第15話 薬草採取とゴブリン。
2人は、森の入口までやってきた。
まだ入り口という事もあって、疎らではあるが木々が乱立している。
奥を見ると、段々と木々の密度が上がり、遠くに連なる山脈が目に付く。
「さて…、じゃあ薬草の採取から始めるか。」
「えぇ、わかったわ。」
自分に言い聞かせる様に、気持ちを切り替えるとクリスも答える。
森の中を進んで行く。
木々の間から日の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。
(よく考えたら薬草って、本でチラっと見ただけで、あんまり覚えてないな…。)
そんな事を考えていると、クリスが話しかけてきた。
「ねぇアル?ゴブリンの討伐はどうするの?」
「そうだな……。まず薬草を探しを優先して、見つけたら倒していこうか。」
「そうね、判ったわ。」
そんなやり取りをしつつ、アルは魔力視で魔力を視てみる事にする。
(森の中は村よりも…、薄っすら魔力が漂ってる感じだな…。
魔力の流れは…、おっ? あっちかな?)
「クリス、こっちに行って見よう。」
指で方向を促し、クリスを誘う。
そのまま森を進むと、微かな魔力の密集地に辿り着く。
少し開けて日当たりのいい場所で、草が密集して生えている場所があった。
それを見たクリスが驚く様に疑問の声を上げる。
「どうして…こっちに群生地があるって分かったの?」
「あぁ…、確証があった訳じゃないよ。
魔力視で魔力の流れを見て、違和感を感じた方に向かっただけなんだよな。」
そう返事をしながら魔力の密集してる部分の草を採取してみる。
「根は残しつつ…、たぶんこれが薬草…、だよな?」
(図鑑で見たのはこんな形だった気がするが…、
魔力視で見ても良く判らないな…。)
適当に摘んだ薬草?を見て首を傾げつつ、更に摘んでいく。
ふとクリスの方を見ると、迷い無く摘んでいたので聞いてみた。
「なぁクリス…、薬草の見分け方とか判るのか?」
「ええ、大丈夫よ? この葉の形が薬草ね。
因みに…、貴方が今手にしてるのは、全て薬草じゃないわよ。」
「なん…だと…?」
その言葉に絶句し、手に持っていた草?を落とす。
それをクリスが一片拾い上げ、
クリスの摘んだ薬草と並べて見せて、違いを教えてくれる。
「これが薬草。 貴方の摘んだこれは…、ただの雑草。
こっちは…、薬草と似てるけど毒草ね、
葉の裏に白い毛みたいなのがあるのが見分け方よ。
あ、これは薬草ね。」
クリスはアルが集めた雑草をポイポイ投げ捨てながらドヤ顔で答える。
「おぉ…、なるほど…?全然判らん…。」
その後も暫く採取を続け、拡げた布の上に集積していく。
集まった薬草の束を見て、アルが声を掛ける。
「おっし…、こんなもんで良いだろう…。」
「えぇ、そうね…、これぐらいで止めておきましょう。」
クリスはアルが集めた雑草をポイポイ投げ捨てながら、
薬草と毒草を仕分けして、束ねていく。
「これは…、毒草…? 毒草は捨てないのか?」
「毒草は…、薬草とは別で、
たぶん買い取って貰えると思うから持って帰るわね。」
「了解…。
しかし…、よくそんなに正確に判別できるな…。
まるで鑑定みた…い…!?」
薬草を掴み上げ観察しながらそこまで呟いて、
気付いたアルの首がグリンっっとクリスの方へ向く。
「バレちゃった…。」
クリスは悪戯が成功した子供の様にクスクスと笑った。
「クリスはずっと鑑定しながら採取してたのか。そりゃ間違えないわっ!」
ぶつぶつと文句を言いながらも、クリスが仕分けた物を纏めて袋に入れていく。
この袋は布製で、コンパクトに折り畳まれてクリスのリュックに入っていたものだ。
荷物をまとめ終り、立ち上がると、周囲を見渡して言う。
「さて、あとはゴブリン退治だが…、 周囲には居なさそうだなぁ…。」
「もう少し…奥に行く必要がありそうね。
ねぇ、アル、先にお昼にしましょうか。」
「あぁ、そう言えばご飯の事を何も考えてなかったな。」
「ふふ、ちゃんと用意してるから大丈夫よ。」
――――
群生地から少し離れ、火事にならないよう場所を選び火を起こす。
クリスは鞄から取り出した、薄くスライスされた黒パンに、
チーズを載せてササっと軽く焙る様に焼く。
「美味しそうな匂いだ…。」
「えぇ、チーズをのせて焼くと、溶けたチーズが軽く浸み込んで美味しいのよ? 」
その手際の良い様子を見ていたアルはしみじみ思う。
(ほんと…、クリスは下ネタの悪ふざけが無ければ、
美人だし、賢いし、強いし…、色んな事が出来て、優秀なんだよなぁ…)
「どうしたの? そんなにおっぱいを見られると、恥ずかしいわ…。」
しなっと身を捩りながら胸を揺らすクリスは、
焼きあがった黒パンをアルに渡して、自分の分も手早く用意する。
(ほんと…、息を吐くように、下ネタを言わなければなぁ…。)
可愛い女の子の下ネタにドキドキしつつも、小刻みに揺れる胸を眺めながら、受け取った黒パンを口に運ぶ。
「おぉ…。固い…けど、焼いた香ばしさとチーズが良い味してるな!」
「で? なんでずっと、私のおっぱいを見てたの?」
「男の子が必ず胸を見てると思ったら大間違いだぞ?
まぁ…見てたけど…。」
「この黒パンは、昨日焼いたものだから、まだ柔らかい方なのよ、
でも…、本格的に野営をするなら、スープを作りたい所ね。」
「スルーかよっ! いや…、これでも美味しいよ。 ありがとうな。」
「どういたしまして。」
昼食を食べ終わり、二人で並んで座ってボンヤリして居た所でアルが口を開く。
「本格的に野営をするなら…、荷物の嵩張りが心配だな…。」
「えぇ、だから採取も手加減したのよ。
お金を貯めてマジックバッグを買うべきでしょうね。」
「………、マジックバッグ?」
アルは聞き慣れない知ってる単語に首を傾げ、その様子を見たクリスが説明を続ける。
「マジックバッグって言うのは、マジックアイテムの一種で、
見た目以上に、荷物を入れる事が出来る、容量の大きい鞄の事よ。
重量軽減のような効果が付いてる物もあるらしいけれど…、
その分、値段も高くなるわね…。」
「マジックバッグかぁ…、持っておきたいところだな~。」
(やっぱアレの事か、異世界の定番アイテムもあるのか…。
俺のスキルの、アイテムボックスのLockが解除されて仕様次第では、
マジックバッグの重要度は下がるけど、それでも是非欲しい一品だな。)
「そうね、マジックアイテムは、鞄の他にも、剣なら魔剣、槍なら魔槍、と言った、
魔装系もマジックアイテムの一種になるわね。」
「特殊な効果を持つ装備はロマンがあるな。
―にしても、マジックアイテムの分類ってかなり大枠なんだな。」
「そうね、特殊な効果の有る物は殆どがマジックアイテムと言われるわね。
魔装や、鞄以外で言えば、
魔力を込めると、中に入れた水を温めたり冷やせる鍋とか、
魔力を込めると、”あんっ”って喘ぐ枕なんかもあるみたいよ。」
「最後の枕は絶対に要らんだろう…何に使うんだよ…。
まぁ…、その話は追々だな…、そろそろゴブリンを探してみようか。」
「そうね、ここからもう少し奥に行ってみましょう。」
2人は立ち上がり荷物を纏めて散策を開始した。
――――
「探して見ると…、案外居ないものね…。」
「………、そうだな…結構歩いた気はするが…。」
それから暫く森を散策する二人だが、中々ゴブリンは見つからない。
警戒しつつ歩き回って、ボヤきが零れる程度には集中力が切れ掛けていたその時、
二人の耳に、そう遠くない場所から声が聞こえてきた。
「グギャッ!グギャグギャ!」
(これは…、これがゴブリンの声か……?)
初めて聞く声に予想をたて、クリスを見ると、頷き返してきたので、
手振りで合図をして声のする方へ近づいて行く。
しばらくすると、木々の隙間から、何かが動いているのが見えたので、
視線で合図を交わし荷物を降ろし、音を立てないように近寄る。
「あれか…。 ……結構数が多いな。」
「えぇ、一匹みたらなんとやらってね。」
目を凝らすと、少し離れたそこには、
緑色の肌をした子供ぐらいの身長の人型の生き物が5匹居た。
微妙に身長の高低差があったり、ガリガリでお腹だけ出てるのや、
少し太く、健康的な奴も居て、同じ魔物でも個体差は有るようだ。
その手には枝の様な物を棍棒の様に持ち、腰布を巻いていたり、
産まれたままの姿でその辺で拾ったような石を掴んで居たり様々だが、
いずれもシワの様な彫りの深い顔で少し尖った耳に口元からはみ出た牙が見える。
ぽっこりと膨らんだ瞼を細め目つきの悪い視線で周囲を見渡している。
(あれがゴブリンか…、概ね想像通りの見た目か。)
アルはそんな事を考えつつ、小声でクリスに話しかける。
「クリス…、俺が魔法で先制するから、その後は頼むな?」
簡潔な行動指針にクリスは頷くと静かに左側に離れていく。
(流石はクリス…説明を端折っても大体理解してくれる。
さて…と…、イメージは棘だな…。)
「ギャウ?」「ギャギャ!」「ギィッ」
アルがそう考えていると、こちらに気付いたゴブリン達が向かって来ようとする。
見付かってるならと、立ち上がったアルが右手に魔力を集めて、
手で前方を払う様に動かし声を出す。
「アイスアロー!」
振り抜いた手の動きに合わせて、10㎝程度の円錐形状の氷が5本形成されて行き、
腕を前に振り抜くと、形成された氷の矢が射出された様に飛んでいく。
飛来した矢は胸に突き刺さり、先頭のゴブリンが前のめりに倒れ、
その直ぐ斜め後ろを走ってきたゴブリンの眉間を撃ち抜く様に刺さると、
その衝撃で仰け反るように倒れ動かなくなった。
「グギャ?グガァッ!?」
(2体倒せたみたいだけど、他は外したか…。
自分で思ってるよりも緊張してるのかな…。)
倒したゴブリンをチラリと視認して、
周囲の状況を見ると、残りの3匹ゴブリンが向かってくる。
そこに割り込む様に左側面から飛び込んだクリスが、
アルの前に出て剣を構えると先頭を走っていたゴブリンは、
急に出て来たクリスを見て一瞬警戒の声を上げるが、
女だと認識したからか奇声を上げながら飛び掛かり、後続も殺到する様に続く。
「ギッ!? ゲヒャーッ!」
「アル以外に発情されても不愉快よっ!」
飛んできたゴブリンに嫌悪感を露わにしたクリスは前に踏み込み、
袈裟斬りで切り落としつつ、そのまま切ったゴブリンの下を潜り抜ける様な動きで、
次のゴブリンを左横薙ぎで一閃する。
「…ギィッ!?」
「アイスアロー!」
少し遅れていた残りの1匹が驚きの声をあげ、
手に持っていた石を投げようと右手を振りかぶった瞬間、
アルの放った氷の矢の三連撃が、ゴブリンの頭、左肩、腹部に突き刺さり、
振りかぶった石を溢しながら仰向けに倒れた。
――
「ふぅ…、終わったな。」
「ええ…、お疲れ様、アル。」
(今回はクリス一人でも、サクッと制圧しそうな勢いだったな…。)
そんな事を考えつつクリスを見ると、
顔や服が血糊で濡れている事に気付き、慌てて声をかける。
「おいっ!大丈夫か!? 怪我は無いか?」
アルの突然の言葉に、
クリスは一瞬キョトンとした顔をしたが、直ぐに微笑み首を振る。
「ええ、大丈夫よ…。返り血で汚れているだけだから。」
(あぁ…、さっき斬りながら潜り抜けた時か。)
その言葉に安心と納得をしてアルはクリスに手を向けた。
「クリーン!」
するとクリスの体が一瞬光に包まれた後、
血糊など汚れが粒子状になり、さっと払うと綺麗になっていたのだった。
「うん、やっぱクリスには綺麗なメイド服が似合うな!」
そう言いクリスに笑いかけるとクリスは顔を赤くして目を逸らして呟いた。
「あ…、ありがとう…。」
(もう…、不意打ちはズルいわよ…。)
アルはふと依頼内容を思い出す。
「そう言えば討伐部位を回収しないといけないな。確かゴブリンは魔石だっけか。」
ゴブリンの胸の下、へその上辺りを、剣で切り裂き手を突っ込む。
「ゴブリンの魔石の位置は…、胸の下辺りだったか…。うっ…、ウェェェ……。」
生物の体内に手を突っ込み、手探りで探す行為で、精神を削りながらも、
小指の爪ぐらいの大きさの魔石を、探り当て抜き取る。
そのほかの個体も、クリスと協力して、ゴブリンの魔石を取り出して行く。
一か所に集めて、まとめてクリーンを掛けて汚れを落とすと、小袋に詰めていく。
「慣れないといけないんだろうけど…、
生モノを弄る行為は、魔物であってもあまり良い気分ではないなぁ…。」
アルが少し顔色を悪くしながら、思わず愚痴を言ってしまう。
「そうね…、いずれは慣れないといけないけれど…、
アルが慣れるまでは私がやるわよ?。」
クリスが同意しつつも気遣って提案してくれるが、
必ずしも自分がやる必要はないが、誰かがやらないといけないのだ。
嫌な物を人に押し付けるとこの先も癖になりそうで、アルはやせ我慢をする。
「うーん、いや…愚痴ってすまない、
正直、気遣ってくれるのはあり難いけど…、でも…、俺もやるよ。」
「ふふ…、じゃあ…これからも一緒にやりましょう。」
やせ我慢がバレてそうだが、それでも微笑みながら俺を立ててくれた。
「丁度5匹だし…、キリも良い気がするから今日はこれで帰ろうか。」
「えぇ、そうね、帰りましょう。
初日だし…、あんまり遅くなって、心配掛けるのも良くないわね。」
アルは薬草の入った袋を担ぎ、クリスもリュックを背負う。
「ねぇアル、ギルドで報告した後、少しお店を見てみない?」
「そうだな、良いよ。 何か面白い物があれば、値段次第では買っても良いな。」
(この世界で買い物って初めてだな…って、初めてだらけだな、俺…。)
そんな事を考えつつ歩き出すと、クリスも嬉しそうに微笑んで隣を歩き、
二人は村に戻って行った。
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