第20話 俺は無実だ(嘘



2人はギルドに向かいながら今日の予定を話し合う。


「今日の所は、簡単な依頼を探してみようか。」


「そうね…。お昼も過ぎてるから、

あまり良い依頼は残ってないかもしれないけど、 手頃な物があればいいわね。」


「とりあえず…、ギルドに行ってから考えようか。」


2人は歩いて村の中心部にある冒険者ギルドに向かう。



――――



冒険者ギルドに到着した2人は、中に入ると掲示板の前に行き、依頼を確認する。


「やっぱり…、良いのは残ってないわね…。」


そんなクリスの言葉に、アルも同意するように頷く。


「そうだな…でも、どの道Gランクだと、良いのは受けれないか…。

ランク上げするには、地道にやるしかないか。」


Gランクの依頼は…


【町の掃除、家の掃除、家畜の世話、犬のお散歩のお手伝い、

庭仕事、etc…。】


(なんていうか…、

………、ほぼ使いっ走りだなぁ…、子供だから仕方ないけど…。)




そう考えていた時、ギルドホール内で怒鳴り声が聞こえた。


「いつまでチンタラしてんだっ!この愚図がっ!」


「ご、ごめんなさいっ!」


冒険者ギルド併設の酒場の方で、荷物を持っていた少女が怒鳴られていた。


怒鳴っていたのは、ガタイの良い男で、その隣に女が寄り添い、

付近に2人の男が立っている。


女は少女に興味がなさそうな態度で、

男二人は少女を嘲笑っているような笑みを浮かべている。


少女は涙目になりながら、必死で荷物を運んでいた。


全員10代後半から20代前半ぐらいの見た目で、

荷物を必死に運んでいる少女はアルと変わらないか少し下ぐらいに見える。


水色の背中ぐらいまでありそうな髪をローテールで纏めて、

小柄な体型に細い手足で、一生懸命に荷物を背負っている。


「おら、さっさと行くぞっ!」


「は…、はいぃ…」


ガタイの良い男がギルドから出て行くと、その仲間も出て行き、

後を追いかけるように、少女が出て行った。


一行が出て行った後、周囲の冒険者達が、騒めき出す。


「あー、あの荷物運びの女の子か…、可哀そうにな…。」


「あぁ…、あいつか…。でも…、あまり関わらない方がいいぞ…。」


「あの女が…、どこぞの貴族の令嬢らしいからな…。」


「あのポーターの子は、良い様に使われてるらしいが…、

助けようと声を掛けても、本人が、拒否してるんだとよ…。」


「なんだそりゃ…、報復でも恐れてるのかねぇ…。」


「可哀想だけど…、仕方ないな…。」


そんな周囲の会話を聞きながら、少女の出て行った扉を見ていると、

俺の肩に手を置いたクリスが言う。


「アル…、気持ちは判るけど…、今の私達に出来る事は無いわ…。」


そう言うクリスの表情は、苦虫を嚙み潰したようだった。


「そうだな…。下手にちょっかいを掛けて、

あの子に迷惑かけたら元も子もないしな…。」


「………、そういう事よ…。」


前世でも、中途半端な正義感で苛めから助けようとして、

更に悪化して、当事者に恨まれる、なんてことも珍しくないと。


クリスも昔の経験から身をもって知っているのかもしれない。


助けると…、関わると決めるなら、最後までやり通す意思が必要だ。


2人は何とも言えない気持ちになりつつも、掲示板を見に戻るのだった。


「クリス、昨日と同じになるけど、常設依頼受けようか。薬草とゴブリン。」


「そうね…、そうしましょう。」


薬草採取と、ゴブリン討伐の常設依頼の紙を1枚づつ取り、受付嬢にもっていく。


「お願いします。」


「あら?

貴方は昨日の、【アルとクリス】さん、今日もゴブリン討伐と薬草採取ですね。」


偶然にも昨日のパーティー登録を勧めてくれた、眼鏡の受付嬢だった。


相変わらずの大迫力です。


(マリーさんと並んだら凄い事になりそうだ。)


謎の魔力に引き寄せられる視線が、胸に向わない様に眼を見開き、

受付嬢の顔を見ようとするが、視線がぶれる。

後ろからジト目で見られてるような、追及する様な視線も感じる。


「はい、それでお願いします。」


「アル…? ………、どこ見てるのかしら?」


「俺は無実だっ! い…いや…違う…、ミテナイヨ…。」


視線だけでなく言葉でも追及されるが、俺は無実無罪。


「その発言がアウトよね?」


「そんなバカなっ!?」


クリスの顔が真後ろに迫っている気がするが振り向いてはいけない。


そんな二人のやり取りを、眼鏡の受付嬢はウフフと笑いながら、

処理を手早く終わらせていく。


「はい…、依頼は受理されました。

常設依頼は、失敗してもペナルティは有りませんから、無理はしないでくださいね。


あと…、ゴブリンは数が増えると脅威度が増すから本当に気を付けてね。」


「はい、了解ですよ、無理はしません。


あ…そうだ…それと、パーティー名決まったんで…、【パンドラ】で、お願いします。」


「パンドラ…? 聞いたことのない言葉ね…。

興味本位で申し訳ないけれど、何か意味がある言葉なのかしら?」


受付嬢は、パンドラと言う言葉に、興味を持ったのか食いついてくる。


「えぇ…、まぁ…、『最後に残った希望』…みたいな感じです。」


何気ない所で説明を求められると急に恥ずかしくなる事ってあるよね。

アルは、凄くざっくりと説明を端折った。


「なるほど…、ふふ…っ、素敵な名前ですね…。………、分かりました。

2人のパーティー名を変えておきますね。

それでは…、【パンドラ】さん、気を付けてね。」


パンドラの言葉に込められた意味を勝手に解釈した受付嬢は、

そう言って、カウンターに前のめりになり、カードを返却してくれる

襟元が締まらないのか、ボタンが外されて、圧迫された、御餅様がご立派です。


「あ…、ありがとうございます…。」


(…色んな意味で!)


「………、アル…?。」


(クリスさん…、近いです…。)


背後からのジト目の追及から逃れるためにアルは、

クリスの手を引きそそくさとギルドを出るのだった。

そんな二人を見送り、クスッと笑うと、眼鏡の受付嬢は業務に戻る。



―――――



門を出て、昨日と同じ森の方に進むアル達。


「ねぇ…、アル…? さっきは何を見てたのかしら…?」


(やっぱり来たか…。)


「フッ…、クリスには敵わないな…。」


キザったらしく前髪をフワっと掻き上げポーズをとる。[注意:10歳です。]


「誤魔化そうとしても無駄よ。」


「あ…はい…。」


「………、それで…? 何を見てたのかしら?」


アルは素直に白状する事にした。


「う…受付の…、お姉さんの…、お胸様の谷間を。」


「それで…、起ったの…?」


「は…? え…? いや…、起ってない…、よ?」


クリスのジト目が迫ってきたが、

返事を聞くとフイッと、視線を逸らされたその顔は少し残念そうだった。


「そう…、なら良いわ…。」


「あ、うん…、なんかごめん…。」


そんなやり取りをしているうちに森に到着すると、

薬草を採取しながらゴブリンを探すのだった。



――――



森の中で薬草の採取をしていると、クリスが指を指し示し小声で言う。


「ねぇ、アル…、あれを見て…」


クリスが指さす方向を見ると、そこにはゴブリンが居た。


「ゴブリンが3匹か…、よし…、気付かれない様に近づこう…。

俺が左側から、先制するから、

ゴブリンの注意がこっちに向いたら、反対側から頼む。」


「分かったわ…、任せて…。」


2人は頷き合うと、それぞれの配置につき行動を開始した。


(まずは1匹目!!)


「ストーンバレット!」


アルが、声を出して唱えると、

発射した石礫が、ゴブリンの右側頭部に命中し倒れる。


2匹目のゴブリンが、アルの声に反応しているこっちを向いた隙に、

クリスが背後から近づき首を刎ねるが、

残ったゴブリンが、クリスに向って飛び掛かる。


「アースウォール!」


クリスとゴブリンの間の地面が隆起して、

飛び掛かっていたゴブリンの身体は、隆起した土に下から打ち上げられ、

前のめりに転倒したところを、クリスに首を飛ばされた。


2人の連携により、アル達は危なげなく3匹目のゴブリンも倒すのだった。



―――――



討伐を終えた2人は、倒した3匹の魔石を抜き取り綺麗にして、

マジックバッグに収納すると、薬草採取を再開するのだった。

暫くして、休憩の為、森から出て草原に腰を下ろす2人。


「………、アルの魔法は凄いわね…。

無詠唱で出来るのは知ってるけれど…、

魔法名の発声から、発現までの時間差が殆どないもの…。」


「それを言うなら、クリスの動きも凄いよ。」


「あら、ありがとう…。」


2人はお互いに褒め合うと笑い合い、休憩を終えるのだった。



―――――



その後、薬草採取を続けながらゴブリンを2匹討伐し、町に戻った2人はギルドに報告をしに行く。


(さて…、今日の稼ぎは…)


アルが窓口で、ゴブリンの討伐部位と薬草を渡し確認してもらう。


「はい、確認しました。

薬草25束、5セットで銅貨25枚と、ゴブリンの5匹分で銅貨10枚、こちらが報酬の銅貨35枚になりますね。

振り込みになさいますか?」


「ありがとう。 今日は現物でください。」


現金を受け取り、ギルドを出て2人は、夕食を探しに露店に行く。


「今日の晩御飯は、屋台で串焼きでも食べようか。」


「そうね、……私は肉が良いわ。」


そんなやり取りをしながら、2人は町を散策しながら屋台の並ぶ通りに向かうのだった。



―――――



屋台を見て歩いてると串焼きを売ってるお店を見つけた。


「おじさん、串焼き2本下さい。」


「あいよ、2本で銅貨4枚だ!」


2人分の料金を払い、串焼きを受け取ると1本をクリスに渡す。


(うん…、良い匂いだ…)


アルが肉にかぶりつく横で、クリスも少しずつモグモグ食べ始める。


「うん…、美味しいわね!」


「………、だな…、このタレが凄く良い。」


串に刺さった大きめのお肉は直ぐに食べ尽くされ。おじさんに串を回収して貰う。


「ねぇおじさん、このお肉は何の肉なの?」


「ん? あぁ…、これは…、北の橋を超えた先の平原や、

西の平原に棲息してる、ホーンラビットの肉だよ。

よく動くすばしっこい魔物だからな。程良く歯応えがあって美味えだろ。」


にしし、と笑いながら教えてくれる。


「へえ〜、捕まえて来たら買ってくれたりする?」


「お? 坊主、魔物を狩るのか?

そうだな…、ちゃんと倒した後に直ぐに血抜きした、状態の良いものなら、

一匹分で銅貨10枚で買うぜ。」


「そっか、それじゃ今度持って来るよ。」


「状態が悪いと、その分値段も下がるからな? 

あとツノは危ないから気をつけろよ~。」


「分かった、ありがとう、おじさん。」


屋台のおじさんにお礼を言って、屋台を後にする2人。


「アル、ホーンラビットってどんな魔物なの?」


「えっと…、確か…、角が生えたウサギ…?だったかな…。

大きさはゴブリンの半分ぐらいで、大きな角が特徴かな。

基本的に大人しくて近付くと逃げる程臆病だけど、怒らせると、角を向けて突進で攻撃して来て、

何処までも追いかけてくるらしいよ。」


「そう…、名前そのまんまだったわね…、それなら私でも倒せそうね…。」


「クリスなら、逃げられ無い様に注意すれば、油断しなければ大丈夫だと思うよ。」


「明日は、兎狩りに行って見るの?」


「そうだな…、明日は、北の橋の向こうの平原に行って見ようか。」


「ええ、判ったわ。」


そんな会話をしながら素泊まりの宿を探し、今日の所は休むのだった。





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