第2話 元おっさん、オギャる。




目を覚ますと、茶色い天井が見えた。

慌てて体を起こそうとするが、起き上がれない。


「……オギャ!? ぅぁ~?」

(なんで起きれない!? オギャ?)


何故か赤ん坊の声で言葉が漏れる。


(あぁそうだった、転生で赤ん坊にされたってやつか・・・)


「おはようアル。 」


すぐそばで声がする。

横に視線を移すとベッドで上半身を起こした妙齢の美女が、

こちらを見て微笑んでいた。


ドアをノックする音が聞こえ、

美女が入室の許可を出すと、ドアが開き人が入ってきた。


「エレナ様、おはようございます。 御加減は如何でしょうか?」


「おはよう、マリー。 …もう大丈夫よ。」


(日本語!?  いや、……口の動かし方が日本語じゃないな。

……これは言語理解的なヤツか?)


声の主が、ベッドの女性の傍に来た事で、アルにも見えるようになった。


(……ベッドの女性が、エレナさんで、

メイド服の女性が、……マリーさんか。 ………メイドっ!?)


メイドを目の前にして驚くアルは、視線を動かし部屋を見渡す。


(……綺麗な部屋だが作りが西洋風と言うか…、

……日本ではないな。……どうやら本当に異世界に転生したっぽいな…。

まぁ、……おっさんだった俺が赤ん坊の時点で、間違いないんだろうが。)


紺色生地に、襟や裾の白い生地がアクセントのメイド服に、

白いサロンエプロンを付けている。

地味目なメイド服で地味じゃないボディーを包んでいる。

黒髪を頭の後ろで纏めていて、薄紫色の瞳の、綺麗な顔立ちの女性だ。


そんな黒髪美人メイドさんが、

キョロキョロと視線を動かすアルを見て、整った表情を綻ばせる。


「ふふ…、……産声をあげられなかったので、案じましたが、

アル様もお元気そうで何よりです。

奥様、朝食の準備が出来ていますが、こちらでお召しになられますか?」


「……えぇ、アルにもおっぱいをあげたいから、お願いするわ。」


そう言って、エレナはゆっくりとした動作で、ベッドから降りると、

寝かされているアルを抱き抱える。


(奥様!?  …おっぱいって、そりゃ母親なら母乳も出るだろうけど…。)


「アル~、おっぱいを飲みましょうね~。」


「ぁぅあ~!?)

(やっぱりかぁ~!?)


マリーはテキパキと準備をする。

アルを抱きかえてベッドサイドに座るエレナの服のボタンを、

マリーが丁寧に外して胸をはだけさせると、

双丘を優しく支えアルの口に含ませる。


「んくっ んくっ」


「あぁ、アル。 ……おっぱいが美味しいのね。」


そう言ってエレナはアルの頭を優しく撫でる。


(……これは、……しばらく考えるのは止めるか。)


「それでは奥様、朝食をお持ちします。」


「えぇ、マリー宜しくね。」


マリーは朝食の用意の為に退室していった。


暫く、マリーが戻ってくるまで授乳を続けたアルは、

お腹が膨れ、口を離すと目がとろんとなり始めた。


(……やべぇ、 ……眠くなってきた。)


「あら? もうお腹いっぱいなのね。」


エレナはアルをベッドに寝かせると、布団を掛けてアルの顔を眺める。


「……アル。 ……貴方はどんな子に育つのかしらね?」


エレナの呟きを聴きながら、アルは深い眠りについた。


暫くしてマリーが朝食を持って入ってきた。


「失礼します。エレナ様、お食事をお持ちしました。」


「ありがとう。 そこの机で頂くわ。」



―――


食事を終え、食後の紅茶をマリーが淹れてくれている時、

エレナはベッドで寝ているアルを見る。


「……アルは、普通の人生を、……送れないかもしれない。」


そう呟いたエレナは、静かに涙を流していた。


「……エレナ様。」


マリーはそっとハンカチを差し出す。


「……ごめんなさい、ありがとう、マリー。」


ハンカチを受け取り涙を拭ったエレナは、ぽつりぽつりと思いを口に出す。


「……アルは、……なんらかの加護を、持っているかもしれない。」


「加護、……ですか…。」


その言葉を聞いてマリーは息を呑む。


加護とは、生まれながらに、天より与えられる、特別な力の事を言う。

文献には、賢者や英雄と呼ばれる様な者や、王国に混乱を招いた大罪人や大悪人は、いずれも何らかの加護を授かっていたという。

そして大なり小なり、加護を身にに宿すものは数奇な運命を辿るとさえ、言われている。


「……フフ、ごめんなさい。 ただの親馬鹿なだけね。」


「まさか、……そんな。」


そう言って微笑んだエレナの目の端には涙が光っていた。



――――




月明かりが差し込む薄暗い部屋の中でアルは目を覚ました。


(ここは何処だ?)


見覚えの無い部屋を見渡して、自分の現在の状況を考える。


(……あぁ、おっぱい飲んでから、……眠くなって寝ちゃったか。)


寝たまま首を少し動かして、横を見ると、エレナが静かに寝息を立てている。


(……綺麗な寝顔だな。)


そんな事を思いながら、アルは視線を天井に戻し考える。


(確かステータスを見れるとか言ってたな。 ……ステータスッ! ……何も出ない。)


何度か「ステータス」と念じて見るが、何も出てこない。


(もう一度! ステータスッ!!)


またも何の変化も無い。


(……発音が悪いのか? ……試してみるか。ステェーッ!タゥースゥ!!  ステタァースッ  スゥーテェタァスゥッ!  ステッ!タスッ! ……ダメか…。 )


他に何かないか、考えてみるが思い浮かばないので、

手当たり次第に。思い浮かぶ言葉を試していく。


(… … … ステータス! オープン!!)


「ウキュッ!?」


半ば自棄気味に心の中で連呼してると、突然目の前に、半透明のガラス板の様なものが現れて、変な声が出た。

自分で呼び出しておいて突然現れたので、一人でビビる赤ん坊。


(……なんかゲームみたいだな。)


そんな感想と共に内容に目を通す。


――――


名前:アルヴィス・アイゼンブルグ (0歳)

種族:人族 (男)

職業:なし

HP:6/6

MP:15/15


★スキル


技能スキル

棒術Lv1 操糸術Lv1


魔法スキル


特殊スキル

魔力視



(Lock)

アイテムボックス 鑑定 魔力注入


補助スキル

器用さUP 体力UP 魔力UP ステータス隠蔽 異世界言語理解


(Lock)

精力UP 魔力回復向上 魔力操作 


固有スキル


(Lock)

??召喚


★称号

創造神パン・ドゥーラの加護(隠蔽済み) ??神の加護(隠蔽済み)


――――


(……うん、 ……なんだこりゃ…。

何か色々おかしなことに、なってるなっ!)


一つ一つ順を追ってみてみようと思い最初からゆっくり見直す。


(俺の名前は、アルヴィス・アイゼンブルグ。

母もアルって呼んでたし、メイドさんも居るし、苗字があるって事は貴族か?)


(最近、産まれたっぽいし、0歳児ってのも納得だ。

HPもMPも少なく感じるが、産まれたばかりだし気にしても仕方ないな。)


(スキルは、……棒術は何となくわかる。 

……操糸術? ……糸を操る? ……つまり必〇仕事人?)


アルはベッドの上で顔を動かし、長さ5cm程度の糸くずを見つけたので掴む。


それを、動かす様に意識しつつ指を動かすと、糸がピンッと棒の様に真っ直ぐ立った。


(っ!? ク〇ラが立ったっ! ……え? ……これだけ? 

えーっと、……針の穴に通すのは楽になりそうだ。 うん。)


アルは真っ直ぐ伸びた糸を、

ベッドに突き刺す様に叩きつけると、糸がへにょっと曲がった。


(え? ……へにょって…、

……あんなに真っ直ぐ立ってたのに、……糸は糸って事か。)


もう一度、真っ直ぐに指を動かすと、糸はピンッと立った。


(今度は波打つように動かしてみる!)


アルが意識して動かして見ると、糸がうねうねと波打つように、動き始めた。


「……ぁぅ~…。」


(……よし、……次にいって見よう。)


アルは波打つ糸を、ポイっとベッドの外にほり投げて、ステータスに視線を戻す。

ほり投げられた糸は、ふわりと床に落ちると、ただの糸の様に動かなくなった。


(技能はこれだけで、魔法スキルは何も書かれてないな……。

まぁ自分で覚えればいいか。 ……覚えれるよね? まぁ次だ次。)


(……特殊スキル。 ……魔力視。 文字通り魔力を視れる?)


自分の手を見つめ、魔力を視るように意識する。


(……薄っすら自分の身体からモヤが出ているのが見える気がする。)


ふと、隣で寝て居る母を見ると、自分の何倍ものモヤを纏っているのが見えた。


(凄い! これが魔力なのか? エレナ母さんってもしかして凄い人?)


そんな事を考えながら、次を見る。


(お? アイテムボックス! それに鑑定! これが在れば絶対便利だよなぁっ!)


異世界転生系ラノベのお約束を見て、

テンションが上がっていくアルは一点を見つめて、スンっとなる。


(……(Lock)。 ……って事は当然、この二つは今は使えないって事かぁ…。

どうやったら解除出来るんだろう…。 ……まぁ様子見だな。)


落ち着いたアルの視線は、次の項目へ移る。

器用さ、体力、魔力UP、ステータス隠蔽 異世界言語理解。


(Lv表記が無いのは、レベルが上がらないって事なのかな?。ステータス隠蔽と異世界言語理解。それに器用、体力、魔力UPってのは個人的に嬉しいな。)


(……そしてLockされてるやつ、……精力UP以外は早く解除されたいな。

……性欲UPじゃないだけ、まだマシ? ……なのかな?

うん…、……セーフとしておこう。)


無理やり自分を納得させて、次に行く。


(……固有スキル。 ……ユニークスキルか。 ……当然の様にLockされてるのは良いとして…、??召喚ってなによっ!?

……パッと思い浮かぶのは、聖剣? 精霊? 守護獣? 邪神とか魔人とか?)


可能性を想像して、どれもこれも、大惨事になりそうな想像しか出来なくて、

アルは顔をしかめ、暫く考えないようにしようと、心に決める。


(最後は☆称号って言う名の、加護?

パン・ドゥーラってのは、……あのおっさんだよなぁ?……じゃあ、

この、??神の加護って何? 誰なのこれ? ……やだ、怖い…。)


ステータス画面の項目部分をタップしてみるが、何の反応も無い。


「……ぅぁ~。」

(取り敢えず、加護は隠蔽されてるし、見えなくなってると願って、………無視しよう。)


アルは現実から目を逸らすように、隣の母を見て癒される。


(……エレナ母さんは綺麗だなぁ…。 

前は、マザコンでは無かったはずが、

マザコンの気持ちを、理解した気がしないでもない。)


そんな事を考えながら母の寝顔を見ていると母が目が薄っすらと開きこちらを見る。


「……アル、どうしたの? ……おっぱい飲む?」


そう言って起き上がるとアルを優しく抱きしめて、また胸をはだけさせおっぱいを含ませる。


(んぐっ! 俺は今、0歳児だから、……おっぱいを飲むのが自然だ。

うん、……決して赤ちゃんプレイではない。)


自分に言い聞かせながらちゅぱちゅぱと吸っていると、 エレナは目を細めて微笑みながらアルの頭を優しく撫でる。


そうしてお腹いっぱいになったアルはまた眠りに就くのであった。




―――――


本日2話目の投稿です。

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