308.私の幸せの国
各国の変わった景色や文化、建物を眺め、お世話になった方々に祈りを捧げつつ、私達の旅は後半へ向かいます。
******
ザボンを旅立って、また船旅。
美酒に美食。胴回りが気になる私達は船内で適度に運動しなければ。
そう言って船内一周を繰り返すある日。
「船長!」
元は英雄ショア提督の部下で、筋肉軍団の一角だったデビット副船長がフナノリア様を呼びに来ました。
そう。あの自爆船の少女メリッサちゃん、今では世界を巡業して児童合唱団を率いているメリッサちゃんの旦那様です。
水兵を辞し、年長ながら士官学校に挑んで海軍士官に、高速艇の艦長にまでなった根性の人です。
すっかりイケオジになっちゃって!
「客人を前に不安にさせる様な不心得は許さぬぞ?」
厳しいですわねフナノリア様。
「いえ。危険はありません。ですが不可解でした故」
「不可解?」
「ツンデール様、またはクリナ様でしたら、或いはお心当たりがあるかと思い」
******
船長室で話を聞けば。
「一瞬船影を電探が捕らえたのですが、数分後には消えていたのです」
「この海域であれば、そんな大きく航路を外れる事もない。
その船影の大きさは?」
「大体150m」
「見間違いではなさそうだな。その後は?」
「海賊の危険性ありと進路を船影に向けた所、船影が消えた後に再び船影が確認されたのです」
「見失った船ではないのか?」
「一回り小さい船です。
しかもその船も、沈む様に消えて行ったのです」
沈んだ?消えた?
「子細を調査すべく、当該海域へ向かうべきかどうか」
ぬううん。謎ですわね。
「船長!テアポカ船籍を名乗る船より無電!」
…なんだかイヤ~な予感です。
「読め」
「は!
発、ザイト、宛、お嬢様。
賊発見、これを轟沈。
航海をお楽しみ下さい。
以上!」
やっぱり見張られていたー!!
「は、ははは!あのお方には敵わないなあー!!」
自嘲気味なフナノリア様ー!
「だが、どういう絡繰りなのだろうか?」
「あ」
知っているのですかクリナー!!
******
テレレ↑熟女ツンデールのニコニコ⇔テアポカ紋レー↓ヒェッ↑
一方!テアポカ船籍を名乗る謎の船では!
「打電しました」
「うし。潜航」
中型の船が沈んでいった。
沈んだと言っても沈没じゃない。
船内に海水を取り込んで海中に姿を隠し、世界を彷徨う巨大権力集団、テンペスト号を護衛しつつ付き従っているのだ。
これは海の底までも潜って航行出来る「伏海」艦。
「これは世界の海軍力にとって物凄い脅威になりますね!」
初の獲物を捕らえたトビコエールお姫様はその威力を噛み締めていた。
「生存者の捕縛を終え次第潜航する!海水排除!」「海水排除ー!!」
さあ。とっとと賊を捕えて首謀者を吐き出させて、そっ首を刈り取るとしよう。
「凄いですわ潜水艦って!
お陰様で私、空も海も、海底まで制覇出来ました!」
あ~。そういう事ね。じゃあ次はトンネル掘削用のシールドにでも載せてあげよう。
あ、土魔法のあるこの世界だとあれは要らないか。
しかしトンでもない王女様だなあ。
「流石ザイト先生です!サズザイサスザイ!」
あまり私に色目を使わないでトビコエール王女。
お嬢様にスクリュークラッシャーダブルパンチ&キック喰らうのは嫌なので。
******
テレレ↑テアポカ紋⇔レムラ大陸領紋レー↓ヒェッ↑
一方!レムラ最大の寄港地、ラムーでは!
最後にレムラ亜大陸の各港を巡りましたが、もう都会ですわねこれ。
いずれ独立した経済圏として独立したいという話が起っても…
「その様な話はありません」
と答えてくれたのは、南岸最大の寄港地、というか港町となった大都市ラムーの港湾公社代表、シュウ女史。
「彼女は優秀です」とお墨付きを与えるのはムンチル。
そう。この方は北岸で鯨退治をした未亡人、フクの娘さんです。
「母は死ぬまでツンデール様達に感謝していました。
私は漁港に残るか、世界に学ぶか迷いました。
母が私の背中を押してくれたのです」
あの方も亡くなられたのですね。
強く、誇り高い方でした。
「ムンチル様の元で鍛えられて、鯨なんかに恐れない皆様の気持ちが解りました!」
いやいやいや!私ムンチルの下で鍛えられてませんし耐えられる自信もありませんから!
「それをツンデール陛下が仰いますの?」
うわー珍しくクレタが突っ込んだー!
「そんなに厳しかったんですか?」
と問うムンチル。
「あの時は数日寝るか寝ないか、ひたすら計算ばかりの日々でしたわ!」
うわ、クレタが一気に老け込んだ様な顔を!
「え~補足すると、あの頃は公社が出来てからみたいな計算方法とか収支予測とかグラフとかなかったんですよ。
それをザイト様がホイホイっと教えて下さり…」
「「「フォ~!!!」」」
公社経験者が一斉に叫びましたわ!!
「あ…あの日々より酷い地獄があったとは…」
あ~あのね、シュウさん?もう昔の話ですからね?
それよりあの港町は?
「幾度か帰省しますが…昔のまんまです。今は」
今は?
「私の様に外の世界に出る若者が後を絶たず、今では老人達の漁港になっています。
いつかは消えてしまうでしょうね…」
寂しそうにシュウは答えました。
「正直、この大陸はどうするべきか解らないのです。
内陸部の人達は昔の教えを守り続けていますが、それでも沿岸部に出て来ています。
そして古くからの集落は高齢化しています。私の故郷の様に」
「そう言うもんなんやなあ」
メリエンヌ女王陛下の言う通り、これは世界各国共通の現象です。
若者達の都市への集中。僻地の過疎、高齢化。
この問題は簡単な解決策なんてありません。
故郷を捨て、街に出た若い人達が将来どう思うか。
そして何がしたいか。
国として、滅びゆく僻地をどうしたいのか。
見捨てて草木に埋もれるのを、ここレムラ大陸の様になる事を良しとするのか。
税を投じて人を送って過疎地を守るべきなのか。
「やはり私達の行くところ、様々な問題にぶち当たる物ですね」
「そうよお。問題の無い所なんてないのよぉ?」
マッコーもナゴミーも王妃の立場で話しますわね。
以前ザイト様が言ってました。
あの方の故郷では、悩みも無い問題も無い理想の街をノーホェアと呼んでいたと。
「そんな場所どこにも(ホェア)ない(ノー)ですよ」と。
私達はこの辺境の地ともいうべきラムーから、国際競技大会に出場した方々と会って励まし、次回の競技大会に臨む若い方達の球技試合を、そして水泳競技を観戦してこの地を後にしました。
******
テンペスト号は東へ進み、アゴテッチ海路経由でエンブダイへ。
今では北側が大いに栄え、南側は昔のまま。
それでも衛生や騒音抑制、南側の環境の維持はドデスカ王家によって守られています。
この地を愛し、この地で息を引き取ったドデスカ王ナガサレタラ陛下が今でもこの地を守っているのです。
しかし、ここの南岸。
高齢化によって、いずれは北側に吸収されるのでしょうか。
私達を歓迎して下さったミノラスス十世陛下が穏やかにお答え下さいました。
「それは、この地の民が選ぶ事です。
国は、民の選択を受け入れるだけです」
******
アゴテッチの激流を越え、テンペスト号は我がテアポカに到着!
「は~。ここは温かくてええとこや~」
「夏はとても暑いですし男達の視線も気になりますよ?」
「でも大陸はやっぱり寒いですよぉ」
温泉大浴場で婆トーク。
お酒も頂きながら。は~。至福の時ですわ~。
「ザイト様が作って下さった温泉のお陰で私達も長生き出来ましたわ!」
とファミリア様。
確かにツンデール組始め各国には温泉が開発され、衛生基準…つまりお掃除の厳しさが決められて、王家は健康増進を約束されています。
古代にも大浴場はレジニア各地に在ったのです。
古代帝国に愛された大浴場は莫大な薪を必要として、大地を荒野に変えてしまい大帝国を破滅させる一因となりました。
その後は疫病の発生源となって、大陸では浴場は汚らわしい物と忌み嫌われた物です。
今では温泉で体を温める事が健康に繋がり、大地から湧き出す湯は肌や内臓に良い効果を齎す事が証明されて、働く人々の楽しみになりました。
お父様とお母様が長生き出来たのも、温泉のお陰です。
「はあ~。ええ旅やったなあ~」
「若干問題はありましたが」
「マッコーは真面目よぉ~」
「はは。貧乏性と心配性は昔から治っとらんなあ」
「そうですよぉ。行った先々の王様達は感謝してくださいましたしぃ~」
でも、貧乏性で心配性、そして真面目。
それが私の友達、マッコーよ?
「貧乏性も心配性も、技術者にとっては大切な事ですよ?」
「んだよ。領主にとっても必要だよ」
「後、やっぱり欲しいって願う気持ちも大事ですよ?」
クリナが、クローネが、クレタが。
今迄重ねて来た苦労を含んだ言葉を贈ってくれます。
ツンデール組、みんなで裸で、ゆっくり寛いで。
でもこの旅も、もう少しで終り。
なんだか寂しいですわね。
「また行けばよいではないですか」
そうよね、マッコー!
「そうですよぉ!また行きましょうよぉお嬢様ぁ!」
行きましょう、ナゴミー!
「恐らくザイト様は全く新しい船を完成させたと推測します!
その船で、また世界一周を!」
職業病みたいですけど、フナノリア様らしいですわね。
「ん~…」
知ってるんですのねクリナ。
「え?その船!欲しいですわ!」
欲しがりさんは相変わらず、いえ、一生ものですわねクレタ。
「もうわんど(私達)もすごど(仕事)すねでもい婆っちゃだはんでね」
隠居したいですわよね、世界の工場の領主様のクローネ。
「…」
何だか沈黙してるフジョシー。
「この会話を忘れない様に頭に刻み込んでいるんです!
世界の天辺の会話何です!」
妙な改竄しないでね?
「そんな事しませんわ!この場に居られる事が奇跡みたいなんですから!」
あら?泣いているの?
「っうっう…うわーん!!私、幸せですうー!!」
よしよし。幸せなのは私もよ。
「あ~。大変な事もあったけど、ええ人生やったなあ~」
貴女がしっかりして下さったお陰ですって、私の友達、トリッキ。
「ツンデール様は私にとっても、エマヌエルにとっても命の恩人ですからね」
そんな。私はやるべき事をやっただけですわ、ファミリア様。
「私達も助けてもらったわね!」
「ツンデール様いなかったら死んでたもんねー」
「命の重さって、何なのでしょうね」
アストルの捧げ物だった三人が語り合います。
「ま、やれる事を思いっきりやりましょう!」
「キャロちゃんとやりたい事をやらせて貰えて、私は幸せよ!」
「私は、もう仕事じゃなくて自分の絵を描きたいなー」
ザボンの奴隷だった三人も盛り上がっています。
「お母様」
と、ヨノタメニ王太子のお嫁さんがお酒を運ぶ侍女と一緒に来ました。
「これでお酒は御仕舞ですわよ!
溺れて死んじゃったらイヤですからね!」
そ、そうですわね。
でもそういいつつ皆の好みのお酒を持ってきてくれてありがとうね。
やっぱり私は幸せです!
******
テアポカを出発し、ゴリアへ、サンズーノへ。
夢を抱いたあの土地に到着して、私達の世界一周、ひたすら飲んで騒いで楽しむリゾート旅は終わりました。
解散式、って訳でもないですが、ザイト様がヒョイっと築いてくれた城を復元したこの場所。
そこにジゾエンマから、オリエタやテアポカからも、かつての仲間達が集まってくれました!
この三角州は今でも洪水が襲う年もありますが、立派な堤防に守られて豊かな実りをサンズーノに与えてくれているそうです。
「みんなー!百まで生きるでー!」
「「「おー!!!」」」
あの時の笑顔が、目の前に蘇りました。
ああ。私が勝ち取りたかった、幸せの国。
皆が分け隔てなく、笑顔で、幸せに過ごせる国。
「あんさんがそれを世界に実現したんや!」
「「「ええ!!!」」」
ああ。
私の、幸せの国!
ありがとう、みんな!
ありがとう、旦那様!アイサーレさん!イトシーナさん!ヨノタメニさん!トビコエールさん!
そしてザイト様!
******
10年後。
ザイト様の妻となり、一緒に孤児院を経営していたカチソコーネさん、そしてスイサイダさんが天に召されました。
孤児院を卒業した多くの子供達の見守る中。
「ありがとう。向こうで私の妻達、娘と仲良くして欲しい。さようならだ」
死後の復活を信じている筈のザイト様が、完全な別れとなるかの様に「さようなら」と言いました。
「また会えるのではないですか?」
「ああ。私がこの世界を去るその瞬間にね。
でも私は向こうに行けないんだ」
酷く辛そうなお顔で応えました。
「でもあの子達は、幸せに包まれるんだ」
私は何も言えませんでした。
******
そしてさらに10年。
マッコーが亡くなりました。
フナノリア様が、ファミリア様が亡くなりました。
しかし皆末期はザイト様が世話し、苦しむ事は少なく、その最期は眠る様に穏やかに息を引き取ったそうです。
ナゴミーが、メリエンヌ四世陛下が。
そしてクローネも。
都度集まり、弔うツンデール組も大分減っていきました。
サンズーノ、ナラック、オリエタの仲間達も皆天に召されました。
そして旦那様が病に倒れました。
ザイト様が「終末治療になります」と宣言しました。多機能不全、老衰です。
「どうか死ぬべき余に割く労力を、この国に、世界に割いてくれ、我が友ザイト」
そんな事言わないで!
「いえ。お嬢様の最愛の人を苦しみの中で死なせません。
せめて、命の灯が静かに消える時までお守り致しますよ」
お願いします、ザイト様!
「貴方も、ツンデールを愛してくれているのだなあ」
「女としてというより、英雄に憧れる様な物です」
私は英雄じゃありません!
「嘘を言え!」
「ははは。どっちにしても敬愛していますよ」
やっぱりオッサンにはなんかイヤな物を感じますわ!
今では私の方がババアなんですけどね。
「そうか。宜しく頼むよ」
「任されました。お体をお休め下さい」
その半年後。
様々な引継ぎを終え、私の愛した旦那様はヨノタメニ殿下、今は国王トワサカユス六世によって国葬を営まれました。
さようなら、でも、またお会いしましょう。
私の愛しい、愛しい旦那様。
焼き終わった旦那様の、逞しさが残る骨となった姿に泣き崩れる私を、メリエンヌ五世殿下とアイサーレITO事務次長、イトシーナ王妃とクシャトリア二世陛下、陸海空軍の統合幕僚長となったトビコエールさん、沢山の孫や曾孫が慰めてくれます。
ザイト様は、天を仰いで何も言いませんでした。
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