第3話 裏切り






 悪びれる事なく笑いかけてくる苺美を前にして、しばらく何も言葉を発する事が出来ずにいると、苺美が肩をすくめて言った。


「あーあ、もう少しいたぶってやりたかったのに、残念。

 こんなに早く気付かれるなんて計算外だったな………。

 せっかく足がつかないように、メールじゃなくて手紙にしたのに」


「………何言ってんの?

 どうして苺美がこんな事………」


「どうしてって、環が記憶を無くしたりなんかするからじゃん。

 しかも都合の悪いところだけ。

 だから思い出させてやろうと思って」


 苺美は爪を気にしながらそう言った。


 人差し指のマニキュアが少し剥がれている。


「じゃあ………本当にあたしが若葉を?」


「あ、思い出した?」


 首を横に振った。


「思い出せてないけど………新聞記事を読んで、もしかしてそうなのかなって………」


「ふーん………。

 じゃあ、自分がどうしてそんな事をしたのかよくわかってないんだ」


「………」


 黙り込んでいると、頬に冷たいものが落ちてきた。


 見上げると、ポツポツと雨が降りだした。


「雨か………。

 ねぇ、中で話さない?」


 苺美は顎をしゃくる。


 仕方なく、苺美を家に上げる事にする。


 高いヒールのサンダルを脱いで、苺美は「お邪魔しまーす」と言って先に中へ入って行く。


 そのピンヒールの先のゴムのところがほとんどすり減ってしまっているのをなんとなく眺めながら、足の裏についた砂利を払っていると、りんごがやって来てまとわりついてくる。


 その頭を撫でて、リビングに戻った。


 苺美はドアホンのモニター画面を覗き込んで、感心しながら言う。


「へー、これかぁ。

 本当に表まで丸見えだね。

 セキュリティ対策はばっちりってわけか」


 あたしはそちらに向かい、モニターのスイッチを切った。


「………どういうつもり、苺美。

 こないだは "力になる" なんて言っておきながら、あんな手紙寄越してくるなんて………。

 あたしを騙したの?

 そんな事して何が面白いの?」


 苺美は真顔になって言う。


「別に面白がってやってるわけじゃないんですけど」


「………どういう意味?」


 苺美は顔を逸らし、家の中を見渡しながら言った。


「いい家だよねー、まだ新しいし。

 今は弁護士も不況の時代とか言われてるみたいだけど、やっぱりなんだかんだ言って普通よりは儲かってんだね、環のお母さん」


「………」


「地デジのテレビもデカイね。

 これ何型?」


「………話を逸らさないでよ。

 言いたい事は何?」


 苺美はどっしりとソファーに腰を下ろす。


「何もかもうちとは大違いだって事だよ。

 羨ましー………。

 でも、超ームカつく」


 片方ずつテーブルの上に足を乗せて組んだのを見てムカッときて、歩み寄って苺美の足を払い落とした。


「僻むのもいい加減にしてよ。

 ここはパパとママが一生懸命働いて建てた家なんだから」


 苺美は冷笑する。


「こわ。

 相変わらず気が強いねー、環は。

 そういうとこ、昔から変わってないよね」


「さっさと本題に入ってよ。

 ここに書いてある事………本当なの?

 少女Aって、あたしの事なの?」


 新聞記事のコピーを見せると、苺美はそれを手に取って眺めた。


「へー、当時の新聞じゃん。

 どうしたのこれ」


「────……とぼけないでよ!!

 自分でポストに入れたくせに!」


 苺美は眉を潜める。


「はあ? 何言ってんの?

 あたしこんなの入れてないし」


「え?」


「なんであたしがこんな新聞記事を大事に取っておくんだよ。

 そもそも、新聞なんか取ってないし」


「………本当に、苺美じゃないの?」


「これ以上あたしに嘘吐く理由ある?

 手紙の事がバレてるのに」


「じゃあ、いったい誰が………」


 苺美は「知らなーい」と言って、記事を見ながら言った。


「なんかよくわかんないけど、ここに書いてある少女Aって、間違いなくあんたの事だよ。

 あんたがこいつらに若葉のIDを教えたりしたから、若葉はあんな目に遭わされて自殺しちゃったんだよ」


 そこまでハッキリ言われると、心臓を直に殴られたような打撃を受けた。


「そんな………どうしてそんな事………」


「どうしても何も、あんた若葉の事嫌ってたじゃん。

 若葉には何度も裏切られたーとか言って」


「だからって!

 まさかそんな事したなんて………信じられない………」


「信じられなくても、あんたは実際にやってんの」


 苺美はテーブルに記事のコピーを置き、右手でそれを叩いた。


「こんな事やらかしといて記憶喪失とか、マジあり得ないっしょ」


「………」


「あたしさ、ずっと許せなかったんだよね。

 あんたのせいで、あたしの人生まで滅茶苦茶にされて………」


「………どういう意味?」


「記事に書いてある少女Bって、それ、あたしの事だから」


 驚いて、大きく目を見開いた。


 苺美は爪をいじりながら話を続ける。


「確かに出会い系サイトでそいつらと知り合って、あんた達に紹介したのはあたしだよ?

 だけど、翔平に若葉のIDを勝手に教えたのはあんただから」


「………」


「今日ポストに入れたそれ、中を見てみなよ」


 ダイニングテーブルに置いた手紙を取りに向かい、封を切る。


 中には写真が何枚か入っていて、そこに写っているものを見て、思わず悲鳴を上げて床に落とした。


 写っていたのは、若葉が暴行を受けている最中の写真だった………。


 苺美は腰を上げ、写真を拾い上げる。


「この写真、あたしのところにも送られて来たんだよ。

 おまえも共犯だからなって………。

 少しは何か思い出した?」


 あまりの衝撃に口元が震えて、返事をする事が出来なかった。


 苺美は写真に目を落とす。


「この写真を見せられた時は、あたしだってショックだった………。

 何ヶ月も頭から離れなくて、夢に出てきてうなされた事もあったし」


「………」


「だけど翔平達の言う事聞いて、黙ってれば良かったんだよ。

 そしたらバレなかったかもしれないのに」


 信じられないその台詞に耳を疑った。


「それ………本気で言ってるの?」


 苺美は横目で睨んでくる。


「本気に決まってるでしょ。

 あんたが警察に通報なんかするから、あたしまで巻き込まれる羽目になったんだから」


「………」


「この事件の後どうなったと思う?

 世間に名前は割れてなくても、この近辺じゃあっという間に広がったんだよ。

 あたし達がバカな事したから、若葉がって」


「………」


「その噂は高校まで流れて来て、卒業するまで散々非難されて嫌がらせされたよ。

 彼氏も、芽衣も………みんなあたしから離れて行った………。

 うちのママなんか、ずっと勤めてた派遣の仕事のクビを切られた。

 ただでさえ母子家庭で生活が厳しかったのに………うちはもう借金まみれだよ」


 目を潤ませて、苺美はあたしの正面に立つ。


「全部あんたのせいなんだよ!

 自分は家に引き込もって学校から逃げて………ほんっとズルいよね。

 でもあたしは、奨学金を受けて高校に入ったから、そうは行かなかった」


「………」


「あんたの父親が北海道に転勤になったとか、母親が家を出て行ったとか、ザマーミロって感じだよ。

 ていうか、そうなって当然でしょ?

 うちまでぐちゃぐちゃにされたんだから!」


「………」


「こないだおばさんと駅前で偶然会って、あんたが事故で記憶を無くしたって聞いた時は許せないって思った………絶対忘れさせるもんかって………。

 ほら、よく見て思い出しなよ」


 苺美は若葉の写真を顔に近付けてくる。


 とても見ていられなくて目をつぶると、前髪の付け根のところを掴まれた。


「なに目を逸らそうとしてんの?

 これはあんたがやった事なんだよ。

 そのせいで若葉は自殺したの!

 ちゃんと目に焼き付けなよ!!」


 苺美に迫られて、あたしは目をつぶったまま顔を横に振って抵抗した。


「自分がした事思い出しなさいよ!

 ほら、ほら!」


 あたしと苺美の様子を見て、りんごが苺美に向かって吠える。


「やめてよ………やめてってば!!」


 写真を振り払うと、苺美が両手で胸ぐらを掴んでくる。


「あたしの人生元に戻してよ………高2の頃に時間を戻してよ………」


 血走った目を向けてくる苺美を見て、まともじゃないと思った。


 何をされるかわからない恐怖さえ感じる。


 左手だけで苺美の腕を掴んで抵抗しても勝ち目はなく、それでも必死になってもがいていると、ずっと吠え続けていたりんごが苺美の足首に噛み付いた。


「痛いっ!!」


 あたしから手を放して、苺美はりんごを振り払おうとする。


 りんごは喉をグルグルと鳴らしながら、スッポンのように苺美の足に噛み付いて離れようとしない。


「りんご………ストップ………ストップ!

 りんご!

 もういいからやめて!!」


 りんごは苺美から離れ、あたしのところへやってくる。


 そして威嚇するように苺美に向かって吠え続ける。


「もういいよりんご、大丈夫だから………落ち着いてりんご………」


 りんごをなだめていると、苺美は足首を押さえて、顔をしかめながらこちらを睨んでくる。


 りんごの噛み痕から、血がダラリと垂れていた。


 その事に気が咎めつつ、苺美に言った。


「どうかしてるよ苺美………そんな写真、わざわざプリントアウトしてまで持ってくるなんて………」


「そんな事………人殺しのあんたに言われたくないよ。

 何もかも、全部あんたのせいなんだから」


 あたしは声を震わせながら言い返した。


「人のせいにしないでよ。

 さっきから黙って話を聞いてれば………。

 こっちが記憶を無くしてるからって、都合のいい事ばっかり言わないで。

 あたし知ってるんだよ?

 ちゃんと他の記事にも全部目を通したんだから」


「何がよ」


「犯人達とは出会い系サイトで知り合った事。

 若葉があんな事になるまで、その事隠してたんでしょ?」


 苺美は一瞬ぐっと口ごもる。


「………だったら何?

 それがわかってたら、そんな事しなかったとでも言うつもり?」


「その時どうしたかなんてわかんないよ!

 だけど苺美が出会い系サイトなんか使ってたのは事実でしょ?

 あたしが通報したからこうなったとか………それおかしくない?

 彼氏が離れて行ったのも、芽衣が離れて行ったのも、自業自得じゃん。

 若葉の事にかこつけて、全部人のせいにしないでよ!」


 苺美は大きく目を見開いて唇を震わせる。


「よくもそんな事………開き直るつもり!?」


「自分こそっ!

 やましい気持ちがあったから、出会い系サイトの事黙ってたんじゃないの?

 だいたい彼氏がいるのに、なんで出会い系サイトなんか使ってたわけ?

 そういう事棚に上げて、よく堂々と人を責められるよね。

 信じらんない!」


 自分一人の責任にされたくなくて、必死になって責め返した。


「あたしが人殺しだって言うんなら苺美だって同罪じゃん!

 あんたが出会い系サイトで知り合った男なんか紹介してきたからあんな事になったんじゃないの?

 むしろ………一番悪いのは苺美の方じゃん!」


 勢いでそこまで言ってしまうと、苺美は充血した目を据えて「最低」と呟く。


「それがあんたの本心だよね………。

 て言うか、本性現したって感じ?」


「何それ………」


「警察の前でも言ってたもんね。

 こんな事になったのはあたしのせいじゃないって、必死に現実逃避しようとしちゃってさ」


「………」


「結局環だって、人に責任なすりつけて若葉の事から逃げようとしてるだけじゃん!

 今まで散々正義感気取ってたくせに!」


「………」


「環さ、昔よく言ってたよね。

 いじめとか仲間外しとか、そういう卑怯な事は嫌いだって。

 だけど裏では、人の事バカにしてたでしょ」


「………何の話?」


「知ってんだからね。

 あんたが裏であたしの名前を "DQNネーム" だってバカにしてた事」


「!!………」


「中学までの記憶があるんなら覚えてるでしょ?

 テニス部のみんなと一緒になって笑ってた時の事」


「それは………」


 事実だった。


 中2の時、部活の休憩中、誰かが "DQNネーム" や "キラキラネーム" の話題を持ち出してきて、そういう名前だと将来就職する時にバカな親の子供だと思われて不利になるらしいと言って、みんなでそうだと思う名前を挙げて笑った事があった。


 そこであたしは、苺美の名前を出した。


 苺美が嫌いだったわけじゃない。


 だけどたぶん、みんなもそう思ってるんじゃないかと思って、その場のノリで軽く口に出したんだ………。


「そのあと、しばらくみんなであたしを見てクスクス笑ってたでしょ………。

 若葉の事だってそう。

 ボールを打ち返す時のフォームがカッコ悪いとか、私服のセンスがダサいとか、陰で色々言ってたよね。

 自分が一番最初に一年生の中で選手に選ばれたからっていい気になって、同学年のあたし達の事も、いつもどっかで見下してた」


「………」


「いったい自分の事何様だと思ってたわけ?

 2年に上がってからは、四番手まで落ちたくせに」


 苺美は嘲笑うような笑みを浮かべる。


「キャプテンに選ばれなかった時も悔しそうにしてたよねー。

 自分が選ばれるとでも思ってたわけ?

 協調性がなくて、負けず嫌いでプライドばっか高くて、そんなあんたが選ばれるわけないじゃん。

 バッカじゃないの」


 苺美の言葉がグサグサと胸に突き刺さって、悔しくて拳を震わせた。


「………今まであたしの事、そんな風に思ってたの?」


「そうだよ。

 いつも偉そうな事ばっかり言って、結局あんたも他の奴と大して変わらないんだよ。

 なのに全然自覚してないとこ?

 自分だけは違うって思い上がってるとこ?

 環のそういうとこ、昔からすっごいムカついてた」


 ………やっぱり、友達なんか信用出来ないと思った。


 部活の時はそんな素振りなんか全く見せないで、引退する時は、


〈うちらは引退しても友達だよねー〉


 なんて、調子のいい事言ってたくせに。


 苺美だって、陰で若葉の事ボロクソ言ってたくせに………。


「自分の事ずいぶん過大評価してるみたいだけど、あんたなんかただの人殺しなんだよ。

 あんたがどう思おうと、若葉をあんな目に遭わせて自殺させたのはあんたなんだから!」


 臍を噛んで黙り込んでいると、苺美はりんごに噛まれた右足を庇いながら、ソファーに置いていたハンドバックを取りに向かう。


 帰ろうとする苺美を、あたしは呼び止めた。


「待ってよ。

 帰る前に………一つだけ質問に答えて」


 苺美は無言でこちらを見る。


「もう一人の………少女Cって誰の事?

 あたしの高校の友達?」


「………さあね。

 そのぐらい自分で思い出せば?」


「………」


「言っとくけど、もうあんたの味方してくれる奴なんて誰もいないから。

 じゃあね、もう二度と会わないと思うけど」


 冷たく吐き捨てて、苺美はリビングを出て行く。


 玄関のドアが閉まると、身体から力が抜けて床に手をついた。


(あたしが若葉を殺した………)


 その事実に耐えきれなくなって、近くにあったゴミ箱を掴んで壁に投げ付けた。


 ああああっ!と声を上げて、ソファーの上にあるクッションやテレビのリモコン、周辺にある物を手当たり次第に掴んで投げて暴れた。


 ダイニングテーブルの椅子を倒したり、棚に置いてある物を払い落としたり………。


 我を忘れて暴れている最中、突然、頭の中で過去の記憶がフラッシュバックした。


 叫び声を上げながら、ママが気に入っていたカーテンをカッターで引き裂き、パパが可愛がっていた観葉植物を倒して暴れた時の事を………思い出した。


〈カーテンも絨毯も観葉植物も………全部あんたがぐちゃぐちゃにしたんじゃない!〉


 ………ママが言ってたのは、きっとその時の事なんだ。


 あたしは過去にも、きっとこうやって家の中で暴れてたんだ。


 パパとママが建てたこの家を、あたしがぐちゃぐちゃにしたんだ………。


 いつの間にかキッチンの方へ避難していたりんごが、抗議するように吠えてくる。


 目を泳がせながら立ち尽くしていると、床に落としていた若葉の写真が目に留まり、ギクッとした。


 男達に両腕を掴まれて泣き叫んでいる若葉の顔を見て、頭に痺れが走った。


(あたしが………若葉をこんな目に………)


 散らばった写真を急いでかき集めて、二階にあるママの仕事部屋に向かい、シュレッダーにかける。


 無造作に四枚も突っ込んでしまったので途中で詰まってしまい、苛立って動かなくなったシュレッダーを叩いた。


「もうっ! なんで!?

 なんでこんな事になったんだよっ!!」


 その場にしゃがみ込んで、しばらく頭を抱えていた。






 それから一週間、頭痛が毎日続いた。


 不自由な右手でお風呂に入るのが億劫で、一週間入らなかった。


 食事を取るのも面倒で、わざわざ二階から降りてトイレに行く事さえ面倒で、24時間リビングで過ごした。


 テレビもずっとつけっぱなし。


 ソファーに横になって、眠くなったら寝て、起きたらそのままぼんやりテレビを見るような生活。


 朝も昼も夜も関係ない。


 晴れていようと雨が降っていようと、それは変わらなかった。


 それに対して、テレビの中では色んな事が変わっていた。


 毎週見ていた『HEY!HEY!HEY!』がいつの間にか番組終了していて、AKBのセンターが指原莉乃になっていて、俳優の山本太郎が政治家になっていた。


 そして何故か世間では「今でしょ」という言葉が流行っている。


 有名塾のカリスマ講師がバラエティー番組に出ていて、周りから「それっていつやるんですか?」と聞かれ、「今でしょ!」と答えて笑いを誘っている。


 今月の8日には2020年東京オリンピック開催が決定したらしく、体調不良で総理大臣を辞職したはずの安倍総理がいつの間にか復活していて、「政府としても全力でバックアップしていきたい」と語っている。


 そんな風に時代が変化し、前へ前へと進んで行く中で、自分だけが過去に向かって歩いているような、奇妙な感覚に陥っていた。


〈あんたがこいつらに若葉のIDを教えたりしたから、若葉はあんな目に遭わされて自殺しちゃったんだよ)


〈あんたがどう思おうと、若葉をあんな目に遭わせて自殺させたのはあんたなんだから!〉


 ………苺美の言う通りだ。


 若葉を殺したのはあたしだ。


 だけど記憶がない分、自覚が持てずにいる。


 どうして?という疑問が、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。


 記事に書いてある事を読んだだけじゃ疑問は晴れない。


 けれど悲惨な若葉の写真が目に焼き付いて、当時の事を何一つ思い出せないまま、自分が犯した罪だけが重くのしかかってくる………。


 あれ以来パパからの連絡はない。


 ママが帰って来る気配もない。


 かと言って、自分から電話をかける勇気もない………。


 父親と母親に見捨てられてしまったのかと思うと、どうしようもない悲しみと憤りを感じた。


 あたしがこの家をぐちゃぐちゃにしてしまったのは間違いないのかもしれない。


 でも………どうして?


 今まであたしは、パパとママの夢を応援してきた。


 特に、ママ。


 あたしはいつだってママの味方だった。


 それなのに、どうしてママは、あたしを見捨てるの………?


〈ママが仕事を頑張っていられるのは、環のおかげだと思ってる〉


 親にまで裏切られたみたいで、その孤独と不安に、今にも押し潰されてしまいそうだった。


 精神科でもらった薬を飲もうと思い、テーブルに置いていた薬袋に手を伸ばした時、昨日の夜に最後の一錠を飲んでしまった事を思い出す。


 ため息を吐き、グラスを持ってキッチンへ向かうと、りんごが隅っこのところで蹲っているのを見付けた。


「りんご………どうしたの?」


 グラスをシンクの中に置いて近付くと、りんごは「クゥン」と小さく鳴いて身体を小刻みに震わせている。


「………どうしたの?

 具合が悪いの?」


 抱き上げると、りんごはその場におもらしをしていた。


「え………なんで?」


 りんごの餌入れを見ると、ドックフードが山盛りになったまま残っている。


 ………そういえば最近、りんごはリードをくわえてお散歩のおねだりをして来なくなった。


 それどころか、あたしに近付いて来る事も少なくなっていた………。


 りんごをキャリーケースの中に入れ、タクシーを呼んで動物病院へと急いだ。






 りんごを診察台の上に乗せ、お腹を触ったりして様子を見ながら、40代くらいの男の獣医さんが言った。


「最近下痢したりする事はありませんでしたか?」


「出てくる前にも確認したんですけど、下痢はしてませんでした。

 でも少しだけやわらかかった気がします。

 いつもはトイレを外したりしないのに、廊下とか階段とか、全然違うところでおもらししてて………」


「それに気付いたのはいつ?」


「すみません………今日気付きました………。

 おもらししたおしっこが少し乾いてたから、もしかしたら数日前からそうなってたのかも………」


「………。

 散歩には連れて行ってあげてましたか?」


「すみません………それも………。

 一週間ぐらいほったらかしになってました………」


 獣医さんは肩を下げて、ところどころ白髪が生えたボサボサの頭を掻きながら言った。


「典型的なストレス症状だね………。

 さっきからずっと震えてるけど、この子を厳しく叱り付けたり、何かストレスがかかるような事をしませんでしたか?」


「すみません………しました………」


 ボロボロッと、涙がこぼれた。


 この一週間、りんごの事を全く気に留めていなかった。


 餌と水だけを器に入れ、気が付いたらトイレを片付けて、その程度の世話しかしてなかった。


 その上あたしが急にヒステリーを起こしたり、家の中で暴れたりしたから、すっかり怯えてしまったのかもしれない………。


「心当たりがあるなら病気にかかったわけじゃなくて、精神的なものだと思いますけど、念の為検査をしておきましょう。

 だけど気を付けてあげないと、ストレスから本当に病気になってしまう事もあるんですよ?」


 鼻をグスッと啜り、「すみませんでした」と頭を下げる。


「その気持ちは、この子に向けてあげないとね」


 獣医さんはそう言って、りんごを抱えて検査室へと向かう。


 検査を受けた結果、特に異常はないようだった。


 だけどりんごはずっと震えていて、クゥンクゥンと鳴いてばかりいた。


「ごめんねりんご………」


 帰りのタクシーの中で、りんごを膝の上に乗せて頭を撫でながら謝った。


 ズキズキとこめかみが痛んで、頭を窓の方に倒す。


 そういえば、鎮痛剤も切らしていたんだった。


 薬がないと余計に何も出来なくなってしまうかもしれない………。


 そう思い、自宅へ向かっていたのを止めて、入院していた総合病院へ行き先を変更した。






 整形外科でギプスを新しく取り替えてもらった後、総合受付に向かい、この前精神科でもらった薬だけを処方してもらえないか尋ねた。


「薬の名前は控えてきてあるんです。

 ソラナックスっていう。

 それを頭痛薬と一緒に一ヶ月分くらいまとめて出して欲しいんですけど」


 受付の事務のお姉さんは首を横に振る。


「あいにく薬だけというのは出来ないんです。

 きちんと医師の診察を受けてからでないと」


「え?

 でも、精神科の薬ですよ?

 別に熱があったりするわけじゃないし………」


「精神科のお薬も、他のお薬と同じです。

 まだ受付時間内ですし、今から診察を希望されますか?」


「そんな………整形外科でも二時間待たされたのに………。

 早くうちの犬を連れて帰ってあげたいんです。

 この子具合悪くて、さっき動物病院に連れて行ったばかりなんです。

 お願いですから、今日は薬だけ出して下さい」


 お姉さんはりんごを入れたキャリーケースを見下ろして、気の毒そうに眉根を寄せる。


「それでしたら、また日を改めて来ていただけませんか?」


「日を改めてって………今すぐにでも薬を飲みたいぐらいなんです。

 薬を飲まないと不安で落ち着かなくて、頭痛もここ一週間ずっと続いてるんです」


「それならやはり、診察を受けていかれてはどうですか?

 具合が悪いようでしたら、診察室のベッドで横になって待つ事も出来ますので」


「でも………精神科には行きたくないんです。

 どうしても………」


 下を向いて唇を噛み締める。


 精神科に行きたくないのは、志水先生に会いたくないからだ。


 志水先生はあたしから何も聞いてないと言ってたけど、きっとママから話を聞いて知ってたんだ。


 あたしが若葉を、あんな目に遭わせて自殺に追い込んでしまった事を………。


「行きたくないというのは、以前何かあったんでしょうか?

 担当医は志水になっているようですが」


 お姉さんは手元のノートパソコンを見ながらそう言った。


 あたしはかぶりを振って返す。


「とにかく、診察を受けていただかないとどうする事も出来ないんですね。

 精神科を敬遠される方は多いので、お気持ちはお察ししますが………」


 違う、そういう事なんじゃない。


 あたしと若葉の事を知ってる人と顔を合わせたくない………。


 頭がガンガンしてきて、それに耐えながら言った。


「お願いします………薬だけ処方出来ないか、せめて先生に聞いてみてもらえませんか?」


「ですから、それは出来ないと先程申し上げましたよね?」


 その言い方にイラッときて、受付の台を思い切りバンッと叩いた。


「申し上げてなんかない!

 今は先生に聞いてみてもらえないかって事を言ってるんじゃん!!」


 受付のお姉さんは目を丸くして口を閉ざす。


 周囲の喧騒が静かになり、それを感じながらも、あたしは息を荒くして食いかかった。


「こんなにお願いしてるのに、どうして先生に聞いてみてもくれないの?

 今日は早く帰りたいの!

 診察なんか受けたくないの!

 いいからさっさと聞いてきてよ!

 頭が痛い時に………イライラさせないで!!」


「あ、あの………少しお待ちいただけますか?」


 受付のお姉さんは狼狽えながら奥に引っ込んでいく。


 それと同時に、周囲がざわつき始める。


 訝しそうな顔付きで、こっちをジロジロ見ている。


 するとその時、りんごが悲鳴のような高い鳴き声を上げた。


 我に返り、しゃがんでキャリーケースの扉を開けた。


「りんご………。

 ごめん………驚かせてごめん………」


 りんごに申し訳ない気持ちと、苛立つ気持ちでいっぱいいっぱいになって、涙が込み上げた。


 りんごは震えながらも、頬につたった涙を舐めて慰めてくれる。


「うっ………うーっ………」


 堪えきれなくなって、床に手をついて泣いていると、どこからか若い男の人の声がした。


「相澤さん、どうしました?」


 そう言って近付いて来たのは、入院してた時にお世話になった看護師だ。


 名前は確か、宗方さん………。


 りんごはあたしの前に立ち、宗方さんに向かって「ワンワンワンワン!!」と牙を剥いて吠えた。


「大丈夫だよ。

 おまえのご主人に何かするわけじゃないから、な?」


 宗方さんはそう言ってりんごをなだめ、しゃがんで頭に手を伸ばす。


 りんごはそれを避けて、宗方さんの手に噛み付いた。


「りんご! ダメッ!」


 慌てて放そうとすると、宗方さんが顔をしかめながら、こちらに手を向けて制してくる。


「大丈夫。

 これは相手を試してるだけだから」


「で、でも………」


 宗方さんは痛みに堪えながら、りんごが静かになるのを待っている。


 りんごはグルグルと喉を鳴らし、何もしてこない宗方さんの様子を窺いながら、ゆっくり口を離す。


「よし、いい子だ………おいで」


 指を動かしながら促すと、りんごは慎重にクンクンと匂いを嗅いでから、そちらに歩み寄って頭を垂らす。


 宗方さんは「よしよし」と言って頭を撫でながら、りんごを抱え上げる。


「相澤さん、今事務の人が車椅子を持って来るから、それで診察室に行こうか。

 診察を受けないと、薬は絶対出せないから」


 宗方さんにも諭されて、あたしは泣きながら観念して頷いた。


「とりあえず、あそこの椅子に座って待ってようか」


 待ち合い席の方に促され、立ち上がった途端、急に目の前が真っ暗になってふらついた。


「相澤さん! 大丈夫か?」


 あたしは膝まづいたまま「大丈夫です」と返す。


 宗方さんはりんごをキャリーケースの中に入れ、あたしを支えながら待ち合い席まで運んでくれた。






 診察室のベッドに横になって待っていると、カーテンを引いて志水先生が現れた。


「大丈夫か環ちゃん。

 受付で騒いだみたいだけど、何かあったのか?」


 志水先生は心配そうに尋ねてくる。


 あたしは反対側に顔を逸らし、宗方さんが代わりに答える。


「薬だけ出して欲しいと言って、それで揉めたようです。

 早く犬を自宅に連れて帰りたかったみたいで」


 説明が足りないので、あたしは壁の方を向いたまま付け足す。


「りんごの具合が悪くて………動物病院の帰りなの。

 だから先生に聞いてみてくれないかって頼んだのに、その場でダメって言うから………」


「そうか………」


 宗方さんが椅子を用意してきたので、志水先生は「ありがとう」と言って腰を降ろす。


「だけどね、環ちゃん。

 さっきも言われたと思うけど、診察を受けないで薬を出す事は出来ないんだ。

 だからうちの事務員もその場で断ったんだと思う」


「………」


「それに、いくら相手が思い通りに動いてくれないからって、さっきみたいに騒いだりしちゃダメだ。

 他の患者さんに迷惑がかかるのはわかるだろう?」


「だって………頭が痛くて………りんごもあたしのせいで具合が悪くなってて………。

 もういっぱいいっぱいになってて………」


「りんごちゃんっていうのか、この子は」


 志水先生はベッドの下を覗き、キャリーケースの中で大人しくしているりんごを見て微笑む。


「君がいっぱいいっぱいになってた状況はわかった。

 でもだからって、他人に迷惑をかけていい理由にはならない。

 そういう気持ちは、コントロールしていかないと」


「コントロールって………」


 腑に落ちず、唇を噛んで黙り込んでいると、志水先生は「ちょっと目を見せて」と言って、あたしの下まぶたを引っ張る。


「ひどい貧血だな………。

 それに、なんだか痩せたんじゃないか?

 顔色も悪いし、ちゃんと食事は取ってた?」


「取ってない………。

 食べる気がしなかったし、何もする気が起きなかった」


「どのぐらい取ってないの?」


「一週間」


「えっ、一週間!?」


 志水先生はぎょっとする。


「それで薬だけ飲んでたのか」


 頷くと、志水先生は眉尻を下げて言った。


「駄目だよそんな事しちゃ………。

 何かあったのか。

 一週間後に来るように言ってたのに全然顔を見せないから、どうしてるかと思って心配してたけど」


「………。

 先生は………知ってたんでしょ?」


「何を?」


「とぼけないでよ」


 ピシャリとはねのけて、志水先生を睨んだ。


「あたし入院中に見たんだから、先生とママが話してるとこ。

 あたしの記憶を戻らなくさせる方法はないって先生が言ったら、ママが泣き崩れてた………」


 そういう事かと言うように、志水先生は頷く。


「ママは………あたしに思い出させたくなかったんでしょ。

 あたしが若葉にした事………」


「………」


「でもだからって、どうして先生まであたしに嘘吐いたの?

 何も知らないフリして、若葉との事を聞いてきたりして………」


「嘘を吐いたわけじゃないよ。

 君が何も話してくれなかったのは本当の事だ」


「けどうちのママからは聞いてたんでしょ?

 誤魔化さないでよ!」


「誤魔化してるわけじゃない。

 君自身の口から話を聞く必要があったから、そうしたんだ」


「は? あたしの口から?

 記憶もないのに、どうやって?」


「………今は思い出せたんだね」


「思い出せたわけじゃない。

 匿名で手紙が届いたんだよ。

 "おまえは人を殺した、それを忘れるな" って」


 志水先生は目をしかめる。


「そのあと、当時の新聞記事のコピーが送られてきて………ネットで事件の事を片っ端から調べて………」


「………」


「新聞の記事を送ってきたのは誰かわからなかったけど、最初の手紙を送ってきたのは友達だった………。

 あたしに犯人グループ達を紹介してきた子。

 何も知らないフリして、入院中に見舞いに来たあの子だよ」


「………」


「記事にあたしの名前は書いてなかった………未成年だから………。

 だからあたしじゃないと思ったし、そう信じたかった。

 若葉とは色々あったけど、いくらなんでもそんな事はしてないって」


「………」


「でも苺美から聞かされた。

 若葉のIDを犯人達に教えたのはあたしだって………。

 あたしが若葉をあんな目に遭わせて自殺に追い込んだんだって」


「………」


 掛け布団を左手でぎゅっと掴んで、涙が込み上げそうになるのを堪えながら話を続けた。


「若葉が暴行されてる時の写真まで突き付けられた。

 犯人達が口止めする為に撮ったやつ………。

 それを見て思い出せって言われた。

 あたしが若葉にした事を………」


「………」


「だけど全然思い出せなかった………。

 若葉とどんな喧嘩をしたのかも、その時どんな気持ちで若葉のIDを犯人達に教えたのかも………。

 でもようやくわかったのは、ママが言ってた事。

 パパはあたしのせいで北海道に転勤になってた。

 せっかく夢だったマイホームを建てたのに………」


「………」


「家の中も変わってた。

 ママが好きだったインテリア、あたしがぐちゃぐちゃにしたんだって。

 今まで頑張って積み上げてきたものを、全部あたしが壊したんだって………」


「………」


「退院したその日に言われて、若葉の事を知る前だったから、自分が何をしたのか全然わからなかった………。

 何もわからないまま、ママは家を出てった………」


 志水先生は眉を潜めて「出てった?」と聞き返してくる。


 堪えきれなくなって、ついに涙が溢れ、声が震えた。


「そうだよ………。

 ママは………あたしを見捨てて出て行ったんだよ………」


「………」


「その日にママの事パパに連絡したけど、あれから全然連絡が来ない………。

 見捨てられたんだよ………パパにもママにも、見捨てられたの。

 見捨てられたんだよ!!」


 大きな声で叫んで、左手で顔を覆った。


 するとまた、りんごが「ワン!ワン!」と吠え出す。


「もうあたしの周りには誰もいないんだよ!

 友達にも何人か連絡したけど着信拒否されてた………。

 ネットの友達にも、IDごと無くなってて連絡が取れない。

 あたしの味方になってくれる人なんて、もう誰もいないんだよ!!」


「………」


 りんごがキャリーケースの中で暴れながら、興奮した様子で吠え続ける。


 それを見かねて、志水先生は宗方さんに言った。


「ちょっと外に連れ出してやってくれないか?

 他の患者さんの迷惑になるから」


「はい」


 宗方さんはキャリーケースを抱えて診察室を出て行く。


「環ちゃん、少し落ち着いて僕の話を聞いてくれないかな」


「嫌だ………。

 もう誰の言う事も聞きたくない………もう誰も信用出来ない!」


「………」


「先生もあたしに嘘を吐いたでしょ?

 さっきの質問に答えてよ!

 先生は何がしたかったの?

 知らないフリして、あたしと若葉の事を聞いてどうしたかったの?」


「僕は君の主治医だ。

 君の病気を治す為に、色々話を聞きたかったんだ」


「病気を治す?

 そんな事していったい何になるって言うんだよ」


「何になるって?」


 志水先生は静かに聞き返してくる。


「そんな事したって、若葉はもう生き返らないじゃん!

 あたしは若葉を殺したんだよ!?」


「………」


「あたしは人殺しなんだよ!

 人殺しが元気になってどうなるの?

 それでいったい何が変わるんだよ!」


「………」


「こんな事になって……もう生きてたってしょうがない………。

 だからきっと、あたしは死のうとしたんだよ!

 あたしなんか、あの時に死んでれば良かった!!」


 うああああんと声を上げて、あたしは泣き叫んだ。


 志水先生はあたしの肩を掴んでなだめてくる。


「環ちゃん、落ち着くんだ」


「触らないでよ!」


 あたしは反射的に、志水先生を突き飛ばした。


「先生にあたしの気持ちなんかわかるわけない!

 もうほっといてよ!」


 そう言って、枕元に置いていたバックを投げ付けた。


 それは志水先生の太股のところに当たって床に落ちる。


「どうしてこんな事になったの!?

 どうしてママまであたしを見捨てたの!?

 あたしはずっとママの味方だったのに!

 ずっとずっと我慢してきたのに!!」


 腹の底から声を張り上げて泣いた。


 泣いて泣いて、泣きまくった。


 もうどうしていいのかわからなかった。


 自分の事さえよくわからなくなった。


 そうやって延々と泣き続けて、気が付くと………いつの間にか志水先生は居なくなっていた。


 泣き疲れて、涙が渇ききった頃、ぼんやりと昔の事を思い出していた。


 パパとママが念願のマイホームを建てて、りんごが我が家にやって来た日の事………。






 2008年8月───


 りんごは生後三ヶ月の赤ちゃんの時に我が家にやって来た。


 小さい声でクンクンと鳴きながら、リビングをよちよち歩きで徘徊する。


「りんご、りんご、おいでおいで~♪」


 あたしは床に寝そべってりんごを呼んだ。


 当然まだ名前は覚えてないけど、りんごはたどたどしい足取りでこちらへやって来て、あたしの手を甘噛みしてくる。


 その様子を見ながらママが言った。


「可愛いわねぇ。

 だけど何も、好物のリンゴの名前を付けなくたって」


 ママは果物のリンゴをシャリッとかじる。


「まあ、梨よりいいんじゃないか?」と、パパ。


「いいでしょー?

 可愛いじゃん "りんご"」と、あたし。


「別にいいけど。

 飼う前に約束した通り、ちゃんと面倒見るのよ?

 特にトイレのしつけはしっかりね。

 新築なんだから」


「わかってるよ」


 パパはリンゴの皮を剥きながら言った。


「だけどシッポがあるコーギーで良かったのか?

 コーギーはシッポを切るのが主流なんじゃないのか?」


「シッポがある子が良かったの。

 犬は嬉しい時にシッポを振るから可愛いんじゃん。

 それに主流とかどうでもいいし」


 コーギーは昔、牛追い用として飼われていた犬で、牛にシッポを踏まれないよう、生後間もない頃に断尾されてたらしいけど、一般家庭で飼う場合は段尾する必要はない。


「ほら、環、りんご用にリンゴ切ったぞ」


 パパは面白くないシャレを言って、小さく切ったリンゴを渡してくる。


 それをりんごに差し出すと、美味しそうにムシャムシャと食べる。


 一生懸命口を動かして食べる様は本当に可愛らしかった。


 ママもこちらへやって来て、りんごを抱っこして頭を撫でる。


「こんな可愛い子がうちに居たら、部活どころじゃなくなっちゃうんじゃない?」


「部活は部活だよ。

 でも間違いなくソッコーで帰ってくる♪」


「ママもりんごがうちにいるなら、さっさと裁判切り上げて帰って来ちゃおうっかなー」


「はあ? 何それ」


 そんな事を話しながら笑っていると、パパがテレビを見て言った。


「あ、おい、男子の100メートル平泳ぎが始まるぞ。

 今回も金メダル行けるかなー、北島康介」


 ちょうど北京オリンピックが開催されている時期だった。


 スタートを切ると、あたし達は三人でテレビに見入った。


「よしっ! 行ける行ける行ける!

 行けー! 北島康介ー!」


 パパは果物ナイフを握ったまま、テレビに向かって声援を送る。


 この日北島康介は、58秒91という世界記録をたたき出して金メダルに輝いた。


 あたし達は興奮し、手を叩き合って喜んだ。


 りんごはあたし達の様子に何事かと言うように、キャンキャンと吠えてくる。


 北島康介はテレビのインタビューで感極まったように、「何も言えねぇ」とコメントしていた。


「すごいねー、りんごー。

 金メダルだよー」


 抱き上げて顔を近付けると、りんごはわけもわからずペロペロと唇を舐めてくる。


 そんなりんごを見て、パパもママも笑っていた。






 ────……あの時が一番幸せだった時期なのかもしれない。


 パパとママは新しい家を手に入れて、あたしは犬を飼いたいという夢が叶って、家族みんなで笑って………。


 あの家の中で家族の時を刻んで行くはずだったのに、今はもう家族バラバラだ。


 それを壊してしまったのは、あたしなんだ………。


 再びじんわりと涙が込み上げてきて、腕でそれを拭っていると、女の看護師さんが診察室に入って来る。


「相澤さーん、気分はどうですかー?」


 今の自分の気持ちとは温度差のある明るいその口調に返事をする気になれず、無視を決め込んでいると、志水先生も診察室に戻って来た。


「環ちゃん、どうだい、少しは落ち着いたか」


「………」


「悪いね、他にも患者さんが待ってたから、先にそっちを済ませて来たんだ」


 そう言って、志水先生は椅子に腰を降ろす。


「ずいぶん泣いたんだね。

 目がパンパンになってるよ」


 スッと壁の方に視線を逸らすと、志水先生は小さく息を吐いて言った。


「退院してから、色々混乱する事ばかりだったんだな」


「………」


「お母さんが家を出て行ってしまって、心細いよな………」


 心細いと言うより、今は "裏切られた" という思いの方が強かった。


「………なあ環ちゃん。

 さっきさ、僕にバッグを投げ付けてきたよね」


 そう切り出されて、つと、志水先生の方を見る。


 いったい何を話し出すんだろうと思った。


 志水先生は真面目な顔付きであたしを見つめてくる。


「すごくショックだったよ?

 僕は環ちゃんの病気を良くしてあげたいって本気で思ってるのに………。

 すごく傷付いた」


 最後の言葉がグサリと胸に突き刺さった。


 あたしが、志水先生を傷付けた………?


「環ちゃんが取った行動はね、専門的に言うと "行動化" と言って、胸の中にある気持ちをそのまま衝動的に表に出してしまう行為なんだ。

 そういう行動を取ると相手を傷付けると同時に、自分を傷付ける事になる。

 どうしてだと思う?」


「………」


「相手と信頼関係が築けなくなってしまうからだ。

 そうすると、君は本当に一人ぼっちになってしまうよ?」


 ズキンと胸が痛んで、あたしは小さく「ごめんなさい」と謝った。


「足………痛かった?」


「そっちはそんなでもなかったけど、ここはすごく痛かったよ」


 志水先生はそう言って胸を撫でる。


 心臓が絞り上げられるように痛くなって、渇き切ったはずの目から涙が溢れた。


「ごめんなさい。

 あたし………別に先生を傷付けたかったわけじゃなくて………。

 先生の気持ち考えないで、八つ当たりして、ごめんなさい………ごめんなさい………」


 志水先生は頬を緩めて首を横に振る。


「わかってくれればそれでいいよ。

 これで仲直りだ」


 そんな優しい言葉をかけられて、余計に罪悪感でいっぱいになった。


「先生、もしかしてあたし………こんな風に家の中で暴れたりしてたんじゃない?」


「ん?」


「退院してからずっと、おかしいなって感じてたの。

 考え事をしたり、行き詰まった時なんかに、妙にイラッときて、物に当たっちゃうの………」


「それは、自分でも抑えられないぐらい?」


「抑えられないっていうか………抑える前に、気が付くと暴れちゃってて、その度に自己嫌悪になってる………。

 りんごを怖がらせちゃって、毎回反省してるのに、どうしても繰り返しちゃう………」


「そうか………」


「それにこの前、一瞬だけ思い出したの。

 家の中をめちゃくちゃにしてるとこ………」


 志水先生は頷き、「そこだけは思い出せたか」と言う。


「あたし、どうしてこんな風になっちゃったの?

 若葉との事があったから?

 お願い先生。

 先生が知ってる事は、もう全部話して欲しい………」


 志水先生はあたしの目を見て頷いた。


「わかった、話すよ。

 君がそんな風になったのは、確かに若葉ちゃんとの事があったからだけど………それ以前に環ちゃんは、ネットに強く依存してる傾向があったんだよ」


「ネットに?」


「そう、俗に言うネット依存症だ。

 正式な病名ではないけどね」


「………」


「前に僕に話してくれた事を覚えてるかな。

 実際の友達よりも、ネットの友達と話してる事の方が多いって」


「うん………」


「どうしてそうなったのかは、この前環ちゃんの生い立ちを聞いてよくわかった。

 環ちゃんはお父さんやお母さんがいない間の寂しさや、心の中でずっと我慢してた事、それに現実の友達と上手く行かないストレスを、全部ネットの中に吐き出してた。

 たぶんネットの中にしか逃げ場を見付ける事が出来なかったんだと思うんだけど、そこについて自分ではどう思う?」


 どう思うも何も、全部志水先生の言う通りで、無言で頷いて返す。


「環ちゃんはネットの中にマイナスな自分の身を置く事で、自己形成を保っていたんじゃないかな。

 つまり、現実の世界では "いい子" を演じてた」


「………」


「元々真面目で正義感も強くて、それに周りに対して思いやりのある性格なんだと思う。

 特にお母さんの事は、自分の事より大事に思ってた。

 だけど本当は寂しさや不満があって、それを上手く外に出せなかったというか、いい子である自分をどこか理想として掲げてたって言うのかな………。

 だから表の自分と裏の自分のバランスを、ネットで調整してきたんじゃないかって、僕にはそう思えた」


「………」


「環ちゃんが家で暴れるようになったのはね、若葉ちゃんとの事があった後、お父さんからネットを取り上げられたのがきっかけだったんだ」


「パパに?」


「そう。

 環ちゃんは不登校になって、自分の部屋の中に引きこもるようになって、一日中パソコンの前にかじりつくようになったんだ。

 寝る時は片時も携帯を離さないで、明け方まで誰かとSNSを使ってやり取りをしてた。

 それを見兼ねたお父さんが、ネットの回線を解約して、携帯も取り上げたんだよ。

 そしたら、急にパニックを起こして、家の中で大声を上げて暴れ出した」


「あたしが………?」


「うん。

 携帯を返すまでパニックが治まらなくて、返してもネットの事で注意をすると、その度に暴れるようになった。

 そのうちお父さんが北海道に転勤する事になってしまって、お母さん一人じゃ手に負えなくなって………。

 環ちゃんはお母さんに睡眠薬で眠らされた状態で、この病院に連れて来られたんだ」


 それには衝撃を受けた。


 ママがあたしに睡眠薬を………?


 志水先生はあたしの心を読み取るように言った。


「信じられない話かもしれないけど、そうでもしないと病院にも連れて来れない状態だったんだ。

 あの時の環ちゃんは」


「………」


「それで三ヶ月ぐらい、環ちゃんはこの病院に入院したんだ。

 ネットに対する禁断症状が治まるまでね」


「………」


「退院してしばらくは落ち着いてたし、一週間に一度お母さんと一緒に外来にも来てた。

 携帯電話は放そうとしなかったけど、無理やり取り上げたりするとまた元に戻ってしまうから、そのまま持たせておくようにお母さんに話したんだ。

 夜は薬が効いてちゃんと眠るようになったし、薬物療法とカウンセリングを繰り返しながら、少しずつ依存心を取り除いて行く予定だった。

 若葉ちゃんに対する心のケアも兼ねてね。

 あの事件では、環ちゃん自身も相当深いダメージを受けてたから」


「………」


「だけど環ちゃんは、頑なに若葉ちゃんとの事を話そうとはしなかった。

 僕も無理に聞き出そうとはしなかったけど、何も話を聞けないまま、環ちゃんはパッタリ病院に来なくなったんだ」


「………」


「いきなり中断すると良くない薬を飲んでたから、心配になってお母さんに電話をかけたら、急に夜遊びで出かける事が増えて、一週間前に家を出たきり帰って来なくなったって事だった」


 それで勝手に家を出た話に繋がるのか………。


「あたし………家出して、どこで何をしてたの?」


「お母さんから聞いた話だと、SNSで知り合った相手と同棲してたそうだ」


「えっ………同棲?」


「お母さんは君の携帯に電話して何度も説得を試みたようだけど、そのうち電話にも出なくなって、ほぼ音信不通の状態になったんだ」


「………」


「そしてこないだ、環ちゃんが自殺を図ってバイクに跳ねられて、再びこの病院に運ばれて来たというわけだ。

 いったい何があったのか、それまでどこに住んでいたのか、僕にもお母さんにもわからない。

 携帯も壊れてしまったしね」


「………」


「環ちゃんが意識を取り戻したら話を聞くつもりだったけど、記憶を失ってたからな」


 そういう事だったんだ………。


「だから僕もお母さんも、環ちゃんの記憶が戻った時の事を心配してた。

 急に若葉ちゃんの事を思い出して、またパニックを起こすんじゃないかって」


 ママが志水先生に言っていた事を思い出していた。


〈じゃあ………あたしはいつ環の記憶がいつ戻るのか、怯えながら生きて行かなきゃならないんですか?〉


 だからママは、あたしに記憶を取り戻して欲しくなかったんだ………。


 志水先生は膝の前で両手を組んで言った。


「どうだろう環ちゃん、またしばらく入院してみたらどうかな?」


「え?」


「お母さんが家を出てしまって、環ちゃんを側で見てくれる人もいないし、記憶が戻らないまま過去の事を知らされて情緒不安定になってるようだし………。

 気持ちが落ち着くまで、入院して安静にしてみたらどうかな。

 入院してれば常に周りに病院のスタッフがいるし、不安な時は話を聞いてあげる事も出来る。

 その方が心細くないだろう?」


「………」


「この先どうするかは、もう少し落ち着いてから考えたらどうかな。

 一人で思い詰めたりしないでさ」


「でも………りんごの事があるから家は空けられない………。

 今は特に、あたしのせいで具合が悪くなっちゃったから、りんごの側にいてあげたい………」


「うーん………。

 ペットが大事なのはわかるけど、君自身がこれ以上体調を崩したりしたら、世話をするどころじゃなくなっちゃうだろ?

 今の君はちゃんと生活出来てないわけだし………」


 自分の非を指摘されたような気がして、胸にズンときた。


「誰か預かってくれる人はいないのかな?」


 またお婆ちゃんに預けるわけにも行かなくて、きっぱり「いません」と答えた。


「これからはちゃんと生活します。

 ちゃんとご飯も食べるし、ちゃんとりんごの面倒も見るし」


「環ちゃん、僕は別に君を責めてるわけじゃないんだよ?

 君の身体の事を心配して言ってるんだ。

 病気の時は、誰だって自分の身の回りの事が出来なくなるものだよ」


「病気って………あたしの病名ってなんなの?」


「環ちゃんの場合は原因がはっきりしてるし、ストレスによる自律神経失調症というところかな。

 慢性的な頭痛に睡眠障害、抑えきれない不安感や抑うつ症状にイライラ感。

 以前と同じ症状が出て来たみたいだね」


「………それって、通院じゃダメなの?」


「通院でも大丈夫だけど………。

 一人で大丈夫か?」


「………うん、大丈夫。

 ちゃんと食事も取るようにするし、病院にも来て診察も受けるから」


「そうか………」


 志水先生は頷きながら膝を叩いた。


「うん、わかった。

 じゃあ今日は前回の抗不安薬に加えて、抗うつ薬を出しておこう。

 ひとまずはそれで様子を見ようか。

 それから、夜はちゃんと寝るようにな。

 眠れないようなら次回眠剤を出してあげるから。

 まあたぶん、抗うつ薬が効いて眠れると思うけど」


 志水先生は机に向かい、ノートパソコンを立ち上げる。


「ねぇ、先生。

 やっぱり記憶の方は………自然に戻るのを待つしかないの?」


「そうだね。

 ………やっぱり記憶がないと不安?」


 志水先生は椅子を回転させてこちらを見る。


「まあ、若葉の事を聞いてからは特に………。

 色々わからない事もあるし………」


「だけど、無理に思い出そうとすると心に負担がかかるから、ゆっくりでいいと思うよ」


「それでいいのかな………」


「それでいいのかって?」


 あたしは身体を起こして言った。


「先生は………あたしの事どう思ってる?

 軽蔑してないの?」


 志水先生は目を閉じて首を横に振った。


「してないよ。

 僕にとって環ちゃんは、病気を良くしてあげたい一人の患者だ」


「………」


「今はまず、身体を治して行く事を考えよう。

 な?」


 小さく頷いて、「はい」と返事をした。






 病院の玄関を出て中庭へ向かうと、芝生のある広場のところで、宗方さんがりんごと遊んでいるのが見えた。


 りんごはシッポを振りながら、宗方さんが手に持っているボールを取ろうとジャンプしている。


 そんな元気な様子にホッとして、そちらへ近付いて行く。


 すると宗方さんの声が聞こえてきた。


「ほらっ、りんご、ジャンプ、ジャンプ」


 ボールを片手で持ち上げたり下ろしたりしながら、宗方さんは子供みたいに無邪気に笑っている。


 その笑顔を見て、思わずドキッとした。


 いつも真面目な顔付きで、笑わない人だと思ってたけど………。


「ワン!ワン!」


 つい見とれてしまって、りんごの声を聞いて我に返った。


 りんごはあたしに気付いていて、宗方さんがリードを離すと、一目散にこちらへ走って来る。


「りんご、ごめんね………ただいま………」


 しゃがんで頭を撫でると、シッポを振りながらペロペロと唇を舐めてくる。


「あれ?

 りんご、震えが止まってる………」


 宗方さんがキャリーケースを持って近付いてくる。


「少しはストレス発散出来たんじゃないかな」


「あ、どうもすみません………。

 ありがとうございました」


 立ち上がり、頭を下げてお礼を言った。


 宗方さんは小さく首を横に振る。


「だけどさっきまではずっと震えてたから、またすぐぶり返すと思うし、気を付けて見てあげた方がいいよ。

 いきなり俺に噛み付いてきたのも、神経が過敏になってピリピリしてたんだろうし、犬も心の病にかかる事はあるからさ。

 人間と同じで」


「はい………。

 あの………犬、好きなんですか?」


「え?」


「いや、さっき笑ってたから………」


 宗方さんはいつもの真面目な顔に戻っていて、「ああ」と言って頷く。


「俺も犬を飼ってるから」


「へぇ、何犬ですか?」


「豆柴」


「あ、豆柴可愛い」


 宗方さんは頷いて、しゃがんでりんごの頭を撫でる。


「でも次回病院に来る時は、連れて来ないでもらえるかな」


「え?」


「ここは病院だから。

 衛生面の事もあるし、今日みたいに興奮して吠えられるとさ。

 今日は動物病院の帰りで仕方なかったかもしれないけど」


「あ、ごめんなさい………」


 真顔で言われ、シュンとしてしまうと、「それからさ」と付け加えてくる。


「さっき、自分にはもう味方になってくれる人がいないって言ってたけど、こいつの事を忘れてない?」


 宗方さんは立ち上がってりんごを見下ろす。


「犬って健気だよな。

 いくら具合が悪くても、自分のご主人を守ろうとするんだもんな」


「あ………」


「さっきは相澤さんの事守ろうとして吠えてただろ?

 一番の味方なんじゃないかな」


 そうだ………。


 りんごはあたしの事を守ってくれようとしたんだ。


 苺美と揉め合いになったあの時も………。


「大好きなご主人が泣いたり大声をあげたりしてるから、心配になって余計にストレスが溜まるんだよ。

 相澤さんが元気になれば、こいつも元気になるんじゃない?」


 目頭が熱くなって、下を向いてりんごを見つめた。


「これ、良かったら。

 さっき売店で買ったんだ」


 宗方さんは黄色いゴムボールを渡してくる。


「じゃあ、お大事に」


 そう言って、宗方さんは去って行く。


(わざわざりんごの為に買ってくれたんだ………)


 ボールを握り締めていると、りんごがボールを欲しがって吠えてくる。


 あたしはしゃがんでりんごを抱き締めた。


 ごめんねりんご。


 心配かけてごめんね………。











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