第3話 元おっさんの少年とメイド予定の少女



それから月日が流れ、アルは1歳になり、ハイハイから覚束ないながらも立って歩けるようになっていた。




ハイハイが出来るようになってから、初めて自分の容姿を確認した。


父親のジョシュアと同じ、金髪に緑の瞳で、顔立ちは、母のエレナに似ているかもしれない。(願望)

その方がイケメンになりそうだ。


まぁ父様も、物腰の柔らかい優男って感じのイケメンなんだけどね。



食事も、もう数か月前から母乳をやめ、煮込んでとろとろになったスープを食べている。


「アル~、……は~い。」


そう言ってエレナはお椀に入ったスープを匙に掬ってアルの口元へ運ぶと、アルはパクっと咥えてコクンと飲む。

それを見て、エレナは嬉しそうに微笑んでいる。


食事を済ませると、ソファーに座り本を読んでいるエレナの膝にアルが持たれかかるようにして体を休めている。


「~♪~♪」


優しく撫でられながら綺麗な声で歌ってくれるので、アルは夢うつつだ。


(……気持ちいいなぁ、……この体は凄い無駄に眠いんだよなぁ。)


「~~♪♪」


(それにしても読書しながら鼻歌かぁ。……母さんの声、……綺麗……だなぁ。)


「……あら、……もう眠っちゃったの?。」


そんな声が遠くに聞こえていた気がしたが、アルは眠りに落ちていった。



――――



アルは、物置きになっている部屋の片隅で、座り込んでいた。


魔力視で自分の魔力を見ながら体内で動かす練習をしていた。


「………。 ふぅ…。」


(……やっと動く様になってきたな。)


アルが魔力操作の練習を始めてから、約10日が過ぎていた。

今まで出来なかったことが出来た時の喜びは、子供の心を鷲掴みにする感覚だった。


(取り敢えずの目標は、

……自由自在に魔力を動かして、体内で循環させる様にするかな。)


そんな事を考えつつ、部屋を出ようと扉を開けると、アルを呼ぶエレナの声が聞こえる。


「アル〜?  ……こんな所に居たのね。」


トテトテと、声のする方へ歩いて行くと、アルを探していたエレナと出会う。


「アル、あなたに会わせたい子が居るのよ。」


アルを抱き上げたエレナはリビングへ入ると、メイドのマリーさんと小さい女の子が居た。


エレナがアルを下ろして立たせると、

少女と向かい合うとマリーさんが紹介してくれる。


「アル様、こちらは私の娘のクリスティアです。 

さぁ、クリス、アル様にご挨拶を。」


マリーさんに促されたクリスティアは恥ずかしそうに顔を少し赤くしながら挨拶をする。


「くりすてぃあです、4さいです。 よろしくおねがいします。」


「アルでしゅ、1さいでしゅ。」


アルが答えると、クリスティアは嬉しそうにはにかんだ。


「アル、貴方が5歳になる頃に、

クリスには貴方のメイド見習いとして、働いて貰う事になると思うわ。仲良くしてね?」


エレナが微笑みながら、優しくアルに諭すと、


「よろしくおねがいします。」


クリスティアは恥ずかしそうに、モジモジしながら言うと、顔を上げた。

マリーさんと同じ薄紫色の瞳をしていてセミロングぐらいの黒髪をツーサイドアップにしている少女だ。


「あぃ!くりしゅてぃあ!」


アルがそう言い手を差し出すと、クリスティアは嬉しそうにその手を握り返した。


(何これ? 可愛すぎる。 ……俺はロリコンじゃないぞっ。)


「ふふふっ♪仲良くしてあげてね?」


そう言ったエレナとマリーは二人を優しく見守っていた。


そんなクリスティアとアルの出会いであった。



―――――



2歳になったある日、庭で魔力操作の練習をしていると、

マリーとクリスがやって来た。


「アル様、何をしているんですか?」


クリスが興味津々に聞いてくる。


「まりょくのれんしゅー」


と、アルが答えるとクリスティアも興味深々だ。


「それをすると、どうなるんですか?」


「んー? まだよく判らないけど、

まほうを使えるようになったら、ゆうりになるんじゃないかなぁ?」


「へー」


その会話を聞いていたマリーは目を見開き驚く。


「……アル様、それはエレナ様に教わったのでしょうか?」


「んーん?、なんとなく?できるようになったから、しゅぎょうしてたの。」


「……そうですか。」


マリーは冷静を装い頷く。


(この歳で自力で魔力操作ができるなんて、……普通では在り得ない事だけれど。)


「クリス、アル様の事お願いね。 ……私はエレナ様に会って来るわ。」


「はい、わかりました。」


マリーはそう言って、エレナの部屋へ向かった。


「アル様、私にも魔力操作の練習、教えてくれますか?」


クリスがアルに尋ねる。


「んー? いいよー、いっしょにやろ!」


こうして、クリスティアと魔力操作の練習をする事になった。


アルはクリスと向かい合い両手を繋ぐ。


「じゃあ、いまからクリスに、まりょくをながすから、かんじてね。」


「はい!」


クリスティアは元気よく返事をする。


(……俺の手からクリスの手に、……魔力を流して。)


クリスの手に、自分の魔力が入っていくのを感じられる。


「……どう? なにか、かんじる?」


「はい! 手になにか、……暖かい物が流れてきました!」


「それがまりょくだよー。

じゃあ、それをじぶんのからだのなかで、さがしてみよう。」


クリスは目を閉じて集中する。

さっき感じたものを体の中で意識して我慢強く探す。


「……あっ! ……これっ、……かな?」


「みつけたら、それをからだのなかで、うごかしてみよう」


そう言われ意識を傾けるが、そう簡単に動いてはくれない。

動かす様に集中してる二人は、

向かい合わせのままお互い無言で暫くの時間を過ごす。


「……はい、 …んっ …んっ ………。 ……あっ! ……うごきました!」


「もう、うごかせたの? くりすはすごいなー!

それをからだじゅうに、なんどもめぐらせるのが、

まりょくそうさのれんしゅうだよー」


「はい!わかりました!」


そんな会話を交わしながら魔力操作の練習を続ける二人。




そんな二人を、静かに離れた場所で見守る、エレナとマリーだった。



――――




時間は少し巻き戻る。



「エレナ様、宜しいですか?」

エレナがソファに座り、読書している時に、メイドのマリーがやって来た。


「どうしたの? マリー」


「はい、……アル様が、既に魔力を操作出来ると聞いたのですが…。」


「……何ですって?」


「……やはり、まだご存知ではありませんでしたか。」


マリーは予想していた答えに溜息をつく。


「……わかったわ、ありがとう。」


エレナは本を閉じると立ち上がって庭へ向かう。


そこでは仲睦まじく魔力操作をクリスに教えているアルが居た。

エレナは二人に見つからない様に背後に周り様子を見る。



アルはクリスに両手を繋ぐ様に促し、クリスティアと魔力が繫がったのを見届けると、

その手を通してクリスへ魔力を流した。


「……どう? なにかかんじる?」


「はい! ……暖かい物が流れてきます!」


「それがまりょくだよー」




(……的確に教えてるわね。……自分で覚えて魔力知覚のコツを見出したの?)


エレナはそんな事を考えながら二人を見守る。


(……アルもだけど、……クリスも凄いわね。)


「もう、うごかせたの? くりすはすごいなー!

それをからだじゅうに、なんどもめぐらせるのが、まりょくそうさのれんしゅうだよー」


アルは褒めるようにクリスの頭を・・・、には、背が届かず、背中を優しく撫でている。


「はい!わかりました!」


そんな会話を交わしながら魔力操作の練習を続ける二人。




そんな二人を静かに見ていたエレナは、後ろに着いて待機していたマリーに、視線で合図すると部屋に戻った。


「……ふぅ、……驚いたわ。

……私も5歳の時に魔力操作を覚えて、才女だの褒め囃されたけれど、……それは人に教えを乞うた上での事よ。」


エレナは真剣な眼差しでマリーに告げる。


「……はい。

今日初めて魔力を流したクリスが、知覚できるような、 ……適切なアル様の教え方。

実際に直ぐに感覚を掴んだクリスも凄いですが、……アル様は。」


「えぇ、……クリスも魔法の適性はまだ判らないけど、魔力操作のセンスは抜群ね。」


「やはり、そう思われますか。」


エレナは頷き答える。


「……えぇ。 ……早いかもしれないけど、近いうちに生活魔法ぐらいは、教えておいた方が良いかもしれないわね。」


エレナはソファーで足を組み替え、マリーの用意してくれた紅茶を一口飲む。


「……ふぅ。 ……マリー、庭で訓練出来るように、色々と用意しておいて貰っていいかしら?

魔法については、極力、アルとクリスは一緒に練習させましょう。」


「承りました。」


エレナの言葉にマリーは頭を下げて礼をするのであった。


――――


その日の夜、アルが寝た後、

リビングのソファーでエレナは旦那のジョシュアと並んで座っていた。


「……あの子達を見て思ったのだけれど。……二人とも天才だわ。」


「……あぁ、……俺もそう思うよ。」


「……特にアルは、天才なんて言葉で片付けて良いようにも思えなかったわ。

2歳の子供が、……自力で魔力操作を覚えるなんて。」


エレナは両手を組んで考え込んでしまう。


「あまり、……考え過ぎない方が良い。」


ジョシュアは優しくエレナの肩を抱く。

気付けば固く組んで居た両手を離し、ジョシュアにもたれ掛かる。


「……そうね、アルはアルだものね。」


「そうだとも、俺たちの可愛い息子さ。」


二人は静かに微笑みあうと、そのまま寄り添って夜を過ごすのだった。


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