6.ガケっぷちの大決戦!今こそ上げろ勝鬨を!

 敵の必殺兵器、攻城櫓にカタパルトと対峙する中、私達は!

 美味しいワインを頂き、私達は湯に浸かり…

 その日は柔らかい寝具に包まれて熟睡してしまいました。


 そして朝。朝食の良い匂いで目を覚まし…

 私達の元に朝食が運ばれました。皆と一緒ではないのでしょうか?


 屋敷とあの塔の間に出れば、城内の女達が、騎士の娘達の後ろに整列しています!

 その様子は、着ているものこそ農夫の娘そのものですが、我が領軍などより余程毅然としていました。

 そして何より皆の目が、決意に満ちている様です。


「お嬢様!一同訓練を終え、決戦に備えて御座います!」

 マッコーが騎士娘の報告を纏めて私に告げました。


 そして魔導士殿が私に近づいた。

 城内の女達に「訓練」を命じたのも、この人なのでしょうね。

「お嬢様、お言葉を」

 彼の言葉に、昨晩魔導士殿から聞いた檄文を、私は皆に宣言しました。


「皆!

 敵は私達を皆殺しにして、この地を奪わんとしている。

 最早脅しではない、あのカタパルトと攻城櫓がその殺意の証しである。

 奴等は私達の手で殺さなければ、こっちが殺される!」


 女達が気を引き締めた。


「数日前には思いもよらなかった戦う力が、今は私達の手にある!

 一度は覚悟したこの命。敵に思いきりぶつけ、敵の浅ましい思いを後悔させてやろうではないか!」

「「「オオオー!!!」」」


 みんなが戦う気持ちを固めた。

 魔導士殿が更に煽りました。

「では行こうか。やっつけるんだよビッツラーをな!

 いざ行かん!槍振りかざし、巨大なる風車に向かいて!」

「「「オオオー!!!」」」「「「キャー!!!」」」

 何だか決戦の場にそぐわない黄色い声も混じっている様ですが?

 あと風車って何ですの??


「ナゴミー、あなたは子供達を地下へ!」

 優しいナゴミーなら子供達も怖がらない…と良いですね。

「わかりました!

 子供達を!子供達を早く!」

 いつもらしからぬナゴミーが剣を片手に子供達を地下へ誘導します。

 彼女と母親達なら子供達をきっと守ってくれるでしょう。


 私達は塔に向かいました。


 三階の塔から見下ろす敵の攻城櫓、そしてカタパルトの周りには岩が積み上げられていました。

 更に兵たちが集結していました。

 敵は、総攻撃を仕掛けるのでしょう。


「この城のどこかの壁を崩すか門を空けて、そこから突入するつもりでしょうか」

 心配そうにマッコーが言う。

「そうなったら、その場でひたすら戦うだけです!」


「まあ、見ててくれ。あの娘達はちゃんとやるよ」

 綺麗に整列している仲間達を見れば、それは理解できます。

「奴等は欲望まみれでこの城に向かう。

 そして拐そうとした娘達によって、出て来りゃ地獄へ逆落としにされるって訳だ!」


 敵は騎馬も揃い、私達が育てた農地を数百の兵が踏み荒らして整列しました。

 許せない。私達の土地を!


「押し寄す敵こそ健気なれとはこの事だな。

 まあ奴等は奪う事と犯す事しか考えてないから健気って訳じゃない。徹底的にやる!

 ではサンズーノ男爵令嬢ツンデール様、我らにお命じ下さい」

 魔導士が私に跪礼する。

 マッコーと騎士達、農夫に過ぎない娘達までもそれに続く。


「命じます。この城を護りなさい。仲間達を、子供達を護りなさい。

 私達からすべてを奪おうとする外道共をこの地から叩き出しなさい!」


 私は、この手で何もしていません。

 今、偉そうに命令しているだけです。

 そんな資格が、この私にあるのでしょうか?

 それでも。


 魔導士殿が屋敷に向かって、青い旗を振りました。

 騎士達も階下に向かって走り出し、門の守護に着きました。


 下では女達が樽に火をつけて、穴に転がして行きます。

「あれは何ですの…あ?」


 思い出しました。

 この地を耕した時。堤防を積み上げた時。


 土地を均そうにも、槌で地を打てば水が溢れて来て泥地になり、途方に暮れながらも排水路を作っては地を均した事を。

 そしてあの樽は、敵から奪った火薬!


「お嬢様の考えている通りだ。奴等は、沈む」

 と、僅かな音と共に地面が少し揺れました。

 敵は何事かと思いつつ、攻撃の準備を進めています。


 魔導士は青い旗を廻し、塔の下では女達が次々と樽を穴に転がしています。

「この程度の揺れでいいのですか?」

「その方が、あのマヌケな奴等を釘付けにするには丁度いい!」

 魔導士が邪悪な笑顔を見せます。地面の揺れは続き、そして!


 敵の攻城櫓の足元から水が噴き出しました!

 騎士や兵の足も噴き出す水に取られている様です。


「さあ!国を揺るがすとか言う必殺兵器も、この僅かな土地の争いでオジャンのパーで全損だ!

 君の倒壊は僕たちの夢さ!」

 魔導士がそう言うと、何と言うことでしょう!

 攻城櫓もカタパルトも足元から沈んでいき、傾き。


 敵の悲鳴が聞こえます!

 遂には、あの恐怖の象徴だった攻城櫓がへし折れてしまいました!

 カタパルトも横倒しとなって下敷きになった兵を巻き込んで泥に沈んでいきます!

 敵の虎の子は、惨めにも倒れて潰れ、轟音と共にカタパルトと味方の兵を巻き込んで瓦礫と化しました!


「敵の案山子が折れて倒れたぞー!!」

「「「やったー!!!」」」

 城内の女達が喜びの声を上げています!


 敵の兵がこちらに向かおうとしますが、泥に足が埋まって誰一人こちらに来る者はいません。

 何人かが埋まった兵を救おうとしますがそれらも足が沈んで動けず、地面から噴き出す泥水に溺れ死んで行きます。


「いつの間にあそこの地下まで穴掘ったんですかねえ」

「昨晩ですよ、マッコーさん」「はあ~ん!」


 マッコー。オッサンに黄色い声なんて上げないで下さいまし。

 あ、地下から来たナゴミーも赤い顔して魔導士殿を見てるし!

 二人とも!そんな顔するならもっといい男に向けなさい!

「あ、子供達はみんな落ち着きました!」

 それを先に言いなさいな。


 それでも敵兵は鍬で足元を掘り、何とか這い出た者が城に向かってきました!

 しかしその数、百を下回る程。

 すると今度は魔導士が大きな黄色い旗を上げる。


 長い棒の先に籠が付いた様な道具を女達が持ち、その先の籠に他の女達が小さな壺を置く。

 敵が迫ります。魔導士が旗を廻すと、女達が一斉に壺に火を付けます。


「敵が来ちゃいますよぉ」慌てないでナゴミー。

「いえ、ザイト様は敵を引き寄せているのです!」その通りですマッコー!


「当たりですよ。では!」

 魔導士は旗を振り下ろしました。


 城内の女達は一斉に棒を城外へ向けて振り上げ、籠の中の壺を放り出しました!

 火のついた壺は敵兵に向かい…次々と爆発しました!

 魔導士は再び旗を上に掲げ、女達は先ほどと同じ様に棒を倒して籠に壺を入れ…

 火薬の壺による攻撃は再度繰り返され、敵兵は爆発で飛び散った壺の欠片で四散する者、手足を失って這い回る者、陣地へ逃げ帰る者。


 そして、戦いは終わりました。


 城内に取りつく者は一人もいませんでした。

 城の周囲には、哀れな敵兵の死骸ばかり。


 残酷でした。

 しかし、ここで私達が抗わなければ、私達や、子供達が!

 ああなっていたのです。

 私は。私達は、成すべき事を成したのです。


「お嬢様、勝鬨をお願いします」

 魔導士が私を塔のテラスに促し、塔の下に集まった仲間達に向い合せた。

「私が喇叭を吹きます。その後に勝鬨を」


 魔導士は聞きなれないファンファーレを高らかに吹いた。

 私は階下の仲間に叫びました。


「敵は蟻の様に逃げました!われらの勝利です!

 神は我らを祝し給う!!」


「「「神は我らを祝し給う!!!神は我らを祝し給う!!!」」」

 

 女たちの鬨の声が、女達の大地に響きました!

 敵はまだ泥に埋まっている者、逃げる者、置き去りにされ動かぬ者と、誠に惨めな有様です。

 我が騎士達は足が埋もれてしまった馬を救いに出て、多くの馬を連れ帰っています。

 勿論敵兵には何の情けも掛けません。仲間に救って貰えばいいでしょう。

 救ってくれる仲間がいるのであれば。


 遠く川の向こうから何やらビッツラーが叫んでいますが聞こえません。

 聞く価値もありません。

 負け犬の遠吠えという奴ですわね。


 かくして、始めは20倍以上の敵と対峙した戦いも…

 殆どあの魔導士の力で、私達は飲んで食べて号令するだけで、勝ってしまいました。

 勝っちゃった。


 私達は、私達の手ではありませんでしたが、この土地を守り通したのですわ!!

 神様は、私達を祝して下さった!


******


 しかし。本当にそうでしょうか?

 男に従い命を擦り潰すだけの女として生きる。

 産めよ増やせよと言いつつ、女は子抱けられ続けました。

 それが神の教えでした。


 では、私達はそれに抗って戦い、生き、それは神の祝福に繋がるのでしょうか?


「この勝利を祝福しない神など、こっちが擦り潰してしまえばいいでしょう?」

 勝利の宴の中で、さらっと言ってのける魔導士。


「男も女も同じ人間。ましてやこの国の王も女。

 それで男の暴虐を許す神ならば、それは悪魔も同じ。

 本当の神であれば、命を産み、未来を産む女を祝福しない訳ないでしょう?」


 この男の言う事は頭では解ります。

 でも、余りに突拍子もない事を言うこの男、もしかしてこの男こそ悪魔なのではないでしょうか?

 いえ、その力を使ってしまって勝利した私こそ、本当の悪魔なのではないでしょうか?


 あの外道共の末路とは言え、悲惨な戦場を見た後では。

 様々な思いが頭を駆け巡ります。


******


テレレ↑令嬢紋⇔敵紋レー↓ヒェッ↑


「ウワーーッ!!わしの櫓がー!わしのカタパルトがー!」

 最終回の八名信夫かな?


「お坊ちゃまー!多くの兵が!ぬかるみに足を取られています!

 早く助けに行かねば!」

「そんな奴等放って置けー!早く攻城櫓を立て直せー!」


 嗚呼。コイツ領主になったら、コモーノ領も、寄り親のトレイタ伯とかいう輩も、コイツ等が参陣して醜態晒してみんな揃ってグッダグダになるだろなあ。

 ならんけど。てか参陣なんてし様がなくなるんだけど。


 あ。攻城櫓を立て直しに行った連中もろとも崩れた。

 コイツ損害増やしただけだったなあ。


******


「坊ちゃま!全軍総崩れです!救助の命を!」

「敗れた者など構うな!無事な者だけで逃げろー!俺は先に領都を守る!」

 あ…。あのツラだけクソッタレ、単騎で逃げやがった。

 これでコモーノ領の先行きは潰えたな。いや、あいつがどうなろうと潰えてるけど。


 後に残された者も、大将の逃亡を知ってか。

 足が泥に埋まった仲間を救うために来た者も、救えていない仲間を見捨てて逃げた。

 溺れかけた者も支え手に逃げられ、溺れ死んだ。

 サンズーノ城の石垣の手前で満身創痍の兵も、出血多量で死んだ。

 手足を失った者も、土中の菌に侵され、地獄の中で死んだ。

 何とか逃げ延びた者も、三角州のコモーノ領側の対岸に辿り着いた者は僅かで、後は流され溺死した。


 城内の女達が祝宴を挙げているのと真逆の地獄がそこにあった。


 結局、二千を動員したこの敵は、寄り親たるトレイタ伯爵軍千五百が兵站喪失とともに離脱。残る五百の内三百が戦死。

 肝心なのは、二百の敗残兵。

 無事に逃げ帰ったのが百。

 見捨てられた百。


 コイツ等が、この戦いにおけるビッツラー、いやコモーノ伯の不甲斐なさを吹聴してくれる。

 無事に逃げおおせた百に対して復讐を始める。


 コモーノ伯領は、統治を失う。

 奴等の領地から忠誠心という、貴族の基盤をぶち壊してくれる。

 更には真っ先に撤退したトレイタ伯爵への敵愾心までも、煽ってくれる。


 出来ればお嬢様の恐ろしさまで宣伝してくれればいいんだけどなあ。


 はあ~。やりたくないけど、死体処理しますか。

 あの娘達に頼む訳にはいかないでしょう、なにせ彼女達を強姦し殺戮し、子供達まで殺しに来た連中。なんで後片付けさせなきゃならないのやら…

 やっぱり止めた。


******


テレレ↑令嬢紋⇔王紋レー↓ヒェッ↑


 一方!王宮では!

「サンズーノの争乱は、明らかにコモーノ子爵による侵略です。

 しかし大昔にはコモーノ領だったので失地回復の旗印が立てられない訳では…」

 あまり役に立たなさそうなこの臣下が女王に進言するも、流石に苦しそうだ。


 この言に、メリエンヌ女王が怒鳴った!

「そんな事を許したらそれこそこの国は古代帝国の植民地にまで遡れてしまいます。

 絶対許してはならない暴虐です!」

 美人だけど怖えなあこの人。


「しかしコモーノの寄り親トレイタ伯爵を刺激すれば、我が国は西岸の半分近くを失う事になります!

 そこには東向きの王都と西岸を結ぶ街道も含まれるのですよ!

 僅か100人の住む土地のためにトレイタ伯領との道を失うのは…」


 女王は暫く考えて、言った。

「道がないなら、作らせればいいじゃない」

 なぜだろうか、この才媛。

 屋根裏からやり取りを見ている私を睨んだ、そんな気がした。


 そして女王が扇で指さしたのは、机上に広げられた地図の、サンズーノ川上流。

 草木も生えないと言われる無人の荒野、ジゾエンマ高地。

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