鉄道建設!王国物流大革命編

23.心を一つに!みんなで結ぶ鉄の道

 未だ現実味が有りませんが、ジゾエンマを起点東は王都、西はサンズーノへ延々50歩以上の鉄道建設が決定しました。


 開通予定時期は来年の春、実りの女神の月(5月)。

 しかし扉の神の月(1月)と月の神の月(2月)は大雪でほぼ工事が進みません。

 雪解け以降、実質3ケ月での突貫工事となります。


 だたサンズーノ救済、ひいては王国西側救済のため、大雪の中でも晴れ間を縫って馬車が行き来出来るだけの道は何とか確保する方針となりました。


「お待たせしましたね、マッコー」

 ナラック駅でマッコーが泣きながら出迎えてくれました。

「色々食料も持ってきました。この冬は間違いなく楽に越せますよ」

「ぞんなのどーでもいーですうー」

 私を案じてくれていたのでしょうか。有難うマッコー。


******


「ここジゾエンマから王都へ、そしてサンズーノへ鉄道を築く事にしました。

 目的は2つ。サンズーノで餓死しそうな人を救う事。

 そして、王都に増えたならず者に仕事を与え、治安を守る事。

 私達もサンズーノへの道を拓く手伝いをします」


 領に戻り、東西鉄道建設の決定を皆に伝えました。

 サンズーノから来た170人だけでなく、王都から来た200人も含め。

 しかし。


「何故領主さまはそんな事するんだ?」

 王都から来た娼婦だった女が言いました。

「私はコモーノから追われて来たんだ!あいつらが私達を追い出した!

 それは領主さまも同じだ。

 それなのに、何であいつらを助けるために働かなきゃ駄目なんだ?

 勝手に飢えて勝手にくたばりゃいいんだ!」


 この人の叫びを皮切りに、多くの女達が不平を口にしました。


「それじゃあ、駄目だよ」

 ナゴミー?

「私達を追い出したのは、男達でしょ?

 まだサンズーノにもコモーノにも、トレイタにも、何にも悪い事してない女子供がおなかすかせて死にそうなんだよ?」

 誰かが反論しました。

「そいつらだって私達を助けてくれなかったさ!」

「助け様がなかったんだろうね」


 ナゴミーの言葉に皆が静まり、次の言葉を待った。


「今まで私達、誰かのために必死に助けたり頑張ったり、そんな事した事なかった。

 でも、お嬢様はそんな私達を助けて、ここまで引っ張って来てくれたんだよ?

 私は、お嬢様に感謝してる。

 出来れば、そんなふうになりたいって思ってる。

 今がそれを出来る時なんじゃないかな?」


 ありがとう、私の友達、優しいナゴミー。

 何人かの女達が、声を殺して泣いています。


 別の女が、母親達が呟きました。

「おかしいよ。気持ちじゃそうした方がいいかもって思うよ?

 でも、それじゃ間尺に合わないじゃないか?」

「馬鹿野郎…」

 やはり、皆が奇妙な運命に戸惑っています。


 そして、元トレイタ伯の臣下だったエバリオ男爵…元男爵が言いました。

「お嬢様、私も長く貴族として平民に命令する立場にいた人間だ。

 貴族達が平民を蔑ろにする傾向も良く知っているつもりだ。


 それでもあえてお尋ねします。

 これは、王国も、王宮も、女王陛下も完全に納得して了承した命令ですか?」


 私は答えました。

「私からのお願いです」


 暫く沈黙が続きました。

 皆が考えています。


 そして

「お嬢様!行きましょう!鉄道で王都へ!」

 最初に不満を言った娼婦が言いました。


「やりましょう!鉄道工事!」

「参りましょう!」

「お手伝いします!」

 次々に女達が立ち上がりました。

 皆が賛成してくれました。


 一度決定すれば、皆の動きは速かったものです。

 マッコーは炭鉱組、選炭組、料理組、育児組、そして鉄鉱組の当番を整理し、サイノッカからサンズーノ…私達の故郷であり、新たな仲間、クローネが守る地への工事へ人数を割り当てました。

 ナゴミーが各組から志願者を募って当番の枠を埋めていきます。

 エバリオ元男爵がその仔細をまとめ上げ、サンズーノ側の工事計画をクローネに渡しました。


 魔導士殿は何も言わずに皆が計画を進めている姿を見ています。


 クローネはその計画を受け取り、一旦サンズーノに戻る事としました。

「向ごうで要員さ集め、すり合わせに戻りますじゃ。待っていでけ!」

「道中、足元に気を付けて、無事帰ってね。ここに来るのは無理しないでね?!」


 魔導士殿はなぜかクローネと一緒に炭鉱の方へ鉄道馬車一両を走らせました。

…きっと領の西端まで鉄道を敷いて駅作るつもりでしょうねえ。


******


テレレ↑令嬢紋⇔王紋レー↓ヒェッ↑


 一方、王都では!


 王都では街の治安を乱すならず者達への取り締まりが行われた。

 捉えられたならず者には、冬の間王命で働くか、頭に焼き印を押され王都を追放されるか迫られた。

 無論、働く者には食事も寝場所も、給金さえも約束された。


 多くの者は労働を選んだが、一部の者は逃亡を試み、見つかり次第捕縛された。

 それらは罪人として過酷で危険、勿論無償の鉱山へと送られた。

 恐らく春までは生きていないだろう。

 愚かな彼らは、最後に垂らされた蜘蛛の糸を掴む気概すら持ち合わせていなかったんだろうなあ。


 そして王城では、王宮魔導士、それも土魔法使いに動員令が下された。

 しかし。

「こんな土建屋みたいな真似など出来るか!我らは名誉と伝統ある王宮魔導士だぞ!」

「女王は我らの存在理由を否定するつもりか?!」


 この阿呆共の言い分は全く理に適っていなかった。

 そもそも王宮魔導士は非常時、つまり戦場にあっては敵への攻撃や陣地構築に従事する者であり、国家事業としての開墾では大規模な土地改良を行う使命があった。

 長い平和のため、王宮魔導士共は使命を忘れ厚遇に甘んじる、王国のお荷物に成り下がっていた。まあ、平和な時代のあるあるって奴だね。


 一部の下級と評された若い魔導士を除き、徒党を組んだ連中は女王に対し抗議を行った。

「宜しい。諸氏を解雇する。直ちに王城を去れ」

 一瞬にして王宮魔導士達は職を失った。


「代々王家に仕えて来た名家を蔑ろにするつもりか!」

「もし我々が王家に反対したら、王家は国を守れるのか!」

 言っちまったかあ。

「そうであったな。

 王家に仕える者であれば、国の要となる仕事は断らぬであろう。

 王家に反旗を翻す素振りなども見せぬであろう。

 つまりお前達は忠義など無き反逆者にも等しい!」

 女王は首となった魔導士達に魔力封じの焼き印を押し、雪の降り始めた王都の外に放逐された。

 この愚か者達もまた冬の内に行き倒れとなるであろう。

 彼らが吸っていた甘い蜜は、鉄道建設の原資に活用される事となった。


 半信半疑で鉄道建設に同意したならず者達、若い魔導士達は王都の外に築かれた鉄道公社宅へ移住した。

 時間が無いので私が建てましたとも。


「どうせ牢屋みたいな…何じゃこりゃ~!!」

「お、王城の寮より暖かいし、水も出る…風呂もある?!」

 これには浮浪者同然だった元ならず者達も驚いた。

 そして、貴族ながらも上層部に給金の半分を奪われ、苦しい暮らしを強いられていた若い魔導士達も感動の声を上げた。


 例によって女王の命を受けたフリランナ男爵が、集められた元ならず者と若い魔導士達を前に、女王の訓示を伝えた。

「仕事に当たって、次を厳に命じる。

 まず、仕事前に安全を2名一組で相互に確認し、怪我や事故を防ぐ事。

 仕事の後には入浴、手洗い、食事に休養を必ず行い、効率よく仕事を進める事。

 危険や困難を発見した場合、無理をせず必ず監督者へ報告する事。

 作業中、貴族であっても平民であっても作業場所に侵入するものは退去させ、従わなければ監督者に報告する事。


 工事の終了時期を問わず、雇用と賃金は来年実りの女神の月まで支払うものとする。

 尚、優れた働きを収めた者は、次期鉄道延長工事の際、優先して雇用するものとする。

 ゴリア王国女王メリエンヌ3世!」


「「「うおーっ!!!」」」


 一同はそれまで体験したことのない好待遇に興奮した。

「それってよ、今日道を完成させれば春まで寝て暮らせるって事だろ?」

「馬ッ鹿野郎!30歩以上の真直ぐな道を作るんだぞ?

 春までだって終われるか怪しいもんだぜ?」

「いや。私達魔導士が地ならしをする。出来ない話じゃない」

「なんでぇ?え?魔導士様?」


 基本、魔力は貴族しか使えない。

「魔導士とはいっても下っ端だ。お前達と同じその日暮らしだよ」

「は~!魔導士様ってのも世知辛いもんだなあ!」

「まあ、お互い怪我せず頑張ろうな!」


 社宅を貴族待遇の魔導士と平民の最下層であるならず者と一緒にしたのには、シナジー効果を狙ったつもりだったが、上手くいってくれるといいなあ。


 しかし狙いは的中した。

 魔導士は元ならず者…もとい。早速工事を始めようとする工夫を食堂に集め、作業の段取りを説明した。

 測量、縄張り、魔導士による基礎工事、そして工夫による細部調整の段階を追って工区毎の分担や一日毎の進捗目標を黒い壁に石灰を使って書いて説明した。


 ならず者とはいえ、働き口を求め従う程度のやる気はあった者達だ。

 若い魔導士の計画に従う事にした様だ。


 実は、この計画立案には私もノウハウを伝えた。

 若い魔導士達は、それをしっかり実践してくれた。


 これから工夫達と魔導士達は、自らの仕事の進捗を、食事の度に黙認して実感する事になる。

 食堂に描かれた進捗図を見るにつけて、だ。

 そして工事が終わりに近づけば、きっと次の路線の延伸へと想いを馳せる事だろう。


******


テレレ↑王紋⇔令嬢紋レー↓ヒェッ↑


 例年より遅く、王都では雪が降り始めましたわ。

 こちら側からの工事はサンズーノ側に注力していますし。


「お嬢様、ナラックに客人です」

「あら、トリッキからは先ぶれも来ていませんよ?」

「王都の鍛冶師と言っています」


 魔導士殿から、もしかしたら来るかも、と言われていましたが。

 本当に来ちゃいましたね。

 しかもこれから雪が激しくなるというのに。


 私達は対面所で鍛冶師達と面会しました。

「何だー!あの鉄の道はー!」

「こんな荒野にこの城は一体全体?!」

「温泉サイコ~~」

「ここは地獄じゃない!天国だ!裸ー天国っ!ジゾエンマー温泉っ!」

 お気持ちは分かりますけど。


「我らは王都の鍛冶師組合から離脱した鍛冶士4名及び見習い10名!

 儂は鍛冶師のメイスンだ!

 この地で鉄を打たせて貰いたい!」

 そう言われましても…


「王都の奴等は頭が固くて駄目だ!

 あんたら…これは失礼!代官殿の地では我らなど足元にも及ばぬ良い鉄を使い、あの様な鉄の道を疾走する馬車を使っている!

 どうか!どうか我らにそれらを作る手伝いをさせて欲しい!」


 凄い情熱が伝わりました。

 しかしまたしても男達。しかも結構乱暴そうですが。

「お嬢様。鉄鉱石の鉱山地区の最寄りに水路を敷き、そこに製鉄所や鍛冶場を作りましょう。

 彼らの住まいもそこに。

 いずれジゾエンマの鉄産業の中心となる様に」


「しかし、イキナリここみたいな街を作ると流石に注目を浴び過ぎません事?

 今更感はありますけど…」

「仰る通り、今後はあまり派手にやると注目度が高まります。

 最低限の物を築いて、拡張は資金を得て王都に発注していく様にして行きましょう」

 それが無難ですわね。


「メイスン様。そして危険を冒してこの地を頼って頂いた皆様。

 私、ジゾエンマ領代官ツンデールは皆さまを歓迎します」

「「「うをー!!!」」」

「但し、この地は故郷を追われ、命の危険に怯えて辿り着いた女達の住む地です。

 女を蔑ろにする事は絶対に許しません。

 今後鍛冶を志す女がいた場合、広く受け入れ、技を伝授頂きたく思います」


「うむ。だが鍛冶の道は厳しい。余程肝が据わった者でなけりゃお断りだ」

「素養が無い者であれば仕方ありませんが、力ある者は等しく評価頂きたいのです」


「当然だ!」若い鍛冶師が叫んだ。

「親方!俺たちだって腕より店の格付けばかりで押し込められて来たんだ。

 同じことを俺たちがやっちまったら鍛冶師失格だ!そうだろ?」

「だがな、鍛冶の道は危険だ。

 もし預かった娘に一生消えない火傷でも追わせちまった日にゃなあ…」


「安全について、お願いがあります」

 一同がこちらを向きました。

 私は魔導士殿を向きました。

 魔導士殿はニヤっと笑って…

「あんた達にはあんた達の流儀があるのは分かる。

 しかし、このジゾエンマでは仕事で怪我したり命を落とす事は許さない!」

「あんたに、鍛冶の危なさが分かるってのか?」

「ぼちぼち、ね。

 どうせこれから溶鉱炉や製鉄場を作るんだ。

 どうしたら事故を防ぎ、どうしたら働き手を守れるか。

 一緒に考えながら世界最高の鍛冶師を目指そうじゃないか?」


 鍛冶師一同は、唖然としました。

 そして。

「はは…面白ぇ!面白ぇ!

 随分でっかく出たなあ!

 よし!その大口に乗ってやろう!

 アンタは魔力で鉄を作ったんだろ?

 儂等は腕で、アンタに負けない鉄を打ってやる!」

「私はその言葉を待っていた!」


 前にも聞きましたわその言葉。

 こうして、サイノッカの北東、鉄鉱石鉱山の近くに、製鉄所が建設されることになりました。


 では歓迎の用意を…

「みんないっちゃいましたよ?」

「早!!」

 鍛冶師さんってそういう人種なんでしょうかね?


******


 一週間後。

「代官殿ー!」

 メイスン様が超絶ご機嫌様でサイノッカ駅に帰って…真っ黒ですわ!

「ちゃんと衛生を!」

「それはこれからだ!見てくれい!」

 鉄道馬車には、かなりの長さの鉄材が積まれていました。

「あの魔道親父のお墨付き、鉄橋を支える鉄材だぞ!

 この地の石炭で熱した鋼を叩いて鍛えた頑丈な鉄だ!」

 あまり詳しくは解りませんが、何だか凄そうですね。


「儂の知る限り、こいつが世界で最初の鉄の橋になって、多くの荷や人をこの国の東西に運ぶんだ!

 それもたった一週間でだぞ?

 俺たちはあん…失礼!お嬢様のお陰で歴史に名を刻み込めるんだ!

 鍛冶師冥利に尽きる事、この上無い!」


 凄く興奮してますね。


「魔導士殿、鉄橋の工事は何時頃でしょうか?」

「3日後に雪が止みます。例の仮の橋に設計通り組み込んで、それを10回繰り返せば月の神の月(2月)、中ごろまでには組み上がります」

「「「おおー!!!」」」

「はぁ~。アンタ天気まで読めるのか!」

「部材の細かい設計図もあります。現地作業を極力短くする様、穴あけ、ねじとねじ受けを作りましょうかね」

「「「応!!!」」」

 ねじ、って何でしょうか?それはさておき!


「待って!ちゃんと休みは取る事!そして風呂に入りなさい!

 今日は休みなさい!」

「「「優しい~!!!」」」

 多分この人達はモノが出来上がるまでひたすら働く、ある意味危険な人達ですわね。


「王都側との工事分担を見直さなければ。

 進捗管理が大変だ…大分前倒しになりそうだが」

「エバリオ男爵、その役目、引き受けて頂けますか?」

「はっ!」

「では天候の良い日を選び、王都側とサンズーノ側に向かい、両者と進捗具合の確認と連絡係を命じます」


「宜しければ、妻をサンズーノに向かわせたいのですが…」

「解りました。他にも手伝いが必要であれば、各係を調整して任命して下さい」


 最初は警戒しましたが、官吏としては優秀そうで助かります。


******


 ジゾエンマ西側へ、サンズーノへ向けて女達の手で木々が伐採され道路が広げられて行きます。

 騎士娘や元暗殺者達の手で害獣が狩られ、怪我人が出る事も無く工事は進みました。

 サンズーノへ向かった支援食糧を積んだ馬車も返ってくる様になりました。


 届けられた手紙によれば、向こうの工事も、サンズーノ川沿いの道を広げて進んでいるみたいです。

「働いでらのは殆ど女ばす(ばかり)だ」とクローネが嘆いています。

 働かざる者食うべからず、男共に貴重な糧を奪われない様願います。


 大雪の日は工事は中断。

 もうじき年も終わりです。

 主、願わくば我らを守り、我らから飢えと凍えの苦しみを取り除き給え。

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