22.波乱の女王陛下謁見!
故郷サンズーノの代官となったバリバリ北方弁の遠い親戚令嬢クローネ。
彼女の窮乏救済の訴えに私は支援を申し出ました。
しかし、皆の意見をまだ聞けていません。
私達を追い出した故郷への援助、そして私達に転封を命じた王都への鉄道。
どちらも困っている人を救う、大事な仕事です。
立ち止まっている余裕はありません、冬はもうすぐです。
******
雪の降り始めた季節。数週間後にはゴリア王国中央山脈の西側に、王都に雪が降り、交通は遮断されます。
通商に来てくれて、王国東西横断鉄道というベラボーな計画をブチ上げた私達は王都に向かいます。
既にトリッキ達はニ日前に王都に向かって出立しています。
その後を私達は追います。
雪が降る前に帰ってこないと。
「いや、後一か月は大丈夫でしょう。雪の代わりに雨は降りますけどね」
「え?何故ですの?」
「このふと(人)のしゃべる事はただすいよ。
山越えでぎだが、雪っこ降る程さんびぐ(寒く)ね。
土もやせ細ってらす、天気もおがすく(おかしく)なってら」
もしかして作物が不作になっているのもその辺りに理由があるのですの?
「それは、個々の不作の様子を見ないと正しい事は言えない。
ただ、広範囲で起きているという事は、クローネさんの言う事は正鵠を得ている可能性大、だね。色々見てきた経験に基づくものでしょう。流石です」
「そった、めぐせ(恥ずかしい)!」
こら!純朴な田舎娘を、私の親類を誑かすのは止めて貰えません事?!
「さあ皆さま、王都で冬を越さないためにも、早く行って帰りましょ!」
私と魔導士殿、そしてクローネ、更に護衛の騎士娘の三名がライフルを携え鉄道馬車でナラック駅へ、そこからは馬車で王都に出発しました。
「「「ツンデール様ー!!!」」」
「「「お気をつけてー!!!」」」
「「お嬢様ー!」」
城のみんなが寒い中にも関わらずサイノッカ駅で手を振ってくれています。
マッコーも、ナゴミーも。
「風邪をひかないでねー!ちゃんと栄養をとってねー!
小さい子のお世話をお願いねー!」
あの三角州に生きる道を決めて故郷を捨てた日以来、私は初めてみんなと離れました。
ついこの間だった様な、遥か昔の様な。
******
大きな渓谷を下って、対岸を昇りま…
「岩盤掘削チェースッ!」崖の中腹に巨石が叩き込まれ、その巨石から鉄の棒が生え、魔導士殿はその鉄棒の「鉄骨です」さいでっか。
鉄棒の上に縄をかけ、板を通りで簡易な橋を作ってしまいました。
「これ、この鉄骨を足掛かりにすれば…」
「工期は大幅に短縮できますね」
「やっぱ全部あなた一人でいいんじゃないのかな?」
「多くの人命が掛かっていますので。
これをどう真似るのかは王国次第ですよ」
こうしてジゾエンマ・王都間の最大の難関だった渓谷は数分で通過してしまいました。
そして立ち塞がる山脈の外縁部…
「隧道掘削チェースッ!」
馬車一台が軽く通れる道が山向こうまで貫かれました。
「鉄道敷くなら馬車を横に6台分くらいは通れる様にして頂かなければ」
さいでっか。
「魔導士様、ほんにすばらすい!神様みだいだぁ~!」
「いやいや惚れちゃいけませんよ?」
「こら!私の親戚に!何てことを!」
わちゃわちゃしつつ、片道3日の予定を1日半で到着してしまいました。
******
王都へは女王陛下の任命状を提示して入場。
まずは商工組合へ。組合長のトレーダさんの所へ挨拶に伺いました。
「これはこれは男しゃ…代官様!こんなお早いお着きとは!
トリッキの話では後2日かかるとの事でしたが…」
「途中橋を架け山をブチ抜いて来ましたもので」
「あー!頭がおかしくなりそうだー!」
「工事も楽になりますよ?」
「考えるな…感じろ…考えるな…感じろ…」
トレーダさんの様子が変ですわ?
「あの建白書は只今王宮で吟味中です」
「確かにご確認頂くのには時間もかかるでしょう。
しかしこうしている間にも寒さと飢えは人々を蝕み、ならず者が善良な人々を脅かしています」
「それこそ奴等の狙いなんですよ」
そうでした。敵は寒さや飢え、ならず者だけではありません。
その裏に、この状況を放置し、王都に地獄を齎さんとする、連中。
裏切り者の大陸派貴族がいるのです。
「奴等…財務卿を筆頭に大陸派は、何だかんだと屁理屈を付けてこの大動脈計画を封じ込め、むしろ技術や資材を奪い、大陸側にゴリア侵略の基地を築くでしょう。
女王陛下もそれをどう捌くか、腐心されているかと思います」
この国は、封建国家です。
各地の領主がその地を治め、その頂点に立つのが王家。
例え王家が足元の領主達の同意を得ない施策を強行しようとしても、離反を招き国を揺るがし兼ねません。
例え王国の東西100歩余りを私、じゃなかった魔導士殿が無償で提供しようとも、四半歩でも土地を有する貴族が反対すれば計画は頓挫します。
問答無用で馘を刎ねる事ができる程度の弱小貴族であれば話は別ですが。
「オッチャ~ン!話纏まったでー!」
「「「何だってー!!」」」
さっきまでの悩みを蹴り飛ばすかの様にトリッキが入って来ましたー!
「反対派貴族が多くてな、女王陛下の私財で賄う、そんで反対した貴族は利用禁止で即決やー!
奴等、春にゃあ悔しがるでー!
領民もトレイタからサンズーノへ大移民や!
ケツの穴小せえ裏切り貴族共、自業地獄や!」
それを言うなら自業自得…いえあながち間違っていませんわね。
「むしろサボタージュが激しくなるかもなあ」
「それは私が責任を持って排除します」
あ…前に言ってた、暗殺者を従えたって奴ですの?
それにしても、ですわ。
「私、何しに来たんでしたっけ?」
「それしゃべるだらわもだよ」
私達、代官シスターズ、唖然茫然。
「いんや、女王陛下からお声掛かってまんがな。王宮行こか!」
「「え??」」
トリッキは、王家の家紋が入った書状を私達に突きつけました。
******
私達は突然の招聘に戸惑いながらも、この国の最高権威たる女王陛下のお住まいになるデリー城、王宮へ。
即日に面会が叶う訳でもなく、とは言え重要案件のため、本来の到着予定日でした2日後を繰り上げ明日に面会の約束を取り付け、組合の案内する宿へ。
「流石に女王陛下、御多忙なのですねえ」
「いんにゃ、今はちと席を長く空けたツケっちゅう奴やな」
どちらか視察でもなさっていたんでしょうか?
「折角やし、王都でうんまい店案内したろか?」
「トリッキ、有難う。でも贅沢は出来ません。その分を西岸で苦しんでいる人に持って行かなければ」
「ツンヅール様、ほんに。どーも!」
いいのよクローネ。あと私ツンデールですから。
「ほな、宿の飯でもえーかな?あそこも結構いけるで?」
******
贅沢こそしませんでしたが、その日は市場を見て回り、見たこともない野菜や果物、美味しそうな肉、美しい布、高価な磁気やガラス食器等を見て回りました。
「これなら、私の領で採れたものでも、それなりに売れそうですわ!」
「毛皮製品は期待できそうですね」
「もしかして、ガラスとかも…」
「どこまで綺麗な物ができるか解りませんが、試す価値はあるでしょう」
「そん時ゃトリッキ商会をご贔屓に~!」
抜け目ないですね。
「おめんど(貴方達)、買う事でねぐで売る事気にすちゃー(してた)んだ…」
「そうですよ?どうやってみんなで食べていくか。
幾つでも策は多い方がいいでしょう?」
「やっぱすなっきゃ(貴女)がすこい(賢い)…」
クローネ、あなたもそうなって領のみんなを助けなきゃ。
そして宿での夕食。
「ん~、味が濃いですわね!」
「すみませんねお嬢様、私の味付けは年寄向けにちょっと薄くて」
「ん!違うのよ魔導士殿!こっちはちょっと食べ慣れない感じってだけなの!」
そういわれれば、ジゾエンマの料理は魔導士殿のレシピの所為か、ちょっぴりヘルシー?
「うはは!王都は貴族寄りの味付け、濃い口なんやで」
「うちも王都も、どちらも贅沢ですわ!」
「んだよ、贅沢だよ。
わんど(私達)は狩った獲物塩焼ぎにするだげだはんで(ですから)」
「それもワイルドやな!」
「め(美味い)よ!」
何か知らないうちに以心伝心でしょうか、クローネさんの不思議な訛りも何と無く意味が通じる様な気がしてきました。
そして夜。
「風呂が無いのが恨めしい…贅沢になれてしまいましたわね」
「お湯なら用意しますよ」
「出てけー!」
あのオッサン!油断も隙もありゃしない!
「でもなー。やっぱジゾエンマの温泉は極楽や」
「ドースガナにもい温泉がっぱありますじゃ」
「確かに北国は温泉!ってイメージあんなあ」
「周りになんもなぐで、山間で浸がる湯は最高だよ!」
「それはちょっとはしたないですわー!」
結局、魔導士殿を呼んでお湯を用意してもらう事にしました。
ザイト殿、お手間かけました。
「さてお嬢様」
「覗けばコロス!」
「明日の女王陛下との談判ですが…」
そうですね。その話をキッチリ予測して演習しなければ。
******
翌朝、目覚めも爽やかに王城へ向かいました。
女王陛下との御対面とあって、魔導士殿が見繕って下さったドレス。
華やかですわ~。見る目あるじゃないですか。
「ツンヅール様!美すいわ~」
クローネも綺麗ですよ。その訛りさえなければ。
トリッキは組合へ行くそうで、替りにトレーダ様が馬車で迎えに来てくれました。
そして王城で散々待たされた挙句、やっと女王陛下へ御目通り。
「ジゾエンマ領代官ツンデール・オブ・サンズーノ男爵令嬢!
サンズーノ領代官クローネ・オブ・サンズーノ男爵令嬢!
王都商工組合長トレーダ!
ジゾエンマ領付き人ザイト!
面会を許す!」
そう呼ばれて謁見の間に入りますと…
広大な対面所の奥、王座に座るメリエンヌ3世女王陛下。
そして宰相達。
跪く私達ですが、例によって魔導士殿だけ立ったまま。
「私は他国の民であり、我が国の作法に従います。ご容赦を」
これには宰相達も
「何と無礼な…」
「やはりジゾエンマは貴族連盟で集団管理すべきか」
「あの代官では謀反が起きる」
等々。無い事無い事言いたい放題ですわね。
「確かに私は他国人です。
多少の御無礼もあるでしょうが、お詫びと言うのも何ですが。
少々お土産を用意しました。ご笑納願います」
え?凄く嫌な予感が…
ドレスに身を包んだ女達がワゴンを押して入ってくると…
「「「ギャー!!」」」「「「な!何だこれは!!!」」」
嗚呼。
またしても生首の品評会。
恐らく、王都に就く前後から私達を狙っていた刺客の成れの果てでしょうか。
折角の援護射撃です。乗らせて貰いましょう。
「皆様、このお顔に見覚えは…あってもあるとは言えませんよね。
まあ、このワゴンの上に、お歴々の首が並ばぬ様に、御警告申し上げます」
女達は深々と頭を下げて去って行きました。あれも元暗殺者でしょう。
すると女王陛下が立ち上がり、
「その馘は、エゴス卿の騎士団長カット、ベーダ卿の顧問ストラ、ブラクマ卿の将軍ヘルサの息子マシンマ…」
「女王陛下!何を仰います!我が配下にこの様な者はおりませぬ!」
「ならば直ちに今言った者達をここへ呼べ!呼べる物ならな」
今までガヤガヤ好き放題言っていた連中が黙った。
それって私が犯人ですって言ってる様なものじゃないの?
「他にも馘と胴が繋がっておる者もおります故、ご要望とあればお引渡し致します」
やはり誰も何も言わない。
女王陛下も何も言わない。
言ったら国を二分する戦争になるからでしょうね。
「異国の魔導士、作法は問わぬ。
してジゾエンマ代官ツンデール。領地は無事か?」
「女王陛下の御威光のお陰で、新たに王都を捨て安住を求めた民も含め、ジゾエンマ領は冬を越す目途は付いて御座います」
…ちょっと嫌味織り込みました。あ、女王陛下凄く嫌そうな顔した!
あれ?どこかでお会いした様な、違う様な。
「重畳である。
先に商工組合より受け取った東西鉄道建設の建白書も見事であった。
しかし幾つか問題があってな。それを調整するために呼んだ。
まあ、あの土産にはまいったがな」
生首ショーを嫌そうな眼付で見る女王様。
ウチのオッサンがすみません!
でもオッサンいなけりゃあそこに並んでたの私の首だったかも知れませんのよ?!
「相談というのは2点。
返済期間を20年に延ばしたい。
代償は、同期間の税の免除。金利くらいにはなろう。
王都とサンズーノでの商品取引は今まで通りの税とする。
それでも今まで交易も出来なかった双方の地。その分でも収益は上がるであろう」
「「はっ!!」」私とクローネが礼を以て返答しました。
魔導士殿も、特に何も言いません。
「もう一点。王都から王国東岸。サンズーノ領都から王国西岸まで、延長130歩の鉄道を敷設したい。そちらへの協力は可能か?」
「費用負担にも依りますが、基本的にはお手伝い申し上げます」
「最悪、魔導士ザイト殿と直接契約してでも完成させたい」
「そ、それは…」
「お断り申し上げます」
ちょっとオッサーン!!
「国外追放を命じても良いのだそ?」
「どうぞ、追放できるなら。
私がこの国に留まるのは、同胞の、苦しむ女達を命を懸けて救わんとしたツンデール様の為。
そしてその想いに応えんと努力した、ジゾエンマに住む女達のため。
更には過去の経緯を押して、赴任したばかりのサンズーノを救わんとここまで随行してくれたクローネ代官の為。
その想いを潰えさせたいのであれば、私をどうとでもすれば宜しい。
出来る物ならば」
魔導士殿。最初っから超喧嘩腰ですわ。
女王陛下は再度溜息を吐かれて言いました。
「その方もまたロマンチストよのう」
「この世に果たしてロマンはあるか。人生を彩る愛はあるか」
コイツ!女王様の前でまたヘンテコな事をー!
「…その方がヘンなヤツという事はよく解った。
して、協力頂けるのか?」
「今私はツンデール様個人に使える身です。
この様な脅しを…」
後ろに並ぶ生首を睨み、魔導士殿は続けます。
「無法な策を掛けられない限り。
いえ、この様な無法を取り締まって頂いた上で、ツンデール様の御下命とあれば喜んで尽力致しましょう」
その時、女王陛下に側近が…ってあれフリランナ男爵様じゃありませんの?
女王陛下、何かを聞いて驚きました。
もしかして、あの橋にトンネルでしょうか?
「その方等は数日前にこの地に到着したそうだが…
まあ、解った。
そんな物より、良い土産を既に頂いておったそうだな。
王国への貢献、感謝する」
女王陛下も、あの生首を一瞥して言いました。
「畏れながら女王陛下。
先ずは西岸で気がが生じる危険のある地域の救済を優先し、そのために王都のならず者を動員すべきかと意見具申致します」
「ザイト殿の意見、承知した」
「費用の件は、後程国庫の許す範囲で分割にて問題ありません。
ならず者の監視も、王都の騎士にお願いします。
但し、もしジゾエンマに住む者に危害を加えようものなら」
「処分は一任する」
「そして、西側のサンズーノ領から労働者を雇ってほしいとの申し出があります」
「解った。しかしサンズーノ側では領内の駅か、川沿いの整地程度が関の山であろう。
途中の山越えや橋架けは流石に女手では無理だ。
飢える事なき様、支援する」
「こ、光悦至極に存します!」
クローヌ。今のは訛っていませんでしたわ!
「東西両海岸への延長はまずは王都、ジゾエンマ、サンズーノの鉄道開通の後に計画する。
ザイト殿。大雪まであと何日かな?」
「1ケ月かと。10の月(12月)半ばまでは持ちましょう。
但し雨は降ります。落下の恐れがある現場では命綱の着用を必ずお願いします」
「承知した。働く者の安全に、余程の注意をするのだな…
ツンデール嬢!クローヌ嬢!」
「「は!!」」
「二人とも、良き仲間に恵まれましたね。活躍に期待していますよ」
それまでと一転して、女王陛下は私達に微笑んで下さりました。
そして陛下は退出なされました。
それに続き、有象無象の貴族達も。
******
「寿命が縮みましたわ~」
王城を出て、宿でクローヌと共にベッドに倒れ込みました。
「あの生首、いづの間さ…」
「そうね。魔導士殿が何とかしてくれてなかったら、寿命なんて縮むどころが終わってましたわね」
「あのふと(人)、女王陛下まったぐ畏れでいませんですた。
何モンなんだびょん」びょん?
まあ、そのお陰で、こちらの要求は分割支払い期間以外はほぼ要求通りに進みました。
毎年の返済といってもそれは魔導士殿の持ち出し。
魔導士殿には申し訳ありませんけど、彼が応じた以上、口出しはすべきではないでしょう。
むしろ、私達があの人に、何が出来るのかを考えましょう。
でも、どこかでお会いしませんでしたか?女王陛下。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます