最終章:これが私の幸せの国!

305.アイサーレの婚約 世界のその先へ

 ルース万博も当初の期待以上に成功し、オーキクテリアの人々は上位貴族も富裕平民も、そして学校教育の現場でも「自分達とは違う世界」というものを強く、そして憧れを抱いて意識した事でしょう。


 あのホリミラースクリーン。

 会期後も稼働して、オーキクテリア始め周辺諸国の初等学校が王都への修学旅行で見学する指定コースになっているとの事です。


 時々、過去の万博で上映した演目も流す様ですわ。


『なんだか恥ずかしいですわ』

 何を今更イトシーナちゃん。

 王族の女性は美声で人々に強く訴える事も必要なのですよ?


******


テレレ↑オーキクテリア紋⇔テアポカ紋レー↓ヒェッ↑


 一方!テアポカでは!


 そして年を越し、私は4人目の子供を産みました。

 4人目とあって安産でした。


『母上そっくり!』

 元気に泣く赤ちゃんは、白い肌に金髪碧眼、私に似た女の子でした。


 トビコエールちゃんと名付けられ、『世界を股にかけて活躍しそうだな!』と旦那様も大喜び。


 王都ではトビコエールちゃん誕生を祝う人たちがお祭り騒ぎです。

 お父様もお母様も産後の見舞いに来て下さいました。


 その際、お父様が『そろそろ立太子だな』と一言。

 しかし、アイサーレさんは少し暗い表情を見せたのです。


******


『アイサーレ。お前は何になりたいのだ?

 このまま我が跡を継ぎ、王になるのか。

 他に進みたい道があるのか』


 とは言え旦那様も三十過ぎ、後2~30年はご活躍されるでしょう。

『父上、私は世界の為に働きたいのです!』

『世界?』


 アイサーレさんはITOの総会や定例会に出席しては各国の問題に注意を払い、他国の国王陛下達に相談しつつ対応策を提案していました。

『正直、ルース万博は危険な分水嶺だと思いました。

 世界が引き続き協調し発展を選ぶか。

 安定した今に満足し、協調の歩みを止めるか。


 大陸横断高速鉄道を立案されたネゴーリア様。

 世界行幸を立案された母上。


 お二人のなされた事こそ!

 世界史のどの英雄より遥かに優れた偉業なのでは?

 私にはそう思えてならないのです』


 その情熱に溢れた言葉。

 しかし、どこか悔しさも混じっている様な気がしました。


『戦わずして世界の経済圏を再度引き締め治した。

 まさに世界統一に近い偉業だな。

 俺の妻は世界の英雄だ、いや、女神だな!』

 旦那様ー!ヤメテー!!


『私は、母上の様な、世界の安定に役立てる物になりたいのです。

 確かにテアポカの安定と発展も必要です。

 しかしそれも世界との協調あっての事。

 そう思えてならないのです!』


******


 アイサーレさんの希望は閣議に掛けられることとなりましたが。

『私は反対します!』と強く訴えられるお母様。

 事が王家の後継者問題とあって、お父様と揃って出席されています。


『あの子は婆の贔屓目ではなく、世界ですでに認められる功績を残した、王たる器です。テアポカの宝です。

 その子を失うというのは、テアポカにとって、大きな損失ではないでしょうか?』

 旦那様といいアイサーレさんといい、世界にとってまさにテアポカの顔。

 10年前まで文明を持たない獣の様に扱われていた「新大陸」の印象を塗り替え、世界の危機と共に戦った頼もしい異文化圏の一国と認めさせた立役者です。


『意見します』

 一時は外交も専任したチュギツクス宰相が挙手しました。

『世界に認められたアイサーレ殿下ならではこそ、テアポカの王子がITOに貢献している事の意義は非常に大きいかと存じます』


『しかしヨノタメニはまだ小さいのですよ?』

『アイサーレ殿下もこの位のお歳で、優れた才覚を発揮され始めました』

『宰相はアイサーレを王に相応しくないと申すか?!』


『…はい』

 宰相が何かを噛み潰すかの様に応えました。


『世の事は、当人が望む様に為されてこそ優れた成果を挙げ得る。

 と私は考えます。

 アイサーレ殿下がITOで世界の為に努力を捧げたいと思われるのであれば、それは我が国にとってもご本人にとっても最良の道かと存じます』


 今度はお父様がヨノタメニに優しくお話しされました。

『ヨノタメニ。お前は王になりたいか?』


 まだ10にもならないヨノタメニちゃんははっきりと答えました。

『解りません』


 曖昧な答えですが、お父様も宰相も、旦那様も続く言葉を待ちました。

『王家に生まれ、兄上が王位を継がぬ以上、私が責を果たすのはわかります。

 しかし、今の私には、父上のお仕事も、兄上のお仕事も理解できているとはとても思えません。

 学校で学び、ITOや万博で学び、各国の国王陛下に学んでこそ、成人する前に自分が王であるべきか公爵であるべきかを考える必要がある、そう思います』


 幼いながらも謙虚で堅実な答えに、皆が笑顔で頷きました。

『我が王家は安泰ではないか。

 トワサカユス。ツンデール。

 良い子を育ててくれた』

 一同が温かい雰囲気に包まれました。


『お待ち下さい大公陛下!!』

 その雰囲気をブチ壊すかの様な、イトシーナちゃん?!


『もしヨノタメニちゃんが王座を拒んでも、この私が女王となる道だってあります!』

…もしかしてネゴーリア殿下にライバル心を燃やしてる?


『私には尊敬すべき方がいます。

 まずは世界を股にかけ暴れまわった母上!』

 ブッ!貴方は何を言ってるんだぁ~!!正気かあ~!

 何故か皆さんも笑ってます?何故?


『母上ならば今でこそ人もまばらなレムラ亜大陸を文明の光輝く強大国に育て上げる事すら出来そうではありませんか!』

 ですから貴女は何を言ってるんだぁ~!!

 で皆さんもナジェワラッテルンディスカー!!


『そして、ゴリアのメリエンヌ4世陛下です。

 若くして王座に就くや強敵シャクレーヌを打ち破り、一転して新生ブンメードを支援された強さと優しさ、そして計算高さを兼ね備えた素晴らしきお方。

 正に母上の親友!』

 皆が頷きますし私も頷きます。


『私は母上の様に豪胆でありながら慈愛に満ち、メリエンヌ四世陛下の様に慈悲と計算高さを保ち続けられる、その力で世の人の幸せを守り続けられる王族でありたいのです!』

 そんな崇高な考えを養っていたのですね?!


『なのでヨノタメニさん?

 もしお兄様の様に世界を志したいと思う事があれば遠慮なく皆に相談なさいね!』

『はい姉上!心強く思います!』


『ははは。

 増々我が王家は安泰だな!』

 そうですか?私は少し心配になりましたが。

『貴女がそれを言いますか?!』

 お母様ヒドイー。


『まあまあ。

 余もまだまだくたばるつもりは無い。

 例え万一の事があろうとアイサーレ、イトシーナ、そしてヨノタメニ。

 そしてツンデール。

 お前達が居れば何の心配があろうか!』


『いけませんわ国王陛下!

 万が一、いえ貴方様には億が一もあってはなりませぬ!

 縁起でもない!』

 思わず叫んでしまいました。


『王妃陛下の仰る通りですぞ』

『そうか、そうだな。

 嫌な思いをさせたなツンデール。

 皆にも感謝する。

 共に王国を守り、世界に貢献を続けようでは無いか!』


 こうして立太子の話は一旦見送りとなりました。

 そして論議は別の難問に移ったのでした。


『ああー!それこそ外交上の大問題だなー!!』

 一同は頭を抱えつつ、それ程嫌な気分でもなく難問解決に知恵を絞り始めました。


『私ちょっとゴリアへ行ってきます!ザイト様!』

「はい~」


 西大洋をピョ~ン。


******


 後日。


「レジニア中心の世界にテアポカの者が務めるのは王よりも重い責務だ。務めを果たせ」

 アイサーレさんがITO常設職員となるべく養成学校へ旅立つことになりました。

『父上…』「いえ父上」

 御見送りの挨拶から既にレジニア語です。

「しっかりと務めを果たして参ります!」


 そう言ってアイサーレさんは、貨物船の臨時雇い船員として最低限の運賃で旅立って行きました。


 私達は船が見えなくなるまで笑顔で見送りました。

 その晩は泣きながら旦那様に抱きしめて貰いました。


******


テレレ↑テアポカ紋⇔ゴリア紋レー↓ヒェッ↑


 一方!ゴリアでは!


 一旦とは言え王位継承の座から外れた様に見えるアイサーレ王子を逃すわけがないのがネゴーリア王女。

 貨物船の到着をサンズーノの港でまだかまだかと待ち構えていた。

 そして下船する王子様!!


「我が愛しきネゴーリア殿下。

 私は貴女と生涯を共にしたいと願います!」


 愛の先制攻撃!でも船員の制服?!


 まさかのアイサーレ王子からの婚約申し込み。

 事情をよく知らないで臨時雇いだと思ってた船員仲間が全員硬直。


「はうああ~!!生涯愛を誓いますわ~!!」

 流石は物の本質を見抜くネゴーリア殿下。

 そのロマンスもへったくれも無い荷下ろし場でのプロポーズにも関わらず、差し出された小箱の中のダイヤの指輪を涙ながらに受け取った。


******


 王太子辞退の話と共にこの困った王子様がブチ込んだ爆弾は、

『ネゴーリア殿下の思いを受け止めるべきか』

 という難問。


『両国の結婚は、工業や研究で強く結ばれる両国の関係を強化する。

 しかし自分が王となれば才媛ネゴーリア殿下が女王に即位出来ない。

 自分はITOの一職員として王配になるべきかと考えます』


 考えるなあこの青年。


 そこであの閣議以降ゴリアにアイサーレを婿に差し出すかどうか揉め、そもそもゴリアがどう思ってるか相談にツンデール様がリンドバーグみたく翼よあれがデリーの灯だと無着陸で急行したのだった。


「おうおう!ええでええで!こりゃええこっちゃー!!」

 思った通りこういう事態を想定していたメリエンヌ4世。

 ウヒッツ王配が「やっぱり女王陛下には敵わぬなあ」と溜息を吐きつつも

「お前はそれでよいのか?…聞くまでもないか」と再度溜息。


 当人のネゴーリア殿下は、もう天にも昇る気持ちで涙ボロボロ。


******


 そして再び今、涙ボロボロ。


「愛していますわー!!」

「ぐえ!」


 オウ。弾丸アタックをまともに受け止めたな。

 よし、ここで王家の装いに早着替え。

 ポン!と正装に変わると周囲がビックリ。

「では、婚約の誓いに」と指輪を王女の左手の薬指に嵌める。

 恋する乙女は顔を真っ赤にしながら涙を流す。


 船員仲間が拍手した。

 その拍手が広がって行き、サンズーノ港は祝福に包まれた。

 ええ話や。


 半ばサプライズに近いこの電撃婚約、実はメリエンヌ4世にとっても渡りに船。

 嘗ての内乱や凶作を放置した事で権威を落とした元大陸派や穀倉地帯の貴族が権威復活のためとネゴーリア殿下に婚約を無茶苦茶打診してきていたのだ。


 それが他国とは言え世界的に人気があり、かつ王家を継ぐ気がないアイサーレ王子がホイホイ愛を誓いにやって来たとあれば。

 しかもそれを愛娘が泣いて歓迎したとあれば。


 女王としても母としても、これ以上の幸せは無い。

 その上、お嬢様を大親友として愛している彼女が、我が娘と親友の息子が愛し合って結婚するなんてのはもう嬉しくて仕方がないだろう。


 早速王家専用列車でアイサーレ君は王城へ。

 途中、サンズーノ、サイノッカ、ナラックでスピードを落とした鉄道。

 そして迎えるのは、お嬢様の嘗ての仲間、そしてエバリオ夫婦と学校の子供達。

 道中、改めて我が母の残した足跡の偉大さと暖かさを心に刻みつつ笑顔で手を振る若き英才二人。


 王都では婚約パレード。

 馬車の上ではアイサーレ君の腕をガッチリホールドしつつ市民に輝くばかりの笑顔で手を振るネゴーリア王女。


 城では待っていたのはメリエンヌ四世陛下夫婦と、喜色満面のトワサカユス王、そしてお嬢様。


 ウヒッツ王配以外妙な笑顔を湛えつつ、若い二人の婚約を認める旨宣言。


 ゴリアの王都デリーは割れんばかりの歓声に包まれた。


 そして数日、物凄い数の訪問客に挨拶を続けたアイサーレ君は、再び臨時雇い船員としてロムルスへと向かった。

 涙で見送る婚約者ネゴーリア王女を背に。


 立派になれよー。


******


テレレ↑ゴリア紋⇔テアポカ紋レー↓ヒェッ↑


 一方!テアポカでは!


『今、メリエンヌ四世陛下とトワサカユス五世陛下が、若きお二人の婚約をお認めになりました!

 王都デリーはこの幸せな瞬間に喝采を捧げています!』


「ムッキー!!ムキムキムッキー!!」

 あの日の閣議で堂々見栄を切ったとは思えない才媛がお猿さんの様に吼えていた。


「かくなる上はー!

 私が父上や母上以上に頑張らねばー!」

 無理すんな。


 だが流石お嬢様の娘。

 それ以来疫病や災害、戦争について激しく学び、不幸の起きた地にはヨノタメニを連れて直接赴き、事前に検討した支援策の中から最良を選んで即時に指示を出し、困惑する人々に安心感を与えて行った。


「姉上は地獄に立つ女神です!」

 女神の子も女神かー。

 ヨノタメニ君も勉強して立派な王になろうねー。


******


テレレ↑テアポカ紋⇔ITO紋レー↓ヒェッ↑


 一方!ITOでは!


 一介の職員としてITOに就職したアイサーレ君も頑張った。


 事前にテアポカ鉄道公社であの空飛ぶ鬼女ムンチル代表…代表になっちゃったよ、に思い切り鍛えられ、即戦力として諸問題の対応に当たっていた。


 何より問題整理能力が優れてる。

 各国の陳情を経済的側面、貴族の血脈的側面、そして犯罪要素などに整理し、かつITOとして相手国にどう配慮して助言すべきかを総会に報告した。


 それを盗み見して犯罪や殺人を情報部が事前に回避するといった連携プレーも中々で、「君、情報部に入らない?」と邪な勧誘をブローガン部長から持ち掛けられる始末。


「いいえ。私は経済面で頑張りたいと思います」

「その心は?」

「オーキクテリア・ルース万博で痛感したのですが。

 やはり人は心で結ばれる前に損得で結ばれるものだ、そう実感したからです」

「そうですか」

「無論、損得だけで結ばれた絆は脆い物です。

 知り合う切っ掛け程度に思えば良いかなと、そう考えています」


「はあ。やはりあの女神の王子殿下、流石です」

「はは。王妃殿下は女神と呼ばれる事を嫌っているので、本人の前ではご勘弁を」

「是非とも殿下は情報部にも欲しい逸材なのですが、まあ気になる情報がありましたらお知らせ下さい」

「こちらこそお力をお借りします」


 もうね。流石は王子様だ。

 こうしてお嬢様の命と夢を受け継いだ才能が花を咲かせていく。


******


テレレ↑ITO紋⇔ドデスカ紋レー↓ヒェッ↑


 一方!ドデスカでは!


 ドデスカ王ナガサレタラ陛下が旦那様に引退を打診してきました。


『ザイト様!』

「ほいほい」と温泉保養所をエンブダイに立てるザイト様。


『国王陛下の古いスタイルで、日中体をあまり動かされない。

 温浴と散歩、軽い運動。後は適切な食事で体調は劇的に改善されるでしょう』

 医療的な指導に、キューソが付き添う事になりました。

 もう看護のベテランの風格です。


 あのループ橋を眺め、湖を往来する船を眺める景勝地の大温泉。

 これには国王陛下もニッコリ。

『多大なる恩に感謝する。

 是非、トワサカユス王、ツンデール王妃、そしてアポデスカ大公にもお寄り頂きたい』

 この方、幾度か古代遺跡の離宮には訪問されているのでその恩返しをされたい様です。


 お父様、お母様にも素敵な旅を贈りたいですわ!


 そして迎えたナガサレタラ王陛下の譲位、そしてマケネンダデ王子殿下への戴冠。

 王子殿下は国王ミノラスス十世と称されました。


 私達も、各国から、ITOからも国王自ら、或いは使節が即位式に出席しました。


 懇親の宴で

『余はまだまだこの国を反映させねばならぬ。

 工業力に於いても学ばせてもらおう。

 農業力に於いては、独自の魅力を育てて見せよう!』

 うわあライバル意識満々ですわね。


『ともにアストルの繁栄を世界に示そうではないか!』

 旦那様の往なし方がステキですわ!


******


テレレ↑ドデスカ紋⇔ザボン紋レー↓ヒェッ↑


 一方!ザボンでは!


 ザボンは毎年の暴風災害や洪水に見舞われている。

 これはエドワード王家による統一以前からこの国の宿命であった。


 しかし今では鉄道による資材輸送力を背景に、大河には大堤防が築かれている。

 耐震構造、耐火構造も元から強い物ではあったが、スプリンクラーや消化竈、空気を遮断させ舵を防ぐ構造の竈の普及が図られた。


 それまで災害復旧は各領主の責務であったが、エドワード三世殿下は異を唱えた。

「世界が互いに支え合う今、我が国の中で助け合わねば世界に示す顔が無い。

 災害は王家が責を負い、諸国に救護の負担を命じるべきと献策する!」


 こうしてサボンは防災大国へと進み、諸外国にもその技術を輸出する程になった。

 その商談にはハジーク王子が活躍した。

 成長し、諸外国への洋行を控えていたナッツ王子もITOに出席する様になる。

 次代の更に次代の若き才能達が育って行った。


******


テレレ↑ザボン紋⇔暗黒レー↓ヒェッ↑


 一方!かつてトミン帝国があったライザニア大陸東部では!


 旧トミン帝国は西内陸部に落ち延びながらも大陸中央部の遊牧民との抗争が激化。

 豊穣の地であった南部は狂信者集団が教祖の権威を高める為に沿岸部で虐殺を繰り返し、更に悪天候による凶作が襲い千万単位の虐殺者、餓死者を出した。狂信者内部でも内輪揉めが起き、この地域の人口は数割を減らす事になった。

 しかしそれでも資源には恵まれている。

 死ななかった者は死んだ者など居なかったかの様に振舞い、日々の暮らしを送るだけであった。


 ITOは情報部からの悲惨な報告を受けたが、対処に困った。

「ライザ大陸沿岸部への寄港は全面禁止すべきです。

 また他国に逃亡する難民の管理を厳重にしなければ!

 残酷な狂信者が難民に紛れてザボンやメナムに侵入する事になります!」


「既に両国とも警戒はしていますが?」

「警戒だけでは足りません。

 市民感情を放置しては難民への虐殺が起きます。

 そして、反王家勢力が逆に難民を利用して国内の分断を図る事にも利用され兼ねません」


「具体的にどうするつもりだね?」


「先ずは離島への隔離。

 そこで難民への語学や各国の習慣、生活規準の教育。

 国としても

 難民受け入れの財源の算出、難民に対する労働と支援費用の返済義務の制定。


 それが守れない難民の強制送還等の手順。

 これらを各国と共に定めましょう」


「厳しいな」


「いえ。命を保護するだけでも充分に温情です。

 しかし保護してくれた恩人への礼をしっかり教えなければ彼らは何とも思わないでしょう。

 施した側は不満や怒りを募らせるばかりです。

 無駄な流血や混乱を防ぐために礼を教え込むのは必要な措置です!」


 流石はツンデール組世界旅行で学んだアイサーレ君、見事だ。


 この献策を受け、ITOは各国にキンタ港始めライザ大陸沿岸への寄港を禁止した。

 同時に難民の保護や受け入れ、強制送還の規準を各国と定めて行った。


 なお、これを好機と旧キンタ難民が寄港地の開拓に乗り出した。

 許可を得て離島を開拓、東西貿易の寄港地を確保し、キンタ難民はその利用料を税として国王に収めた。


 これを評した王家は、キンタ難民達の活動を讃えた。

 王都の騎士だったダーヤマ男爵は島嶼部を総括するダーヤマ諸島子爵に陞爵、彼らの地位を保証したのだ。

 ダーヤマ子爵は交易の一部をスケザ商会に委託し友情を深めた、という知らせがITO総会でお嬢様に届けられた。


 お嬢様はあの時キンタ難民を助けた事が間違いではなかった事に安堵し、フジョシーは更に鼻息を荒くした。

「アイサーレ殿下の献策によるものです」

 と知らされると、お嬢様は更に喜んだ。

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