第14話 パンドラの箱



――――翌朝。


目が覚めると、クリスの顔が目の前にあり、思わず心臓が跳ね上がる。


(びっ!?……くりしたぁ…。)


アルは、バクバクと高鳴る心臓を落ち着ける様に、深呼吸をしていると、

クリスが目を覚ます。


「ん…、……おはよう、アル…。」


「あぁ…、……おはようクリス。」


そんな挨拶を交わしてキスをした後、2人で着替えて食堂に向かうのだった。


(はぁ…、朝から刺激が強いな…。

昨日のことを思い出して、こっ恥ずかしくなる…。)


そんな事を考えながら、食堂に入ると、

エレナ母さんとマリーさんに、挨拶をされる。


「おはようアル、クリス。」


「母様、マリーさん、おはようございます。」


笑顔を見せてそう挨拶を返すと、

マリーさんが眼だけで笑いながら、ススっと音を立てずに近寄って来た。


「ウフフ、おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね?」


マリーさんが耳元でコソッと挨拶して来る。 余計な一言を添えて。


「ぶっ!?」


(ちょっ!? なんて事を言い出すんですかね? あんたの娘でしょ。)


そんなアルの動揺を他所に、マリーさんはクスクスと笑いながら戻って行った。


(はぁ…、朝から疲れる…。)


げんなりしながら席に着くと、

朝食の配膳を持ってきたクリスが近寄ってきて、心配そうな顔で小声で聞いてくる。


「アル…、……どうしたの? 大丈夫? おっぱい揉む?」


(……君達、親子のせいだよ…。)


そんな考えが頭を過ったが、なんとか堪えて答える。


「あぁ、……大丈夫だよ。」


そう言って微笑むと、クリスも微笑み返してくれたのだった。



――――


朝食を食べ終え、自室に戻ると、クリスとパーティー名について相談する。


部屋にある、ローテーブルを挟んで椅子に座る。


「さて、保留にしてたパーティー名だけど、どうしようかな。」


「んー…、そうねぇ…。」


クリスは、持ってきたティーセットで、紅茶を淹れながら返事をする。


「昨日さ…、……俺が前世の記憶が有る、転生者だって話したろ?」


「えぇ…、聞いたわ…。」


アルの前に入れた紅茶を置くと、自分の分も居れて、アルの前に座る。

クリスの淹れた紅茶を一口飲み、アルは話を続ける。


「でさ…、……俺がこの世界に来るときに、自称、創造神の神様に会ったんだ。」


「創造神…、……その神様って何て言う名前なの?」


クリスも、自分の紅茶を一口飲もうと口を付ける。


「……創造神の名前は、『パン・ドゥーラ』って言ってた、

俺は、おっさんって呼んでたけど。」


「ぶふっ!」


おっさんと言う言葉に、

思わず紅茶を噴き出してしまったクリスが、ゲホゲホとむせている。


「だ…、……大丈夫か?」


心配するアルがハンカチを渡し、

それを受け取ったクリスが、涙を滲ませたでジト目で返事をする。


「ご…、ごめんなさい…。創造神の神様に…、そんな風に呼んで大丈夫なの?」


「あ、あぁ…。 ……仕方ないだろう…、

最後の最期まで、名前を教えてくれてなかったし…。」


クリスはハンカチで口周りを拭き、テーブルも拭きながら、考える。


「それで…、その……創造神って…何…?

教会で教えられてる神様は、三神が居られて、

光の神『ユピテル』 闇の神『プルトン』 地の神『セレス』の三神で、

その三神がこの世界を造ったとされてるわ。」


「あぁ…、教会が広めている話では、そう言う話になってたな。

でも…、創造神のおっさんが言うには、

創造神パン・ドゥーラの下に神が居ると言ってたんだ。

何人いるか迄は聞いてなかったけどな。」


そう言って、アルはステータス画面を呼び出すと、クリスに見えるように表示する。


―――


名前:アルヴィス・アイゼンブルグ (10歳)

種族:人族 (男)

職業:なし

HP:174

MP:1182


★スキル


技能スキル

剣術Lv2 棒術Lv3 体術Lv2 操糸術Lv2


魔法スキル

水魔法Lv8 土魔法Lv6 風魔法Lv7 光魔法Lv4 身体強化Lv3


特殊スキル

魔力視Lv1 魔力察知Lv2 魔力注入Lv1


(Lock)

アイテムストレージ 鑑定 


補助スキル

器用さUP 体力UP 魔力UP(大) 精力UP(大) 魔力操作 魔力回復向上


打撃耐性(弱)


ステータス隠蔽 異世界言語理解


固有スキル


(Lock)

??召喚


★称号

創造神パン・ドゥーラの加護(隠蔽済み) ??神の加護(隠蔽済み)


―――


「これは何度か紙に書いて、

クリスにも見せたことがあるステータスなんだけど。


このステータス画面の下の方に書いてあるの見えるか?

一応全部見れるようにしてるつもりだけど…。」


クリスはアルのステータスを見て、Lockされた??召喚も気になりつつ、

最後の称号で目が止まる。


「……創造神パン・ドゥーラの加護。あと…、??神の加護…。」


「一応、これで創造神パン・ドゥーラの存在は証明?に、

なるか判らないけど…、……まぁ居るんだ。

??神の加護については、

会った事も無いから、誰なのかさっぱりわからないけど……、

……加護はくれてるみたいなんだよな…。」


そう言って、ステータス画面を閉じて、紅茶を口に含む。


「ちなみに…、どちらの加護もどんな効果があるのかは、さっぱり分かってない。

もしかしたら…、……能力が向上されてるのかもしれないけど…、

産まれたときから加護があるっぽくて、

比較できないから、認識できないんだよな…。」


「でも…、Lockされてるとは言え…、

スキルとかも一杯あるのは…、……加護のお陰なのかしら?」


クリスは、気持ちを落ち着けるように、震える手で紅茶を一口、口に含む。


「……いや…、……スキルについては、パン・ドゥーラのおっさんが、

サイコロ振って決めるって言ってたから、加護とはあんまり関係ないと思う…。」


「ぶふっ!」


クリスはアルの言葉に紅茶を吹き出し、咽る。

今度はテーブルまで飛ばさずに、咄嗟に手で押さえたようだ。

アルは、ハンカチを取り出して、クリスに手渡しつつ、クリスが落ち着くのを待つ。


「げほっ!げほっ…。 ご…、……ごめんなさい…。」


「あぁ、気にしないでくれ…。……ちょっとタイミング悪かったな。」


「そ…、それで…、……アルのスキルは、変わったスキルが多いのね…。

操糸術とか、魔力注入、精力UP、打撃耐性とか。」


「いや…、……打撃耐性は、

クリスとの模擬戦で、ボコボコにされてたら…、……生えた。」


「…………」


クリスがジト目でアルを見る。


「えっ!?そ…、……そんな目で俺を見るな!

………俺だって望んで得たスキルじゃないぞ!」


慌てて弁解するアル。

そんな姿を見てクスクスと笑いながら、クリスが言う。


「フフ…、……冗談よ…、精力UPして糸で縛られて打撃耐性で…なんて、

まーったく想像なんてしてないわ。」


「それ…、絶対想像してるやつやん…。」


ジト目でクリスを見るアルだったが、2人で笑い合う。


そんな和やかな雰囲気の中、アルはふと話が脱線していた事を思い出す。


「あぁ…、……そうだ。話が脱線してたな…。 

さて…、話を戻して、パーティー名なんだけど、

教会で、パン・ドゥーラの事は伝わってないのはクリスも知ってる通りだが。」


「えぇ、……そもそも…、……創造神って神様も聞いた事がないわね…。」


「うん、それで、創造神が居る!

協会は間違っているって、言うつもりは全くないんだが…。」


「えぇ…、……教会が間違っていると言った所で、

教会に睨まれたり、……混乱を招くだけね…。」


アルは頷き、続きを話す。


「俺の前世で、パンドゥーラに似た言葉で、パンドラってのがあったんだ。」


「パンドラ?」


「あぁ、前の世界の神話で『パンドラの箱』ってのが在ってな。」


そう言って、パンドラの箱にまつわる神話を、クリスに語る。


「……なるほど…、……災厄や希望が詰まってる箱…ね。

それを、パーティー名に付けるって事かしら?」


「あぁ…、 ……クリスの夢の話を聞いて、思い至った。

『厄災や絶望が世界に溢れてるなら、パンドラの箱には希望残っている。』って。」


「フフ…、……素敵な考えだと思うわ。……アルって、ロマンチストだったのね?」


「う、うるさいな! ……クリスとの未来に、ロマンを見たって良いだろ?」


そう開き直るアルを見て、クリスはクスッと笑い答える。


「フフ、…そうね。じゃあ…、私達のパーティー名は…。」

2人の視線が交差して、……2人の声が重なる。


「…パンドラだ!」「…パンドラね!」


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