第7話 転生令嬢の目覚め《ユ》
「…んん」
パチリ、目が覚める。目の前には、天蓋と豪奢な絵画の描かれたベッドの天井。
ああ、私は本当に転生したんだな。そんなことばかりが頭に浮かぶ。昨日は色々ありすぎた。
まず、朝霞 友愛が死んだ。そして気が付くと、ユリア・ピンクコスモスの身体に入ってしまっていた。そこに元の身体の持ち主、ユリアちゃんが現れて、私に説明をしてくれた。そして、私にこの身体を託して飛び去っていった。…と。
いや、何なの!?一晩で情報量がカンストしてませんかね!?何、嫌がらせ?嫌がらせなの?私の低スペックキャパシティに対する嫌がらせだよね??
…ゴホン、ゴホン。失礼、かなり取り乱しました。一旦は落ち着いたから、周囲を確認してみようか。
そう考えた私は、柔らかすぎる布団と枕に埋めていた身体をヨタヨタと持ち上げ、周囲を見回…そうとした。のだが…。
「お、お嬢様!?お、起き、起き上がって…!?」
見回す前に、大きな声を出す1人の女性の方に目が向いてしまった。その女性は、濃い金髪をフワリとまとめ、その若葉のような緑色の瞳をパチクリと瞬かせながら私を見ていた。彼女が纏う服は白いエプロンと黒いワンピースのクラシックなメイド服。どうやら彼女は私…というか、ユリアちゃんのメイドさんらしい。
「え、えっと…おはよう?」
取り敢えず挨拶。挨拶って、大事だよね。
「…だ、だ、だ、だ、誰かぁぁぁぁぁ!!!お嬢様、お嬢様がお目覚めに!!!早くぅぅぅぅぅ!!!旦那様と奥様とヨアン様とシュール様とクレイ様を呼んでぇぇぇぇぇ!!!」
すごい、耳がキーンと来た。いや、この身体病人だったんだよ?ちょっとは配慮してよ。いやでも、そんな病人の子が急に起き上がったらこうもなる…のかな?
「うるさいわよラーラ!で、お嬢様が目覚めたって本当!?」
「本当の本当よ!とにかく人を呼んできて!」
「もう呼んだわよ!今お屋敷は大パニック中!そろそろ旦那様が来られるんじゃないかしら!」
…わぁお。お屋敷が思っていたより大騒ぎみたいだ。けれど、今の私にはそれよりもずっと気になることがあった。
「ふたごだ…」
そう、今目の前にいる2人の侍女。彼女達の顔は瓜二つだったのだ。私は必死にユリアちゃんに教わった使用人の名前や特徴を引っ張りだし、双子の侍女の情報を思い浮かべた。
えっと、名前はラーラとルールね。ラーラのほうが瞳が若葉色。ルールの方は瞳が深緑色。けれど、どちらも緑色だし分かりにくいな。メガネでもかければ完全に見分けられないような気がする。
と、私がそんな今考えることか?というようなことを考えていたときだった。
バタンッ
「ラーラ!ユリアが目覚めたというのは本当か!」
「本当です!ほら!見て!起き上がってる!」
「…あぁ、ああ、ああ!神よ!心からの感謝を!」
部屋に入ってきてすぐ、床に膝をつけて天を仰ぎ始めた1人の男性。見事な深緑色の髪に、透き通るような金の瞳。顔立ちも非常に整っている。うーん、変なイケメン!
この顔の整いようと髪の色から察するに、彼はきっとユリアちゃんのお父様なのではないのだろうか。これは挨拶しなければ!
「おはようございます。…おとうさま?」
「グァッハッ!」
倒れてしまった。
「ユリアが目覚めたって、本当!?って、あなた!何でそんなところで倒れているのよ!」
今度は、女性が入ってきた。これまたものすごい美人さん。でも、迫力があるというよりは柔らかみのある儚げな美貌だなあ。髪は白に近い銀色で、瞳は紫がかった蒼色。うーん、この瞳の色からして、この人がユリアちゃんのお母さんだね?
「ユ、ユリアが、お父様って、私に向かって…言ったんだ。しかも、起き上がって…顔色も良くて…あ、ダメだ、可愛すぎる、天使っ!」
「…まぁ、良いわ。それよりユリアよ!あぁ、本当に起き上がってる…凄い、凄いわ…本当に…嬉しい」
「わっ!」
…凄く、良い匂いがする。柔らかくて温かくて…なんか泣いちゃいそうかも。この身体が、この人のことを覚えてるのかもしれない。直感的に分かる。この人が、
「…おかあさま?」
「!…えぇ、えぇ、そうよ。私があなたのお母さん。ああ、何なの、これは奇跡?ユリアが私と話をしている。こんなに元気な姿、初めて見るわ…」
やっぱり、そうなんだ。そうだよね、ユリアちゃん言ってたもんね。生まれた時からの病だって。そんな子が起き上がって言葉を発してる。本当に、奇跡としか思えないことだよね。
「っ!はあっはあっ、お父様!お母様!ユリア、ユリアは!?」
「ヨアン兄さん、ちょっと待って!速いよ!」
「ヨアン兄さま!シュール兄さま!置いていかないでくださいぃ!」
また、誰か来た。姿はお母様で見えないけど、この声からして人数は3人。全員男の子で、幼い声も混じってて、兄さんとか兄さまとか、あと名前も聞き覚えあるし…もしかしなくても、兄弟達だよね?ってことは、家族大集結した?速くない?
「3人とも、少し静かに。ユリアが起き上がったのは本当よ。けれど、今までの状態からするとまだ油断はできないから」
「はい!で、でも…」
「僕たちだって、ユリアが目覚めるのを待っていたんです!」
「お姉さま、お母さまだけハグはずるいです!」
「…そうね。静かに、静かによ?こっちにいらっしゃい」
いやー、今のユリアちゃんはそんなに貧弱じゃないんだけどね~。なにしろ、図太いこの私が中に入っちゃったから。でも、何か昨日の夜より骨だな、この身体。何でだろ?
「ユリア!良かった、良かったよ…」
「ユリア~!…今度こそ、死んじゃったがと…思って…うぅ、良がった!」
「姉さま!姉さまぁ!起きてる!すごいです!!」
「う、うぅ…ユリア!お父様と!お父様と、もう1回だけ言ってくれないか…?」
「こんな時にあなたは何を言ってるの!落ち着きなさいよ!」
…うーん、何だかこの家族、中々にカオスだぞ?
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