第12話 【アルとクリス】

――――



村に戻ると、そのまま冒険者ギルドに入り、眼鏡を掛けた受付嬢に話しかける。


「依頼の報告しても良いかな?」


「はい、ギルドカードをお預かりします。」


受付嬢はニコッと笑い対応してくれる。

2人のギルドカードを渡すと受付嬢は何か機械の様な物にカードを翳している。


(あれは…、……あれも魔道具か?)


物珍しそうに見ていると、受付嬢が言う。


「それではゴブリンの魔石と、採取した薬草の提出をお願いします。」


そう言われたので、袋からゴブリンの魔石と薬草を取り出し受付嬢に渡す。


「……、はい…、……確認しました。ゴブリンの魔石5つで銅貨10枚、

薬草が5束セットを4セットで銅貨20枚、併せて銅貨30枚の報酬になります。


報酬は、現物で手渡しと、それぞれの口座に振り込み、

どちらも選べますが如何致しましょう?」


「あ、それじゃ、口座に振り込みでお願いします。クリスもそれで良いかな?」


「えぇ、それでお願いします。」


「分かりました。少々お待ち下さいね。」


2人が頷くと、受付嬢は魔道具?に入力した後、カードを翳した。


「これでお二人の口座に、銅貨15枚…、1500Gづつ、入金されました。」


そう言って、カードを返却してくれる。 

受付嬢が動作するたびに、ゆっさゆさと胸が揺れる。


(く…、……謎の力で、視線が吸い寄せられる。 ……耐えろ俺っ!)


「あ、……ありがとうございます。」


謎の吸引力に耐えつつ、カードを受け取った所で、

受付嬢が、2人を交互に見て問い掛ける。


「お二人はパーティー登録をしていらっしゃいますか?」


「いえ、今日冒険者登録したばかりでまだやってませんね。」


アルが答えると、受付嬢は”なるほど”と、頷きながら話す。


「では、今後も継続して、

一緒に行動するのであれば、登録をなさってみてはどうでしょうか?

依頼達成実績も、パーティー単位でカウントされる様になりますので、

私はお勧めだと思いますよ。」


受付嬢は薦める理由の説明を続ける。


「個人だと、パーティーで達成した依頼の、実績の振り分けをどうするのか、

誰にカウントするかで、揉めたりもしますので。」


そう受付嬢に言われ、

アルは背後のクリスの方を向くと、クリスもこちらを見て頷いた。

受付嬢に返事をしようと見ると、受付嬢が身じろぎして、ゆさっと揺れる。

謎の力に吸い寄せられ抗いつつも、アルは返事をする。

……背後のクリスからの視線に気付かずに。


「……で…、……ではパーティー登録をお願いします。

今後もしばらくは2人で活動するので。」


「はい、承りました。 お二人なので、無くて構いませんが、

パーティー名も付けられますが、如何致しましょう?」


受付嬢が2人に尋ねると、アルとクリスは顔を見合わせる。


(……パーティー名とか考えてすらいなかったな…。)


「すみません…、特に決まっていないので、

今はな…「【アルとクリス】でお願いします。」


そう言いかけようとした所で、アルの隣にいたクリスが被せて言う。


「お…、…おいっ!?」


「【アルとクリス】でお願いします。」


「はいっ、では【アルとクリス】で登録しますね。」


慌てるアルを他所に、受付嬢はニコニコしながら書類に記入しようとしてる。


「ちょーっと待ったっ!

考える! …考えるから止めてっ! ……明日っ! 名前は明日、登録しますっ!」


「フフ…、……良い名前が浮かんだら教えてね。

それじゃ名前は保留でお願いします。」


慌てるアルを見て、クリスは可笑しそうに、クスクス笑いながら訂正する。

受付嬢も微笑ましそうに見ている。


「では、【アルとクリス】で仮に登録しておくので、明日にでも教えてくださいね」


「はい、明日、必ず登録しますっ!」


そうアルが答えると、受付嬢は書類を書きこんでいった。

そのやり取りを聞いていた周囲の冒険者や、

ギルド職員達から、微笑ましい物を見る目で見られていた事に気付かず、

アルはクリスに手を引かれて、冒険者ギルドを後にした。


「……ほんと仲の良さそうな子達ね…。」


その様子を手を振って見送った受付嬢は呟く。

さて…と、眼鏡のズレを直しつつ、微笑みながら業務に戻っていった。



―――――



2人で手を繫いで歩いていると、クリスが話しかけてくる。


「……アル? その…、……さっきはごめんなさい。」

「いや、別に怒ってないさ。

ただ…、……ギルドであんな事を言うのは、ちょっと恥ずかしかったな…。」


そう答えつつクリスを見ると、何故か少しジト目で見返される。


「だってアルは…、……あの受付のお姉さんの胸を見てたでしょ。」


「うっ…、いや…、……確かに見ちゃったけど、あれは事故だよ!」


(謎の力が働いて…、……謎の吸引力もあって、

目線の高さにおっぱいがあったから…、……しょうがなかったんだ…。)


そんな言い訳を考えていると、クリスが自分の胸を触りながらボソッと呟く。


「……やっぱり大きい方が好きなのかしら?」


そんな呟きが聴こえたアルは、慌てて訂正する。


「い、いや!大きさで好き嫌いは無いぞ!?

それに…、……クリスは、まだまだこれからだろうし?

俺は大きさより、形とかの方が大事だと思うし?

クリスのなら…、……大きくても小さくても大好きだぞっ!」


(うん…、……何言ってるんだろうな俺…。)


そんな事を思いつつクリスを見ると、少し頬を赤くして顔を背けていた。


「そ、そう? ……なら良いわ…。」


少々…、……盛大に?自爆したかと思いつつ、

アルは手を繫いだまま店を見て回るのだった…。


――


暫く見て回っていると、クリスが雑貨屋の前で止まる。


(ん?…何か気になる物でもあったのかな?)


「どうした?」


そう聞きながらクリスの視線を追うと、小さなブローチがいくつか飾られていた。


「これ…、……アルに似合うんじゃないかと思って…。」


そう言いつつクリスは一つ手に取ると、アルの前に出す。

翼の様な形状の銀細工で、付け根辺りに薄紫色の石が埋め込まれていた。


(おぉ…、……確かに綺麗な色だな…。)


「まるでクリスの瞳の色みたいで綺麗な薄紫色だな…。」


そう答えると、クリスは嬉しそうに微笑む。

そしてそのままブローチを会計に持って行き、アルの手を取って店を出るのだった。


「あ…、……ちょっと待っててくれ。」


そう言ってアルは、今出た雑貨屋に戻ると、

自分の眼の色に似た、緑色の石が埋め込んである銀色の髪留めを購入した。


「お待たせ!じゃあ帰ろうか。」


「えぇ…、帰りましょう。」


そうして2人は手を繫いで帰路につくのだった。


―――


十字路を東に曲がり、後は屋敷まで真っ直ぐの道の、人通りが減った所で、アルは立ち止まり声を掛ける。


「クリス…、……ちょっといいか?」


そう言ってアルは、先程購入した髪留めを取り出し、クリスの髪に着ける。


(うん、やっぱり綺麗な黒髪に銀は映えるな。)


そう思い自画自賛で満足してると、クリスが驚いた顔をしていた。


「えっ? ……アル、これって…。」


「あぁ、クリスに似合うと思ってな。」


そう答えるとクリスは、髪留めを触りながら嬉しそうに微笑む。


「アルにもこれを付けて欲しい」


そう言ってさっき買ったブローチに革紐を通してアルの首にネックレスの様に掛けると、頬を赤らめ髪留めを撫でながら言う。


「この髪留めの石…、……まるでアルの瞳の色みたいで好き…だから、

私の色見たいって、……言ってくれたから、…それをアルに付けてて欲しいの。」


「あぁ…、分かったよ。」

(なんか…、恥ずかしいな…。)

アルは照れながら、クリスの瞳の色に似た石が付いたブローチを触っていると、

クリスがボソッと呟く。


「……お揃いのアクセサリー…。」


(ん?何か言ったか?)


そう思いつつクリスを見ると、嬉しそうに微笑んでいた。

そしてアルに抱き着くと耳元で囁く様に言う。


「ありがとう…、……凄く嬉しいわ…。」


そう言ってクリスは、アルの唇にキスをする。


(えっ!?)


アルが驚いて目を見開くと、クリスは顔を真っ赤にしながら微笑むのだった。


「じゃ…じゃ…、じゃあ…、……今度こそ帰ろうか」

(ど、動揺し過ぎだろ俺…、童貞かよ! ……こっちじゃ童貞だったわっ!!)


アルが言うとクリスは頷き、アルの手を取り繋ぐ。

そして2人は屋敷へ帰るのだった。



―――――



屋敷に戻ると、庭の手入れをしていたマリーと会う。


「あら、アル様、クリス、お帰りなさい。」


「ただいまマリーさん。」


そう挨拶を返すとマリーは、

クリスの髪留めに気付き、アルの付けているネックレスを見つけ、交互に見る。


「ウフフ…、……あらあら、まぁまぁまぁっ!」


と、言いながら微笑んで、屋敷に入って行った。


「ん? ……マリーさん…、どうかしたのかな…?」


そうアルが呟くと、クリスはクスクス笑いながら答える。


「さぁ…、……分からないわ…。」


「まぁ…、いいか…。」


(……マリーさんだしな…。)


そう思い納得させると、2人は手を繫いだまま屋敷に入る。


「ただいまー!」


そうアルが言うと、奥からエレナが出て来て、出迎えてくれる。


「お帰りなさい、アル、クリス。

もう少ししたら夕食だから、お風呂に入って来たらどうかしら?」


「うん、そうするよ。」


アルが答え風呂に向かうと、クリスはエレナに近寄り、コソッと報告する。


「この髪留めを…、……アルに貰ったんです。」


「まぁ! …良かったわねクリス。 ……とてもよく似合ってるわよ。」


そう言ってエレナは、嬉しそうに微笑むのと、クリスも嬉しそうに頷いた。

そんな2人のやりとりに、気づかないアルは、風呂場に向かうのだった。



――



風呂場に着くと、アルとクリスは、服を脱いで洗い場に向かう。

そして2人で、お湯を掛け合ってから、湯船に浸かる…。


………。


「………、あれ? ……なんでクリスが一緒に居るの?」


「え? アルのいる所が、私のいる場所よ?」


そう言って楽しそうに笑うクリスを見て、アルは苦笑して頭を搔く。


「……… はははっ、……そうか。」


そう答えるが、視界の端でクリスが笑う度に、膨らんできてる胸が、

プルプルと揺れて、謎の力でついつい視線が吸い寄せられていく。


(柔らかそうだな…、……は!? ……ダメだっ!。)


そんな事を考えるも、

謎の力に吸い寄せられる視線を、なんとか外しながら湯船に浸かっていると、

クリスが悪戯っぽい笑みを浮かべ、クスッと笑いながら聞いてくる。


「……触りたい?」


「ぶっ!?」


(ちょっ!?クリスさんや、いきなり何を言い出すんですかね?)


アルは噴き出して咳き込んでると、クスクスと笑いながらも、

手で胸を強調する様に、追い打ちをかけてくる。


「触っても…、……良いのよ?」


そんな問いに、思わずゴクリッと唾を飲み込むも慌てて答える。


「いや…、……流石にそれは不味いだろ…。」


視線が逸らせないからと、顔を背けそう答えると、

クリスはアルの耳元に顔を寄せて囁く。


「私の全ては…、……貴方の物よ?」


その言葉にドキッとするも、なんとか平静を装い言葉を返す。


「………、…まだ早いと思うぞ?」


クリスの誘惑を振り切ろうとしてると、

風呂場の入口から、マリーの声が聞こえてくる。


「アル様、クリス?そろそろ夕食の時間ですよ」


そう言われ、確かに結構な時間遊んでた気がする、2人は返事を返す。


「「はーい!」」


2人の返事に満足したのか、マリーは微笑みながら戻って行った。


2人で湯船から出て、脱衣所に向かう。


「……、もう少しね…。」


クリスがよく聞き取れない声で、ボソッと呟いた気がしたが、

着替えて食堂に向かうのだった。


(まだ俺の太陽が目覚めない身体で良かった…)



―――



食堂に着くと、既に全員が揃っていてアルとクリスが最後だった。


「遅くなってすみません。」


謝って席に着くと、エレナが微笑みながら答える。


「大丈夫よ…、アルもクリスも、……ゆっくり浸かってた様だしね…?」


ニヤニヤした表情で言う、エレナ母さんの、意味有り気なフォローの言葉に、

視線を彷徨わせながらヒヤヒヤしてると、マリーさんと目が合う。


(ウフフ…)


表情を変えずに、眼だけで笑うという、

器用な技を見せるマリーさんから、視線を逸らす。


「さて、食事を始めましょうか。」


エレナの声に、控えていたマリーさんや他のメイドさん、クリスが動き、配膳を始めた。


「恵みに感謝を…。では、……頂きましょう。」


エレナの声で食事が始まる。いつも通りに、楽しい夕食の時間を過ごすのだった。

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