ほしのくに

夏都

みずうみのほとり

ちいさな、ちいさな湖のほとり。その国に星の魔女と呼ばれる人が住んでいました。けれど、その人は本当に魔女という訳ではありません。魔女は、料理人でした。


その湖のほとりには、沢山の星が流れつきます。その星を使って料理をするので、その国の料理人は星の料理人と呼ばれていました。その中でも魔女は、ほっぺが落ちるくらいに美味しくて、魔女の料理を食べたならば、病を患った人でも、みるみる元気になっていくので、彼女は星の魔女と呼ばれていました。


毎朝、早くに起きて湖のほとりの砂浜で星をとります。きらきら、きらきら輝いていて、砂浜全体がまるで宝石の海のようでした。


けれどその日はいつもと違っていて、一人の少年がその砂浜で横たわっていました。魔女は驚きました。特に観光地という訳でもないこの湖に、人が居たのですから。この国の料理人以外近づかない湖に人がいた事もそうですが、その男の子は見た事もないような、時代を少し遡った服装をしていたのです。


「大丈夫ですか?」


魔女はそう、声をかけます。暫くすると、男の子は目を覚ましました。


「……僕の幼馴染をしりませんか」


男の子が起きた途端、魔女に向かってそう問いかけます。


「あなたの幼馴染?貴方と、貴方の幼馴染はどんな名前でしょうか」


魔女は不思議そうに男の子を見ます。男の子の目は、朝焼けで輝く星のように美しい瞳でした。


「僕はオリオン。幼馴染の名前はアルテミス。僕たちは星なんだ」


と、不思議な事を言いました。いつも食べている星は、人の形をしていないのに、この男の子は人の形をしています。また、不思議に思った魔女は、アルテミスがどんな星なのか聞きました。


「アルテミスはおそらに浮かぶ、月のように美しい人なんだ」


と。魔女には一つ、心当たりがありました。ひと月ほど前に、王様に捧げた月の欠片のような大きなお星さま。その星は、オリオンが語るアルテミスの特徴にそっくりだったのです。


魔女は、それをオリオンに聞かせました。オリオンは、とても、とても悲しそうな顔をして、湖の中に歩いて行ってしまいました。止める間もなく、オリオンの姿は、湖に隠れてしまいました。


次の朝、魔女がいつものように湖に行くと。そこには、砂浜を覆い隠すほどの朝焼けの色をした星がありました。


魔女は息を飲みました。その星が、あまりにも美しかったから。彼女は我を忘れて、その星に手を伸ばし、覆いつくしていた量の星を、飲み込んでしまいました。


少し経って、魔女は彼女の家に戻りました。沢山星を食べ、お腹がいっぱいになって、眠くなってきたのです。魔女は、少しばかりの間、眠る事にしました。


彼女の弟子が、お店の開店時間になってもお店に来ないので、不思議に思って魔女の家を訪ねます。


「魔女様、魔女様、いらっしゃいませんか」


弟子がそう声をかけても、家の中から一切答える声はありません。仕方が無いと思い、魔女の弟子は、家の中に入ろうと、扉を開けると。


家の中からざらざらと、天井に届くくらいの星が流れ出してきました。その星は、月の欠片のような星と、朝焼け色の星が一緒くたになって扉から流れていきます。


「美しい」


彼女の弟子はそう一言だけ漏らすと、魔女と同じようにその星を食べ始めます。弟子は時間を忘れて食べ続けます。街の人もその弟子が食べる星をみて、同じように食べ始めました。


――やがて、星を食べた街の人達が場所を着にせず眠り始めます。ぐうぐう、ぐうぐうと寝息をたてながら、街の人達は綺麗な星に姿を変えました。


その国は、全ての住人が星になって、やがて、美しい星の街として知られることになりました。星を食べる人たちの事は忘れられ、ただ、星は眺めるものとして知られるようになりました。

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ほしのくに 夏都 @natuto

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