第10話 冒険者 

翌日、朝食を食べ終えると、アルはエレナに話しかけた。


「母様、クリスと一緒に、冒険者ギルドに登録したいのですが…。」


エレナは突然の言葉にびっくりすると、少し考えた後返事が返ってきた。


「…昨日の今日で急がなくても良いのだけれど。

……まぁ良いわ、ギルドの本部は王都にあるんだけど、

このブルグの村にも支部があるから、そこで登録してきなさいな。」


ちょっと待ってなさいと、エレナはマリーに目配せする。


マリーが部屋を出て、しばらくすると、手紙を一通と

少し短いめの剣、ショートソードを二振り持ってきた。


それをアルとクリスにそれぞれ渡すと、エレナが言う。


「せめて武器ぐらいは持っていきなさい。 

……本物の武器だから、おふざけで人に向けてはだめよ?

その紹介状はギルドの受付に渡せば良いわ。」


そうエレナは冗談ぽっく笑いながら言うが、アルとクリスは真剣な表情で頷く。


「じゃあ…、…取り敢えず登録に行ってきますね。 クリス、行こうか。」


その言葉に早速とばかりに、クリスに声を掛け、

エレナに『行ってきます。』と挨拶をして家を出た。


家を出てすぐの道を、そのまま道沿いに、西に進み、

通りが交差してる部分も通り過ぎ進めば、冒険者ギルドが在るはずだ。


クリスがアルの左側に並び歩く。


黒い艶やかな髪を小さい頃は伸ばしていたのだが、

今はボブカットで切り揃えていて、クール印象を受ける。


紺色の生地に、襟や袖口など、部分的に白いアクセントのある、長袖のメイド服。


スカートの丈は、膝下ぐらいの長さで、膝上ぐらいのニーソックスに編み込みのショートブーツで素足が見えない様になっている。

白いサロンエプロンを、腰に巻いていて、

その上から剣帯を巻き、やや後ろ気味に、ショートソードをぶら下げている。

その背には小さめのリュックの様な鞄を背負っている。


13歳になり身長も伸びてきて、胸も少し膨らみ始めていて、スタイルが良く、

女性らしさを意識するようになった。


10歳のアルの身長が145㎝ぐらいで、クリスはそれより少し高い155㎝ぐらいある。


二人で並んで歩いてると、機嫌良さそうな鼻歌が聴こえる。


「クリス? やけに機嫌が良いな?」


「うん…、……だって、アルと一緒に居られる時間が増えるし…。」


「……今までだって、ずっと一緒だったじゃないか。」


「仕事をしてた時とか…、……結構離れていた事あるでしょ?

冒険者になって、一緒にパーティーを組めば、ずっと一緒に居れるわよ?」


そう言って、クリスは嬉しそうに微笑む。


「そうかぁ…。 ……そうだな。 楽しみだな。」


「そうね…。」


それから程なくして、冒険者ギルドの前にやってきた。


冒険者ギルドは、

木造2階建ての建物で、入口の上に大きな剣と杖が交差した看板があり、

剣と杖が交差した部分に冒険者ギルドのマークがある。


裏に解体場や倉庫もあるようで、

表から見る印象よりも、ずっと規模が大きいらしい。


大きな扉を押してはいると、最初に受付カウンターが目に付いた。

朝一の時間帯を外してるせいか、周囲の人の姿は疎らだった。


受付カウンターの一つに、空いてる受付嬢がいたので、

そのカウンターに向かうと、向こうもこちらに気付いたようで、声を掛けてきた。


「おはようございます。 冒険者ギルドへようこそ。 

本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「おはようございます。 冒険者の登録に来ました。

…これ、必要かは判りませんが、紹介状も提出しておきますね。」


エレナから貰った紹介状を渡し、登録したい旨を伝える。

受付嬢は、紹介状の中身を一瞥して、丁寧にしまう。


「はい、確かに預かりました。 …これは支部長に後程、渡しておきます。

それでは登録するにあたり、

必要事項を記入して頂きたいのですが、文字は書けますか?」


「はい、大丈夫です。」


「では、こちらの用紙に記入してください。」


と言って紙と鉛筆を渡されたので、記入していく。


紙と鉛筆と言っても、前世の紙と鉛筆のような物ではなく、

繊維が所々はみ出てるような紙にクレヨンのような感じのものだった。


(まぁ、こんなもんでも良い方だよな?たぶん…)


それぞれ、記入し終わりと受付に用紙を渡す。


「はい、アルさんと、クリスさん、ですね。 ……内容に問題ありません。

それでは、登録料として、一人、大銅貨1枚になります。」


「はい」


「はい、確かに、 少々お待ちください。」


2人分の登録料として大銅貨2枚を支払い、受付嬢が一旦席を離れると、直ぐに戻ってきた。


「お待たせしました。 

ただいまギルドカードを作成しておりますので、

その間に、規約の説明をさせて頂きますね。 まずはこちらをご覧ください。」


そう言って、薄い木の板にびっしりと文字の書かれた物を見せられる。

それを受付嬢が指でなぞりながら、読み上げていく


(…流石は受付嬢、……ハキハキと噛まずにテンポよく説明していくなぁ。)


要約すると、

・冒険者はランクによって受けられる依頼が違い、

 自分のランクより上の依頼を受けることは出来ない。(例外は有る)


 PTを組んでる場合は人数及び、そのランクに応じて別途考慮される。

 また、依頼の失敗や破棄には、違約金が発生する事がある。


・冒険者ランクはGからスタートして、Sまであるとの事。

 依頼を完遂して初めて実績として評価され、場合によっては昇格試験もある。


 依頼を受けていない場合、一部の例外を除いて、実績には考慮されない。

 ただし、依頼を受けていなくても、素材等の持ち込み買い取りは行える。


・冒険者は、一般人との、傷害沙汰になる揉め事は、厳しく処罰される。

 なお、冒険者同士の揉め事には、ギルドは基本的に無干渉である。


他にも色々あったが、大きく分けてこの3つだった。

あとは気になった時に受付に聞けば答えてくれるとの事。


冒険者ランクの概要を聞いた印象は、


G:仮免許   登録しただけ、登録料を払えば、誰でもなれる。


F:初心者   依頼を数件完遂する、ここからが本番。


E:脱初心者  依頼達成状況などを考慮されて認可される必要がある。

 人数が一番多いのだが、此処に至るまでに辞める人も多い。


D:そこそこベテラン  生活が安定して来る辺り、中堅とも言う。

 依頼達成状況などを考慮されて認可される必要がある。


C:ベテラン       地方での知名度が上がってくる。

 二つ名が付くことも有る。

 依頼達成状況などを考慮されて認可される必要がある。


B:ベテランの中の凄い人 国内での知名度が高くなる。

 二つ名が付くことも多い。

 冒険者ギルド本部や、支部のギルド長の推薦が必要。


A:英雄レベル   更に国内外でも知名度が高くなってくる。

 二つ名がある事が多い。

 冒険者ギルドのギルド支部長 複数名の推薦が必要。


S:人外レベル    国外でも知名度が高くなってくる。

 更に上位貴族以上複数名の推薦が必要。国内でも一人だけいるらしい。


各階級の印象を表すとこうなる。

地方での、実質最高ランクはBが最上位って事になる。


それ以上になると、色んな所で実績を積む必要があるようだ。


説明を受けていると、別の受付嬢がアル達のカードを持ってきた。


「お待たせしました。こちらが冒険者カードになります。

魔道具になっていて、ギルドにお金を預けることも出来ます。

口座との紐付けにもなってますので、無くさないように注意してくださいね。」


そう言って渡されたのは、木材の様な違う様な素材で出来た薄い板状の2枚だった。


「このギルドカードには、名前とランクしか書かれていませんが、

先程も申しました通り、このカードは魔道具になって居て、

真贋機能があるので身分証としても使えますし、

依頼の受注・報告もこれで行います。

また、依頼を完遂すればこのカードに実績が記録されます。」


(まるで前世の、ICチップ付きカードみたいな、機能の充実っぷり。)


「口座に預金がある場合に限り、このカードで買い物もできますが、

使えないお店も有るので注意してくださいね。

破損、紛失した場合は速やかにギルドに報告してください。」


(……デビット機能も付いていた。 異世界すげー。)


アルとクリスはカードを受け取りながらお礼を言った。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね!」


「よろしくお願いします。」


アルとクリスは、お礼を言って、行こうとすると、

受付嬢が、微笑み手を振ってくれたので、手を振り返した。


(登録も終わったし、これからどうしようか…。)


そう考えていると、クリスが嬉しそうに話しかけてきた。


「ねぇ…、……早速依頼を受けてみない?」


(……それも良いな…。)


その言葉に乗ったアルはクリスに答える。


「そうだな、…じゃあ簡単な依頼を受けるか。」


そう言うと、二人は、

ギルドの依頼張り出しの板の所に向かい、依頼を探す事にした。



―――――



(けっこう、色んな依頼があるな…。)


――

【夜間限定】【畑を荒らす猪討伐】

1匹あたり銅貨3枚(300G)×討伐数 討伐証明はボアの死体


――

【急募】【クロスアイゼン辺境伯領北部のビーズ村迄の配達依頼】

配達完了証明を受付に提示で銀貨2枚。

依頼主と面会後、荷物を受け取り出発して頂きます。


―――


「…………。」


アルは掲示板を眺めながら考える。

すると、クリスが2枚の依頼書を持って戻ってきた。


「ねぇアル、……これなんてどうかしら?」


そう見せられた内容に、目を通していく。


(なになに…)


――

【ゴブリンの討伐】

1匹あたり銅貨2枚(200G)

討伐証明部位:魔石


――

【薬草の採取】

1束 銅貨1枚(100G)×5束=500G


注意1:5束1セットとして買い取ります。

注意2:群生地の根は、残す様にして下さい。


―――


(……常設依頼って奴かな。

この世界のゴブリンも、ファンタジー定番で、

1匹見掛けたら複数匹居ると思えって感じで、黒いGの様な存在なんだよな。

……あと、捕まったりした場合は、男は殺されて、女は苗床にされるらしい。)


そこまで考えるが、

考え過ぎても良くないと思い直し、賛成する。


「うん…、……これなら報酬からして、

依頼の中では、比較的簡単そうだし、良いんじゃないか?」


「じゃあ、この依頼を受けましょう。」


クリスは嬉しそうに言い、受付に依頼書とギルドカードを持って向かった。


――――


因みにこの世界の貨幣は、1GのGはギール。

銅貨1枚が、100G、大銅貨1枚が、1.000G、銀貨1枚が、10.000G、

金貨1枚が、1.000.000G、っとなっている。

銅貨10枚=大銅貨、銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚で、

その上に、金貨100枚=白金貨1枚、何て物もあるらしいが、

まぁ、しばらく見る機会は無いだろう。


最小通貨として、鉄貨が1枚1Gであるらしいが、あまり扱ってる所は無いらしい。

なんでも出すと嫌がられたりするのが理由らしいくて、

そもそも、ほとんど出回ってない様だ。 まぁ…鉄、……重いからね。


――――


二人は、ギルドを出て東に戻り、村道の交差点を南に行き、

村を囲ってる柵に備えてある門から、村の外に歩いて行ったのだった。


――――



門を出て、道の先、少し遠目に見える、木々が生い茂ってる森を目指して歩いてる途中、

その森の先、さらに遠くに見える山脈を見ながら、アルはふと思った。


「……そう言えば俺…、……村の外に出るの、初めてかもしれない。」


「…そうなの? ……うん、そうね。

でも…、アルは、……村どころか、屋敷からも、殆ど出た事がないじゃ無い。」


「言われてみれば…、……適正判別の時に教会に行ったぐらいか? 」


(……訓練や魔法の練習が楽しくて、ずっと引きこもってたからなぁ…。)


呟きを拾ったクリスに、

さらに突っ込まれて、自分が引きこもりだった事実に気付く。


「……アル? ……大丈夫?

気分悪くない?手を繋いであげましょうか? おっぱい揉む?」


クリスが心配そうに声を掛けてくるが、

顔を覗き込んできたその表情は、悪戯っぽい笑みを浮かべて、

指で胸元を引っ掛けクイっと少し拡げる。


「クリス…、………お前。 ……主人を揶揄い過ぎだぞ!

あと、おっぱいは揉みた………ないっ!」


覗き込んでくるクリスの顔を見て苦言を入れるが、

謎の力によって視線が、抵抗もむなしく胸元に吸い寄せられる。


(くっ……っ! ……なんだこの力は…。)


全力で、振り切るように眼を閉じて、顔を逸らす。

そんな様子を見たクリスは、楽しそうに先を促す。


「……ふふ、 さぁアル、あんまり遊んでると日が暮れるわよ。

 早く行きましょ。」


「………。  お…、……おまいが遊んでるんやろがーいっ!?」


さっさと歩いて行こうとするクリスに、アルの叫びが響き、

木々で留まっていたであろう、鳥達が一斉に飛び去る。



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