて、集られてる少女を助けようと、

周囲のゴブリンを振り払い、走りだそうとした瞬間、

後ろから膝裏に体当たりされて、膝がカクンっと曲がり、

前のめりに押し倒される。


「えぃ! ケイッ! ぇ…? ライザッ!?」


アミと呼ばれた子が、杖を振り回して駆け寄り、

ケイに群がるゴブリンの1匹を杖で突き飛ばした所で、

ライザも捕まったのを見て悲鳴のような声で名前を呼ぶ。


その時には、ライザにも3匹4匹とゴブリンが群がり始めて居て、

ケイに群がるゴブリンは、ケイを棍棒で殴り、服を破き、むしり取り始めて居た。


(コレは、まずいっ!)


チラリとクリスを見て頷く。


「援護するっ! クリスは救出をっ!」


「分かったっ!」


クリスは草場から飛び出して走る。

アルは立ち上がり、群がられてる二人の少女、それぞれの足元を狙う。


(イメージは土の物見塔!)


「アースウォール! ……からのぉ…、ストーンバレット!」


両手を、下から振り上げつつ叫ぶと、群がられてる少女の足元の土が、

少女を乗せたまま隆起して競り上がる。


ケイに跨っていたゴブリンも、一緒に持ち上げられるが、

直ぐにストーンバレットで撃ち抜き落とす。


群がっていたゴブリン達は、土が隆起した勢いで振り落とされ後ろに倒れ込む。


「…………、 んっ…!

ライザは隆起した地面の上で一瞬呆然とするが、直ぐに持ち直し、

一緒に上がってきたゴブリンを突き落とす。


「グギャッ!」「プギィィ!!」


高台と化した土をよじ登ろうと、ゴブリン達は奇声を上げて群がっていた。



―――――



クリスは、ケイと呼ばれた少女の元へ走って居た。

その時、ケイの足元の土が盛り上がり、ケイを押し上げ、

群がってたゴブリンは振り落とされた。

ケイに跨っていたゴブリンも、直ぐに石礫に打たれて、落ちて行く。


「………流石ね…。」


小声で呟くと、走り込み、素早く連続で剣を振るう。


「フッ! ハッ!!」


ケイの居るアースウォールの周囲のゴブリンの首が宙を舞い、

ケイへの道を作ると、更に斬り払い、その場を維持しつつ、アミに言う。


「貴方は彼女を連れて、アルの近く迄、下がってっ!」


「は、はいっ!」


そこへアルのアースウォールが下がって来て、アミがケイを抱きかかえる、


「ケイっ…!」


「早くっ!」


「はっ! はいぃ…!」


クリスに急かされ、ケイを引き摺りながらも抱え上げ、アミは指示通り動き出す。

クリスは、アミに向かおうとするゴブリンを、牽制しつつ、

アルの元へ向かうのを見届けると、ライザの元へ走り始める。


「ハァッ!!」


ライザの居る壁の、周囲のゴブリンへと切り込み、

壁を登ろうとするゴブリンを、更に斬り払う。



―――――



(……うげっ!)


ケイとアミを守る様に、2人に近寄ってくるゴブリンを、

ストーンバレットを乱射して牽制しつつ、

クリスがライザの元へ辿り着いたのを見て、その奥が目に入ると、

思わずうめき声が出そうになった。


ライザの居る奥側でアースホールで周囲に穴をあけ、

ゴブリンが落ちてる隙に、ライザを下ろす。


「クリースッ!下がれっ!撤退だっ!!

…アースウォール! アースウォール!」


クリスがライザの手を引き、走り始めたのを見計らい、

叫びながら、アースウォールを乱立させる


アルの声で、ライザの手を引いてるクリスが、チラリと後ろを振り返ると、

数え切れない程のゴブリンが迫って来て居た。


穴に落としてもゴブリンで穴が埋まり、壁を作っても迂回したり、

その尋常では無い数で乗り越えて追いかけて来る。


「アルっ!ダメッ、間に合わないわっ!」


クリスが悲痛な声を上げる。


(クソッ!!)


アルは覚悟を決めてゴブリンの群れを睨み、

マジックバッグからスタッフを抜き出し、草場から飛び出した。


「クリスっ! 走り続けろっ!」


(中級はあんまり練習出来てないけど…、やるしか無いっ!)


蒼い宝石の嵌ったスタッフを右手に持ち、声に出して詠唱する。


「風よ…、大いなる風よ…、…迫り来る敵を吹き飛ばせ。…ウインドブラスト!」


スタッフの宝石が淡く発光して、詠唱完了と共に目の前の地面に突き立てる。

ゴォッ!! と音を立て、アルの前方から突風が吹き荒れ、

クリスがライザの手を引っ張り、伏せた頭上を、突風が通過して、

ゴブリンの群れを吹き飛ばす。


――――

”ウインドブラスト” は、

術者を中心に前方扇状に広がり、突風を吹き付けて、対象を吹き飛ばすという、

風属性の中級魔法。


相手の最前列に最も効果が高く、後ろに行くほど効果が薄くなっていくので、

群れで来られると、効果が薄くは感じるが、

吹き飛ばされた前列が後列にぶつかる為、足止めとしては効果的だと判断した。

――――


(よしっ!次っ!)


吹き飛んだゴブリンが後列にぶつかり渋滞が発生するが、

転倒した仲間のゴブリンを踏み付け、乗り越えて、

後続のゴブリンが押し寄せて来る。


それを見ながら再度、詠唱を開始するアルを横目に、走り抜けるクリスとライザ。


「水よ…、大気よ…、其の者から熱を奪いて凍て付かせよ…、

……フリージングウェイブ!」


スタッフから発生した冷気が、アルの前方へ扇状に広がり、

迫り来るゴブリン達を、凍えさせ、凍らせ、動きを鈍らせる。

急激に動きの鈍ったゴブリン達が、後ろから押し寄せるゴブリンの集団に、

押し倒され、踏まれ絶命していく。


――――

”フリージングウェイブ” 

術者を中心に前方扇状に、冷気の波を浴びせ

進行方向を凍らせるという、水属性派生の氷属性の中級魔法である。


術者から発せられた冷気は扇状に広がり道中の地面の湿気をも凍らせていくが、

これもウインドブラストと同様で、対象の後方には効果が及びにくい魔法である。

――――


そしてアルは、スタッフをポーチに収納しながら、叫ぶ。


「撤退だ!走れ!」


最後尾で、アースホールで塹壕の様な溝を作り、

その間際にアースウォールで壁を作り、高低差を増やし、妨害しながら、

自身も走り出す。


物量で、壁と穴を避けて来た個体には、アイスアローを打ち込む。

更に壁と塹壕を作りながら走る。


「アルっ!…このままじゃ追いつかれるわっ!」


クリスの焦った声が聴こえる。


その声を聴きながらも走りながら考える。


(なにか…、何か無いか…、 ……!? …やれるのか?

いや…、……やるしか無いっ!)


「そのまま走れっ」


そう叫ぶとアルは、スタッフをポーチから取り出し、立ち止まって振り返ると、スタッフを両手で握り地面に突き立てる。

それを見たクリスは驚き思わず立ち止まり叫ぶ。


「アルッ!?」


(イメージは断崖絶壁、何物にも乗り越えられない様な崖。)

「………アースウォールッ!!」


アルが全力で魔力を込め叫ぶと、

アルの足元の土がアルを乗せたまま絶壁の様に高く競り上がり、

森の木々をも呑み込み、横にも広がり、ゴブリンの群れを押し留める。


絶壁の上にいるアルの視界に、森の奥、川の近くに、洞窟の様な穴が見えた。


(なんだ…? …洞窟? …なにかの巣か?)


「クリスっ!今のうちに逃げるぞ!」


取り敢えず撤退優先だなと、思い直し、クリスに声を掛けつつ。

ゴブリンを押しとどめた絶壁の反対側のスロープ状の坂を下っていく。

その光景を眼前で見たクリスは眼を見開き呟く。


「……凄い…。」


「クリスっ!行くぞっ!」


アルの声で我に返り、直ぐに走り出す。



――――



やがて一行は、森を抜け、平原も走り続け、……やがて立ち止まり、…振り返る。


「はぁ…、はぁ…。 ……追っては来ない様だな…。」


肩で息をしながらアルが呟く。


「ふぅ…、……そうみたいね…。」


クリスも息を整えながら答える。


(魔力を使い過ぎたか? ・・・少しクラクラするな。)


2人して座り込んで休んで居ると、

二人掛かりでケイを運び、倒れ込んでいたが、拡げた布の上にケイを寝かせて、

アミとライザが、近寄って来た。


「あのっ! ……助けて頂き…、ありがとうございます。」


アミがお礼を言って頭を下げる。


「……ありがとう…。」


ライザも俯きながら礼を言う。


「いいよ…。 ……みんな助かって良かった…。」


その姿を見ると、2人とも服のあっちこっちを破かれて、ボロボロだった。

アミはまだマシだが、ライザは色々ポロリしてるのを、手で押さえて隠している。


「そうだ!もう1人の人は?」


そう言って立ち上がり、寝かされていた、ケイを観る為にアルとクリスが近寄る。

服がかなり破かれ、ほぼ裸に近い状態で、全身にひっかき傷がある。

棍棒で殴られ骨折しているのか、顔が腫れあがっていた。


「大丈夫…、……息はしてるわ…。」


クリスがケイの呼吸を確認して答える。


「……腕も折れてる様だけど…、

顔がかなり腫れてるし…、……顔面骨折もしてるみたいだ…。

放っておくのは危険だね…。」


そう言ってアルが、ケイの横に跪き、手を伸ばす。


「少し…、触りますよ…。」


そう言って側頭部の酷い腫れに手を添える。


「っ ……うぅ…。」


意識はない様だが、痛みで呻き声をあげる。


(本で見ただけで…、……実践は、ない…。 ……顔の骨をイメージして…。)

「神聖なる光よ…、其の者の傷を癒やしたまえ…、……ハイヒーリング。」


アルの手から薄い青の様な緑の様な、優しい光が放たれると、

ケイの顔の腫れが引いていき、傷がみるみる治っていく。


「凄い…。」

「嘘…、……?」


心配して周囲で様子を見て居た、アミが思わず呟き、ライザが信じられないと驚く。

暫くすると、呼吸も落ち着いたので、ケイに声をかける。


「……大丈夫…ですか?」


「……う…、ん…。」


意識が戻った様で、ケイは弱々しい声で返事をした。


「まだ…、……腕の骨も…、折れてると…、……思います…ので、

そのまま……安静に、してて……ください。」


なるべく穏やかな口調で、声を掛けて休ませると、

異常なほどの、大量の汗を流しながら、アルはクリスの方へ向くと、力なく笑う。


「すまん…、クリス…。しばらく頼……」


そう言い掛け、アルは意識を手放して―――倒れた。






―――――後書き―――――



初のフォローや応援してくださり、ありがとうございます。

頑張って纏めていきますので、引き続きよろしくお願いします。


明日からは、20時頃に更新していきたいと思っています。

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