302.最後の訪問 明日へ向かう元敵国
途中停泊した元大帝国トミンの港、キンタ港。
権力の空白地帯に突如勃興した狂信者集団の軍隊がこの地を襲いましたが、辛うじて市民を救助。
メナム王国ではトミンの民に対する警戒心が強いため、とても厳しい条件が付けられましたが、何とか移住が認められました。
同じ国の中で人と人が簡単に殺し合うのです。異なる国の信用をつかみ取ると言う事は実に難しい事だと痛感した出来事でした。
そして艦隊はコンギスタ王国に寄り、漸くレジニア大陸に戻って来たのです。
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トリモドッタ公国。
ここはオーキクテリアの庇護下で自治を認められた保護国であり、万博への動員数も確保しているので、今回の訪問での直接の目的では意味は小さい…のですが。
宗主国の国王が公式に訪問、しかも救世教を国教とした各国の王族、更には何故か名の通ってしまった私達ツンデール組が大挙して訪問とあって、歓迎の熱狂ぶりは大変でした。
そして、万博動員のための訪問という事よりも、ザボンにテアポカ、ドデスカの王子王妃が来た、今や世界は身近になりつつあると言う事もまた、彼等にとって未知の世界への憧れを掻き立てたのです。
アクバル教の厳しい戒律の下、肩身の狭かった救世教徒達。
そんな彼らが目の当たりにした動画に映し出された、自由で開明的、笑顔に満ちた万博の様子は、彼らの心に翼を与えた様でした。
これは私達にとっては、何としても成功させなければという重責を痛感させる結果となりました。
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トリモドッタを後にして、将来高速化すべきトリモドッタ・サフラ間の鉄道事情を確かめるため、私達はサフラ沿岸部を進みました。
東南部沿岸鉄道を経て、元ブラー軍港セバスチャンへ、そこから北上してサフラの主要都市ユグ、セントル、そして王都へ。
厳しい冬の吹雪の中、完成済みの鉄道をひたすら運んで伸ばしてという作業を繰り返し、驚くべき短期間で2000kmの路線を完成させた、奇跡の作戦でした。
戦時の仮設線とは思えない安定感で北へ進みます。
「もうこのまま高速鉄道にしていいんじゃないかな?」
「基礎工事も何もしてないんですよ?
長距離レールでもないし振動が生じて脱線しますよ!」
ザイト様とクリナが難しい話をしています。
「ではこの仮設線の隣を整地し地盤を固めて新しい完成済み鉄道のレール抜きを設置して」
「後で長距離レールを置いてクリップ止めして」
「線形はほぼ一直線のまま~」
「高速鉄道用が一車線完成したら~在来線の基礎工事と長距離レール化して~」
「複線高速鉄道が完成か!」「はい!」
「よっしゃ!当時の工事記録から問題ある地盤を確認しよっか!」「はい!」
「「イェーイ!!」」
…仕事の鬼ですわね。
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第二次世界大戦の傷痕が消えゆく中の訪問。
私達はあの凶悪な飢餓輸出からの解放者と讃えられて各都市の駅で歓迎を受けました。
「「「神はエーデス三世陛下を祝し給う!!!」」」
「「「神はメリエンヌ四世陛下を祝し給う!!!」」」
サフラ解放の主力だったオーキクテリア軍の国王、そして南端セバスチャン軍港を陥落させ南北鉄道を開通させたゴリアの女王に、人々の歓声が上がりました。
「「「ツンデール様ー!!!」」」「「「女神様ー!!!」」」
で、何故私?
「当然でしょうねえ」「自覚無いんですねえ」「それがお嬢様なのです」
マッコー、ナゴミー、ケニエ。
すっかりツッコミ連携が取れる様になって。
「母上がサフラを解放した張本人ではありませんか。
母上のお考えが無ければ、国際条約軍とサフラの正面衝突で王都は廃墟となっていたでしょう!」
アイサーレさんの言う通りかもしれませんね。
では私も大衆に笑顔で手を振りませんと!
「「「うおおおーー!!!」」」
爆発的な歓声がー!
「やはり母上は英雄です!」
「さすはは!さすはは!」
「「「アイサーレ殿下万歳ー!!!」」」
「「「救世主アイサーレ殿下ー!!!」」」
「な!何故私まで?!」
だって奪われた麦を奪回する案を考えたのは、私の自慢の息子アイサーレさんですから!
「くうう~!母上のお気持ちが少し解った気がします!」
「流石我が愛しい御方!」
「何言うのよ泥棒猫!私のお兄様ですわよ!」
「モテモテやなあ」
既にアイサーレさんにもツッコミが入る様になりましたか。
ブラーの脅威に抗えず、国民の命を差し出した王族も大貴族も領主も、妻子諸共処刑され、ITOの監視の下新興貴族達の手でそれなりに体制を整えてきました。
飢餓は解消しました。
徴税も順調になり、学校や病院建設を通した援助も潤沢。
これに応える様な食糧輸出が上手く回り出しています。
この数年の内に飢餓輸出で壊滅しかけた地方経済も大戦前の水準に回復し、更に発展しつつあります。
駅前広場に仮設された歓迎会場で、私達は簡単に挨拶し祝杯を挙げ、住民達の民族舞踊を楽しみ、北へと進みました。
王都でも同様に歓迎されましたが、警備は厳重でした。
戦争犯罪で処刑された貴族の残党が逆恨みで暗殺を仕掛けて来る恐れがあったからです。
幸い、何件か起きた事件もいずれも小規模で、騒ぎになる前に未然に取り押さえられた様でした。
「民をが死に追いやった罪も忘れ逆恨みで世界に仇成す下衆など容赦するな!
首を刈れ!脳天を撃て!」
何でも優秀な騎士が警備隊を先導して賊を殲滅したとか。
僅かな戦闘で済んだおかげで、今では充分機能する様になった王城。
私達は代表者と訪問の儀礼を交わしました。
「今の復興と平穏も、各国の支援あっての事です。
もし世界が協力を惜しみ、この国を放置していたら…
内乱や、新たな戦争の火種となっていたかと思います」
暫定政権の責任者、ブラー正教のサフラ枢機卿が怖ろしい事を言いました。
しかし、本当の事でもあったのでしょう。
「この地を戦いではなく、救いによって鎮めて下さったエーデス三世陛下、メリエンヌ四世陛下、ここにはおいでになりませんがトワサカユス五世陛下。
慈悲深い策を齎して下さったツンデール王妃陛下、アイサーレ王子殿下はじめ、我が国の民をお救い下さった皆様。
国民共々深く感謝申し上げます」
王城内の全員が私達に跪礼を捧げてくれました。
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そして戦時仮設鉄道を更に北へとそのまま進みます。
激しい揺れも無く一行はブラー王都ブラグラードへ。
…ザイト様が仰る通り、これやっぱり凄くありません?
ブラーでも大貴族が軒並み処刑された後、ITO情報部を動員して非敵対的な貴族を集めて暫定政権を押し立てました。
各国の支援もあって安定して復興してはいますが。
その貴族達が恩を忘れ、地方貴族を中心に近年ITOの軛から独立すべきと嘯(うそぶ)いているそうです。
飢餓輸出の犠牲者を目の当たりにしたサフラと違って、この国では自分達が何をやって、どんな結果に陥ったか、良く解っていない様です。
暫定政府の貴族達も万博には懐疑的でした。
「我が国は蹂躙された後の支援が足りない。
より多くの支援が必要な中、ITOはこの様な祭りをやっている余裕があるのか?」
ちょっと腹が立ちました。言い返しましょう。
「そもそも戦争を起こす余裕があるなら、この程度のお祭りに参加して、世界各国の実力を推し量るべきだったのではありませんか?
その時貴方方は何をしていたのですか?」
ITOの審査に耐えた貴族でもこの程度の認識だったのでしょうか?
「いや、気分を害したのであればそれは我が本位ではない。
我が国の厳しい国情を鑑み、このお祭りに参加する意味が解らないという事なのだ。
何か我が国に利益があるのか。それが知りたいのだ!」
最初からそう言えばよいのに。でも居丈高ですわね。
今度はメリエンヌ女王陛下がお答えになりました。
「新たなる商業を興す。
そのためである」
どうも場の反応がイマイチですわね。
女王陛下は続けます。
「今まで各国はその力を戦争によってのみ示して来た。
しかし今ITO各国は商業によって、国力を示し、互いに讃え合い、発展を続けているのは周知の通り」
ちょっと圧力を掛けてますわね。
「我がブラーにはゴリアの様な最先端の工業も技術も無い。
そんなわが国が貴国と商取引すれば、一方的に奪われるばかりではないか!」
そんな馬鹿な…え?本当にそう思ってるの?
「そうであろうか?
私は貴国にも、我々と対等に売買できる多くの産物に満ちていると信じておるが?」
一同が聴き入ります。
クレタが隣に目配せすると、クレタが立ちました。
「ゴリア鉄道・海運公社、東部支部長のクレタコール・オブ・ピート子爵と申します」
女性で世界有数の公社の支部長という事に皆さん驚いてます。
「ブラーにはアストル大陸西側には無い歴史、文化。
工芸品に食料品に調理法。
鉱物、樹木、天然資源。
ITO各国にとって対価を払っても得たい、接したい。
そう思える魅力が無数にあると思います」
持ち上げましたわね。
「かつて我が国は愚かにもテアポカやドデスカを、何の文化も無い空白の地、奴隷を刈り取る場でしかない、そう信じ込んでいた時期がありました。
しかしどうでしょう?
僅か10年で、今では我が国と肩を並べる工業国となり、数年前ITO各国を襲った飢餓から世界を救った食料供給地に発展したのです。
ザボンですら侵略の対象でしたが、世界大戦での活躍は鬼神が如し、でした」
会場のざわめきが大きくなります。
「恥ずかしながら私も同様です。
私の出身地もしがない田舎町でしたが、我が地を恥じる余り無理に鉄道を誘致しようと騒ぎ立てました。
しかしメリエンヌ陛下とツンデール様はそんな私を見捨てませんでした。
どうしたら鉄道を誘致し、利益を生み出せるか、夜中まで厳しい指導を受け領内をくまなく調査しました。
厳しかったですが、やりがいがあり、なによりお二人とも親身になって下さって、楽しくもありました。
そのお陰で、ゴリアの東西に鉄道を開通させ、小さいながら港湾施設を整え、今ではレジニアとアストルを結ぶ要衝として、莫大な税を国に治めるまでに成長しました。
そんな苦労も、もう十年以上昔の事ですわ」
思い出を胸に語るクレタとは対照的に、ブラーの貴族達は半信半疑でした。
「あのクレタ港が片田舎だっただと?」
「俄かには信じられぬ」
「いやいや、確かにテアポカもオリエタも、20年前には未開の地に過ぎなかったのだ」
「田舎出の貴族故、地球の裏側の事等…」
「総本山は、その様な無秩序な知識を許されるのか?」
参加する貴族の中に、疑問と動揺が広がります。
クレタが発言を女王陛下へ帰します。
「ブラーの諸兄。
世界は広い。
見たことの無い産物、文化に満ちている。
妾達は時にそれを畏れ、時に憧れ、時にもっとよく知りたいと思っておる。
もしかしたら、勝手知ったと思った足元にも資源や名産品となる物が眠っているやもしれぬ!
その一方で人間には、誰にでも未知の世界を追い求める力を持っている。
そして共に栄えるために何を成すべきか、考える力も備わっている。
今迄世界はその、余りにも遠すぎる距離故、謎に閉ざされていた。
しかし今や高速船で、飛行機で地球のどこにでも行けるのだ。
現に妾達が今!地球を一周してきた通りだ。
万博とは、その未知の国、行った事の無い、もしかしたら生涯行くことが出来ないかもしれない国を知る事が出来る、夢の場所なのである。
嘗て何年も掛けなければ知り得なかった知識が、素晴らしい文化か、今やわずか西へ1000km、鉄道で1日で触れる事が出来るのである!」
おお、宣伝モードになってきましたわね?
「是非、その目で見て、その手で触れ、その耳で彼らの言葉を聞き、世界と接して下さい。
そこに貴国の発展すべき明日の姿があり、世界が貴国に求める物を世に示す道があるのです!」
誰もが沈黙し、暫く後、拍手が響きました。
それに皆が続き、王城内は拍手に包まれました。
流石ですわ女王陛下。
こうして話は商談へと移り、その後の懇親会では今迄懐疑的だった貴族達が万博に期待を寄せる様になりました。
ですからオッサン!そこで昔の私がでた動画上映しようとすんな!!
******
ある意味、最も手強いブラーで良い演説が出来て、世界一周の使節団は最後まで使命を果たし、成果を挙げる事が出来たのでした。
王城を出発し鉄道へと向かおうとした際、騎士団に報告に訪れる女性…
あの方、マッコーの懐妊を知って国際競技大会で棄権して下さった方!
「貴女はマケネーデア様ではありませんか?」
私より先にマッコーが声を掛けました。
彼女は無言で私達に敬礼します。
「競技大会では我が子の命を救って頂き、深く感謝します。
ハジーク。ご挨拶を」
ハジーク王子殿下の挨拶に恐縮するマケネーデア様。
彼女は逆にこちらの、ザイト様に付き従う美女二人に気付いた様です。
それにザイト様が答えて曰く。
「国際救命会に各国の警護。活躍は素晴らしいが、程々にね。
出来れば早く身を固めて欲しいなあ」
随分と馴れ馴れし…ああ、最後まで近衛兵で抵抗した彼女を降伏させたのがザイト様でしたわね。
「あの子達は特殊魔道隊のスイサイダ嬢とカチソコーネ嬢。
原子爆弾の…」
そう言うと、マケネーデア様は美しい顔を、苦しそうに歪めました。
「ザイト殿は二人を妻に迎えられたのですか?」
「そうではな…いや、まあ。
色々あって一緒に暮らしているよ」
二人は、それはもう嬉しそうな笑顔でマケネーデア様に返礼しました。
「私もそちらへ行けばよか…いやいや、そういう訳にも行きませんでした故」
何ですってー!?
「彼女達も、世界を天災が襲った時は付き従って予測に避難に、多くの人を救ってくれたよ」
「そうですか!それは何よりでした。
くれぐれも、今後とも二人の事をお願いします」
「貴女も。神の恵みがあらん事を」
こうして私達は最後の訪問国を終え、北のラトバウ軍港へ鉄道で、再び艦隊でオーキクテリアへ戻りました。
******
オーキクテリアへ向かう艦隊で最後の夜となり、私達は機送艦フリオス号の甲板で宴会を開きました。
艦隊の楽団が各国の有名な民謡を奏で、キャロチュ達がそれを歌い上げます。
非番の水兵達が熱狂して聴き入ります。
各国の料理を楽しみつつ、美味しいお酒を頂きつつ。
若い王子達も各国の印象を語り合い、この甲板の上は、今この世界で最も幸せな場所となりました。
これでみんなともお別れになるかと思うと、寂しい限りですわね。
「また万博で会えますよ」
そうでしたね、マッコー。
「ITOでも、いつもお会いしてるじゃないですかぁ?」
そうでしたね、ナゴミー。
「わっきゃ初めで世界一回りすた。夢みんた(みたいです)!」
夢じゃありませんよクローネ。また皆で回りましょうね。
「私も世界を見て回れました!世界が私達を迎えて下さいました!
私、世界をこの手で感じる事が出来たんですわ!はあ~」
クレタ。最後の演説お疲れ様でした!
「いきなり振らないでほしかったですわ!」
「はは~、堪忍やー」
「じょ!女王陛下!」
見事に挨拶を決める二人。
そうだ。
「フナノリア様~!」
なんだかすっかり給仕みたいに私達やエーデス陛下、各国の王子殿下の給仕係みたいになってるフナノリア様。
フナデリアちゃんもお手伝いしています。
「あんさんもこっちに交じりや!」
女王陛下のご命令ですわよ?
「しかし皆様のお世話係として…」
真面目ですわね。
「海の上も今夜が最後や!楽しまんとなあ!」
フナノリア様が美しく微笑まれました。
「ではお言葉に甘えます!」
あ!フナデリアちゃんが一礼してアイサーレさんのところへ走って行った。
「ご両親に似て、周りを魅了せずにはいられない王子殿下ですわね」
魅了するかは兎に角自慢の息子ですわ!
「ちゃんと最近旦那さんのお相手しとるんか?」
「それを言ったら女王陛下こそ!」
「ウチら仕事の虫やさかいなあ!」
「もっと仕事は下々に任されて、更にお子様を」
「せやなあ。もうウチらもええ歳やさかいなあ!」
「私はもうすこし上ですわ」
笑い合うお二人。
以前ザイト様から言われましたが、二人目三人目であれば
「まだまだ全然大丈夫ですよ!」
だそうです。
ちょっと言い方ひっかかったけど!厭らしかったけど!
洋上にキャロチュとウタの歌声が響き、歓声が二人を包んでいます。
私達が次に旅に向かう時は、もっと賑やかになっているかもしれませんわね!
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