冒険者として
第19話 お義母様!?
パーティー名を決めた後、クリスと共に日課を一通り消化してると、
父が帰ってきたと聞いたアルは、クリスに部屋で待つ様に言い、
父のジョシュアと母のエレナに話をする為に2人の部屋に向かう。
「おはようございます!」
ノックと共に声を掛けると、暫くしてから扉が開いた。
そして中からジョシュアが出てくる。
「アル、おはよう。どうしたんだい?」
「おはようございます!父様。 母様もご一緒ですか?」
その声にジョシュアの後ろからエレナが出てきた。
「あら? どうしたの? アル。」
「エレナ母様。 父様と母様に…、少しお話がありまして…。」
アルがそう言うと、ジョシュアとエレナは顔を見合わせる。
そしてお互いに頷くと、部屋の中へと招き入れてくれたのだった。
2人に促されて椅子に座ると、メイドのマリーさんが現れ、紅茶を入れ始める。
紅茶の香りが漂い始める中一息付くと、アルは意を決して話し始める。
「先日…、冒険者登録をしました。」
「あぁ…、………、それで?」
ジョシュアは、
カップに入れられた紅茶の香りを嗅ぎ、一口味わうと続きを促す様に頷く。
「暫く…、冒険者活動に……、専念して見たいと思います。
それでですね…、今の所遠くまで行くつもりは有りませんが、
近場でも…、野営の必要な時や、外泊する事もあるとは思うのです。」
「うん…、そういう事もあるだろうね…。それで?」
ジョシュアはアルの真意を測りかねているのか、探る様にしながら質問してくる。
「事前に外泊がわかる様なら、連絡する様にしますが、
突発的だと、帰宅しない日が続くかもしれません。
なので…、外泊込みでの冒険者活動の、許可を頂きたいのです。」
そこまで言うと、両親は視線を見合わせ頷いてエレナが言う。
「わかったわ…、アルの好きにしていいわよ。」
エレナは微笑みながらそう告げるとジョシュアも重ねて言う。
「わかった…、好きにすると良いよ…。
ただし! ………、世の中は危険だらけだ…。
呆けていると…、直ぐに死んじゃうからね?」
ジョシュアは、何時になく真剣な眼差しで、アルを見つめてそう言うのだった。
「………、肝に銘じます。」
そう答え、アルは深く頭を下げると2人は、優しく微笑んでくれた。
しかし、その目は真剣に我が子を心配している、親の視線を感じたのだった。
「では…、失礼します。」
立ち上がり、退室しようとすると、
扉の横で待機していたマリーさんが、突然に頭を下げて言う。
「アルヴィス様…、クリスを…、娘を…、何卒、宜しくお願い致します。」
その言葉に驚いたアルは、
直ぐに居住まいを正してマリーさんに向き直ると頭を上げて貰う。
「マリーさん…、今の僕は…、クリスを守るどころか守られてばかりです。
ですが…、クリスと力を合わせて、何度でも一緒に生きて帰ると約束します。」
アルは、力強くそう宣言すると、マリーさんは目に涙を溜めながら微笑み、
「ありがとう…ございます…。」
そう言って、再び深く頭を下げるのだった。
部屋を出ようとするアルに、ジョシュアは声を掛ける。
「アル…、倉庫にいくつか装備あった筈だから、必要な物は持って行って良いよ。
後は…、家を出る前に声を掛けなさい、用意しておこう。」
「父様…判りました、ありがとうございます。」
アルは頭を下げて礼を言うと部屋を後にする。
ーーーー
自室に戻ると、部屋の掃除をしてたクリスに声を掛ける。
「父様と母様には許可を貰ったから、ちゃんと冒険者として活動しようと思うんだ。
それで、一緒に着てほ「行くわ。」……あ…、はい…。」
アルの言葉の途中に被せて来て、クリスは即答で答える。
「前にも言ったわよ…。アルの居る場所が私の居る場所よ。」
「あ~、うん…、判ってはいるんだけど…、言わせて欲しかったなぁ…。」
諦めにも似た感情を抱きながら、頭を掻き苦笑してアルは言葉を濁した。
――――――
その後、2人は必要な物と武器防具を揃えるため倉庫に向かう。
「アルには、これなんかどうかしら?」
クリスは倉庫に入ると迷わず奥の棚に行き箱を漁る。
引っ張り出した物は、今のアルの身長よりも長い180cm程のシンプルな形の杖で、
先端に蒼い宝石を嵌め込んである、スタッフと呼ばれる物だった。
「これは、魔力増幅の効果がある杖よ。
丈夫な木で出来ているから、棒術も使えるアルには、良いんじゃないかしら?」
「確かに…、………、これは良いな…。
あと…、護身用を兼ねた、素材剥ぎ用に取り回し易そうな、
ナイフみたいなの無いかな?」
クリスの言う事を想像して、素直に納得したアルは、希望を言って見る。
クリスは少し顎に手を当てて考えると、入口まで行き、別の棚を漁る。
「……これなんかどうかしら?」
ホルスター(鞘)付きの刃渡り30cm程の大型ナイフを手渡され、
受け取り、腰に装着してみる。
(うん、ちょっと大きい気もするけど良い感じだな!)
「有難う…、これにするよ。 次はクリスの武器だな。」
ナイフの鞘をポンポンと叩きながら礼を言い、クリスの武器を探そうと提案する。
「私は、これを使うわ。」
即答でクリスが見せたのは、登録の時にマリーから受け取った、
刃渡り60cm程のショートソードだった。
「………、それで良いのか?」
「ええ…、コレも多分…、そこそこの業物だと思うわよ。」
「なるほど…、じゃあ次は防具だな。」
クリスが良いならいいかと、防具を探そうと辺りを見渡すと、
またクリスが迷わず倉庫内を突き進み、棚から引っ張り出してきた。
「アルにはコレね。」
クリスが渡してきたのは、黒いローブと黒い革製の胸当てだった。
「………、これは…?」
「胸当ては、ただの皮の胸当てね、黒い皮というのが珍しいぐらいで、
特に追加効果は無いわ。
ローブの方は、魔力を纏わせることで、生地の強度が上がるそうよ。」
(ほう…、なるほど…。………、だが…、しかし…。)
「なぁ…、クリスさんや…。さっきから迷いなく出してくるけど…、
なんで倉庫にあるものに詳しいんだ?
しかも…、俺の好みドンピシャで…。サイズもそうだし…。」
まるで倉庫の中身を、全て把握してるかのようなクリスの動きに、
アルはとうとう我慢できずに質問した。…してしまった。
「別に…、不思議な事は何も無いわよ?
前に倉庫の掃除で入った時に…、アルに似合いそうな物と、
役立ちそうな物をリストアップして奥様とお母さんに効果を確認して、
持ち出しの許可も取り付けていて居ただけよ?」
「お…おう…、不思議なのはクリスの思考だけだったか…。」
「何か言ったかしら?」
「いや…、何でもないよ。」
そう答えつつ、深く考える事は止めようと思ったアルだった。
「あぁ、そうだ。クリスの防具はどうするんだ?」
「私は、このメイド服で十分よ。アルの専属メイドだもの。」
「あ…、はい…。」
その場でくるりと一回転して、メイド服を見せつけた後、クスっと笑う。
「冗談よ…。 屋敷使い用のは、流石に冒険に適さないから、
お母さんに頼んで、冒険者用メイド服を作ってもらったわ。」
「あ~…、………、はい…。」
(メイド服は冗談ではなかったのね…。)
アルは考えるのを止めた。
その後、2人は必要な物を揃えて行くのだった。
―――――
2人で準備をしていると、
あっという間に昼になり、昼食を家族全員で頂く。
昼食を食べ終えて荷物をまとめた後、屋敷を出る前に、父に挨拶する。
「アル、これを持っていきなさい。」
そう言って渡されたのは、ウエストポーチの様な小さめのバッグだった。
20㎝ぐらいのバッグだが、口元が拡げられる様になっていて、
引っ張り拡げれば、30㎝四方ぐらいまで広がる構造のようだ。
「それはマジックバッグと言って、そのサイズで、
3m四方の倉庫ぐらいの容量があるんだ。
ただ、バッグの口に入らない物は、入れられないけどね。
私が昔使っていた物だが、それでも結構希少な物だから、
無くさない様に気を付けるんだよ。」
「父様…、ありがとうございます。大事に使わせて頂きます…。」
バッグを腰に装着して礼を言うと、肩をポンポンと叩かれた。
「クリス、貴方にはこれよ。ジョシュと同じで、私が昔使ってた物ね。」
そう言って、エレナは一回りぐらい小さいバッグを、クリスの腰に装着してあげる。
「容量もジョシュの物より小さいけど、武器とか小物の収納にあると便利よ。
これでも、割と希少な物だから、無くさないようにね。」
説明をすると、クリスの頭を撫でて、ウィンクするエレナ。
「奥様…、いえ…、義母様!ありがとうございます。」
クリスはそう言ってエレナに抱き着く。
(義母さんって言った!?)
感動の別れのシーン見たいな二人を、横目で見て内心突っ込む。
「アル、クリス、気を付けるんだよ。」
「なるべく帰れる時は、帰ってくるようにしなさいよ。」
「クリス…しっかりなさい。
アル様…、クリスを宜しくお願いします。」
「うん、父様、母様、マリーさん、行ってきます!」
「アル様は必ずお守りします。行って参ります。」
ジョシュアとエレナと、いつの間にかそこに居たマリーさんに見送られ。
手を振りながら挨拶をして、屋敷を後にするのだった。
―――――
屋敷を後にしてしばらく歩いた後、アルはふと思った。
「あれ…?………、荷物の殆ど…、こぼマジックバッグに入るんじゃね?」
「あ…、そう言えばそうね…。」
アルの荷物で、一番嵩張るスタッフをマジックバッグに入れて見ると、
見事に収納出来たので、2人で驚き笑い合い荷物を収納していった。
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