第4話 自分の住んでいる国



3歳になり、アルは割としっかり歩けるようになり、言葉も流暢に話せるようになってきていた。


「エレナ母様、この国の事や、雑学の様な本を見たいんですけど、ありませんか?」


アルはリビングで本を読み寛いでいた、エレナに尋ねる。


「そうねぇ…、歴史やこの国の事が掛かれている本は、

……これと、…これに、……これかしら?」


エレナは立ち上がり本棚から3冊の本を抜き出した。


「歴史書に、この国の事が掛かれている物に、周辺の地理や雑学的な本ね。

渡しといてなんだけど、アル…、……貴方、字が読めるの?」


「ん~…、…簡単な文字なら何となく、…ですね。

……少しずつでも読みたいなぁっと。」


「そう、なら、……これらを読んでみましょうか。…でも、魔法書はダメよ?」


「……魔法書も見てみたいのですが。」


「ダメよ! ……もう少し色々勉強したら、私と一緒に読みましょう?

一人で読んだら危ない事もあるのよ。 ……良い?」


「はい…、……わかりました。」


エレナの迫力に負け、アルはしぶしぶ頷くのだった。



――――



自室に戻り、アルは机で本を拡げた。


「確か、おっさん神――…パン・ドゥーラはこの世界のことを『ミルアース』とか言ってたっけ…。」


いま住んでいる場所は、ファイランズ王国と言う名の国で、

周囲を高い山で囲まれた盆地にある国で、西は海に面しており、

北は高い雪山、南は大森林に阻まれている。

東の草原が隣国と繋がっており、その一帯を侯爵が治めており、

隣国とは、余り友好的ではないらしく、そこに砦を3つ築いて防衛しているようだ。

ここ数年は大戦は無い物の、小競り合い程度はあるらしい。


王都から見て南山脈の手前に大森林が在り、その大森林に面した一帯を、

クロスアイゼン辺境伯領と言うそうだ。


クロスアイゼン辺境伯を寄り親とした、寄り子のアイゼンブルグ男爵家が

うちの家系らしい、辺境伯は父さんの父――俺の祖父になるようだ。


辺境伯領の領都が西寄りに有るために、東の端部を、三男である父に譲った様で。

辺境伯領の東の端の部分にあるのが、アイゼンブルグ男爵領だ。


アイゼンブルグ男爵の領内は、直轄地のブルグ村の他に、

森沿いに南西に進んだ村と、川沿いに西に進んだ村があるようだ。

北の川を越えて少し行った先の村は別の領地になるらしい。


その直轄領にあたる、ここブルグ村は人口4000人程だという。

この世界の町は人口5000人辺りから町と言うらしく、

一応ここは、「ブルグ村」となるようだ。


「王都や侯爵領、辺境伯領に比べるとちっぽけだけど、

南と東を繋ぐ交通の要所、みたいになっていて、割と大きい村だな・・・」


王都を横切る河を下り、西へと行くと、川と海の合流地に、水の都シーラインと言う、港町などもあるらしい。


「この本には詳しく載ってないし、以前は観光とか興味なかったけど、

……色んな所を、見て回ってみたい気もするなぁ…。」


「あ、……魔法についても、少し書かれてるな。」


この世界の文明は、前世の世界の中世辺りの様であったが、

魔法が有るために、魔法を主軸とした独特な技術の発展をしていて、

土魔法や火魔法を利用した建築なども行われている様だ。


ほぼ全員の人間が魔力を持つ思われていて、

魔法の属性は大枠で、火・土・水・風・光・闇。


使える属性が1つや2つまでの人が大半で、数は少なくなるが3つの人がいる。

4属性以上使える人は極少数らしく、全属性の適正持ちは御伽噺レベルのようだ。



回復魔法は水や光に属するらしいが、

属性で治せる症状が微妙に変わったりするらしい。


水の回復魔法は、身体の回復と解毒等、

光の回復魔法は、身体の回復と、解呪や病気の治療が得意分野らしい。


水や光の適性を有していても、その全員が回復魔法を使えるわけではない様だ。


使用可能属性については先天性の物らしく曰く魂の結びつきが関係してるとかどうとか。


「なんというか…、……『様だ』とか、『らしい』とか、

『思われる』って言い回しが多くて、未だ研究中って感じなのかねぇ…。」


王国では7歳になる年に、教会で『魂の選別』と言う大層な名前の、

得意属性の判別を行うようだ。

魔法の勉強等を始やすい年頃に、得意属性を知っていた方が良いだろう。 


「という事らしいが、……教会や国が把握する為だろう。

っと、簡単に邪推してしまうな。」


この世界の魔法には詠唱魔法と無詠唱魔法が存在する。


古い時代には、無詠唱魔法が、

極一部の者が、自由自在に魔法を振るって居たそうだ。


詠唱魔法の発展による現象の安定化、固定化により、

大多数の者が、魔法を扱うことが出来るようになった。


詠唱魔法の普及と共に、無詠唱魔法を行使できるものが減って行き、

完全に無詠唱で行使する者は、現存していないとさえ言われている。


また回復の魔法を扱える者は少なく、

怪我や骨折程度の回復持ちはそれなりに居るが、

四肢欠損等になると、教会や国の高位の司祭や極一部しか使えないとの事だった。


死者蘇生については、伝承で存在してると記されているが、確認は取れていないようだ。


「うーん…、要するに、……魔法は全然解明できてないのね。

ぉ? ……魔力を消費すると最大量が増えるような記述があるな。

これは試したいな…。」


(ステータスオープン。)


――――


名前:アルヴィス・アイゼンブルグ (3歳)

種族:人族 (男)

職業:なし

HP:14/14

MP:36/36


★スキル


技能スキル

棒術Lv1 操糸術Lv2


魔法スキル


特殊スキル

魔力視


(Lock)

アイテムボックス 鑑定 魔力注入


補助スキル

器用さUP 体力UP 魔力UP 魔力操作 ステータス隠蔽 異世界言語理解


(Lock)

精力UP 魔力回復向上  


固有スキル


(Lock)

??召喚


★称号

創造神パン・ドゥーラの加護(隠蔽済み) ??神の加護(隠蔽済み)


――――



(魔力操作もいつの間にか解除されてるし、ちょっと試してみたいな)


アルは静かに部屋を出ると、庭に出て、家の裏に行く。

周囲に誰も居ない事を確認して息を吐く。


(昔の人は、…無詠唱で魔法を使ってたって事は、

……ちゃんとイメージが出来れば、良い気がする…。)


体内の魔力を操り、掌、その指先に魔力を集める。


(まずは危なくなさそうな…、……水? …雫が垂れるように。)


じわじわと湧き出るようなイメージをすると指先から水が滲み出す。


「おっ!」

(水が出たっ!)


満足したアルは、手に付いた水を振り払い、次に移る。


(イメージはライターの火…。 ………。 ……ぐぬぬぬ…。)


なかなか火が出ないので、

ライターのガスを噴出させ、火打石の火花を散らすのをイメージ、

マッチ棒の火薬と摩擦熱での発火をイメージや、枯れ木に出来た火種に風を送る等、

色々と試すが上手くいかなかった。


結局は最初に戻り、ライターのガスを、魔力に置き換えて、

魔力を指先から噴出させ、それを着火するイメージをしたところで、

指先にポっっと火がついて直ぐに消えた。


「あっ! ……、ふぅ…。」

(火属性、……、適正無いのかな…。…えぇい、次だ次ぃ!! 風ぇ!)


火属性は無かった事にして、風属性を考える。

ドライヤーの風をイメージし、魔力を指先に集める。


(……ふわぁーっと…。)


指先から少量ではあるが風がふわっと出たので、歓喜する。


「よしっ! よしっ!! これなら危なくもないし、魔法の練習に最適かもしれん! 

あとついでに土も、…石、……は危ないから小石、…砂っ!」


砂をイメージすると指先に少量の砂が…。


(成功っ!)


喜んだのもつかの間、魔力を急激に消費したせいか、ふら付いてしまう。


「……魔力を消費しすぎたのかな? 

これ以上やると、エレナ母様にバレてしまいそうだから、戻って休もう…」


―――

HP:11/14

MP:8/36

(結構…、……消費してたな…。)


アルはふらつきながら部屋に戻って行った。


(魔法が使えるって確認が出来たのは良いが、結構消費するなぁ・・・)


アルは、軽いめまいを感じながらも、部屋に戻るとベッドに横になり、すぐに眠りについてしまった。



――――



翌朝、アルは目を醒ます。


HP:15/15

MP:41/41


(地味に、……HPとMPが増えてる。)

「消費して…、回復すると増えるのかな? …超回復的な?」


アルは魔力操作で体内の魔力を動かし、また体中に巡らせていく。


(またチャンスを見つけて、出来るだけ鍛えておきたいな…)


そう考えながらアルは朝の支度をすまし、リビングへと向かった。


「おはよう、エレナ母様」


「おはよう、アル。 …今日はゆっくり寝てたわね。」


アルはエレナの視線を避けるように、目を逸らしつつ返事をする。


「うん…、……ちょっと本を読んでたら、寝るのが遅くなっちゃった。」

(魔法を使ったのバレてないよね…? …エレナ母様、鋭いからなぁ…。)


誤魔化せたと思っているアル。

エレナは、敢えて態度に出さないようにして、アルの一挙一動を観察していた。


「あー、今日は天気が良いから外で本を読もうかなー」


いそいそと用意されたパンを食べ、そそくさと退室して行くアル。


「ふふっ、…あの子って隠し事が出来ない子ね。」


エレナはアルの後ろ姿を見送りながらそう呟いた。


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