303.ツンデール組の旅の終わり、そして万博へ

 世界一周の万博宣伝旅行ももうすぐ終わりです。

 最後の船旅を終え、私達はオーキクテリア北辺の港へ。


******


 人々の出迎える中、駅へ向かう国王陛下以下一同。


 その時でした。


 駅に集まる群衆の外側で、募金を訴える数人。

 貧しい身なりながら、訴えます。


「まだ底辺の子達や女達は仕事が無いんだ。

 どうか仕事を見つけるまで、助けてやってくれよ!」


 その両脇には、国際救命会の方が守っています。

「「貧民救済にご協力をお願いします!!」」


「お嬢様、あれが寡婦の涙募金です。ちょっと見え辛いなあ」

 ザイト様…もしかして!あの人は。


「あのおばちゃん達は大丈夫。

 ちゃんとやりますよ、私達が何も言わなくたって」


 もしかして、私が貴方に無理言って助けて貰った人達なのですか?

「ナイショです。

 でも、その通りですよ」


 何ですかそれ!

 でも、何かお礼を

「おばちゃん達がそれを求めていないから、ナイショなんですよ」


 何て謙虚な。

 でもよかった。

 ありがとうザイト様!貴方が救って下さった命が、善意を世界に広げてくれているのです!


「貴女が教えてくれたんですよ。

 人の心の中に神がいるってね。

 あれ?ショア提督だったかな?

 まあ、あの人達は大丈夫です」


 人の心の中に神様はいる。


「やだなあ、泣かないで下さいよ」

 あら?ホントですわ。

「お嬢様!」

「よかったですねえ」

 マッコー、ナゴミー、心配しなくていいですよ。


「母上!」

 大丈夫ですよ。


「ツンデール様は、とてもお優しい方なのですね」

「ああ、ウチの一番の、大事な友達なんや」

 ネゴーリア殿下にも心配を掛けましたかしら?


 列車が動き出しました。

 遥か遠くに過ぎ去った一団を眺め、私はあの方々に神の祝福が在らん事を祈りました。


******


 オーキクテリア王都ルースでは既に集客が首尾よく行って万博計画が拡張される事がラジオや新聞で報じられていました。

 これを知った人々が大勢集まって、私達の帰還を歓迎してくれました。


 どうやら色々インチキ万博とかリゾート詐欺とかあって、人々は敗戦国の万博だから失敗するかもと気が気でなかった様です。


 結果として、当初8割だった予約数を15割まで拡大させ、学生交流の場まで作って成果は上々。

 特に元敵国のブラー、サフラの強い関心を得られたのは、安全保障上の問題はありますが、今後の世界の発展を考えれば大きな成果と言えましょう。


 大聖堂で世界の平和と融和を祈る礼拝に授かり、王宮で解散式を挙げました。


 エーデス陛下は行幸の成果を宣言し、同時に私達同行者に深く感謝を捧げて下さいました。

 メリエンヌ陛下がそれに応え、万博の成功を祈り、私達は解散しました。


 その後は大宴会です。


 その宴で「余は勝ったぞ」と私に向かってご機嫌そうなエーデス陛下。

 一体何にですの?


「貴女の夫であるトワサカユス陛下と女性であるメリエンヌ陛下を除けば、女神ツンデールと共に世界を旅した王は余だけだ!

 ビックリーシタ王とクシャトリ王、天の上からポリタニア王、サルマーヌ先王が悔しがるのが目に浮かぶ!

 ははは!」


…何を競ってるんですか。

「返す返す感謝するぞツンデール王妃!

 時に楽しく、時に考えさせられた、正に他に類のない有意義な旅であった。


 我が子ユルゲンスにとっても大きな学びとなった」

 アイサーレさんはじめ、若き王子達で集まって盛り上がってるユルゲンス王子。


「この万博、必ず成功させる!

 貴女はやはり女神なのかもしれないな!」

 最大限の感謝の言葉を頂きました。

 でも女神はやっぱりヤメテー!


******


 宴会の後、まだ旅の余韻冷めやらぬ王宮の一角。


「終わっちゃいましたね」

「なんか寂しいですぅ」

 私も同じですわ、マッコー、ナゴミー。


「また厳しい仕事の毎日ですわー」

「今迄のんびりさへでもらったのだはんで、気合入れねばまいね」

 今迄も立派な仕事でしたよ、クレタ、クローネ。


「お嬢…王妃殿下のお側に長く居られて、昔の気持ちを取り戻した気がします」

 ベルデッジ提督のお側に長く居てあげて下さいよフナノリア様。


「さて、旦那様と一緒に長距離レールを作るとしましょうか!」

「私は…ウフフ。ツンデール様の航海日誌と、東洋の王子様お二人の友情物語を…グフフフ」

 お願いしますクリナ、そして自重なさいフジョシー王妃!


 すると、キャロチュが竪琴を容器に奏でました。

 彼女の夫、アレキサンドルjrもチェンバロで弾む様に伴奏を弾きます。


「日々僅か 日々僅か 糧を食み

 歩みを絶やさず 命を繋ごう

 小さな望みが 我らの誉」


 あの恥ずかしい映画の歌、でも楽しい歌ですわね。


 ああ。仕事の旅だったけど、みんなと一緒に長く居られて、嬉しかった。楽しかった。


「『糧一粒 糧一粒に 感謝して

 あわてず嘆かず 命を繋ごう

 やがて春の陽 訪れる』」


 コマ達ザボン組のザボン語と、私達のレジニア語の歌が混ざり合います。


 マッコー。地球の裏側に帰るのですね。王子殿下と道中ご無事で。


 ナゴミー。サルマーヌ陛下のお手伝い、頑張って下さいね。


 クローネ。クリナ。まだまだ色んな機械の開発でお世話になるわ。


 クレタ。ザボンに行ったときは迎えて下さいね。


 ケニエもずっと私を守ってくれてありがとう。


 フジョシーも国王陛下のお手伝いにITOのお仕事も、大変ですけど宜しくね。


 フナノリア様、お世話になりました。また船旅の時はよろしくお願いします。


 ムンチル、コマ。商談や鉄道の安全基準に励んでくれてありがとう。


 キャロチュ、ウタ。素敵な歌と音楽をありがとう!


 キューソ。苦しんでいる人々を救う尊いお仕事、応援します。


 ツネ。ザボンの芸術は世界が注目しています。貴女の活躍の場は無限です。


 スイサイダさん、カチソーネさん。あのオッサンを良く見張ってて下さいね!

「ヒデェ」


 メリエンヌ四世陛下、私の大親友のトリッキ。

 これからも、神の祝福が両国と両王家にあらん事を。


 さあ!明日から、また色々と大変な日々の始まりです!


 翌日、鉄道で、飛行機で、皆が去っていきました。

 自分達の国に向かって、家族の下へ。


******


テレレ↑オーキクテリア紋⇔シュセーキョー紋レー↓ヒェッ↑


 それから1年半。オーキクテリア・ルース万博がいよいよ開催されます。


 テアポカ、ドデスカ、そしてオリエタ組はゴリアへ、ゴリア組と合流して対岸のシュセーキョー公国アカダマパン港駅へ。


 そこには、デファンス行きとはまた異なった、正面が二階建て、先頭車両前面が展望ラウンジとなっている高速鉄道が待機していました。


 折角なのでラウンジ席…王宮とはまた違う、簡素ながら快適な座席と、大理石に見えて軽い卓。何とワイングラスが倒れない様に収まる穴まで開いています。

 屋内も大理石っぽいけれど、直線的な簡素で未来的なデザイン。


 座席もゆったりと後ろに倒す事が出来、オットマンまでせり出す仕様。

 女性にはサービスで足元を覆う毛布を給仕が持ってきます。


 シュセーキョー軍楽隊と、かつて一緒に港の瓦礫掃除をやり遂げた町の皆の見守る中、高速鉄道はするするう~っと、時速150kmを越えてブンメードへ向かいました。

 オリエタの研究所で試乗しましたけど、まるで空を飛ぶかの様な滑らかさです!

「前の世界一周は、まだこの高規格鉄道が完成してませんでしたからね」

 高速鉄道って、車両だけじゃなくて線路にも最新技術が求められるんですわね!


 社内の王族用車両は、伝統仕様と未来仕様の二種類が事前に指定でき、折角ですから未来仕様に。

 やはりシンプルな直線的デザイン、そして快適さ重視。

 しかし壁の一部に黒檀等高級木材を使い、照明も幾何学模様にカットされたガラスを多用したシャンデリアを配するなど、豪華さの演出にも手抜かりありません。


 食事用車両は豪華な宮殿風でした。

 食後は先頭車か最後尾の展望ラウンジ車で寛げます。

 こちらも豪華仕様です。


 その先頭席でメリエンヌ陛下親子と懇親会です。

 一同発泡ワインで乾杯。私は南方特産の果汁ソーダ割り。


 若い方や子供達は座席を前向きにして、飛び去る景色に感動しています。


「すごいわすごいわー!何て速いのかしらー!」

「なんだかこわーい!お兄様ー!」

 ベッタベタな二人。


「飛行機はもっと早いんだ。でも簡単に乗れる高速鉄道でこの速さは、やはり物流や商業の革命者だ!

 ネゴーリア殿下は素晴らしい献策をなされました!」

 そこに超マジメーに返すアイサーレさんってば。


「いや~んそれほどでも~」

「ムキ~っ!」


 絶景の最前列は三角関係の火花が飛び散っている様ですわね…


「ネゴーリア殿下も恐ろしく壮大な夢をサラリと言ってのけたものだなあ」

「あのアイデアがなければ、この大陸横断高速鉄道も、実現はもっと先だったかもしれませんわね」

「どうか、今後とも我が娘を宜しくお引き立て願いますわ」


 ヨノタメニさんはもう相手にせず、首が座ったばかりのビジネスタ王子のお相手をしていますわ。

「ザイトはんの言う通りだったな!」

「ははは。我が妻もツンデール陛下もまだまだ美しい」

 いやですわウヒッツ様。

 ま、私達にはザイト様が付いていて下さいますからね!


「お陰様で、我が妻も新たな命を宿した。

 ツンデール、すまぬが今回の万博も、酒は禁止だがなあ!」

 私のお腹の中の新しい娘も、いずれお兄様お姉様と世界を飛び回るのでしょう。


 因みに何とこの列車、風呂まで付いていて驚かされましたわ!

 車中泊の寝台も快適です。ラジオで音楽を寝ながら楽む事も出来ます。


 ここまで豪華では無い普通の車両でも、重要で高額な商売を行う商人がゴリアからブラーまでこの高速鉄道で移動したら。

 貨物列車がこの速度で往来したら。

 それはもう、恐ろしい勢いで貿易量が、最新情報の往来が増えていくでしょう。


******


 高速鉄道はブンメード、サクラーダ、ロムルス、フロル、アルタを過ぎてオーキクテリアへ。

 各駅では鉄道公社責任者、または同行するファミリア女王陛下親子の歓迎を受けました。

 通過するだけですし各国国王陛下には万博でお会いするので割と略式です。


 軍港オストレジナ、なんとなく懐かしい姫神城天守を左に見て列車は北を目指します。

 こうしてアカダマパンからルースまで、延々5000kmもの長距離。

 平均100km、最高速度150kmの高速で、何と50時間、2泊3日で快適に走り抜けました!


 終着駅ルースでの歓迎もまた、盛大な物でした。

 その様子は事前にザイト様が準備した今回万博の呼び物の一つ、ラジオビジョン、ラジビで中継され、市内各地から歓声が沸き起こるのが駅からも聞こえました。

 あの長い世界一周の旅をご一緒したエーデス三世陛下が駅までお迎え下さっています。


******


テレレ↑オーキクテリア紋⇔ITO紋レー↓ヒェッ↑


 一方!ルース郊外、万博会場では!


 目出度く開催される運びとなったルース万博。


 今回は、基本的には伝統重視に戻り、過去の名建築を集めた様な荘厳なミュージアム群となりました。

…なりました、が。


 主要国のミュージアムは、中央部が、あるいは建物両側が20階という、大聖堂の様な荘厳な巨大建築にー!!

 どれも金貨十数万枚を費やしての大建築ですが、それも今後各国の王都の建築が大規模化、高層化する事を見越しての投資だそうです。


『模型で見るのと実物を見るのでは全く印象が異なるものだなあ…』

 旦那様の仰る通り。

 諸国行脚の時には万博模型のこれら高層建築を、疑いの目で見られたりしましたが、いざこれを見たら批判してた人達も腰を抜かすでしょうねえ。うひひ。


 内部は、今までミュージアムの後ろ側に広がっていた事務所や王家の宿泊施設を取り込んでいます。

 王族、貴族家から付き人の宿に、大食堂、大浴場。

 最上層は展望大食堂です。

 これらは会期後は貴族学院や国際研究施設、そして純粋な巨大な宿、或いは高位貴族の離宮になる予定です。


 会場だけでなく首都ルースをも一望できる絶景です。


 開催国オーキクテリア館を兼ねる本館は大聖堂的な装飾ながら、双塔が聳える大聖堂の様なデザイン。本体が10階、双塔部が20階建てです。


 シャルマは伝統的に見せつつ両脇と中央を20階、それらを繋ぐ領翼はガラス張、中央のファサードは半分がガラスドームの展示場とした、水晶宮を越える天空の水晶宮を建設。


 ゴリアは中央部が20階、両脇が5階、両翼を3階とし伝統的な装飾ながら屋根を全てガラスにし、中央部最上層はガラスのピラミッドを頂く設計です。


 テアポカは毎回通りに近い設計で、10階建て。

 上層部の階段状ピラミッドをガラス張りにしました。

 ドデスカも似たデザインです。


 これらの高層建築、階段で上っていたら日が暮れて途中で倒れます。

 全て、建物の中心を上下に高速で移動する電車、「エレベーター」によって楽に移動できる様に作られています。


「どの建物も、先のサクヤー火山前後の地震にも耐える作りですよー」

 と誇らしげなザイト様。


「これを可能にしたのも、いつもの通りザイト殿の知恵であろう」

「いえいえ。ジゾエンマの反射炉以来積み上げて来た製鉄技術、親方とクリナ嬢が考えてくれた組み立て式クレーンに二十字(キの字型)鉄鋼。

 更にはザボンの古代の五重塔の柔軟な構造という知識の積み重ねがあってですよ」


 因みにそういうザボンは未来的な鋼鉄とガラスの構想検地を背に、古代に存在したという高さ100mの七階建ての塔を左右に、中央に高さ50mの本館を木造で建設しました。

 いずれも千年前の建築様式で、この建物自体が文化的価値がある物でした。


 過去の万博会場でザボンの御殿や庭園、オストレジナを訪れる観光客が結構なことになっている事から、ここに古代の大聖堂を再現してザボン文化発信の地にする意図、だそうです。


 会場の外周は王都駅や空港も繋ぐモノレールが巡り、内部は電車が巡っています。

 しかしモノレールや大通りには、古風なデザインと華美な装飾を施した水道橋の様なモニュメントが巡り、夜には幻想的な照明に浮かび上がる様、趣向を凝らしています。


 開催直前、内覧会と前夜祭で会場を満喫した私達は、前回とはまた異なった、この世界の過去と未来の姿に酔い痴れました。


 そして前夜祭で集まった各国の王家。

 一時懸念された若い王子達の慢心や他国への無関心など消し飛んだかの様な、熱い握手に再会の乾杯、心の籠った各国元首への挨拶。


 この万博の懸案事項の幾つかは無事解決されたかしら?

 私はそう信じ、安堵しました。

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