4.迫る攻城兵器!城の運命ガケっぷち?

 朝からまたしてもガケっぷち~~!!


 城の目の前の景色に、私はっ頃の中で叫びました!

 私達の畑を踏み荒らすかの様に現れたのは、なんでこんな田舎の辺境にあるのか解らない、カタパルトに攻城櫓!


 この圧倒的な戦力を!暴力と言う名の崖っぷちを前に、私はどうすれば!

 これに気が付いた女達も怯えています!子供達は…なんだか喜んでません事?


「あ~あ。馬っ鹿じゃねえ?」

 呑気で人を思いっきり馬鹿にした様に言うのは、オッサン魔導士。

「わ!私は馬鹿では…」

「いや、奴等の事だよ。まあ、見ててよ」

 なんと言うかあの圧倒的な武力が見えていないのか、それともブチ倒す策でもあるのか…はあ。後者でしょうねえ。

 もうこのオッサンを信じるより他ございませんわ。


******


「フラフラしてますねぇ~」

「足元悪いですからねえ」

 ナゴミーとマッコーの言う通り、畑の真ん中、あのカタパルトがこの城に届く手前で止まっていました。


 すると大きな声が。

「愚かな女達よ!今であれば間にあう!お前たちが石礫でひき肉になる前に降伏せよ!」

 例によって下卑た敵将の声が風魔法使いの手で城まで響きます。


 オッサン魔導士の方を見れば。

「がんばったんだねえ~。

 あんなデカイのを組み上げて、足場悪いフニャフニャな畑まで引っ張って来て。

 健気だねえ~」

 おもっくそバカにしまくって余裕かましたツラでニチャニチャしてますわ!

「ま、あれ発射すんのどうせ明日だし。こないだぶっ飛ばした火薬の補給が着くのは明日。

 今夜も宴会と洒落込みますか?」

「えんかい~!すてきぃ~!」

「しかし!あれが今夜火を噴いたら…」

 マッコーが至極尤もな意見を口にして…

「でも魔導士様ならお見通し、ですよねえ…」

 ん?なんですのマッコー、モジモジして。

 魔導士を上目遣いで。

「なにせあんな魔法を繰り出す魔導士様ですもの。

 あの程度の攻城櫓なんて…」


「マッコー!いけません!

 命を捨てる恐怖と戦った貴女がこの男を頼るのは分かりますわ。

 でも、ですよ」

 私は叫んでいました。

「それは。私達の矜持に反します!

 この土地は、私達住民!自らの手で守りぬくのです!その気持ちを忘れては。


 この男がいついずれ私達を見捨てて去るか、私達を所為奴隷と化して欲望の限りを尽くさんとするか、誰が保証出来ましょう?!

 頼り切るとはそういう事なのですよ?!」


 私の叫びに茫然としていたマッコーは、咄嗟に頭を下げました。

「も!申し訳ございませんお嬢様!

 私は、この手で何かを成すべき、その矜持を忘れていました!」


「本人を前にして随分ヒデェ事言ってくれるよなあお嬢様」


 聞こえませーん。折角の決め台詞に突っ込まないで下さいまし。


「それよりあれとどう戦うべきでしょうか。それを考えましょう」

「フツ~に考えて打つ手ないでしょ~」

 ナゴミーの言う通りでしょうか。

 あんな怪物、あのイヤミなビッツラーが寄り親に無理やり頼んで出してもらったものでしょう…いえ?違います。


 コモーノ領の力を越える千もの軍勢を繰り出し、その上攻城櫓にカタパルト。

 父を篭絡してのサンズーノ領切り崩し。


 これって、地味ではありますが…まさか寄り親であるトレイタ伯爵から我が寄り親のマモレーヌ伯爵への挑発?

 しかもマモレーヌ伯爵も私達を守ろうとはしていないとは…


「考え得る最悪こそ、実は最良の状況に過ぎないもんです」

 魔導士が私に言います。

「大抵世の中そんなにまで酷いもんですよ?」

 何を言ってるんですのこのオッサン?

 でもその瞬間、私の背筋が凍りました。


 同時にマッコーが、苦虫を噛んだ様な顔で、慎重に語った。

「お!お嬢様!もしやトレイタ伯爵、いや大陸派貴族は!

 女王陛下に反旗を翻さんと内乱を企んでいるのではありませんか?」


「もしそうであれば、敵の方が機先を制しており、女王様に従うマモレーヌ様はじめ貴族は敵の策が分からぬ以上、迂闊に反撃できません。

 下手を打てば国内が戦乱となります!

 敵は優位に立っています!」


 私達の土地を襲った謀略。それはこの国を覆う動乱の一手に過ぎない、そうなのですか?!

 流石は頭脳明晰なマッコー。考えすぎかも知れませんがあり得なくもない話です。

 それにしても。


「そうであれば猶の事、私達だけの手で!

 あの厄介なデカい案山子をブチ倒して奴等に吠え面をかかせてやらねばなりませぬわ!

 手を考えましょう!」

 それから手を考えた…ものの。


 地を掘って攻城櫓を埋没させる。

 そんな大きな穴なんて、私の土魔法では明日まで、いえ何日かけても無理。


 縄を用意し、魔導士殿がマッコーを救った様に、私達が空を飛び攻城櫓に縄をかけ引き倒す。

 これもあの空飛ぶ羽を操るのは練習が要るとの事で私達にはムリ。


 城の地下に穴を掘って耐え、女王陛下の仲裁を待つ。これが一番現実的。

 女王陛下の仲裁が間に合えば、の話ですが。


 しかし、何とか、何とか奴等に反撃の一手を…

 魔導士は何も言いません。

 何かを知っていながら、黙っているのです、私達の言葉を待つ様に。

 忌々しい。


 するとマッコーが。

「今一度敵から火薬を奪い、大地を揺する事が出来れば…」

「大地を揺する…それですわ!」


 思えば今奴等が踏みにじっているこの地は川の水を多く含んでいます。

 堤防を積み上げる時も、大きな石を落とす度地面が震え水が噴き出して来ました。

 あのデカい案山子の足元を揺する事さえ出来れば、きっと奴等の足元から水が噴き出すでしょう!

 大層なご予算が掛かったあの虎の子とやらも泥に沈んで、お茶の子さいさいですわ!


 でも、マッコーが続けて言います。

「しかし敵もそうやすやすと二度も的中突破を許さぬでしょう。大地を揺すろうにも…」


「私はその言葉を待っていた!」

 マッコーの言葉を遮り、魔導士が芝居がかった口調で言いました。

「やれるんですの?」

「ご命令とあれば。そして、敵の攻撃に耐える時間稼ぎのため、城内の皆を逃がす地下室を掘って広げましょう」


「マモレーヌ伯爵様の仲介使節は今どうしているのでしょう?」

 それが私達の命の節目となるでしょう。

「目下女王様に奏上し、仲介案を賜っている頃かと」

 それでは早馬でも5日はかかりますわ!

 てかなんでそんな事解るんですの?


 ともあれ。

「時間稼ぎは必要です。取り急ぎ地下に皆が入れるだけの穴を掘りましょう。

 魔導士殿!あの厄介者の周りの大地を揺すり、泥沼に沈める事は出来ましょうか?」

「ご命令とあらば」

 ホントはその気になればあんなの指先一つでダウンできそうな癖に、そう思うとホント忌々しい。


 しかし、私達は出来る限りこの怪しい魔導士の手を頼らずに…

 そんな事無理ですわ。


 私達はあの玉砕覚悟のガケっぷちに居た時から、この魔導士の力で今日まで死なずに済んだのです。

 彼が居なければ私も皆も、殺されていました。

 彼は命の恩人であり、神の使いでもある筈です。

 ですが…


 あの男は私達を見下している。

 そんな気がしてなりません!断じて心を許せません!

 しかし今は頼らざるを得ません!


「では明朝、敵が攻撃を始めたら、なるべくゆっくり沈めてしまって下さい。お願いします。

 使節が来るまで、極力時間を稼ぎましょう」


******


 翌朝。

 やかましい声で叩き起こされました。

「これが最後の機会だ!降伏し我らの前にその身を捧げろ!

 一人残らず裸で城を出て、すべての実りを我らに捧げよ!」

 そう叫ぶ敵将と…その後ろには、矢鱈着飾った薄っぺらいイケメン子爵のボンボン、ビッツラー。


「婚約者殿、自らお嬢様に手を下そうとは!何という下衆!」

「ひどいですぅ。女の敵ですよぉ。お嬢様あんな奴、婚約破棄して正解でしたぁ!ぷんぷん!」

 マッコーが怒り、普段温厚なナゴミーまでぷんぷん怒ってくれた。ちょっと可笑しい!

 正直あのヘラヘラ野郎などどうでもよいのです。

 友が私のために怒って呉れているのが、とても嬉しい。

「有難う!マッコー、ナゴミー!貴方達の気持ち、とても、嬉しい…」

 少し笑って、ちょっと泣いちゃいました。


「みんな。地下へ御逃げなさい!」

 昨晩掘った地下の穴へ、皆が逃げ始めました。しかし全員が入れる程ではなく…

「全員、避難完了です。お嬢様もどうぞ」

 え?


 促されたそこは、深く掘られた地下の広間!

 これは魔導士の仕業でしょう?きっと!

 あちこちに光の魔道具でしょうか、明りが灯されて気持ちが落ち着きます。

 そして城壁の方には…鏡に外の景色が。


 斜めに設けられた鏡の上を見たマッコーが

「これは…上にも鏡。魔導士様!外の景色を見られる道具でしょうか?」

「よくわかりましたね、流石は才媛マッコーさん」

「うひ!えへへぇ~」ちょっとマッコー!何オッサンにデレデレしてるんですの?


「えへへ…あ!敵が!みんな伏せて!」

 とマッコーが叫び…


 ドスン!と大きな音が!カタパルトの攻撃ですわ!

 叫ぶ声、蹲る皆、泣き出す子供達!

 でも、この地下には何も起きません。


「さて、朝ご飯にしましょうか」

 何呑気な事を…

「おなかすきましたぁ~」

 ちょっとナゴミー?!

「「「はい!魔導士様!!」」」

 え?皆も?


 またドスン!っと音が。

 一部の気丈な女達が、竈の設えられた方へ向かい、井戸から水を汲んで鍋に向かいました。


 暫くすると、パンを焼くいい匂いが。

「今日のパンはぁ、生地がぷっくらふくらんでますねえ~」

「敵からブン獲ったバターも練り込んであるから、おいしいですよ?」

「きゃ~!」「「「はぁ~ん!」」」

 え?なんかみんな浮かれてません?あ!またカタパルトの音が!


「スープも肉と野菜を刻んで香草を漬けた逸品ですよ!」

 魔導士、料理も出来るのですか?


 パンとスープが配られ、子供達にはまたも干し果実も配られ。

 皆に笑顔が広がり…また音が響きますが最早誰も何も気にしません。

 どうなっているんでしょうか?


 食前の祈りを終え、皆がパンを頬張ると。

「「「おいしい~~~!!!」」」

 薄く明るいこの地下に、歓声と笑顔が広がりました…

 どうなっているんでしょうか?


「お嬢様ぁ~このパン!うま!うまうまま!」

 ちょっとナゴミー落ち着いて!あ!うまうまま!

 肉野菜スープもうまうまま!

「「「おいち~」」」いつしか子供達まで轟音を気にせずパンと干し果実をおいしそうに食べていますわ?今戦いの真っ最中でしょうに!


「夜襲の夜以来の御馳走ですぅ!」


 ナゴミー、夜襲以来ですの?

 もしかして…これもあのオッサン、敵の攻撃を読んでいてこの日に美味しいパンを用意していた?!

 あ!ニヤっと不細工に笑いましたわ!この酒臭親父ぃ!

 ガケっぷちなこの状況よりも、このオッサンの方が訳解りませんわー!!


******


テレレ↑令嬢⇔敵レー↓ヒェッ↑


「ハーッハッハッハ!この私に逆らう物は!

 みんなクタバレ!ミンチとなれー!」


 あーこいつ畜生道に堕ちたな。


「お坊ちゃま、あまりやりすぎるとその…」

「ああ。兵にあてがう女が減るか。

 そんなもの!あの乞食老人に刈り取らせればよい!


 あの戦う意思も矜持の欠片も無い愚かな老人であれば。

 尻尾を振って喜んで自領の女共を差し出すであろうよ!

 今はあの乞食宿に籠るクソ女共を擦り潰せ!

 ハーッハッハッハ!」


 うん。悪役はこうでなくっちゃね。


 しかし、この攻撃はジェノサイドだ。

 健気に城で肩を寄せ合って必死に生きている、あの女性達、子供達を問答無用に殺しにかかっている。

 コイツラは、畜生道に堕ちた餓鬼だ。

 これでこそ、思う存分、復讐してやれる。お前達と同じ様に、問答無用に。


******


テレレ↑敵⇔王国レー↓ヒェッ↑


 一方、王宮では!


「今や大陸各地で、躾の成って居ない貧乏領主どもが他人の土地を食い荒らしまくっています!」

 声高に主張するのは、高蛋白高血圧高脂肪の3K中年、トレイタ伯爵。


「それは一方的かつ身びいきな言い分!領地の境界を越えて軍を動かしているのはトレイタ!貴様ではないか!」

 反駁するのは善良そうだが頼りなさそうなマモレーヌ伯爵。


 いや、マモレーヌ。そして女王派の貴族共。

 攻められた時点でお前達は不利だ。敵である大陸派の手のひらで踊らされているんだっての。

 そして、仲裁役という道化の、女王もだ。


「どの様な理由があろうと貴族同士の私闘は国の意思に背く。直ちに兵を引け」

「出来ません!土地は我らが王国より授かった我らの命!

 それを王国の長たる女王陛下が否定なさるのであれば!

 進退をご覚悟願います!」


 このデブ、一介の伯爵風情が。とも思わなくもないが。

「その通りです!」「女王は領地に責任を持て!」「退位なされよ!」

 周囲の大陸派貴族が叫び出した。退位って目下が目上に使う言葉じゃねえ。

「女王陛下のお言葉を遮るなどとは!」

「黙れ!女王陛下の上に国がある!われらの忠義は女王より国そのものにあるのだ!!」

 この場は完全に女王の威厳など微塵も無い状況だ。


 無論、それも大陸派貴族が念入りに計画し、場の空気を支配するために画策したものだ。

 女王派貴族はまさかそんな事までするとは思っていなかった様だ。

 そこが愚かだ。

 狙ってくる奴は、何だってやるのだ。

 国を守る、誰かを守るというのは、そういう無法外道の薄汚い手口を全て読んで先手を打たなければ、羽よりも軽い絵空事になってしまうのだ。

 それが今目の前で具現化している。


 そして下位貴族の叫びを満足そうに聴いているのが、大陸派貴族の重鎮達。

 中には公爵、即ち王家の血族である者すらいる。

 どうせ戦いを避けよ、経済を優先させよとかお花畑理論でハニトラでもかまされた連中だろう。

 その平和主義こそ、虐殺者にとって最大の武器となり、多くの罪のない女子供を殺しつくす凶器となるとも知らずに。


 仕方ない。ちょっと気圧をいじくって…

 城の中庭に稲妻を迸らせたー!

 粉微塵に吹き飛ぶ歴史ある王城のステンドグラス!一瞬で金貨数千枚がオジャンのパーだ!


「「「ぎゃーっ!!!」」」

 恐れおののく一同。

 さっきまで偉そうにしていたトレイタのデブ、なんだか湯気が。ウゲぇ。


 女王陛下は流石に怯んでいない。

 立ち上がって彼女は宣言した。

「今の雷は王国の意思を好き勝手に解釈しようとし、我が言葉を遮った逆賊への戒めと心得よ!」


 おー、見事なアドリブ。へいかー、がんがえー!


「まず全ての争いを止め、他領へ侵入せる兵は全て領都へ引き揚げさせよ!」

「な!な!何を?!」

「王国直属の監察官を抗争の地へ派遣し、双方の言い分を聞こう。

 他領を犯した事実の有無、事前の通知の有無。それらを踏みにじった者は爵位を剥奪し、領地を王国が没収する!」


 これは事前に考えられた策ではない。

 押されそうになった女王が起死回生の策として放った、アドリブだ。

 実際、爵位剥奪は公爵をはじめとする大陸派の猛反対で緩和されたが、形成は女王派有利へと持ち直した。


 ゴリア王国女王メリエンヌ3世。この聡明で麗しい女傑のこのアドリブこそ、この後の世界を変えた一大決意だ。


******


本作は不定期連載となります。

明日以降、1~2日置き、土日はなるべく両日掲載できる様頑張ります

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