第11話 薬草採取とゴブリン。



2人は、森の入口までやってきた。


「さて…、……じゃあ薬草の採取から始めるか。」


「えぇ、わかったわ。」


自分に言い聞かせる様に、気持ちを切り替えるとクリスも答える。


森の中を進んで行く。

木々の間から日の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。


(よく考えたら薬草って、本でチラっと見ただけで、あんまり覚えてないな…。)


そんな事を考えていると、クリスが話しかけてきた。


「ねぇアル?ゴブリンの討伐はどうするの?」


「そうだな……。……まず薬草を探しながら、見つけたら倒していこうか。」


「判ったわ。」


そんなやり取りをしつつ、アルは魔力視で魔力を視てみる事にする。


(…森の中は村よりも、薄っすら魔力が漂ってる感じだな…。

魔力の流れは…、おっ? ……あっちかな?)


「クリス、こっちに行って見よう。」


アルが指で方向を促し、クリスを誘う。

そのまま森を進むと、微かな魔力の密集地に辿り着いたのだった。

魔力の密集してる部分の草を採取してみる。


「根は残しつつ…、 たぶんこれが薬草…、……だよな?」

(…図鑑で見たのはこんな形だった気がするが…、

……魔力視で見ても良く判らないな…。)


適当に摘んだ薬草?を見て首を傾げつつ、更に摘んでいく。

ふとクリスの方を見ると、迷い無く摘んでいたので聞いてみた。


「なぁクリス…、……薬草の見分け方とか判るのか?」


「ええ、大丈夫よ? この葉の形が薬草ね。

……因みに、貴方が今、手にしてるのは全部、雑草よ。」


「なん…、……だと…?」


その言葉に、絶句し、手に持っていた草?を捨てる。

それをクリスが一片拾い上げ、

クリスの摘んだ薬草と並べて見せて、違いを教えてくれる。


「これが薬草。 …貴方の摘んだこれは…、……ただの雑草。

こっちは、薬草と似てるけど毒草ね、

葉の裏に白い毛みたいな物があるのが見分け方よ。……あ、これは薬草ね。」


クリスはアルが集めた雑草をポイポイ投げ捨てながらドヤ顔で答える。


「おぉ…。 ……なるほど? ……全然判らん…。」



その後も暫く採取を続け、拡げた布の上に集積していく。

集まった薬草の束を見て、アルが声を掛ける。


「おっし…、……こんなもんで良いだろう。」


「えぇ…、……そうね、これぐらいで止めておきましょう。」


クリスはアルが集めた雑草をポイポイ投げ捨てながら、

薬草と毒草を仕分けして、束ねていく。


「これは…、……毒草? 毒草は捨てないのか?」


「毒草は…、薬草とは別で、

たぶん買い取って貰えると思うから、持って帰るわね。」


「了解…。 しかし、……よくそんなに正確に判別できるな。

……まるで鑑定みた…い…!?」


そこまで呟いて、気付いたアルの首がグリンっっとクリスの方へ向く。


「……バレちゃった。」


クリスは悪戯が成功した子供の様にクスクスと笑った。


「クリスはずっと鑑定しながら採取してたのか。そりゃ間違えないわっ!」


ぶつぶつと文句を言いながらも、クリスが仕分けた物を纏めて袋に入れていく。

この袋は布製で、コンパクトに折り畳まれてクリスのリュックに入っていたものだ。


荷物をまとめ終り、立ち上がると、周囲を見渡して言う。


「さて、あとはゴブリン退治だが…、 ……周囲には居なさそうだなぁ。」


「そうね。 もう少し奥に行く必要がありそうね。

ねぇ、アル、先にお昼にしましょうか。」


「あぁ、そう言えばご飯の事何も考えてなかったな。」


「私が用意してるから大丈夫よ。」


――――


群生地から少し離れ、火事にならないよう場所を選び火を起こす。


クリスは鞄から取り出した、

薄くスライスされた黒パンに、チーズを載せてササっと軽く焼く。


「…美味しそうな匂いだ。」


「えぇ、チーズをのせて焼くと、軽く溶けたチーズが浸み込んで美味しいのよ? 」


その手際の良い様子を見ていたアルはしみじみ思う。


(ほんと…、……クリスは下ネタの悪ふざけが無ければ、

美人だし、賢いし、強いし、……色んな事が出来て、優秀なんだよなぁ…)


「どうしたの? そんなにおっぱいを見られると、……恥ずかしいわ。」


クリスは焼きあがった黒パンをアルに渡して、自分の分も手早く用意する。


(ほんと…、……息を吐くように、下ネタを言わなければなぁ…。)


下ネタにげんなりしつつも、受け取った黒パンを口に運ぶ。


「おぉ…。固い…けど、……焼いた香ばしさとチーズが良い味してるな!」


「で? ……なんでずっと、私のおっぱいを見てたの?」


「……なにか誤解があるようだが、何故、胸を見てると決め付けるんだ…。」


「この黒パンは、昨日焼いたものだから、まだ柔らかい方なのよ、

……でも、本格的に野営をするなら、スープを作りたい所ね。」


「スルーかよっ! いや…、これでも美味しいよ。 クリスありがとう!」


「どういたしまして。」


昼食を食べ終わり、二人で並んで座ってボンヤリして居た所でアルが口を開く。


「本格的に…、野営をするなら荷物の嵩張りが心配だな…。」


「えぇ、だから採取も手加減したのよ。

……お金を貯めてマジックバッグを買うべきでしょうね。」


「………、マジックバッグ?」


アルは聞き慣れない単語に首を傾げ、その様子を見たクリスが説明を続ける。


「マジックバッグって言うのは、

見た目以上に、荷物を入れる事が出来る、容量の大きい鞄の事よ。

……重量軽減のような効果が付いてる物もあるらしいけれど…、

その分…、……お値段も高くなるわね。」


(……異世界の定番アイテムもあるのか…。

それなら俺のスキルの、アイテムボックスのLockも、

さっさと解除されてくれないかな。)


「まぁ…、その話は追々だな。 そろそろ、ゴブリンを探してみようか。」


「そうね、ここからもう少し奥に行ってみましょう。」


――――


それから暫く森を散策する二人だが、中々ゴブリンは見つからない。

そんな時にふと遠くから声が聞こえてきた。


「グギャッ!グギャグギャ!」


(これは…、……ゴブリンの声か?)


初めて聞く声に考えつつ、

クリスを見ると、頷き返してきたので、声のする方へ近づいて行く。

すると木々の隙間から、何かが動いているのが見えた。


「あれか…。 ……結構数が多いな。」


「えぇ、一匹みたらなんとやらってね。」


目を凝らすと、少し離れたそこには、

緑色の肌をした子供ぐらいの身長の人型の生き物が5匹居た。

手には枝の様な、棍棒の様な物を持ち、腰布を巻いていたり、

産まれたままの姿だったりで、いずれも醜悪な顔をしている。


(あれがゴブリンか…、……概ね想像通り…か。)


アルはそんな事を考えつつ、小声でクリスに話しかける。


「クリス…、……俺が魔法で先制するから、その後は頼むな?」


(さて、……イメージは矢だな…。)


アルがそう考えていると、ゴブリン達は、こちらに気付き、向かって来ようとする。


見付かってるならと、

立ち上がり、右手に魔力を集めて、手で前方を払う様に動かし振り抜く。


「アイスアロー!」


振り抜いた手の動きに合わせ、氷の矢が5本、出現して飛んで行く。


先頭と、その直ぐ後ろを走ってきたゴブリンの顔面と胸に、

それぞれに1発づつ刺さり、そのまま前のめりに倒れた。


「グギャ?グガァッ!?」


( ……2体倒せたみたいだけど、他は外したか…。……狙いが甘かったか。)


倒したゴブリンを確認して、

周囲の状況を見ると、残りの3匹ゴブリン達が向かってくる。


クリスも既に動き出しており、アルの前に出て剣を構える。

構えつつ、走り出したクリスは、

そのまま2体の間を縫う様な動きで、左横薙ぎで一閃、

返す刃で素早く右薙ぎに一閃すると、2匹の首が刎ね飛んだ。


「…ギィッ!?」


(おぉ…、クリスさんカッケェ…。)


戦うメイドさんを称賛の思いで見ていると、

残りの1匹が驚きの声をあげ、逃げ出そうとしていた。

それを見たアルは手を前にかざす。


(目標はゴブリンの前方…、……逃走ルートを塞ぐ!)


「アースウォール!」


既に逃げようと、走り出していたゴブリンは、

突然、地面が隆起して現れた土壁に反応が出来ずに、正面から全身で壁にぶつかり、尻餅をつく様に後ろに倒れた。


そ走り出していたクリスは楽に追いつき、後ろからゴブリンの首を刎ね飛ばした。


――


「ふぅ…、終わったな。」


「ええ…、お疲れ様、アル。」


(今回はクリス一人でも、サクッと制圧しそうな勢いだったな…。)


そんな事を考えつつクリスを見ると、

顔が血糊で濡れている事に気付き、慌てて声をかける。


「おいっ!大丈夫か!? 怪我は無いか?」


アルの突然の言葉に、

クリスは一瞬キョトンとした顔をしたが、直ぐに微笑み首を振る。



「ええ、大丈夫よ…。……返り血で汚れているだけだから。」


(あぁ…、……なるほどな。)


その言葉に安心と納得をしてアルはクリスに手を向けた。


「クリーン!」


するとクリスの体が一瞬光に包まれた後、

血糊など汚れが粒子状になり、さっと払うと綺麗になっていたのだった。


「うん、やっぱクリスには綺麗なメイド服が似合うな!」


そう言いクリスに笑いかけるとクリスは顔を赤くして目を逸らして呟いた。


「あ…、……ありがとう。」


アルはふと依頼内容を思い出す。


「そう言えば討伐部位を回収しないといけないな。確かゴブリンは魔石だっけか。

…ゴブリンの魔石の位置は、……胸の下辺りだったか…。………ウェェェ…。」


そう思いつつ、ゴブリンの胸の下、へその上辺りを、剣で切り裂き手を突っ込む。

生物の体内に手を突っ込み、手探りで探す行為で、精神を削りながらも、

小指の爪ぐらいの大きさの魔石を、探り当て抜き取る。

そのほかの個体も、クリスと協力して、ゴブリンの魔石を取り出して行く。


一か所に集めて、まとめてクリーンを掛けて汚れを落とすと、袋に詰めていく。


「慣れないといけないんだろうけど…、

……生モノを弄る行為は、あまり良い気分ではないなぁ…。」


アルが少し顔色を悪くしながら、思わず愚痴を言ってしまう。


「そうね…、……いずれは慣れないといけないけれど…、

……アルが慣れるまでは私がやるわよ?。」


すかさず、クリスが気遣ってくれるが、

必ずしも自分がやる必要はないが、誰かがやらないといけないのだ。

嫌な物を、人に押し付ける自分が、嫌になりそうで、アルはやせ我慢をする。


「うーん、正直あり難いけど…、

でも、……クリスに甘え過ぎは良くないから俺もやるよ…。」


「ふふ…、……じゃあこれからも、一緒にやりましょう。」


やせ我慢がバレてるのか、それでも微笑みながら俺を立ててくれた。



「丁度5匹だし…、……キリも良い気がするから、今日はこれで帰ろうか。」


「えぇ、そうね。帰りましょう。

初日だし、……あんまり遅くなって心配掛けるのも、良くないわね。」


アルは薬草の入った袋を担ぎ、クリスもリュックを背負う。


「ねぇアル、ギルドで報告した後、少しお店を見てみない?」

「あぁ、そうだな。 ……何か面白い物があれば値段次第だけど買っても良いな。」


(この世界で買い物って初めてだな。……って初めてだらけだな俺…。)


そんな事を考えつつ、

クリスに了承し歩き出すと、嬉しそうに微笑み、隣を歩き出すのだった。



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