元おっさんとメイド少女(仮)

りふぉ

第1話 神のサイコロ



「おいっ! 誰だ、この吊り具を曲げた奴っ! …このまま使ってると事故るぞ。」


接続部分のシャフトがひん曲がった吊り具を、持ち上げて部下に声を掛ける。


「あっ! …それ自分ッス。」


言われて思い出したように、おずおずと部下の一人が名乗り出る。


「バカヤロウッ! 

壊したり潰したりしたら報告しろって、いつも言ってるだろうがっ!」


「……すいません。」


「曲げたことを怒ってるんじゃねぇ? 曲げたまま放置してる事を怒ってるんだっ!

これのせいで誰かが怪我をしてみろ!

……自分が怪我をするよりもキツいぞっ!?」


そう言って、道具の置いてある場所から、少し離して置くと、部下に声を掛ける。


「昼休憩の後、……作業を再開する前に、ちゃんと交換しておけよ。 

昼礼に行ってくるから、あとは任せるぞ。

……交換するまでは絶対使うなよ?」


「……了解っス。」


そう言って、俺こと、吉岡 秋。

アキは、日々の工程と、他業種との折衝の擦り合わせをする昼礼に、

参加するために現場を離れて、現場事務所に向かった。



俺の仕事は、建設現場で働く職人の一業種、鉄骨鳶工と言う職種だ。


工場で加工されたビル等の建物の、骨組みになる鉄骨を、

現場に搬入し組み立てるのがメインになる。


軽いもので数十キロ、重いものになると数tから数十tにもなる物を、

クレーンオペレーターの操縦するクレーンで吊り上げ、

オペレーターと合図を交わし、鉄骨を繋ぎ合わせ組み立てていく。


柱を建てて、登り、組み立てる都合上、低い所で3m程、

高い所だと数十m以上にもなる所に登って組み立てる。


高所恐怖症ではないが、人並みに恐怖心を持つ俺は、

「仕事じゃ無ければ絶対登らない」と日々愚痴る。


興味がある事以外には、めんどくさがりで、人見知りな俺は、

人付き合いもめんどくさいし、人を使うのもめんどくさい。


上昇志向も無いし、人に顎で使われてるだけでよかったのに、

【仕事だけ】は、外面を貼り付け消化してると、

経験を重ねるうちに、現場代理人として人を使う立場になってしまった。


今、受け持つ現場は、

繁華街にある超高層ビル計画、完成は約170mで39階建ての予定。

地下から始まり、今は28階になる鉄骨を組み立て途中だ。



打ち合わせが長引き、約一時間の昼休憩の半分を潰され、

昼からの作業に溜息を吐きつつ、ご飯を食べてすぐ現地へ向かう。


一本の重量が約16tの鉄骨の柱がクレーンで吊り上げられて、運ばれてくる。


超高層の場合は、ある程度の高さまで鉄骨を建てると、

途中で先に、床を作り上げてから、その上にまた鉄骨を建てていく。


っと言った具合に、

作業員がなるべく高さを、直接感じない様に、工事を進めていく事が多い。


運ばれてきた鉄骨の柱を、下階の柱と連結して、その柱に登り、

吊り具を外して、合図を出して、クレーンを見送る。


昔は、オペレーターとの合図や会話にも、緊張とストレスを感じたものだが、

20年以上やってると、それなりに慣れるものだ。


加齢による体力の低下のせいか、怪我をしないための厚手の作業服に、

フルハーネス型安全帯、作業工具をぶら下げた胴ベルトで約10㎏、

それに自分の体重で、柱をよじ登るのも一苦労だ。


巻取りワイヤーを腰に付け、柱を登って行き、立ち上がる、

安全帯と呼ばれるロープを仮設の安全設備に掛け、巻取りワイヤーを外す。


登った柱は建物の外周部分の柱だ。


外側を見ると、道路を挟んで向かい側にもオフィスビルがあり、

オフィスビルの窓の中で、サラリーマン風の男と、OL風の女性二人が、

こちらを見て指差して、会話してるのが見える。


そのまま視線を下げると、地上まで一気に見下ろせる。


「うへぇ、……今が28階だから約120mぐらいかな? ……気持ちわりぃ。」


下を覗き込み、そんなことを呟きつつ柱の上で待機していると、

柱と柱を繋ぐための鉄骨、梁材と呼ばれるものがクレーンに吊られて運ばれてくる。


(そう言えば、あの曲がった吊り具、交換したのかな?)


『指示は出した。』『やってるだろう。』『そんな事はあたりまえ。』 


そう思い確認してなかった事を、思い出した直後、

フラグ回収と言うやつなのだろうか、

目の前まで梁材を吊ってきた吊り具の片方が弾け飛んだ。


片方が弾け跳んで外れた為に、

残ったもう片方の吊り具に急激な負荷が掛かるが、持ち堪える。


片方の吊り具の外れた梁材の重心が崩れ、振り子の様に動き落下を始めた瞬間。


鉄骨材を掴もうとしていた俺の体は押し出され、

鉄骨の柱の上から突き飛ばされるように、俺の体は宙に投げ出された。


(安全帯、使って守ろう、我が命ってかぁ)


心の中でそんなことを呟いた瞬間、

俺が安全帯を繋いでいた仮設の安全設備を、落ち始めた鉄骨が圧し折った。


(まも、……れてねぇ。)


地上120mから宙に投げ出された俺は成すすべもなく地上へダイブする。

(アイ、キャン、フラーイ)とか、走馬灯がとか、そんな事を考える暇も無い。

圧し折られた安全設備と共に落下していく恐怖は一瞬で、


俺の意識は無くなった。




――――――




「おい、聞こえるかー。」



呼ばれた気がして振り向くと、白っぽい布を体に巻いたような服を着た、

イカツイ顔をした、ムキムキのおっちゃんが立っていた。


「後藤さん? あれ?、吉村さん? …えーっと。 ……あ、そうそう! 

細河さんっ! ご無沙汰しております。」


「あぁ、…うん、…そのどれでもないな。 ……誰だよ、そいつら。」


人にあまり興味が無いアキは、近しい人以外の、人の顔を覚えるのが苦手で、

有名な芸能人ですら、顔と名前が一致しない事が多い。


現場で仕事をしていると、

見覚えのない人に、親し気に話しかけられる事も良くあった。


おっちゃんの顔を見ながら、見覚えが無いかと、真剣に考える。


(葉〇瀬さんを、物凄く悪くした感じの見た目だな、・・・あの太い指じゃ、ヴァイオリンは弾けなさそうだ。)


「……お前さん、

丁寧にテキトーな返事しながら、内心で失礼な事を考えるの止めような?」


その言葉に、ドキリとするも、表面上に変化を出す事も無く答える。


「!? …何のこと、……でしょうか?」

(え?……俺、口に出してないよな?)


「あぁ、…もう、そう言うのいいや。 …お前さんは死んだんだよ。」


「ぁあ? ……、 …あぁ、やっぱ俺、……死んだのか。」


見覚えのないおっさんに、あっさりと死んだと言われて、

一瞬イラっとするが、直前の自分の状態を思い出し納得する。


「…えらく、……納得がはえーな?」


「そう言われても、…あの状況で生きてる方が、おかしいからなぁ。」


「…ほう?」


まるで達観したかのような心境のアキに対して、興味深そうに見てくるおっさん。


「…まぁ、……生にしがみつく程の未練があった、……訳でもないし、

んー? 死にたくはなかったけど、……生きたかった訳でもない的な?」


自分の心情を、言葉を探す様に言うアキに、

おっさんはイカツイ顔で、ニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべると、

悪人面が、極悪人面になる。


「ハッ! …本気で言ってるのが、なかなか面白れぇ。」


「んで、そろそろ…、おっさんはどちら様で、いらっしゃりやがりますか?」


「丁寧に喋るのか、はっきりしやがれ聞きづれぇ。 ……俺は神だ!」


アキに対して文句を言いつつも、

足は肩幅、腕を胸の前で組み、やや胸を張りつつ、偉そうに神を名乗るおっさん。


「えー、……トイレの?」


「ちゃうわっ!ドアホゥッ!」


(…ノリが良いな。 …神様パネェ!)


「俺は神、この世界、ミルアースの創造神だ。」


「………。」


イカツイおっさんの口から、【創造神】なんて言葉が飛び出したもんだから、

その顔をまじまじと眺めながら、内心で独り言ちる。


(…うん、見た目はどう見ても…、……邪神とか悪神だわなぁ。)


「……誰が邪神だコラっ! おぉんっ!?。」


「申し訳ございませんでした。心を読まないでくださいお願いします。」


「…はぁ、…もういいや、……話を進めてもよろしいでっしゃろか?」


(……神様は、キャラブレが激しいな。)



モザイク必須の恐ろしい表情で威圧されたアキは、即・土下座、即・謝罪。

そんなアキの態度に、

どうでもよくなったおっさんも、諦めモードに入って適当な感じになっている。



「さあ! 話を進めようか?」


座り直して、話を始めようとしたアキの前に、おっさんもドカっと座る。


「……なんでそんな偉そうなんだよお前。…はぁ、もういいや、めんどくせぇ…。

お前さん、……異世界転生する事になったんだよ。」



「おぉ~、ラノベとかで良くあるやつか。 うん、知ってる知ってる~。」


「…お前さん、ノリが軽いな。」


「なんで、俺なの? こう見えて俺って、……結構めんどくさがりだよ?」


「見りゃわかるよっ! ……まぁいいや。

お前さんを選んだのは、…お前さんの居た世界――、地球の在る世界だな。

そこの神とサイコロ勝負で俺が勝った時に、ソイツからお前の魂を貰った。」


「はぁ? サイコロ勝負?

なんで神様がチンチロリンなんてやってんだよ?

……イカツイ顔に違和感はねーけどさ。

ってか、…元の世界の神さん、……勝手に俺をBETすんなよ…。」


「まぁ、暇つぶしだな、結構、流行ってんだぜ?」


目の前のイカツイ顔の神は、にこやかな表情で答えるが

その顔を見ながら、アキは思う。



(……もっとこう…、さぁ…、 

おっぱい透けてる様な布を纏った、……美しい女神様に会いたかったなぁ…。

おっさんじゃなくてぇ……。)



「……おい、……俺はお前の考えてる事が解かるんだぜ?」


現実?から目を逸らして、遠い目をしているアキを、呆れた表情で見るおっさん。


「んじゃ、早速、異世界に飛ばすから、お前さんの希望ってある?」


「希望って、…いきなりだな。……えっと、……なんだっけ? 

チートスキル?とか、貰い放題な感じ?」


「ん?あぁ、お前等の世界のラノベとかで良くある、

異世界に送る時に、言語理解とか、鑑定とかそんな感じか?」


「そうそう、そんな感じ…。……ってかラノベ知ってるのね。」


「あーでも、これじゃあれだな…、……ただやるんじゃ面白くねえな。

よし…、言語理解とか鑑定とか色々適当に、サイコロ振って詰め込んでやるよ。」



「え?何ソレ、怖ぁい、え、何それ? 面白さとか要らないんですけど?」



「そう言うなって、転生してからのお楽しみってのもオツなもんだろ?。

サービスで、ステータスオープンと念じたら見れるようにだけはしといてやるよ。」


「そんな楽しみ要らねぇよ? フツーにくれよっ」


「何が付与されるかは、……今は教えてやれねぇなミ☆」


「そりゃ、これからサイコロ振るんだろうしなっ!? ☆付けんな!」


アキの苦情をスルーして、ご機嫌なテンションで喋る、サイコロ中毒のおっさん神。


「大丈夫だ、元々無かったものをやるってんだ。

マイナスになるわけじゃねぇんだ、気にする必要はねえよ。」


「……タシカニー。

 ……そう言われたら、どうでも良くなってきたな。」


「だろ? じゃっ、いっくぞー!」


完全に流されたアキだったが、異世界転生には、興味が湧いたので気にしない。

おっさん神が地面?を足でトンッと鳴らすと、

アキの足元?尻の下?に魔法陣が現れ、光を放ち始めた。



「あ、そうだ。 …俺の他に転生者とか居るのか?

あと、なんか使命とかあるのか? ついでに神さんの名前も教えて。」


「俺の名前はついでかよ?

……まぁ、いいか、どうせもう会う事も無いだろうしな…。」


アキの物言いに、呆れつつも、答えてくれる。


「他の転生者についてだが、俺が転生させたのは、お前の他には居ない。

俺の下に居る奴が、勝手に何人か、転生させてたようだがな。

……興味が無いから良く知らねぇや」



おっさんは人相の悪い顔を更に歪ませて笑う。



「俺は、創造神【パン・ドゥーラ】ってんだ。

特にやって欲しい事はねぇから好きに生きろや。

暇つぶしに定期的に見ててやるよ。 んじゃなー! がんばれよ。」


パン・ドゥーラの声を聴きながら、アキの体は光に包まれ、意識を失った。




―――――後書き―――――


殆どの方が、初めましてだと思うので、初めまして。


人生二度目の執筆です。


執筆と言うほどの、レベルではありませんが、

話が一段落するまでは、ストックが在ります。


1話辺りの文字数は、特に考えておらず、

区切りが良い所で増減する事になると思います。



それでは、皆様の御眼汚しになる事を期待しつつ、宜しくお願いします。

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