第15話 お義母様!?



PT名を決定してから、クリスに声を掛けて、共に日課を一通り消化してると、

父が帰ってきた。と、聞いたアルは、

父のジョシュアと母のエレナに話をする為に2人の部屋に向かう。


「おはようございます!」


ノックと共に声を掛けると、暫くしてから扉が開いた。

そして中からジョシュアが出てくる。


「アル、おはよう。どうしたんだい?」


「おはようございます!父様。 母様もご一緒ですか?」


アルがそう言うと、ジョシュアの後ろからエレナが出てきた。


「あら? どうしたの? アル。」


「エレナ母様。 父様と母様に、……少しお話がありまして…。」


アルがそう言うと、ジョシュアとエレナは顔を見合わせる。

そしてお互いに頷くと、部屋の中へと招き入れてくれたのだった。


2人に促されて椅子に座ると、メイドのマリーさんが現れ、紅茶を入れ始める。

紅茶の香りが漂い始める中一息付くと、アルは意を決して話し始める。


「先日…、冒険者登録をしました。」


「あぁ…、……それで?」


ジョシュアは、

カップに入れられた紅茶の香りを嗅ぎ、一口味わうと続きを促す様に頷く。


「暫く…、冒険者活動に、……専念して見たいと思います。


それでですね、……今の所遠くまで行くつもりは有りませんが、

近場でも…、野営の必要な時や、外泊する事もあるとは思うのです。」


「うん…、……そういう事もあるだろうね…。…それで?」


ジョシュアはアルの真意を測りかねているのか、探る様にしながら質問してくる。


「事前に外泊がわかる様なら、連絡する様にしますが、

突発的だと、帰宅しない日が続くかもしれません。


なので、……外泊込みでの冒険者活動の、許可を頂きたいのです。」


そこまで言うと、2人は顔を見合わせ頷きエレーナが言う。


「わかったわ…、……アルの好きにしていいわよ。」


エレーナは微笑みながらそう告げる。そんな母にジョシュアも重ねて言う。


「わかった…、……好きにすると良いよ…。 

ただし! ……世の中は危険だらけだ…。

呆けていると…、……直ぐに死んじゃうからね?」


ジョシュアは、何時になく真剣な眼差しで、アルを見つめてそう言うのだった。


「……肝に銘じます…。」


そう答え、アルは深く頭を下げると2人は、優しく微笑んでくれた。

しかし、その目は真剣に我が子を心配している、親の視線を感じたのだった。


「では…、……失礼します。」


立ち上がり、退室しようとすると、

マリーさんが扉の横で待機しており、突然、頭を下げて来た。


「アルヴィス様…、クリスを…、……娘を、……何卒宜しくお願い致します。」


その言葉に驚いたアルは、

直ぐに居住まいを正して向き直ると、マリーさんに頭を上げて貰う。


「マリーさん…、……今の僕は、クリスを守るどころか、守られてばかりです。

ですが…、クリスと力を合わせて、何度でも一緒に生きて帰ると約束します。」


アルは、力強くそう宣言すると、マリーさんは目に涙を溜めながら微笑み、


「……ありがとう…ございます…。」


そう言って、再び深く頭を下げるのだった。


部屋を出ようとするアルに、ジョシュアは声を掛ける。


「アル…、……倉庫にいくつか装備あった筈だ。必要な物は持って行って良いよ。

後は…、家を出る前に声を掛けなさい。用意しておこう。」


「判りました、ありがとうございます。…父様。」


アルは頭を下げて礼を言うと部屋を後にする。


自室に戻ると、部屋の掃除をしてたクリスに声を掛ける。


「父様と母様には許可を貰ったから、ちゃんと冒険者として活動しようと思うんだ。

それで、一緒に着てほ…「行くわ。」……あ…、……はい…。」


アルの言葉の途中に被せて来て、クリスは即答で答える。


「……前にも言ったわよ。……アルの居る場所が、私の居る場所よ。」


「あ~、うん…、……判ってるんだけど…、……言わせて欲しかったなぁ…。」


諦めにも似た感情を抱きながら、頭を掻き苦笑してアルは言葉を濁した。



――――――



その後2人は必要な物と武器防具を揃えるため倉庫に向かう。


「アルには、これなんかどうかしら?」


クリスは倉庫に入ると迷わず奥の棚に行き箱を漁る。


引っ張り出した物は、今のアルの身長よりも長い180cm程のシンプルな形の杖で、

先端に蒼い宝石を嵌め込んである、スタッフと呼ばれる物だった。


「これは、魔力増幅の効果がある杖よ。 

丈夫な木で出来ているから、棒術も使えるアルには、良いんじゃないかしら?」


「確かに…、……これは良いな…。

あと…、護身用を兼ねた、素材剥ぎ用に取り回し易そうな、

ナイフみたいなの無いかな?」


クリスの言う事を想像して、素直に納得したアルは、希望を言って見る。

クリスは少し顎に手を当てて考えると、入口まで行き、別の棚を漁る。


「……これなんかどうかしら?」


ホルダー付きの刃渡り30cm程大型のナイフを手渡され、

受け取り、腰に装着してみる。


(うん、ちょっと大きい気もするけど良い感じだな!)


「有難う、…これにするよ。 次はクリスの武器だな。」


ナイフの鞘をポンポンと叩きながら、礼を言い、

クリスの武器を探そうと提案する。


「私は、これを使うわ。」


即答でクリスが見せたのは、登録の時にマリーから受け取った、

刃渡り60cm程のショートソードだった。


「……それで良いのか?」


「ええ…、……コレも多分…、そこそこの業物だと思うわよ。」


「なるほど…、……じゃあ次は防具だな。」


クリスが良いならいいかと、防具を探そうと辺りを見渡すと、

またクリスが迷わず倉庫内を突き進み、棚から引っ張り出してきた。


「アルにはコレね。」


クリスが渡してきたのは、黒いローブと黒い革製の胸当てだった。


「……これは?」


「胸当ては、ただの皮の胸当てね。

ローブは、魔力を纏わせることで、生地の強度が上がるそうよ。」


(ほう…、……なるほど…。 だが…、……しかし…。)


「なぁ…、……クリスさんや。……さっきから迷いなく出してくるけど、

なんで倉庫にあるものに詳しいんだ?

しかも…、……俺の好みドンピシャで…。サイズもそうだし…。」


まるで倉庫の中身を、すべて把握してるかのようなクリスの動きに、

アルはとうとう我慢できずに質問した。してしまった。


「別に…、……不思議な事は何も無いわよ?

前に倉庫の掃除で入った時に、……アルに似合いそうな物と、

役立ちそうな物をリストアップして、奥様とお母さんに効果を確認して、

持ち出しの許可も、取り付けていて居ただけよ?」


「お、おう…、……不思議なのはクリスの思考だけだったか。」


「何か言ったかしら?」


「いや、何でもないよ。」


そう答えつつ、深く考える事は止めようと思ったアルだった。


「あぁ、そうだ。クリスの防具はどうするんだ?」


「私は、このメイド服で十分よ。アルの専属メイドだもの。」


「あ、はい…。」


その場でくるりと一回転して、メイド服を見せつけた後、クスっと笑う。


「冗談よ…。 ……屋敷使い用のは、流石に冒険に適さないから、

お母さんに頼んで、冒険者用メイド服を作ってもらったわ。」


「あ~…、……はい…。」


(メイド服は冗談ではなかったのね…。)


アルは考えるのを止めた。


その後、2人は必要な物を揃えて行くのだった。


―――――


2人で準備をしていると、

あっという間に昼になり、昼食を家族全員で頂く。

そして、昼食を食べ終え、屋敷を出ようと、父に挨拶する。


「アル、……これを持っていきなさい。」


そう言って渡されたのは、ウエストポーチの様な小さめのバッグだった。


「それはマジックバッグと言って、そのサイズで、

3m四方の倉庫ぐらいの容量があるんだ。

ただ、バッグの口に入らない物は、入れられないけどね。

私が昔使っていた物だが、それでも希少なものだから、

無くさない様に気を付けるんだよ。」


「父様…、……大事に使わせて頂きます。」


バッグを腰に装着して礼を言うと、肩をポンポンと叩かれた。


「クリス、貴方にはこれよ。ジョシュと同じで、私が昔使ってた物ね。」


そう言って、一回りぐらい小さいバッグを、クリスの腰に装着してあげるエレナ。


「容量もジョシュの物より小さいけど、武器とか小物の収納にあると便利よ。

これでも、希少な物だから、無くさないようにね。」


装着して説明をすると、クリスの頭を撫でて、ウィンクするエレナ。


「奥様…、いえ…、……義母様!ありがとうございます。」


そう言ってエレナに抱き着くクリス。


(義母さんって言った!?)


感動の別れのシーン見たいな二人を、横目で見て内心突っ込むアル。


「アル、クリス、気を付けるんだよ。」


「なるべく帰れる時は、帰ってくるようにしなさいよ。」


「クリス、しっかりなさい。 アル様、クリスを宜しくお願いします。」


「うん、父様、母様、マリーさん、行ってきます!」


「アル様は必ずお守りします。行って参ります。」


ジョシュアとエレーナと、いつの間にかそこに居たマリーさんに見送られ。

手を振りながら挨拶をして、屋敷を後にするのだった。


―――――


屋敷を後にしてしばらく歩いた後、アルはふと思った。


「あれ…?……荷物の殆ど、マジックバッグに入るんじゃね?」


「あ…、……そう言えばそうね…。」


アルは、一番嵩張るスタッフを、マジックバッグに入れて見ると、

見事に収納出来て、2人で笑い合い、荷物を収納していった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る