304.次代に伝える願い 目の前にある、幸せの世界

 完成したレジニア大陸横断高速鉄道に乗って、私達テアポカ王家はオーキクテリアへ、かつて敵地であり、今や大陸流通の要衝へと成長した王都ルースへ。


******


「只今より、第七回万国博覧会を開催致します!」

 今回の開催アナウンスは、万博宣伝に高速鉄道構想にと活躍されたネゴーリア王女殿下の可愛らしいお声。


 大喝采と共に入場する、上位貴族とその家人達。


「緊張しましたわー!ツンデール様はこんな場を何度も経験しているのですわね!」

 いえ、私の場合成り行き上やらされてただけですって。

「ウチの親友は凄ーんやで!」

 何故女王陛下が得意気なのか解りませんが。


「母上は何故それをしませんの?」

「人にはなぁ、向き不向きってのがあるんやで?」

 海の英雄を諫めるお芝居を渾身の演技で動画に刻んだ大女優メリエンヌ四世陛下~?


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 今回のテアポカの主題は、「あなたの世界旅行」。

 大人気のホリミラースクリーンを、列車状の座席が巡る仕掛けです。


 オーキクテリアから出発してレジニア大陸を横断、ゴリアを経てオリエタへ、そしてテアポカへ。

 更にアゴテッチ海路を経て東大洋、レムラ大陸沿岸では鯨が襲ってきます!


 ザボンのエドワード城を経て元トミンの自由港へ、そしてメナム王国の黄金寺院へ。

 激しい海流を越えてコンギスタ、ナゲキーベへ。座席が揺れる仕掛けまであります!


 そこから再び鉄道で海峡を越えトリモドッタ。

 壮大な神殿。幾何学模様の彫刻と色鮮やかなタイルに飾られた大神殿を眺めます。

「但し内部はアクバル教徒しか入る事が許されません」

 

 そしてサフラ、ブラグラード。

 最後はここルースに到着して、世界一周の終点です。


「皆様、お疲れ様でした。いかがでしたか?素晴らしいこの世界の国々。

 いつかは本当に皆様が世界を廻り、その目で、その耳で、世界に生きる人達と友達になって頂ければ。

 テアポカ館一同、そう願って止みません」


 拍手喝采を浴びるのは、イトシーナちゃんのナレーション。

「やっぱり自分の声、気持ち悪いー!」

 そう言う物です。


 前回は宇宙と言う果てしない未来の世界に、あどけない声という、ザイト様の言う「ギャップ萌え」?を狙ったそうですが、今回は自分が体験した世界旅行の案内、案内に気持ちがこもっていて素晴らしかったですわ。


 世界一周の映像はITO参加各国の協力と、そして今回の宣伝旅行で撮影された映像で編集されました。

 例によって大好評でした!


「何と素晴らしい作品だ!

 これは今後!ここで常設展示としよう!

 特許料も払うし入館料もテアポカの物だ!」

 エーデス三世陛下が泣きながら訴えられました。


 よっぽど色々ご苦労なされたのでしょう。

「偽万博で見せられた、世界各国に喧嘩売る様な捻じ曲げられた風景はもう嫌だー!!

 余はこの目で見た世界の正しい姿を!

 世界に!この国に伝える義務があるのだ!!」


 それはとても尊いお考えです。

 私もあんな偽万博とかもう二度と絶対に嫌ですし、今度見かけたらダブルキックでブッ壊してやりたいですわ!ゼッタイ!


「母上も怖いー!」

 あらあらヨノタメニちゃんは怖がらなくていいのよー。

「お嬢様が怖がらせてるんですけど」

「こわいよねー、おばちゃんのところにおいでー」

 マッコー!ナゴミー!あれはホントに許せないんですってば!


 各国からも好評の声が上がって来ていて何よりです。


『万博招致動画といい、このホリミラースクリーンといい、この地で世界で未知の国々を知ろうとする良い機会になるだろう。

 ザイト殿、感謝するぞ』

 旦那様がザイト様の手を握って感謝します。

 その気持ち、私も同じですわ!


「いや~。

 私としては特撮が無いんで面白くないんですけどー」

 台無しですわ却下オッサン!


「それはそれで好きに撮影して頂いても…

 そういいつつ、いつも貴殿には頼み事ばかりだったなあ」

 旦那様?このオッサンはいつでも好き勝手してますわよ!


 それに中央の遊園地でなんかナントカ戦士ナントカダーみたいな大活劇とか芝居の監督もやってたじゃないですか!


『母上!大陸剣士ゴーファイターですよ!』

 それそれ。

『私も見に行きたいです!」

 はいはいヨノタメニさん、行きましょうねー』


「でもあれ特撮ないしー」

 このオッサンはあ!

 良い年こいて我が儘言うんじゃありません!


******


…見ました。

『ゴーファイターカッコイー!ゴーファイターロボカッコイー』

 ヨノタメニさんが熱病の様に浮かれています。

 でも私にはサッパリですわ。


「最後、なんで敵が巨大化するのですか?最初から巨大でいいじゃないですか」

「やっぱ等身大俳優のアクションを見せて、もうイッチョ弩派手に、ってなりますよね?」


 ね?とか言われましても!

 いえ、光る剣の演舞や数m飛んで跳ねて、空中で回る芝居とかは確かに凄いんですけど?


…ロボ?何であんな巨大な人型の機械をわざわざ作ったんでしょうか?

 神の剣とか強力な魔法で倒すとか、しかもロボも剣で戦うとか訳解りません!


「やっぱ敵が巨大なら、こっちも巨大じゃなきゃ、ねえ?」

…理解に苦しみますわ。


 そもそも何で二度目の登場ではあの高低差の激しい弾丸鉄道の上に5人が全員立って現れてるんですの?すっごく危険でしょう!

 それになんか踊りながら名乗りを上げると、後ろで色のついた爆発が起きるんですの?

「花道とか大見得とか言いまして」

 頭が付いていきませんわー!

「子供の感性は自由なのです」

 自由スギー!ってかオッサンがコドモー!!


『母上!ゴーファイターロボ欲しいです!』

 あんなでっかいの無理ですわ!

「人形なら売ってます」

 阿漕な商売ですコトー!!

「テアポカの収入にもなりますよー」

 毎度ありー!

『母上、メリエンヌ女王陛下に似てきました』

 なんですとー!!


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 今回の目玉、ラジビによるルーズ市内への万博会場の放送。

 1日2回、昼と夕方に市内各所の広場に置かれたラジビが放送されます。

 勿論会場内にも各地にラジビが設置されています。


「いんゃ~!この高さ!ルースの街が一望!

 私天に昇ってる?死んじゃった?

 こりゃあ~怖くってランニンググルメは御仕舞!

 今回からシッティンググルメをお届けいたします。

 タイトル変えといてくれよスティ~ブ!」

「「「わはははは!!!」」」


 あ!グレアム男爵様が各国の料理を紹介されていますわ!

 相変わらずお若くお話上手です事!

 ラジビのこちら側も皆が笑っています。


 しかしアイサーレさんは興味深くラジビを眺めています。

「これが世界に広まれば、世界でデマがどれだけ抑えられるか」

 すると、相変わらずベッタリくっつくネゴーリア殿下がちょっと暗い顔で。


「甘いですわねアイサーレ様。

 嘘の映像なんて幾らでも作れますわ」


 怖い事を言いますわね。

「ネゴーリアは怖い事を言うね」


 しかしネゴーリア殿下は冷静に答えました。

「例えばどこかで戦争が起きて、街が破壊され死体が積み上がっている悲惨な姿が放送されます。

 その映像の上に、戦争とは恐ろしい、もう戦争は止めようと言えば誰もがそう思うでしょう」


 その通りですわ。


「しかし、それが仕組まれた戦争で、その街のある国が必死に戦っていた結果こうなったとしたら?


 しかも戦争は恐ろしいって言った国が、その戦争を仕組んだ国だとしたら?

 国際法で禁止されている筈の非武装市民を大虐殺した国が、そんな糞空々しい事を言っていたとしたら?」


「私はその偽善を許せないな」


「だからあのラジビは恐ろしい存在にもなり得るんです。

 モルゲン新聞虚報事件など児戯にも思える謀略も可能です」

 何と言う洞察力の塊!ネゴーリア王女、恐ろしい子!!


「映像の力は恐ろしく大きく強いのです。

 悪用させないための規準は必ず必要ですわ!」

 もう成人になったとは言え、まるで老練の政治家の会話の様ですわね。


「ああ。既にザイト様であれば手は打っていると思うが、改めて私達なりに放送の在り方を考えよう!」

「はい!私の王子様ぁ!」


「ムッキー!!」

 イトシーナちゃんはもっと大人になりなさい!


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 万博は延期した期間の後半を国際競技大会と並行して実施し、莫大な集客を程よく二分させることが出来ました。

 でもその分、平民向け期間でも両方を満喫しまくる王族や高位貴族も増えてるのはどうしたものでしょう。


「数年に一度の知の祭典に肉体の祭典です。

 これを存分に楽しまずして何としましょう!」

 流石、元はマッコーのお見合い大会だった競技大会の真の勝者、エドワード三世陛下。


「止めて下さいお嬢様!恥ずかしいです!」

 私は本当に嬉しかったのですよ、マッコー。

「私にとってはまるでレジニアの騎士道物語の様で、誠に母上が誇らしく、父上が羨ましく感じます!」

 幼くして諸外国に飛び回り、早くも外交の顔となりつつあるハジーク王子が顔を紅潮させて胸を張ります。

「もう!嫌ですよ!ハジーク」

「私も大きくなったら仮面を付けて参加…」

「やめとけハジーク」

 ぶっ!!まさか息子にまでイジられるとは流石エドワード陛下!


 参加国は、やはり復興し各国との貿易や交流が始まったブラー、サフラが正式に国として加わりました。そしてメナムも馬上競技、水泳で参加。

 選手団も各国で増えてきました。


 今回もマッコーが選手達を祝福しますが、これも今回で終わりです。


 次回からは、開催国の元首陛下の御夫人か、王女殿下が祝福を与える事となります。

 エドワード家の正室、タカ姫への配慮もあり、開催各国への配慮もあり。

 そもそもこの大会がマッコーのお見合いだったという、あの子にしてみれば恥ずかしい過去もあり。

 まあ、時代が一つ変わったという事ですわ。


 華々しい行進曲に乗って、世界中から選手達が国旗に続いて入場してきます。


******


 かつて旦那様や、他国の国王陛下自らが競技に参加された様に、今回もアイサーレさんが、王子殿下達が、ネゴーリア殿下までも馬術で参加されました。


 今や学校教育では健康増進のため各種競技が積極的に取り入れられ、国際競技大会は子供達、特に男子にとって憧れの的になっています。


 そんな中、淑女の鏡と讃えられたマケネーデア騎士や、成人して間もなくから馬術で活躍されたネゴーリア殿下、そしてマッコーは女子にとって憧れの的なのです。


「世界の女の子の期待がかかっていますもの!負ける訳には行きませんわ!」


 しかしザボンの恐るべき騎馬センスの前に、銅の盃に終わりました。

「はあ。何とか盃を持ち帰れた事を良しとしましょうか」


 そう言いつつ、悔し涙を堪え切れなかったネゴーリア殿下。

「私は心から貴女の健闘を称えます!」

 そう励ますアイサーレさんを前に、悔し涙を零しながら笑顔で返された殿下。

 これには世界の少女達も心ときめいたでしょう。


 アイサーレさんも球技大会で頭脳戦を繰り広げ勝ち進みましたが、惜しくも先輩に当たるエマヌエル殿下に敗退。

 ネゴーリア殿下と同じ、銅の盃を掲げました。

 お父様と同じですわね。


 閉会式では例によって砕けた行進です。

 参加された王族が、下級貴族や平民達と健闘をたたえ合い、肩を抱き合って入場します。

 王族が参加する意義は、こういう所にもあるのでしょうか。


 今や人妻となったキャロチュの歌声と、その夫の指揮する楽団の演奏に乗って踊りながら行列やダンスを繰り広げます。


******


 閉会式前の会場本館、下層階の大バルコニーでは国王陛下達より、若き王子達が競技大会の興奮も冷めやらぬ様に盛り上がっていました。


「アイサーレ殿下が頭脳戦の球技より肉弾戦が得意とは知らなかった!」

 アイサーレさんはレスリングでは銀の盃を勝ち取りましたのよ。

「さあ。何か目の前に壁があるとなぎ倒さねばと思うのです」

「それは母上から受け継いだ力であろう!」

 何だか聞き捨てならぬ論評が聞えますわね。


「その通りじゃないですか」

「今更ですわよねぇ」

「お嬢様はガケでも海でも飛び越えて行かれる方なのです」

 マッコーとナゴミーとケニエのツッコミが厳しい!


「しかしネゴーリア様も素晴らしい頭脳戦でした」

 球技でも年上の男達を指揮して銀の盃を得たネゴーリア様。

「王族は戦略や戦術にも長けておらねばなりませんわ!」

 やっぱり恐ろしい子!!


「未来の女王の姿だなあ」

 ええ。旦那様。


 高層建築を電気の光が照らし出し、その建築の窓からも星空の様な無数の光。

 そんな高層建築が幾つも聳え、最上階や中央部のガラスのドームは地上に月が落ちて来たかの様な輝き。


 その麓では、次代を担う各国の若き王や王子達が、戦争で争い合うのではなく肉体と頭脳を駆使した競技で讃え合い、笑い合う姿。


 会場内では平民に交じってお楽しみ中の貴族も沢山います。


「君が勝ち取りたかった幸せの国って、こういう姿なのだろうか」

 え?私そんな話しましたっけ?


「いや。

 君が昔話してくれた故郷の話。

 マッコー殿やナゴミー殿から聞いた話。

 あの、ザボンにパン食を広めた動画。


 そしてザイト殿が君に付き従って来た理由を考えたらね」


 そうでしょうか?


 私に各国の国王陛下達がお声を掛けて下さいます。

 私と娘の体を案じて下さいます。

 でも女神はヤメテー。


「「「皆の健闘に、乾杯ー!!!」」」


 若い王、王子達の乾杯の声にハっとしました。


 嗚呼。

 その通りかもしれません。


 誰も売られたり、苦しみながら死ななくてもいい。

 飢える事も凍える事も無い。


 皆が笑顔で居られる世界。

 争いよりも、助け合える世界。


 閉会式のパレードが始まりました。

 夢の様な、しかしこの世の今の現実が成し遂げた宴が、今終わろうとしています。

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