19.叩け暗殺軍団!守れ子供の歌声を

テレレ↑令嬢紋⇔トレイタ伯紋レー↓ヒェッ↑


 サイノッカ上の外堀では!!


「こんな城が…」

「聞いていた話と違うぞ…」

「隊長、どうします?」


 かつてサンズーノ男爵を女王派から大陸派へ切り崩そうと図っていたトレイタ伯爵が、念のためにツンデールを暗殺し代官となった地をも奪わんと送った暗殺部隊10名。

「どうもこうも無い。じゃじゃ馬娘の馘をトレイタ伯爵様にお届けするまでだ。

 あの門には罠があるだろう。総員、堀から突入!」


 さあ!戦いだ!!


 音もなく外堀に下りた10名。そして、4名が浮いた。

「身を潜めろ!敵に気取られるぞ!おい!どうし…」

 隊長らしき者が見たのは、脳天に穴の開いた部下だった。


「散か…」隊長の脳天にも穴が開いた。


 残った5名が水に潜り、石垣に取りついて昇った。

 更に壁の屋根に綱を掛けて城内に…

「お待ちしていましたよ」

 その瞬間、5名の暗殺者は口を塞がれ、手足を縛られた。


 忠誠心の堅い暗殺者、契約で暗殺するプロは問答無用で首を刈り、孤児や誘拐等で幼い頃から体で忠誠心を植え付けられた暗殺者は拷問コースへ。

 歪んだ心を癒す事など簡単にはできない。しかし暗殺の使命を抱かれたまま生かす事も出来ない。

 速成コースで肉体的な力で植え付けられた忠誠心を上書きし、後でのんびりして貰って心を溶かすしかない。


 結局、拷問と洗脳の末、10名の暗殺者達が私に忠誠を誓う事となった。

 その内8名までが成人したばかりの女だった。恐らく女中にでも化けて潜入させるつもりだったのだろう。


******


テレレ↑トレイタ伯紋⇔令嬢紋レー↓ヒェッ↑


 領都サイノッカ、迎賓館での饗宴の後、トリッキが沈痛な面持ちで言いました。


「この地の情報は石炭を買った物から王宮の情報を辿った奴、更には薪炭組合の動向から察した貴族連中から察知されとる。

 そんな奴等はこの土地を奪う事しか考え取らん。三流以下や。

 だがそんな奴等こそ暗部をよう使いよる。

 近いうちに、この地に暗殺者が押し寄せるんや!」


「こちらに防御済みの暗部が用意されています」


 魔導士殿がフザけた様に言うと…

「「「ぼげえ~!!!」」」


 ワゴンに乗せられた生首が、二十程!!!

 これには商人達もビビリまくりですわ!私もですけど!


「他にも暗殺者を10名程捉えていますが、その処理はご一任願い度」

 どうやって撃退し、どう処理するつもりなんでしょうか?

「まあ、お任せしますわ」何か策があるのでしょう。


「因みに首から下は害獣をおびき寄せて捉える餌として城外にブチ撒けていますのでご安心を」

 全く安心できませんわ!!


「こいつら、どこの貴族の…」

「西岸の弱小貴族を大陸派に引き入れんとしたトレイタ伯爵家、薪炭組合の最大手の卸元、アサッシ伯爵。

 そして、正体不明」

「正体不明?」

「と言いつつ、実は大陸派貴族陣の手の者。所属はシャクレーヌ王国」

「来たか…」

 シャクレーヌ?対岸、大陸の国。

 女王陛下と対立する派閥が親交を訴えている国。

 来たか、という事はトレーダ様、大陸が我が国に直接干渉する事を予測していた?

 田舎育ちの私には解りません!


「でも、もう備えは出来とるゆう事やな…」

 机上の生首を眺めつつ、トリッキが言い放ちました。


******


 翌日、御一行様は炭鉱へ。

「確認よし!ご安全を!」

「「「ご安全を!!!」」」

 命綱を付け、鶴嘴を捌く逞しい仲間達を見て。


 そして選炭所へ。

「よーい、始め!」

「「「あたしゃヤモメで子持ちの15、誰が見染めてくれようか、サのヨイヨイ!

 女欲しけりゃジゾエンマおいで、日に馬車一両掘れりゃあな、サのヨイヨイ!」」」

 歌いながら選炭する愉快な…自虐的な?歌を歌う仲間達を見て。


 更に。

「それではお嬢様、お願いします!」

「はあ~!憤怒っ!」

 ドオオン!私の土魔法が赤い鉄鉱石の崖を削ります。

「かかれー!」

 数名の女達が、魔法で崩された鉄鉱石をスコップで鉄道馬車の荷車に乗せて行きます。


「領主…いや代官自らこんなお仕事を」

「あら?サンズーノの堤防もこうやって皆で築いたのですよ?

 尤もそちらは愚かな阿呆が崩してしまった様ですけど」

「ほんま、馬鹿っちゅう奴はおるもんや」

 下町訛りで「馬鹿」って、私達以上に酷い侮辱を込めた言葉と聞きましたわ。


 鉄道馬車で領都と鉄鉱山の間、新たな水路を引いた…いつの間に?

 その地に停まり、

「この辺りに鍛冶場を作る予定です」

 私がそういうや否や

「鍛冶師を3名送りましょう!」「私は5名!」「指導できる匠が要る、一人を何とか呼ぼう!」

 早速競りが始まりましたー!


******


 石炭だけで冬越しはおろか1年先の見通しが立ち、王国への租税も前倒しで行う事になりました。

 更に鉄鉱石の引き合いに鍛冶場建設の構想まで出来ました。

「これで女王陛下への報告も整える事が出来ました」


 そう言うとトレーダ会長が。

「お待ち下さいツンデール様。鉱山経営にはもっと面倒な手続きが必要です」

「オッチャン、まだ試掘の段階やろ?要らんやろ?」

「場所が場所だ。それも石炭に鉄鉱石だ。早めに手続きして領有宣言すべきだ。

 昨夜みたいに暗殺者が来ても困るだろ」

「それは、あの魔導士殿にお任せすりゃええんちゃうか?」

「強欲な貴族はいずれ口実を作って擾乱を起こす!

 サンズーノ…みたいにな!」


 トレーダ様は、私の心情に配慮してか、声を抑えて言いました。

「ご配慮有難うございます、トレーダ会長。

 ご助言に従い、届け出を急ぎます」

「王家も業突く張りが仰山おってな。捌きが大変や」


 捌く、ですか。

 私達をこんな地に追いやって、宝の様な資源が出たら今度はそれも奪おうとする者がいると?

 いいでしょう。いいでしょう!

「捌きますわ、なんなら馘も」

「ヒ!つ、ツンデール、そんな笑い、魔導士殿に見習わんても!」

 あら?私そんな汚い笑いしてましたの?


******


 私達は商人御一行にお別れの宴を開きました。

「出来る事なら、ここに住む皆さんと共に飲んで食べ、皆さんの話を聞きたい」

「歓迎しましょうお嬢様」

 間髪入れずに魔導士殿が助言?命令?しました。

「この地の暮らしぶりが国内に広まれば、移住者を呼べます」

 成程。このオッサン、ホント色々考えてますのね。

「今、結構酷い事になっています」

 何ですの?それ?

「追ってお話します」

 気になりますわね。

 でも今は先ずはトリッキと、新しい仲間を見送りましょう。


「あ、例の馘、ウチがもろてええか?」

 何言ってんですのトリッキ?!

「よしなに」

 何言ってんですのオッサン?!

「ちょっとした意趣返しや」


 石炭と、鉄鉱石を満載した貨車と、トリッキやトレーダさん達の乗せた鉄道馬車を私達は見送りました。


******


テレレ↑令嬢紋⇔トレイタ伯紋レー↓ヒェッ↑


「「「ギャー!!!」」」

 トレイタ伯の屋敷は絶叫に包まれたァー!!


「こっこっこれは!」

「し、…知らぬ者の首ですな」

「そ、そうであった。

 送って来た者は?その者の首を刎ねて送り返せ!」

「そ、それが…」

「誰だ?!」

「ジゾエンマ王国領代官ツンデールと…」

「な!…あんの忌々しい小娘があ!!早速抗議の使者を放て!」

「なりません!それは自ら暗殺犯であることを名乗るに等しい行い!」

「ではどうやってあの小娘を抹殺できるんだ?!」

「我が領の暗殺部隊を半分失ったのです。

 手を引くよりないかと…」

「許さん!殺せー!あの女を殺せー!」

「いえ、数名殺されず城内に潜伏した女達がいる様です。

 その者を辿り、商人に偽装させた手練れを送れば…」

「早速手配せい!」


 そしてトレイタ伯は暗部の首を再度受け取り、馘を刎ねられなかった暗殺者を私の下僕として送り届けてくれたのであった。

 無論、暗部を失ったトレイタ伯は情報収集も暗殺工作も出来なくなり、更なる凋落への道を歩み始めるのであった。


******


テレレ↑トレイタ伯紋⇔王紋レー↓ヒェッ↑


 一方、王城では!


「ジゾエンマ領からの暫定報告が参りました」

「まだ一か月というのにか?」

「女王様も、王都商工組合の動きはご存じでしょう」

「うむ。しかしあの気風は良いと言え地方の男爵令嬢。

 こうも手際よく報告を上げてくるとは。

 さては組合の助言があったのか」

 その通りである!


「領地には良質な石炭、鉄鉱石が採掘できるとの事。

 水利については山脈を土魔法で穿ち、地中を流れる水脈を引き入れて確保したと。

 更にかつて開拓者を食い殺した熊や狼を、逆に狩って肉を確保している…」

「なんだそれはー!!」

 女王様、素が丸出しだ!


「サンズーノの氾濫原を堤防で囲み、コモーノに対抗した城を築いたまでは聞いた!

 聞きましたよ?

 でも何ですかあの荒野で水脈?熊を狩った?

 その上で、王都を騒がしている、焼いても煙も煤も出ない良質な石炭。

 それと、鉄?鉄まで?」


「後、宿場町を建設したので王都の商人を迎え入れられるとの事です」

「…王国念願の、東西街道が出来てしまった…

 ツンデール・オブ・サンズーノ…何者ですの?」

「報告の末尾に、願わくば代官であってもジゾエンマの名を名乗りたいとの嘆願が懸かれています」

「はあ…自らを売った親の名。そして追い出された…いや。

 私が追い出してしまった故郷の名を捨て去りたいと言う事か。

 あの健気な娘のため、周囲に角の立たない限りで最適の措置をと思ったつもりだったが。

 どうやら辛い思いをさせてしまった様だな」


 落ち着きを取り戻した女王メリエンヌ3世は、

「あの娘の思う様にさせよう…」と同意した。


「して、あの地の石炭と鉄鉱石については?」

 更に質問を重ねた。

「商工組合長のトレーダの見立てでは、王都デリーはじめ女王陛下派閥の各都市の薪を置き代えても100年は優に持つ分量との事です」

「そんなにか?」

「出来得れば、王国で薪となる森林を保護し、都市部の煤塵の害を抑えたいと意見しています」

「その様な事、商人が考える事でもなかろうに」

「それが代官ツンデール嬢の、たっての願いとの事です」

「あの娘が?我が命で故地を追われた、王国を恨んでも良い筈の、あの娘が、か」

「トレーダによれば、自領と、既存の薪炭商会を含む商人と、王国全体の利益のために、との見識によるものだそうです」


 メリエンヌ女王は、考え込んだ。

「私は、恐るべき逸材を手に入れたのか…あるいは目覚めさせてしまったのか…」


 そして

「ジゾエンマの求めるものは、出来得る限り提供しよう。

 僅か一か月で領の存続を確保した功績を称し、春の訪れと同時にジゾエンマ男爵の爵位を与えよう。

 他に求めるものは無いか?ジゾエンマには他に王国に求める物はないのか?」

「ツンデール代官ではないのですが、トリッキ商会から嘆願が」

「うわー!あの馬鹿!何を言ってきてるんですの?!」


 流石にトリッキにはメリエンヌ女王も頭を抱えるか。


「ジゾエンマと王都デリーの間に鉄道を通せと」

「鉄道?」

「建白書によるとジゾエンマには鉄2本の道を鉄の車輪を付けた馬車があるとの事。

 馬一頭で貨車5両を一時で2歩位楽に運ぶ、強力な輸送手段になり得ると…」

「その報告、今一度商務卿…いや、あれは大陸派とつながってる恐れがある。

 トレーダに吟味させて」

「既にトレーダ組合長の合意を得ての建白との事です」

「うっぎゃー!!」

 女王様、可愛い。


「はあ、はあ!で、一体いくらでその夢の道が出来ると踏んでいるのです?あの馬鹿娘は!!」

「金貨20万枚を100年返済でとの」

「はんぎょれ~!!」

 女王様、オモシロ可愛い。


「100年って、それもう貸した側からすればタダ同然よね?!

 それでも毎年の返済額、国家予算の1割よ?!

 馬鹿なんじゃない?あのアホ垂れ、大馬鹿になったんじゃない??

 一体誰がそんな大工事をタダ同然で国にホイよって呉れてくれんのよ??

 しかも相手はこないだ追放した貧乏男爵令嬢よ?

 国が金貨数十枚で追い出したナンチャッテ代官よ??」

 自分のやった事解ってんじゃん女王様。


「建白書には、この路線が東西交通の要衝になれば、生み出される利益は10年で支出を上回る可能性ありとの事。

 更に、ジゾエンマの製鉄が加速して鉄道が王国内に普及すれば、利益は加速度的に増え、延伸の費用は加速度的に減少すると書かれています」

「ハラホロヒレハレ」

 じょおうさまはなぞのじゅもんをとなえた!


「あのツンデールという娘の気概。この国の停滞を打ち破るための一手かと期待しましたが!

 聖典に書かれた、穢れて乱れた大都会を一撃で海に沈めた神の雷だったのかも知れませんわね!

 もう!全くもう!!あの子を呼びなさい!」


 もう女王様、髪の毛ボサボサに振り乱してらっしゃる。

 その方が色っぽくて似合ってるなあ。


「そしてもう一つ」

「もう!何ですか?!」

「ジゾエンマの領都サイノッカを、シャクレーヌ王国の暗殺部隊が襲撃し、全員撃退したそうです」

「はんぶらびー!!」

 あ、気絶した。女王様のファンになってしまうよ。


******


テレレ↑王紋⇔令嬢紋レー↓ヒェッ↑


 一方、サイノッカでは!


「は~い、じゃあみなさ~ん歌いましょ~」

「チェーはコーンのツェー、デーはおいしーのデー、エーは卵のエー、」

 中郭「二の丸です」中郭の館で来年の計画を立案していると、子供達の歌声が聞こえました。


「何ですの?歌の練習でしょうか?」

「はい。もうすぐ聖誕祭ですので、子供達には聖歌を歌って貰おうかと」

 魔導士殿が言いますが、何言ってんですの?

「平民の、田舎農家の子供の合唱ですか…」

 それ、無茶苦茶ハードル高くありません?

 伯爵領にはそういうのあるみたいですが、サンズーノ領都ですら皆でバラバラに唱える様に歌っていただけなのに。


「チェーデーエーエフ、ベーアーハーチェー!」

 元気な声が、しかし不揃いな声が邸に響きます。

 時折聞こえる赤ちゃんの泣き声も聞こえません。

 赤ちゃんたちも喜んで聞いているのかしら?


「こんな歌もあるんですね。誰が指導しているのです?」

「食事係から育児係に異動を願い出た、ナゴミーですよ」

 マッコーが教えてくれた。

「もう、料理係は自分がいなくてもいいって言いまして」


 ナゴミー、最近みんなの暮らしに必死に関わって、食事の時位しか顔を合わせなくなった私の友達。

「私は、ナゴミーにとって天職だと思います」

 そうですか…少し寂しいですが。


「きっと彼女なら、子供達に綺麗な歌を教えてくれるでしょうね…」

 子供達の、元気で不揃いな歌声に、私達はこの地で暮らし始めたんだなあと肌に感じました。

 もう聖誕祭の準備、待降節ですか。その一週間後には年明け。

 鉄道は無理でも道さえ通れば、私達にはやる事が増える筈です。

 でもそれは、必ずみんなの笑顔を支える大事な仕事になるでしょう。

 やらねば!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る